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第6章
第128話
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「この世界の海や砂浜って、こんなに危険なんですね。砂浜で遊んでいたら蟹の魔物が出て、海に出たら海の魔物に襲われる。確かに、海側に貴族なんかを泊まらせる訳にはいかんよな~」
『カイル、カニ鍋を明日の晩御飯として希望する』(黄の精霊)
『それ、いいな。皆で鍋でも突いて楽しむか』(赤の精霊)
『私たちも久々に海の幸を楽しみたいわ~』(青の精霊)
『そうだな。頼めるか、カイル?』(緑の精霊)
「ええ、大丈夫ですよ。宿の方も個室でしたしね。テントを展開するか、異空間にでも往って、鍋パーティーでもしますか」
精霊様方は、俺の色よい返事に、嬉しそうにしている。精霊様方は、以前に里に引き籠もっていた際に行ったカニ鍋パーティー以来、お気に入りになったようだ。ヘクトル爺がお土産で持ち帰った際も、今回のように偶然であろうと、手に入ると必ずと言っていいほど、カニ鍋をしようとお願いしてくるようになった。俺としても鍋は準備の手間はかかるが、基本的には楽に済むので文句はない。その他の食材に関しても、別段買っておくほどでもなかったと記憶しているので、明日の夜は皆で楽しむとしよう。
その後も、海の様子を見ながら、砂浜を歩いて移動していく。あの蟹は、この砂浜に生息する魔物の中でも格の高い魔物だったようで、あれから魔物の気配はあるものの、襲撃自体はない。海の魔物たちも、先程の蟹との戦闘の際の、周囲に溢れた魔力の放出量の濃さなどから、警戒した状態のままで、襲ってはこない。地面が徐々に、砂浜から岩場に変わっていく。ここまで来ると、陸側の魔物の気配は少なくなり、海側からの魔物の気配が多くなっていく。精霊様方は、特に黄の精霊様は食いしん坊なので、涎を垂らしそうになりながらも、我慢をしている。今回は海の様子を見るだけと、最初から決めている。なので、黄の精霊様も自ら手を出す事はないが、チラチラと俺の方を見てくる。
「暫くは滞在する事になりそうですし、明日からは自由にしていいそうですからね。その自由時間の時にでも、海に出て魚などを獲りに行きましょうか」
『それがいい。海の幸が私を待っている』(黄の精霊)
『だが、海での戦闘は初めてだろう?十分に気を付けろ』(緑の精霊)
「はい、分かってます。対策の方はしています。後は実際に試してみる必要がありますけどね」
『干物や刺身…………楽しみだな』(赤の精霊)
『海鮮丼につみれ汁、それにフライもの……いいわね~』(青の精霊)
今回に限っては黄の精霊様だけではなく、他の精霊様方も、海産物の料理に胸躍らせているようだ。こうなると、ただのカニ鍋パーティーではなく、お酒要求されるだろうな~。小さい頃に、日本酒が作れないか、師匠たちと試行錯誤した試作した日本酒モドキがまだ何本か魔力式冷蔵庫の中に入っていたはずだ。精霊様方は普段も酒を飲みすぎだろってくらい飲むが、たまにヘクトル爺が持ってくる海産物などの珍しい食材が食卓に出ると、普段よりもペースが上がって飲みまくるんだ。食材の追加をもの凄い勢いでしてくるし、お酒の追加も凄い。今までの経験上では、食べ始めてから大人しくなるまでの時間が、数時間に上る。最長で五時間ぐらいは飲みっぱなし食べっぱなしが続いたこともある。
一頻り辺りを探索し終わり、先程蟹と戦闘を行った所に戻ると、そこには鎧を纏った兵士と思われる人が十人ほどと、シュナイダーさんが一緒にいた。何かを真剣な様子で、全員で話し合っている。時たま、地面を指差しているのを見て、俺は掌にポンと拳を置いて納得する。蟹との戦闘のあとに、地面に出来たクレーターなどを綺麗に直しておいたのだ。そこに、戦闘音を聞いた誰かが、兵士に連絡したのだろう。そこに、ナバーロさんの連れである、俺が海の方に出かけたという情報も加わって、シュナイダーさんが選ばれて、一緒にここに来たのだろう。シュナイダーさんは豹人族、ネコ科に属する因子を持っているので嗅覚などが良い。それもあって、俺の捜索という点においての適任はいない。俺はシュナイダーさんに声をかける。
「シュナイダーさん」
