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第5章

第105話

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あのサーカスの一座の公演から、明けて翌日になると里の大人たち皆でお祭りの会場の片づけをしていた。朝早くから和気藹々と皆で談笑しながらも手際よく片付けていったので残りはもう三分の一程度になっている。その残りの三分の一はと言えば、酔っぱらい共が寝っ転がっている場所になる。狐人族のおっちゃんやお姉さん方が撃沈して沈んでいるのにも関わらず、玉藻さんや葛の葉さん、そして姉さんたちが朝を超えて今現在も飲み続けている

俺としては姉さんたちを回収したかったが、狐人族の人たちは祭りの翌日の朝はいつもこういう風になっているらしいので、慣れている様子で特に何かをすることはない。狐人族の皆さんが特に何もしないなら俺としても姉さんたちを放置する事にする。まあ、いざとなれば二日酔い用の魔術で強制的にスッキリさせてしまえばいいか

『カイル、あいつらのいる場所は無視していいから紅白台と和太鼓は片付けていいぞ。その後はあの酔っぱらい共が居なくなってからだな』(オボロ)
「了解です」

オボロさんからの指示もあり、残りの三分の一の大部分でもある紅白台と和太鼓の片づけを皆で協力して片付け始める。子供たちが近づいてこないか、危険物が周りにないかなどを確認して慎重に解体作業をしていく。里にはお祭り用の倉庫があり、そこに順次解体したものを次回の為にも分かりやすいようにして仕舞っていく

そして、全てを仕舞い終わって宴会場に視線を移してみればそこは酔っぱらい共が正座させられて反省させられていた。驚いたのはその中に上位の存在であるところの玉藻さんと葛の葉さん、それに客である姉さんたちも含まれていた事だ。主婦連合が鬼の形相でもの凄いオーラを背負いながら説教しているため、誰もが恐れて口を挟むことなく黙って説教を聞いている。しかし、一部頭を抱えている者がいるのを見るに、二日酔いが酷い者がいるようだ。姉さんたちが俺が自分たちの方を見ている事に気づいたようで主婦連合の方々に何かを言っている。すると、話がついたのか主婦連合の一人が俺の方に向かって近づいてくる

「カイルさん?貴方のお姉さん、レイアさんが貴方が二日酔いを一気に醒ます事が出来る魔術を使えると言ってるんだけど?本当なの?」(狐人族のお母さん)
「……………はい、使えますけど」
「それじゃあ、申し訳ないんだけどね。あの酔っぱらい共に掛けてやってくれない?片付けも手伝わないで、寝っ転がってるだなんて、許されないからね。それに、各々仕事があるからね。何時までも、お日様が真上に来ても寝坊助されたんじゃ、困っちまうからね」(狐人族のお母さん)
「分かりました」

俺は狐人族のお母さんと一緒に、正座している酔っぱらい共の所に向かう。姉さんたちは、俺が来たことで説教が終わると安堵のため息を主婦連合の皆に気づかれないようにしている。俺は他の酔っぱらい共に分かりやすいように姉さんたちにだけ初めに二日酔い用の術式をかけてやる。姉さんたちは一気に酔いがさめて、元気になった。さらには空腹感も湧き上がってきて腹が空いたと俺に言ってくる始末

それを見ていた主婦連合の方々と酔っぱらい共は驚いている。そこからは竜人族の里での光景が重なるかのようにフラフラと酔っぱらい共が俺に向かってくる。俺はこれまた竜人族の里の時と同じように術式を広範囲に切り替えて発動する。すると、一気に酔いが醒めたようで気分が良さそうに自分の調子を確かめている狐人族の酔っぱらい共。さらに姉さんたちと同じように代謝が上った事で空腹感が増してきたようで、そこかしこから腹が減ったと声がチラホラと上がる

「カイルさん、急に皆がお腹が減ったと言い始めたんですが、どうなっているんですか?」(狐人族のお母さん)
「ああ、それはですね…………………」

俺は二日酔い用の魔術とその術式についての説明をしていく。すると、案の定主婦連合の全員にそれを教えて欲しいと言われた。それを聞いていた近くの酔っぱらい共がもの凄い勢いで俺に向かって首をブンブンと横に振っている。まあ、この術式を主婦連合の皆さんが知ってしまえば最悪の場合には酒を飲んでも酔えなくなる可能性が出てくるのは目に見えてるからな

