引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

文字の大きさ
上 下
64 / 252
第5章

第105話

しおりを挟む
あのサーカスの一座の公演から、明けて翌日になると里の大人たち皆でお祭りの会場の片づけをしていた。朝早くから和気藹々と皆で談笑しながらも手際よく片付けていったので残りはもう三分の一程度になっている。その残りの三分の一はと言えば、酔っぱらい共が寝っ転がっている場所になる。狐人族のおっちゃんやお姉さん方が撃沈して沈んでいるのにも関わらず、玉藻さんや葛の葉さん、そして姉さんたちが朝を超えて今現在も飲み続けている

俺としては姉さんたちを回収したかったが、狐人族の人たちは祭りの翌日の朝はいつもこういう風になっているらしいので、慣れている様子で特に何かをすることはない。狐人族の皆さんが特に何もしないなら俺としても姉さんたちを放置する事にする。まあ、いざとなれば二日酔い用の魔術で強制的にスッキリさせてしまえばいいか

『カイル、あいつらのいる場所は無視していいから紅白台と和太鼓は片付けていいぞ。その後はあの酔っぱらい共が居なくなってからだな』(オボロ)
「了解です」

オボロさんからの指示もあり、残りの三分の一の大部分でもある紅白台と和太鼓の片づけを皆で協力して片付け始める。子供たちが近づいてこないか、危険物が周りにないかなどを確認して慎重に解体作業をしていく。里にはお祭り用の倉庫があり、そこに順次解体したものを次回の為にも分かりやすいようにして仕舞っていく

そして、全てを仕舞い終わって宴会場に視線を移してみればそこは酔っぱらい共が正座させられて反省させられていた。驚いたのはその中に上位の存在であるところの玉藻さんと葛の葉さん、それに客である姉さんたちも含まれていた事だ。主婦連合が鬼の形相でもの凄いオーラを背負いながら説教しているため、誰もが恐れて口を挟むことなく黙って説教を聞いている。しかし、一部頭を抱えている者がいるのを見るに、二日酔いが酷い者がいるようだ。姉さんたちが俺が自分たちの方を見ている事に気づいたようで主婦連合の方々に何かを言っている。すると、話がついたのか主婦連合の一人が俺の方に向かって近づいてくる

「カイルさん?貴方のお姉さん、レイアさんが貴方が二日酔いを一気に醒ます事が出来る魔術を使えると言ってるんだけど?本当なの?」(狐人族のお母さん)
「……………はい、使えますけど」
「それじゃあ、申し訳ないんだけどね。あの酔っぱらい共に掛けてやってくれない?片付けも手伝わないで、寝っ転がってるだなんて、許されないからね。それに、各々仕事があるからね。何時までも、お日様が真上に来ても寝坊助されたんじゃ、困っちまうからね」(狐人族のお母さん)
「分かりました」

俺は狐人族のお母さんと一緒に、正座している酔っぱらい共の所に向かう。姉さんたちは、俺が来たことで説教が終わると安堵のため息を主婦連合の皆に気づかれないようにしている。俺は他の酔っぱらい共に分かりやすいように姉さんたちにだけ初めに二日酔い用の術式をかけてやる。姉さんたちは一気に酔いがさめて、元気になった。さらには空腹感も湧き上がってきて腹が空いたと俺に言ってくる始末

それを見ていた主婦連合の方々と酔っぱらい共は驚いている。そこからは竜人族の里での光景が重なるかのようにフラフラと酔っぱらい共が俺に向かってくる。俺はこれまた竜人族の里の時と同じように術式を広範囲に切り替えて発動する。すると、一気に酔いが醒めたようで気分が良さそうに自分の調子を確かめている狐人族の酔っぱらい共。さらに姉さんたちと同じように代謝が上った事で空腹感が増してきたようで、そこかしこから腹が減ったと声がチラホラと上がる

「カイルさん、急に皆がお腹が減ったと言い始めたんですが、どうなっているんですか?」(狐人族のお母さん)
「ああ、それはですね…………………」

俺は二日酔い用の魔術とその術式についての説明をしていく。すると、案の定主婦連合の全員にそれを教えて欲しいと言われた。それを聞いていた近くの酔っぱらい共がもの凄い勢いで俺に向かって首をブンブンと横に振っている。まあ、この術式を主婦連合の皆さんが知ってしまえば最悪の場合には酒を飲んでも酔えなくなる可能性が出てくるのは目に見えてるからな