「‼…………カイルか。ここで戦闘を行ったのは、お前か?」(シュナイダー)
「はい。先程、歩いていたら巨大な魔物に襲われまして。ここでの戦闘はまずかったですか?」
「いや、戦闘自体は問題はない。周囲にも被害はなかったからな」(シュナイダー)
「ほっ、そうですか。それは良かったです。俺としても、突発的な戦闘だったので、そこまで気を回せてなくて」
「結構派手な戦闘音だったようだが、一体何と戦ってたんだ?」(シュナイダー)
「ああ、こいつですよ」
俺は、汚れないように魔力で保護してある、切断した蟹の半身を取り出す。その取り出した蟹を見て、シュナイダーさんと兵士の人たちが驚いている。
「これは、………タイラントクラブ⁉」(隊長さん)
「ああ、間違いなさそうだな」(シュナイダー)
「タイラントクラブですか?」
「このユノックの海と砂浜に生息する、凶暴で好戦的な魔物の一体だよ。巨大なハサミと、泡などに水属性の魔力を練りこんで放つ魔術、巨体の割には機動性が高いといった、中々に手強い相手だ」(シュナイダー)
「それにしても、これは見事に両断されていますな。ここまで綺麗に斬り倒されたタイラントクラブは初めて見ましたな」(隊長さん)
「普通は違うんですか?」
「ええ、通常ならば複数人で前後に分かれて仕掛けます。最初は機動力を奪うために足から潰していきますな。タイラントクラブは足をまず潰してしまえば、後はハサミと魔術に気を付ければいいだけですからな」(隊長さん)
「なるほど。確かにあの機動力を奪ってしまえば、このタイラントクラブでしたっけ、こいつの攻撃範囲は狭くなりますからね」
「それにして、こいつはデカいな。もしかして、こいつが最近話題になってた奴かもな」(シュナイダー)
シュナイダーさんによると、タイラントクラブの上位種か特殊個体かといった個体が最近になって表れたという情報を、ガレンさんから教えてもらったらしい。この個体はまるで、ここら一帯の主の様に振舞っており、住んでいる住人や冒険者だけでなく、同種族のタイラントクラブや、他の魔物にも積極的に仕掛けるような奴のようだ。時には、複数体の魔物の死骸が、砂浜に散らばっていた事もあったそうだ。何度とか冒険者ギルドで、この主の討伐を行った事があるらしいのだが、知能も高ったようで、自らの不利を悟ると即撤退、有利と分かると一気に攻勢に出るといった行動をとるそうだ。
だが、そんな主にも弱点というか、欠点がある。それは仲間がいないという事。つまりはボッチだ。その攻撃性から、同種のタイラントクラブにまで手を出している事から、同種の仲間からも避けられているようだ。なので、窮地に陥ったとしても、救ってくれる仲間すらいないのだ。だが逆に、そういった部分から一匹狼として、強くなっていったのだろう。
「その主は、他のタイラントクラブと違って魔術も得意でな。泡の攻撃も強弱をつけてきたり、ハサミに水を纏って水の刃を生み出したりしてくるらしい。カイル、どうだった?」(シュナイダー)
「あ~、はい。してきましたね。泡の大きさを変えてきたり、威力自体も変えてきたりといった事もしてきましたね。ハサミに水を纏わせた水の刃も見事に使いこなしていました。それに、魔術に限らず、魔力操作に関しても見事なものでしたよ」
「つまり、主を討伐したという事か⁉」(隊長さん)
「そういう事になるでしょう。カイル、今から冒険者ギルドに向かって貰ってもいいか?」(シュナイダー)
「はい、大丈夫です」
驚く隊長さんと兵士さんたちと共に、冒険者ギルドに向かう。シュナイダーさんに聞くと、ナバーロさんは、ガレンさんたち漁師の方々と、色々と近況を報告し合っているそうだ。シュナイダーさん以外の護衛メンバーも一緒に混ざって、和気藹々としているそうだ。そう思うと、シュナイダーさんを一人こちらに来させてしまった事に、申し訳なくなる。兵士さんたちも同様に、変に心配させてしまって申し訳ない。
そういった事を歩きながら謝る。シュナイダーさんは気にしなくてもいいと言ってくれたし、兵士さんたちも、主が引き起こす魔物同士の争いは頻繁にあったそうで、今回もそういった魔物同士での争いの一つと思って出動したようで、特に俺に対しても何かを思う事はないと、隊長さんが言ってくれたのでホッとした。他の兵士さんたちも、主との戦闘は避けたかったようで、俺に対しては逆に感謝したいと言われた。
