妖精たちの継息子

Greis

文字の大きさ
上 下
5 / 7
第1章

第五話

しおりを挟む
 ルビオとアルファン、それぞれと手を繋いで、二人の父親であるビトールさんの後に付いて行く。歩いて数分程経ち、たどり着いたのは、広い庭を持つ一軒家だった。周囲の住宅に比べて少しだけ大きい家で、広い庭には様々な薬草類が植えてあるためか、両隣の住宅とは距離が離されている。見た所、傷薬や熱冷ましに使ええるものから、痺れ薬や毒薬になるものまで、手広く育てている様だ。
 薬師は、毒にも薬にも、ある程度精通していなければならない。毒草の中には、特定に毒に対する特効薬になり得る場合もある。さらに、毒草と毒草を掛け合わせる事で効果が反転し、質の良い薬になる組み合わせも存在する。
 ここに植えられ育てられている薬草や毒草の多くは、状態が良く、質が高いものが多い。さらに薬草のほとんどは、一般的な病に対して効果の高い薬に調薬出来るものが、豊富に揃えられている。
 ビートルさんが玄関を開けて、俺を招き入れてくれる。

「シャルルさん、ようこそ我が家へ」
「「ようこそ~‼」」
「暫くの間、よろしくお願いします」

 俺が頭を下げると、ビートルさんだけでなく、ルビオやアルファンも頭を下げる。アルファンがクスッと笑うと、それが全員に伝播でんぱしていき、皆が笑顔になって笑う。
 そんな笑い声が聞こえたのか、家の奥の方から、壁に手をつきながら歩いてくる一人の女性が現れた。顔色は非常に悪く、身体全体も痩せ細ってしまっており、一歩進むのも非常に辛そうにしている。無理をして玄関まで歩いてきたのが、見ただけで分かる。笑っていた三人も、この女性の姿が玄関に現れた瞬間に、心配と焦りの入り混じった表情に変わる。
 最初にビートルさんが女性に駆け寄り、その後に続く様に、ルビオとアルファンが近寄っていく。俺も、ルビオとアルファンに続いて、女性の方に近寄っていく。

「貴方、この方は?」
「あ、ああ、そうだな。どこから説明したものか」

 ビートルさんが、二人が居なくなった所から説明を始める。その段階から、女性の顔が母親の顔に変わり、心なしか背筋も伸びて、ルビオとアルファンに向けて厳しい視線を送っている。
 ビートルさんが説明を終えると、ルビオとアルファンが母親の視線にビクつきながら、ゆっくりと自分たちのとった行動や、それに至った思いなどを、ビートルさんと母親である女性に告げる。子供たちの思いを聞いて、二人とも目じりに涙を浮かべながらも、しっかりと叱っている。
 そして最後に、二人で子供たちを挟む様に抱きしめて、改めて、子供たちが無事に帰ってきた事に心の底から安堵している。そして、母親である女性が俺に向かって弱々しく身体を動かして、頭を下げてくる。

「改めまして、ビートルの妻、クレイと申します。この度は、子供たちを救っていただいてありがとうございます」
「いえ、子供たちが無事で何よりでした。私はシャルルと申します。暫くの間、皆さんのお世話になります。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。しかし、本当に我が家で良かったのですか?私たちも色々と伝手があります。我が家よりも………」
「クレイさん、お気持ちはありがたいのですが………」
「………そうですか。分かりました。大したお構いは出来ませんが、旅立つその日までは、我が家でゆっくりとお過ごしください」
「ありがとうございます」

 お互いに頭を下げていると、クレイさんが咳き込んでしまい、体調が不安定になってしまったので、ビートルさんに支えられながら、奥の部屋へ戻っていく。
 俺は、両目に氣を集中させる。その状態で、クレイさんの身体全体を‟みる”。すると、全身の氣の流れの中で、肺の部分の氣の流れが著しく悪い事が判明した。かなり重症化しており、庭で育てられていた薬草類では、ここまで悪化した状態は改善できないだろう。
 俺の影の空間倉庫には、ティル・ナ・ノーグに植生している、効能の高い薬を生みだせる薬草類が大量に仕舞いこまれている。その薬草を調薬して出来る薬と、氣によって身体に干渉して、氣の流れを正してやる必要がある。
 薬草の方は、色々と誤魔化しても納得させる事が出来る。しかし、氣に関しては誤魔化せるほどの説明が出来ない。だが氣を使用する際に、魔法と偽ればいけるか?
 傍から見ても回復魔法に見えるそれなりのエフェクトと、それらしい適当な呪文、地元ではこの呪文で回復魔法を使っていたと言えば、疑いつつも、ある程度は納得してくれるだろう。
 問題は、どのタイミングでこの話題を切り出そうかという所か。

『夕食時くらいの時間帯で、ビートルさんに話してみるか』

 あの後、ルビオとアルファンの二人に、使わせてもらえる部屋に案内してもらい、その部屋の中にバックパックを置いて、その日はルビオやアルファンと共に、日が暮れるまで遊んだ。太陽が隠れて始め、月が昇ってこようとすると、二人が遊ぶのをやめる。そして自宅に戻ると、二人は台所でゴソゴソと動き始める。外から帰って来たので手でも洗うのかと思ったら、何と、お互いに協力しながら夕食を作り始めたのだ。

「ルビオ、アルファン、夕食はいつも二人が作ってるのかい?」

 俺がそう聞くと、二人は俺の方を振り返る。

「そうだよ。母さんの体長が悪くなってからは、俺たち二人で協力して、夕食を作ってるんだ」
「お父さんも、調薬のお仕事やお母さんの看病もあるから、せめてこういった事は、家族として協力しようと思って……」
「そうか。二人とも優しくて、家族思いの良い子だな」
「良い子じゃないよ。良い子だったら二人だけで森にはいかないよ、シャルル兄ちゃん」
「そうだったな。でもそれはお母さんを治したくて、元気になってもらいたくて、森まで薬草を採取しにいったんだろ?だったら、二人とも良い子だよ」

 俺はそう言って、二人の頭を撫でてあげる。この子たちの思いを聞いてしまったからには、クレイさんの身体の状態を、一刻も早く良くしてあげたいと思った。この子たち二人の行動力の高い所は、正直に言って凄いとは思う。だが子供は子供らしく、自由に遊び、自由に学ぶのが良いと個人的には思っている。
 それに、クレイさんの気の流れを‟みた”時に、少しだけ不自然さを感じた。ティル・ナ・ノーグで生活していた頃に、薬草の扱いや、どういった病気があるのかを学んだ。その学んだ病気の中に、クレイさんの病気とよく似た症状を引き起こす病気があった。だがそれにしても、子供たち二人から聞いた情報の中にあった、クレイさんが体調を崩し始めた頃から重症化するまでの期間が、異様に短い様に感じる。
 症状としては確かに似ているが、重症化までの病状の進行速度があまりに早過ぎる所が、どうにも引っかかる。本人の気付かぬ内に発症し、そのまま病気に気付かずに重症化というのは、日本でもよく聞いた話だ。だがこうして改め考えてみると、重症化までの早さに強い違和感を抱く。

『もしかしたら、突然変異か?それともまさか、人為的に手が加えられ、変異した病か?』

 薬師という職業ではあるが、ビートルさんやクレイさん以外の薬師が、このベズビオという町にいないわけではない。つまり、ビートルさんたちの事をよく思っていない、商売敵の薬師もいる可能性があるという事だ。クレイさんは、そのよく思っていない薬師、もしくはその関係者によって病気を植え付けられたか、可能性があるという事だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...