だが、俺は酔っぱらい共の懇願に笑顔で首を横に振る。酔っぱらい共は絶望を、主婦連合は歓喜をそれぞれが示す

「俺としては酒を飲むなとは言ってませんよ。ただ、何事も節度を持ってと言いたくなるわけですよ。現に片づけを手伝う事が出来ないくらいに酔いつぶれていたわけですから」
『そうね。まったくカイルさんの言うとおりだわ』(主婦連合)

俺の言葉と主婦連合の反応にガックリと項垂れる酔っぱらい共。しかし、片付けの事を言われてしまって、起きた時にはほぼ終わっていた事から言い返そうにも言い返せない。実際に自分たちが片付けに参加することがなかったからな。そのまま、酔っぱらい共は主婦連合にそれぞれの家に連れていかれてしまった。そして、姉さんたちと玉藻さんと葛の葉さんはいつの間にか、さっさと逃げていた。恐らくは食堂に向かって朝食でも食べにいったのだろう

俺は先程の姉さんたちとは違う意味でのため息を吐いて、片付け作業に戻っていった

―――――――――――――――――――

俺は森の中を進む。祖国から逃げる時に国宝を盗む事に失敗はしたが、もう一つの目的は達成できた。俺は吸血鬼という存在としてこの世界に生まれた。しかも、貴種の生まれながらの吸血鬼だ。しかし、始祖に連なる血筋であっても日光を完全に克服したわけではない。始祖そのものや始祖に近しいほどの力を持つ者、そして吸血鬼に伝わる始祖を超える存在、真祖の吸血鬼。かの者たちは俺たち中途半端な吸血鬼とは違い、完全に日光を克服した超越者たちだ

俺は生まれた時から劣等感を持っていた。貴種の生まれであっても祖国の外に出れば鬱陶しい日光にじくじくと肌を焼かれ、再生力も落ちている。もう一段階なのだ。もう一段階、俺という存在の格が上がればいい。そうすれば、俺は始祖や真祖のように日光を完全に克服することが出来る。その為に、俺は様々な事をやってきた。そして、祖国の中でも上位の力を手に入れ、その力を手に入れるまでに経験した事から力による支配という考えを持ち身内とも呼べる祖国の上層部に訴えたが却下された

「全く、何がそんなものは百年ほどで滅ぼされる子供の考え、だ。力のある者が序列を作り、力のない者を支配する。これのどこが子供の考えなのだ。しかも、百年程度で滅びるだと⁉それこそ、夢のような話ではないか。………………まあ、これを手に入れれた事で俺の正しさが奴らにも分かるだろう」

俺の手にあるのは、何百年も前に起きた近くにあるという狐人族の里で起きた騒乱の原因が封印されている場所が記されているとされるメモだ。だが、具体的な場所までは書いてはおらず暗号化されているため、具体的な位置は分からない。だが、あの時の騒動で我が祖国の被害はなかったという事は過去の書物から分かっており、狐人族側の方で封印されたに違いないという事は余程の事がなければ間違いはないはずだ

俺がその封印された存在を解き放ち、協力し、祖国と同じく力による支配を拒む狐人族の里に現実を知らしめる。そして、弱きものを淘汰し強き者を残していく。現状で弱い者が年を重ねれば強くなるなど、ありえない。だからこそ、そういった者たちはそうそうに切り捨てる。そして、最後にはこの星も星の生み出したあらゆる強者を討ち滅ぼして見せよう

「ハハハハハハハハハ、……………見つけたぞ、俺の支配の世界を実現させるための相棒バケモノよ」

我が祖国から逃走し、あてもなく彷徨い続けて数か月。ようやく俺は見つけ出した。俺は迷わず封印の術式を、実家に後生大事に仕舞ってあったを使って力ずくで破ろうと骨の欠片を封印の術式に近づける。逃走前に、何かに使えるかと思って混乱に乗じて盗んでおいたのは正解だったか。骨の欠片が砕けて、粒子になって消えていく。それと共に、封印の術式が砕けて消える。

さあ、力による支配の最初の一歩だ
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。