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第12章(敦志)メッセージ

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 敦志は1人、キャンパスをあてもなく歩いていた。


 どことなく暗い、妙な雰囲気が大学全体に広がっている気がする。きっと曇り空のせいだけではないはずだ。

 昼の1時に春雄と再集合することにして、それまではそれぞれ別行動をしようということにした。その方が得られる情報も増えるかもしれないと。

 確か楓ちゃんは他の友達に会いに行くと言っていたな。



 敦志が経済学部棟の近くを歩いていると、同じ方向に歩く優里がいた。

 敦志は優里に駆け寄って声を掛けた。

「優里さん、こんにちは」

「あ、敦志君。んー、ずいぶんと不安そうなお顔で」

「優里さんもあのニュース、知っているでしょう。不安にもなりますよ」


 優里はポンと敦志の肩を叩いて言った。

「プライドの高いあの秋山君にも頼られる先輩さん。どっしり構えててくださいな」


 なるほど、確か秋山と優里さんはアルバイト先が同じだったな。秋山は一目惚れをして、俺を頼った。秋山はその事を優里さんに話したのだろう。


「俺なんかより優里さんに相談した方が頼もしいだろうに。何故でしょうか」

「自信を持ちなさい。敦志君はいい先輩になれたじゃない。でも1つ、ヒントをあげるね。あの日、私はバイトなんて無かったの」

 そう言って優里は手をひらひらとさせた後、敦志に背を向けて歩いていった。



 相変わらず優里さんは俺を混乱させる。優里さんの言葉の意味がわからないなんていつものことだけれど。

 そもそも、ヒントとは何のヒントなのだろうか。



 敦志は経済学部棟のすぐ外にあるベンチに腰掛けた。

『あの日、私はバイトなんて無かったの』

 あの日とは?

 そうか。ラーメン屋で秋山に相談された日だ。あの日はスタジオでのリハーサルが終わった後、優里さんはバイトがあると言って先に帰っていた。

 しかしそれは嘘だった。本当はバイトなんて無かった。つまり。


 やられた。秋山が俺に恋愛相談するように優里さんは画策したのだ。詳しくはわからないが、しかし俺と秋山は優里さんの手のひらの上だったということになる。

 ではどうして優里さんはそんなことをしたのか。

 秋山が一目惚れをした女の子は葵ちゃんだった。それを分かっていたからだろうか。葵ちゃんと面識のある俺に相談させて、秋山の恋の成功率が少しでも上がるように。


 いや、違う。それもあるかもしれないが、それだけじゃない。

 きっと優里さんは、俺と秋山の間にある微妙な距離を無くそうとしたのだ。

 秋山は俺のことを認めつつも、先輩を慕う後輩になりきれてはいなかった。そして先輩である俺もまた、技術の高い秋山に遠慮していた。

 優里さんは俺を頼れる先輩に、そして秋山を可愛い後輩にしてしまったのだ。


 敦志の口元が緩んだ。

 優里さんはこういうことをする人だ。こういうことができる人だ。だからこそ俺はあの人に惹かれている。


 そしてもう1つ、優里さんからのメッセージがある。優里さんがヒントを出したのは、画策していたことを俺に気付かせる為だろう。

 つまり優里さんが言いたかったことは。

『気付くことが出来て偉いね。じゃあ今後は、私の助けがなくても先輩になれるよね?』



 敦志はベンチを立ち上がって、春雄との集合場所である4号館へと向かって歩き出す。敦志の中にあった混乱と不安は、今や随分と小さくなっていた。


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