「カイル君の事がなくても、我々はこの時間帯に海の見回りをしなくてはならなかったからな。そうなると、我々が主に襲われていた可能性もあった。そう考えると、失礼かもしれないが、腕の立つカイル君が遭遇してくれて助かった」(隊長さん)
「いえいえ。隊長さんは、部下の命も守らないといけませんからね。むしろ、遭遇したのが、俺で良かったですよ」
「そう言ってくれると助かるよ」(隊長さん)
隊長さんは、歩きながら俺に頭を下げてくれる。兵士さんたちも合わせて頭を下げてくれた。冒険者ギルドに着くまでに、隊長さんや兵士さんたちから、穴場の料理屋なんかを教えてもらった。俺が海産物を仕入れたいと伝えると、同じように皆が知っている、質が高いが値段を安くしてくれている地元の人しか知らないような鮮魚店も教えてもらえた。それほどに、あの主の蟹と戦うのは隊長さんたちにしてみれば、リスクが高いという事でしかなかったということなのだろう。
その後は海産物や、それを使った料理などの話に移る。隊長さんや兵士さんたちによると、やはり他国の人たちは海産物に興味はあるものの、あまり積極的には食べてはくれないようだ。一口二口食べてくれると、顔は笑顔になり、美味しい美味しいと言ってくれるそうだ。だが、そこまでの段階に進むのに何か月もかかる他国の人もいるそうだ。まあ、海の無い内陸に住んでいる人たちからすれば、どれもこれもが新鮮で目新しくはあるが、口にするのはという人もいるのだろう。
「まあ、最近ではそれも食べてくれる人は食べてもらって、食べない人は、その美味しさを知らずに帰ってもらおうという事になりましたよ。訪れた貴族様方には、珍しい海を見せて、食事は内陸の食材のものと、海産物とを両方出しておるようですな」(隊長さん)
「なるほど。そこで篩いにかけるわけですか」
「その様ですな。まあ、国としても、ユノックとしても、食べてくれるか分からない貴族様方よりも、ナバーロ殿のような商人たちに、仕入れてもらう方向に力を入れるようにした方が良いと感じたようですな。実際、その方針に転換した事で、友好という面でも、利益という面でも、成功したようです。私たちとしても、故郷の自慢の海産物が、他国で評価されている事を嬉しく思っていますしね」(隊長さん)
隊長さんや兵士さんたちは誇らしそうな顔をしている。自分の生まれた国や都市の特産物が、他国の人たちに受け入れられているのは純粋に嬉しいのだろう。
冒険者ギルドにたどり着き、中に入る。シュナイダーさんたちが中に入ると、ギルド内にいた冒険者たちが、一斉に群がってくる。シュナイダーさんと隊長さんたちが一旦宥める。そこに、ギルドマスターが現れた。
「シュナイダー、それにアンドレア殿たちも、戻ったか。それで、どうだった?」(ユノックギルドマスター)
「それについては朗報だ。こちらにいる、カイル君が主と思われるタイラントクラブの討伐に成功した」(アンドレア隊長)
「な、なに⁉それは本当か⁉」(ユノックギルドマスター)
「まず、間違いはないと思われる。こちらとギルドの持っている情報と、カイル君の話してくれた、主と思われるタイラントクラブの行動や魔術が似通っているのは事実だ」(アンドレア隊長)
「そ、そうか‼もし、本当に主を討伐できたのなら、砂浜の危険度については下げられるかもしれんな」(ユノックギルドマスター)
「カイル殿、もう一度、倒した魔物をお願いできますか」(アンドレア隊長)
「あ、はい。分かりました。………よっと」
俺は再び蟹の半身を取り出していく。ギルド内にいる冒険者・ギルマス・受付さんなどの職員さんも、興奮した様子で見入っている。脚から同体部分に移ると、さらに興奮が増したように驚きの声の大きさが上っていく。そして、完全に蟹の半身を取り出すと、今度はシーンと静まり返ったかと思うと、数秒後に爆発したように歓声が上がる。
「間違いない‼こいつが、あの辺りを縄張りにしていた主だ‼」(ユノックギルドマスター)
ユノックのギルマスの宣言に、冒険者は肩を組んで喜び合い、職員さんたちも抱き合って喜びあっている。その喧騒に興味を持った住民の人たちが、ギルドに顔を出して主討伐の話を聞いて喜んで情報を拡散させていった。俺は暫くの間、シュナイダーさんと待ちぼうけの状態のままだった。