だが、俺は酔っぱらい共の懇願に笑顔で首を横に振る。酔っぱらい共は絶望を、主婦連合は歓喜をそれぞれが示す

「俺としては酒を飲むなとは言ってませんよ。ただ、何事も節度を持ってと言いたくなるわけですよ。現に片づけを手伝う事が出来ないくらいに酔いつぶれていたわけですから」
『そうね。まったくカイルさんの言うとおりだわ』(主婦連合)

俺の言葉と主婦連合の反応にガックリと項垂れる酔っぱらい共。しかし、片付けの事を言われてしまって、起きた時にはほぼ終わっていた事から言い返そうにも言い返せない。実際に自分たちが片付けに参加することがなかったからな。そのまま、酔っぱらい共は主婦連合にそれぞれの家に連れていかれてしまった。そして、姉さんたちと玉藻さんと葛の葉さんはいつの間にか、さっさと逃げていた。恐らくは食堂に向かって朝食でも食べにいったのだろう

俺は先程の姉さんたちとは違う意味でのため息を吐いて、片付け作業に戻っていった

―――――――――――――――――――

俺は森の中を進む。祖国から逃げる時に国宝を盗む事に失敗はしたが、もう一つの目的は達成できた。俺は吸血鬼という存在としてこの世界に生まれた。しかも、貴種の生まれながらの吸血鬼だ。しかし、始祖に連なる血筋であっても日光を完全に克服したわけではない。始祖そのものや始祖に近しいほどの力を持つ者、そして吸血鬼に伝わる始祖を超える存在、真祖の吸血鬼。かの者たちは俺たち中途半端な吸血鬼とは違い、完全に日光を克服した超越者たちだ

俺は生まれた時から劣等感を持っていた。貴種の生まれであっても祖国の外に出れば鬱陶しい日光にじくじくと肌を焼かれ、再生力も落ちている。もう一段階なのだ。もう一段階、俺という存在の格が上がればいい。そうすれば、俺は始祖や真祖のように日光を完全に克服することが出来る。その為に、俺は様々な事をやってきた。そして、祖国の中でも上位の力を手に入れ、その力を手に入れるまでに経験した事から力による支配という考えを持ち身内とも呼べる祖国の上層部に訴えたが却下された

「全く、何がそんなものは百年ほどで滅ぼされる子供の考え、だ。力のある者が序列を作り、力のない者を支配する。これのどこが子供の考えなのだ。しかも、百年程度で滅びるだと⁉それこそ、夢のような話ではないか。………………まあ、これを手に入れれた事で俺の正しさが奴らにも分かるだろう」

俺の手にあるのは、何百年も前に起きた近くにあるという狐人族の里で起きた騒乱の原因が封印されている場所が記されているとされるメモだ。だが、具体的な場所までは書いてはおらず暗号化されているため、具体的な位置は分からない。だが、あの時の騒動で我が祖国の被害はなかったという事は過去の書物から分かっており、狐人族側の方で封印されたに違いないという事は余程の事がなければ間違いはないはずだ

俺がその封印された存在を解き放ち、協力し、祖国と同じく力による支配を拒む狐人族の里に現実を知らしめる。そして、弱きものを淘汰し強き者を残していく。現状で弱い者が年を重ねれば強くなるなど、ありえない。だからこそ、そういった者たちはそうそうに切り捨てる。そして、最後にはこの星も星の生み出したあらゆる強者を討ち滅ぼして見せよう

「ハハハハハハハハハ、……………見つけたぞ、俺の支配の世界を実現させるための相棒バケモノよ」

我が祖国から逃走し、あてもなく彷徨い続けて数か月。ようやく俺は見つけ出した。俺は迷わず封印の術式を、実家に後生大事に仕舞ってあったを使って力ずくで破ろうと骨の欠片を封印の術式に近づける。逃走前に、何かに使えるかと思って混乱に乗じて盗んでおいたのは正解だったか。骨の欠片が砕けて、粒子になって消えていく。それと共に、封印の術式が砕けて消える。

さあ、力による支配の最初の一歩だ
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