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第5章

第114話

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俺はロングソードと右肩を魔糸によって斬り落とした勢いそのままにテオバルトの首目掛けて腕を水平に振るう。しかし、再び超人的な直感と感覚によってそれを避ける。追撃しようと一瞬思考するが、視界の中や魔力感知で切り落としたはずの真っ二つにしたロングソードや両腕が消えていることに気づいたので、追撃という選択肢を取り消す

その選択は正しかったようで、俺の背後から最初の時のように右腕と真っ二つにしたはずのロングソードが元の状態になって握られて振りかぶっている。左腕は高密度の血の魔力を練り上げて、今度は前方に現れる。そして、それに気を取られた一瞬の内に本体のテオバルトの姿が消えていた。俺が感知範囲を広げて位置を探る前にテオバルトの右腕と左腕が同時に動き出す

〈本体の動きも気にはなるが、まずは両腕の対応を優先する‼〉

先程とは逆で、今度は左腕の拳の一撃から始まる。俺は一人の戦乙女に魔糸を追加で伸ばして魔力を送り込む。その戦乙女は盾に魔力を籠めて魔力障壁を展開し、完全に威力を殺して受けきる。後ろからのロングソードも同じように三人の戦乙女が横並びになり、魔力障壁を展開し規格外のロングソードの刃を受け流す

その一連の流れの最後に上空から本体であるテオバルトが現れる。テオバルトはすでに分割された左腕も、肩から切断された右腕とロングソードも元通りになっている。そして頭を下にした状態で空気を魔力を籠めた蹴りつけ、その反動の爆発力を利用した高高度からの急降下爆撃ならぬ、急降下斬撃を仕掛けてきた

「フゥンンンンン‼」(テオバルト)

今までの片手での振り回しから、柄を両手持ちにして振りかぶっている。さらに切断された両腕の筋肉がゴリラの様に筋骨隆々に発達し極太になっている。血の刃も魔刃の長さをロングソードの刃の長さに合わせて、ロングソードそのものの刃の切れ味を上げる方向性に強化しているようだ

感じられる魔力の質と見た目から感じられる膂力から考えて、戦乙女全員で積層魔力障壁を一枚ずつ担当し高密度の魔力で展開する。展開された障壁をものともせずにテオバルトは音速を超えた速さでロングソードを振り下ろす。一枚一枚の障壁の強度も質もそこらの強大な魔物や魔獣が展開するものよりも遥かに性能が高い

〈……にも関わらず‼〉

一枚、また一枚とゆっくりとだが徐々に障壁が切断されていく。追加の魔力を籠めて強化するも、さほど変わることもない。テオバルトの方も血と魔力が一枚切り裂くごとに増していく

〈これは⁉まさか、切り裂いた障壁の魔力をロングソードが喰らってるのか⁉〉

そりゃ、あの質の高い魔力を一枚分丸ごと喰らって、その魔力を元にしてロングソードの切れ味と強度が上れば次の一枚を切り裂くのにかかる時間が減っていく、さらにまた一枚切り裂き終わって残りは三枚。合計六枚分の魔力を喰らったロングソードの威力は正直、未知数だ。今現在ロングソードの刃を防いでいる障壁も既に三分の二を切り裂かれている状態だ。まだ障壁を維持している戦乙女はその場を動くことが出来ない。戦乙女がこの場を動くことが出来ないほどに余裕がない

俺としてもテオバルトの背後から仕掛けてもいいのだが、あの血のマントがどのような能力を有しているのかも未知数のため、下手に動いて致命傷を受けるのは避けたい。そういった事が全て重なった結果、障壁が全て切り裂かれる瞬間まで動くことが出来ない状態にまで追い詰められているのだ

「ハハハハハハハハ、粘るが………フン‼」(テオバルト)

俺は戦乙女たちと共にその場から出来る限りに距離を取ってテオバルトの周囲から緊急離脱する。テオバルトはロングソードに今まで喰らった障壁分の魔力を一気に開放してきた。急激に膨れ上がった魔力によって強化されたロングソードの刃は拮抗していた障壁を含めて、残りの二枚の障壁も一気に切り裂かれた