『カイル、カニ鍋を明日の晩御飯として希望する』(黄の精霊)
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「ええ、大丈夫ですよ。宿の方も個室でしたしね。テントを展開するか、異空間にでも往って、鍋パーティーでもしますか」
精霊様方は、俺の色よい返事に、嬉しそうにしている。精霊様方は、以前に里に引き籠もっていた際に行ったカニ鍋パーティー以来、お気に入りになったようだ。ヘクトル爺がお土産で持ち帰った際も、今回のように偶然であろうと、手に入ると必ずと言っていいほど、カニ鍋をしようとお願いしてくるようになった。俺としても鍋は準備の手間はかかるが、基本的には楽に済むので文句はない。その他の食材に関しても、別段買っておくほどでもなかったと記憶しているので、明日の夜は皆で楽しむとしよう。
その後も、海の様子を見ながら、砂浜を歩いて移動していく。あの蟹は、この砂浜に生息する魔物の中でも格の高い魔物だったようで、あれから魔物の気配はあるものの、襲撃自体はない。海の魔物たちも、先程の蟹との戦闘の際の、周囲に溢れた魔力の放出量の濃さなどから、警戒した状態のままで、襲ってはこない。地面が徐々に、砂浜から岩場に変わっていく。ここまで来ると、陸側の魔物の気配は少なくなり、海側からの魔物の気配が多くなっていく。精霊様方は、特に黄の精霊様は食いしん坊なので、涎を垂らしそうになりながらも、我慢をしている。今回は海の様子を見るだけと、最初から決めている。なので、黄の精霊様も自ら手を出す事はないが、チラチラと俺の方を見てくる。
「暫くは滞在する事になりそうですし、明日からは自由にしていいそうですからね。その自由時間の時にでも、海に出て魚などを獲りに行きましょうか」
『それがいい。海の幸が私を待っている』(黄の精霊)
『だが、海での戦闘は初めてだろう?十分に気を付けろ』(緑の精霊)
「はい、分かってます。対策の方はしています。後は実際に試してみる必要がありますけどね」
『干物や刺身…………楽しみだな』(赤の精霊)
『海鮮丼につみれ汁、それにフライもの……いいわね~』(青の精霊)
今回に限っては黄の精霊様だけではなく、他の精霊様方も、海産物の料理に胸躍らせているようだ。こうなると、ただのカニ鍋パーティーではなく、お酒要求されるだろうな~。小さい頃に、日本酒が作れないか、師匠たちと試行錯誤した試作した日本酒モドキがまだ何本か魔力式冷蔵庫の中に入っていたはずだ。精霊様方は普段も酒を飲みすぎだろってくらい飲むが、たまにヘクトル爺が持ってくる海産物などの珍しい食材が食卓に出ると、普段よりもペースが上がって飲みまくるんだ。食材の追加をもの凄い勢いでしてくるし、お酒の追加も凄い。今までの経験上では、食べ始めてから大人しくなるまでの時間が、数時間に上る。最長で五時間ぐらいは飲みっぱなし食べっぱなしが続いたこともある。
一頻り辺りを探索し終わり、先程蟹と戦闘を行った所に戻ると、そこには鎧を纏った兵士と思われる人が十人ほどと、シュナイダーさんが一緒にいた。何かを真剣な様子で、全員で話し合っている。時たま、地面を指差しているのを見て、俺は掌にポンと拳を置いて納得する。蟹との戦闘のあとに、地面に出来たクレーターなどを綺麗に直しておいたのだ。そこに、戦闘音を聞いた誰かが、兵士に連絡したのだろう。そこに、ナバーロさんの連れである、俺が海の方に出かけたという情報も加わって、シュナイダーさんが選ばれて、一緒にここに来たのだろう。シュナイダーさんは豹人族、ネコ科に属する因子を持っているので嗅覚などが良い。それもあって、俺の捜索という点においての適任はいない。俺はシュナイダーさんに声をかける。
「シュナイダーさん」
「‼…………カイルか。ここで戦闘を行ったのは、お前か?」(シュナイダー)
「はい。先程、歩いていたら巨大な魔物に襲われまして。ここでの戦闘はまずかったですか?」
「いや、戦闘自体は問題はない。周囲にも被害はなかったからな」(シュナイダー)
「ほっ、そうですか。それは良かったです。俺としても、突発的な戦闘だったので、そこまで気を回せてなくて」
「結構派手な戦闘音だったようだが、一体何と戦ってたんだ?」(シュナイダー)
「ああ、こいつですよ」
俺は、汚れないように魔力で保護してある、切断した蟹の半身を取り出す。その取り出した蟹を見て、シュナイダーさんと兵士の人たちが驚いている。
「これは、………タイラントクラブ⁉」(隊長さん)
「ああ、間違いなさそうだな」(シュナイダー)
「タイラントクラブですか?」
「このユノックの海と砂浜に生息する、凶暴で好戦的な魔物の一体だよ。巨大なハサミと、泡などに水属性の魔力を練りこんで放つ魔術、巨体の割には機動性が高いといった、中々に手強い相手だ」(シュナイダー)
「それにしても、これは見事に両断されていますな。ここまで綺麗に斬り倒されたタイラントクラブは初めて見ましたな」(隊長さん)
「普通は違うんですか?」
「ええ、通常ならば複数人で前後に分かれて仕掛けます。最初は機動力を奪うために足から潰していきますな。タイラントクラブは足をまず潰してしまえば、後はハサミと魔術に気を付ければいいだけですからな」(隊長さん)
「なるほど。確かにあの機動力を奪ってしまえば、このタイラントクラブでしたっけ、こいつの攻撃範囲は狭くなりますからね」
「それにして、こいつはデカいな。もしかして、こいつが最近話題になってた奴かもな」(シュナイダー)
シュナイダーさんによると、タイラントクラブの上位種か特殊個体かといった個体が最近になって表れたという情報を、ガレンさんから教えてもらったらしい。この個体はまるで、ここら一帯の主の様に振舞っており、住んでいる住人や冒険者だけでなく、同種族のタイラントクラブや、他の魔物にも積極的に仕掛けるような奴のようだ。時には、複数体の魔物の死骸が、砂浜に散らばっていた事もあったそうだ。何度とか冒険者ギルドで、この主の討伐を行った事があるらしいのだが、知能も高ったようで、自らの不利を悟ると即撤退、有利と分かると一気に攻勢に出るといった行動をとるそうだ。
だが、そんな主にも弱点というか、欠点がある。それは仲間がいないという事。つまりはボッチだ。その攻撃性から、同種のタイラントクラブにまで手を出している事から、同種の仲間からも避けられているようだ。なので、窮地に陥ったとしても、救ってくれる仲間すらいないのだ。だが逆に、そういった部分から一匹狼として、強くなっていったのだろう。
「その主は、他のタイラントクラブと違って魔術も得意でな。泡の攻撃も強弱をつけてきたり、ハサミに水を纏って水の刃を生み出したりしてくるらしい。カイル、どうだった?」(シュナイダー)
「あ~、はい。してきましたね。泡の大きさを変えてきたり、威力自体も変えてきたりといった事もしてきましたね。ハサミに水を纏わせた水の刃も見事に使いこなしていました。それに、魔術に限らず、魔力操作に関しても見事なものでしたよ」
「つまり、主を討伐したという事か⁉」(隊長さん)
「そういう事になるでしょう。カイル、今から冒険者ギルドに向かって貰ってもいいか?」(シュナイダー)
「はい、大丈夫です」
驚く隊長さんと兵士さんたちと共に、冒険者ギルドに向かう。シュナイダーさんに聞くと、ナバーロさんは、ガレンさんたち漁師の方々と、色々と近況を報告し合っているそうだ。シュナイダーさん以外の護衛メンバーも一緒に混ざって、和気藹々としているそうだ。そう思うと、シュナイダーさんを一人こちらに来させてしまった事に、申し訳なくなる。兵士さんたちも同様に、変に心配させてしまって申し訳ない。
そういった事を歩きながら謝る。シュナイダーさんは気にしなくてもいいと言ってくれたし、兵士さんたちも、主が引き起こす魔物同士の争いは頻繁にあったそうで、今回もそういった魔物同士での争いの一つと思って出動したようで、特に俺に対しても何かを思う事はないと、隊長さんが言ってくれたのでホッとした。他の兵士さんたちも、主との戦闘は避けたかったようで、俺に対しては逆に感謝したいと言われた。
「カイル君の事がなくても、我々はこの時間帯に海の見回りをしなくてはならなかったからな。そうなると、我々が主に襲われていた可能性もあった。そう考えると、失礼かもしれないが、腕の立つカイル君が遭遇してくれて助かった」(隊長さん)
「いえいえ。隊長さんは、部下の命も守らないといけませんからね。むしろ、遭遇したのが、俺で良かったですよ」