俺と九人の戦乙女は緊急離脱したところで、現状を把握する。ロングソードの刃は地面すらも切り裂いていた。テオバルトは俺たちが緊急離脱していたのも分かっていたので俺たちの位置に向けて正確に水平方向にロングソードを振るう。結構な距離を取っていたにも関わらず、俺の背筋にゾクッとしたのものが走る。戦乙女が全員横並びになって魔力を繋ぎ合わせて巨大な障壁を生み出して防衛陣形をとる。しかし、その障壁も九人の戦乙女も鎧袖一触がいしゅういっしょくで上下で真っ二つに切断されてしまった

〈マジかよ‼〉

俺もギリギリまで感知していた血の刃を避けたつもりであったのだ、胸元が結構な深さでパックリと横一文字に斬られていた。直ぐさまロングソードに血と魔力を吸い取られないように、血は蒸発させて傷は治癒魔術で癒す

〈あ~、戦乙女の自動人形の身体は完全に創り直しだな。幸いにも術式は無事だったしな。だが、これで戦乙女たちの戦線復帰は不可能だな。なら…………〉

テオバルトは戦乙女を仕留めたそのままに、残った俺に向かって爆発的な加速でもって一気に迫る。テオバルトのロングソードが俺の首を落とそうと振られた。テオバルトは勝利の確信と共に笑みを浮かべていたが、次の瞬間には俺の視界から消える。テオバルトは右側の方向に吹き飛ばされる

俺の斜め前から現れるのは四足歩行のゴリラがいた。まあ、当然ながらこのゴリラも自動人形になるのだが。その他にも俺の周りには異空間から狼・熊・鷹などなどの動物型の自動人形が続々と現れる。これらの動物型の自動人形は以前から異空間の中に仕舞いこんでいたものであり、最近ウルツァイト製に改修しグレードアップした自動人形たちだ

「一体、何が…………。魔物の集団?いや、魔物の姿をかたどった自動人形なのか?ハハハハハ、こんなものは初めて見たな‼」(テオバルト)

なにやらテオバルトは興奮している。俺の知っている本格的な人形遣いは師匠しか知らないので、世の中の人形遣いがどういった考えやどのような種類の自動人形なんかを創っているのか分からないが、テオバルトの反応を見るに動物型の自動人形を創るのはほぼいないのか、相当に珍しいのかもしれない

流石、戦闘狂。自らの常識の範囲外の事が起こっても、それが自分の戦闘欲や未知なるものへの興味から狂気の笑みがより深まっているぞ。そんな相棒に呼応するかのようにロングソードの方も魔刃を構成している魔力がまるで心臓が鼓動をしているかのようにドクン、ドクンと波打っている

「そいつらも、先程の女騎士型のように切り札があるのか?それならば楽しみだ‼そして、それを打ち破り、お前の血と魔力を搾り取ってやろう‼」(テオバルト)

テオバルトは大興奮だ。実力の近い相手という俺の存在に、未知なるものの存在が俺を殺す事の障害になるという事がテオバルトの戦闘意欲をさらに高めているのだろう。テオバルトの血の武装たちがテオバルトの戦意が上昇していくごとに、血の武装が形を変えていく。最初の状態はこの世界の騎士が着込むようなただのプレートアーマのようだったが、日曜日の朝の特撮の敵のラスボスのような思わずカッケーと言いそうになってしまうようなシャープなデザインに変わっていく。思わず男心がくすぐられてしまう

「ここまで開放するのは久々だな‼さあ、お前も出し惜しみなしで切り札を切ってこい‼」(テオバルト)
〈言われなくても、そうするっての‼〉
「≪一心同体・動物装甲アニマル・アルマ≫」

最初にテオバルトを殴って吹っ飛ばしたマウンテンゴリラ型の自動人形が一斉に各部のパーツに分かれていく。まあ、簡単に言ってしまえばこの動物装甲は日曜の朝のもう一つの特撮の方と洋画の俺の好きだった天才発明家のスーツを参考にイメージして製作したものだ。無数の細かく分かれたマウンテンゴリラを構築するパーツが俺の身体を覆う様に装着されていく。ベースをマウンテンゴリラにしているので全体的にゴツくなっているが、参考にしたイメージの通りに身体にフィットしたようなものになっている。軽く拳をこすり合わせる。俺の視界には自動人形からの視界の補助やテオバルトの筋肉の動きからなる行動予測がディスプレイに表示される

テオバルトはこちらの準備が終わったと感じたのだろう、魔力と闘気を滾らせている。こちらも、同じように魔力と闘気を滾らせる。互いに第二ラウンドへのための一歩を踏み込み、加速する
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