「そう言ってくれると助かるよ」(隊長さん)
隊長さんは、歩きながら俺に頭を下げてくれる。兵士さんたちも合わせて頭を下げてくれた。冒険者ギルドに着くまでに、隊長さんや兵士さんたちから、穴場の料理屋なんかを教えてもらった。俺が海産物を仕入れたいと伝えると、同じように皆が知っている、質が高いが値段を安くしてくれている地元の人しか知らないような鮮魚店も教えてもらえた。それほどに、あの主の蟹と戦うのは隊長さんたちにしてみれば、リスクが高いという事でしかなかったということなのだろう。
その後は海産物や、それを使った料理などの話に移る。隊長さんや兵士さんたちによると、やはり他国の人たちは海産物に興味はあるものの、あまり積極的には食べてはくれないようだ。一口二口食べてくれると、顔は笑顔になり、美味しい美味しいと言ってくれるそうだ。だが、そこまでの段階に進むのに何か月もかかる他国の人もいるそうだ。まあ、海の無い内陸に住んでいる人たちからすれば、どれもこれもが新鮮で目新しくはあるが、口にするのはという人もいるのだろう。
「まあ、最近ではそれも食べてくれる人は食べてもらって、食べない人は、その美味しさを知らずに帰ってもらおうという事になりましたよ。訪れた貴族様方には、珍しい海を見せて、食事は内陸の食材のものと、海産物とを両方出しておるようですな」(隊長さん)
「なるほど。そこで篩いにかけるわけですか」
「その様ですな。まあ、国としても、ユノックとしても、食べてくれるか分からない貴族様方よりも、ナバーロ殿のような商人たちに、仕入れてもらう方向に力を入れるようにした方が良いと感じたようですな。実際、その方針に転換した事で、友好という面でも、利益という面でも、成功したようです。私たちとしても、故郷の自慢の海産物が、他国で評価されている事を嬉しく思っていますしね」(隊長さん)
隊長さんや兵士さんたちは誇らしそうな顔をしている。自分の生まれた国や都市の特産物が、他国の人たちに受け入れられているのは純粋に嬉しいのだろう。
冒険者ギルドにたどり着き、中に入る。シュナイダーさんたちが中に入ると、ギルド内にいた冒険者たちが、一斉に群がってくる。シュナイダーさんと隊長さんたちが一旦宥める。そこに、ギルドマスターが現れた。
「シュナイダー、それにアンドレア殿たちも、戻ったか。それで、どうだった?」(ユノックギルドマスター)
「それについては朗報だ。こちらにいる、カイル君が主と思われるタイラントクラブの討伐に成功した」(アンドレア隊長)
「な、なに⁉それは本当か⁉」(ユノックギルドマスター)
「まず、間違いはないと思われる。こちらとギルドの持っている情報と、カイル君の話してくれた、主と思われるタイラントクラブの行動や魔術が似通っているのは事実だ」(アンドレア隊長)
「そ、そうか‼もし、本当に主を討伐できたのなら、砂浜の危険度については下げられるかもしれんな」(ユノックギルドマスター)
「カイル殿、もう一度、倒した魔物をお願いできますか」(アンドレア隊長)
「あ、はい。分かりました。………よっと」
俺は再び蟹の半身を取り出していく。ギルド内にいる冒険者・ギルマス・受付さんなどの職員さんも、興奮した様子で見入っている。脚から同体部分に移ると、さらに興奮が増したように驚きの声の大きさが上っていく。そして、完全に蟹の半身を取り出すと、今度はシーンと静まり返ったかと思うと、数秒後に爆発したように歓声が上がる。
「間違いない‼こいつが、あの辺りを縄張りにしていた主だ‼」(ユノックギルドマスター)
ユノックのギルマスの宣言に、冒険者は肩を組んで喜び合い、職員さんたちも抱き合って喜びあっている。その喧騒に興味を持った住民の人たちが、ギルドに顔を出して主討伐の話を聞いて喜んで情報を拡散させていった。俺は暫くの間、シュナイダーさんと待ちぼうけの状態のままだった。
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![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
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