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第9章(幸成)俺は夢の中だけで
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「……あ」
気付くと幸成は夢の中にいた。やはり砂漠と石の塔が広がっている。幸成にとって、4回目の夢の世界であった。
夢の中での記憶が幸成の頭へと舞い込んでくる。ずきん、と幸成の頭が少し痛んだ。
随分と久しぶりだ。前回は何週間前だろう。もしかすると一月経ったかもしれない。またあの池で紗里と会えたら、確認してみよう。
幸成は周りを見渡し、森の方向を探す。
あった。さて、とりあえず池に向かおう。
そして幸成は砂を踏みしめ、歩き出す。どうして俺はいつもここから夢が始まるのだろう、どうせなら最初から池に配置してくれればいいのに、と思いながら。
幸成は以前に来た時と変わらぬはずの砂漠を歩く。しかし、何か違和感があった。
前と変わらないはず。砂漠があって、石の塔がある。空には雲ひとつなくて、太陽があって、風もないのになぜか肌寒い。いつも通り森も見える。なのに何だ。何かがおかしいような気がする。気のせいだろうか。
まあ、いいや。それにしても、もし紗里が今もまだ毎晩この夢を見続けているのだとしたら。何週間もの間、たった1人でこの世界にいたことになる。1週間俺が夢を見なかっただけの前回ですら紗里は寂しがっていた。なのに今回は下手したら1ヶ月は。
幸成の中に、申し訳なさと紗里への心配が生まれた。
少し急ごう。俺がいたとして、紗里にとって何かが変わるかどうかはわからないけれど、それでも1人でいるよりかはましだろうから。
やがて幸成は森に着き、スニーカーに入った砂を落としながら池へとやってきた。池の上には木々の葉が無く、陽の光が差し込んでいる。
以前来た時と変わらない、はずなのに。やっぱり何かがおかしいような。何だ。何がおかしい。
すると彼女は今回もそこにいて、何やら小石を池に投げていた。
「紗里。こんばんは」
幸成の声に、彼女はびくりとして振り返る。彼女は目を丸くしていて、そして次第にその目を輝かせた。
「……やっと来てくれた」
紗里はそう言うと、幸成の元へと駆け寄り、そして抱きついた。
幸成は突然の紗里の行動に戸惑った。女子に抱きつかれることなど初めてのことであったし、ましてや紗里は初恋の相手であり、そして今の幸成にとっても(例え夢の中だけであっても)特別な存在である、そんな異性に抱きつかれたのだから。
紗里はぐっ、と抱きしめる力を強めた。そして幸成は紗里の体が震えていることに気付いた。
「ごめんね」と幸成は言った。
「許さない。でも、幸成君のせいじゃない」
「誰のせい?」
「小人」
「小人?」
すると紗里は腕を離し、幸成からも離れた。そして紗里は笑顔になって、言った。
「そう。きっと小人が全部悪い!」
「何がなんだか……」
「細かいことは気にするな! 幸成君が鬼ね。鬼ごっこスタート!」
紗里は幸成の肩をぱしん、と叩くと、幸成から逃げるように駆け出した。幸成は紗里の背中を呆然と見つめていたが、ふう、と息をついた後、紗里を追いかけた。
足が草を蹴る。トンボが横切る。やがて池から離れ、木々の間を通り抜けていく。
「紗里! 俺さ、最近女の子の友達ができたんだ!」森の中を走りながら、幸成は紗里の背中に向けて言った。
「何それ! いやらしい!」紗里は振り返らず、走るスピードも落とさずにそう返した。
「いやらしくはないでしょ!」
「私だって、かっこいい男の子に惚れられてるんだから!」
「それで?」
「わからーん!」幸成からは見えないが、紗里は笑っているようだった。
「どんな人?」
「幸成君より、よっぽどかっこいい人!」
「随分格好良くなった、って言ってくれただろ!」
「前と比べて、ってことだよー!」段々と距離を詰められ、焦る紗里。
そうして幸成は紗里に追いつくと、紗里の背中をタッチした。
「……残念でした」と幸成。
紗里と幸成は肩で息をしていて、そして紗里がその場に座り込んだ。そこは池から少し離れた森の中であった。池や砂漠と違って、森の中は薄暗かった。
「幸成君、なかなかやるじゃないか」と紗里。
すると幸成は気付いた。
「……あれ、ここ、気温が低いからかな。汗が出ない」
「そういわれてみれば。そうだ、考えたことなかったけれど、私、この世界でトイレが無いのに困ったことがない」
「ということは、やっぱりここは夢の世界なんだ。こんなに鮮明なのに」
そう言うと幸成もまた、紗里の横へと座った。
「もう、わけわかんないよ。私はいつまでここにいるんだろう。いつまでこんな夢を見続けるんだろう。起きたら忘れて、寝たらここに来て全てを思い出して。一体私は……」
紗里はそう言って顔を幸成から背ける。
「前に俺がここに来てから、何週間経った?」
「1ヶ月。もう、会えないかと思ってた」
紗里の声は震えていた。
やっぱりそうか。そして俺がこの夢の世界にいない時でも、紗里は毎晩この世界に来て、毎晩、毎晩、毎晩、たったひとりで。どんな気持ちだっただろう。どんなに心細かっただろう。どれほど寂しかったのだろう。
そういえば、今回は何か違和感があった。何が今までと違うのかわからないから、それほど大きな違いではないはずなのだけれど。しかし何故だか気にかかる。
「紗里、この世界で何か変わったことはない?」
「変わったこと?」
「そう。なんだか、前に来たこの世界と何かが違うような気がして」
「気のせいじゃないかな。ずっと変わらないと思う。日数を数えている岩はずっとあるし、池にいるトンボさんたちもいつも同じ子達だよ。長いこと一緒にいるから見分けがつくようになったんだ」紗里は人差し指をくるくると回した。
「気のせいか……」
「気持ちはわかるよ。ここに来ると、混乱するから。起きている時の私と、ここにいる時の私。持っている記憶の量が変わる。頭がどうにかなってしまいそうだよ。そんな感覚だったんじゃないかな」
「ああ。きっとそうだ。ここに来た時、頭が少し痛くなったし」
そう言って幸成は頭を少しかく。
そんな幸成を、紗里はじっと見つめた。幸成はその真っ直ぐな目に圧倒される。ショートカットの黒髪、透明感溢れる肌、そして吸い込まれるような瞳。美少女とは紗里のような人のことを言うのだろうな、と幸成は思った。そして彼女は何かを伝えようとしている、そう幸成は感じた。
「ね、幸成君」
「ん?」
「こんな状況だからかもしれない。寂しさと混同しているのかもしれない。幸成君にとっては、きっと何が何だかわからないよね。でも、私の気持ちは本物だと思う」
「何の話だろう?」
紗里は大きく息を吸って、そして言った。
「私はこの夢の中でだけ、幸成君のことを想っています。もしいつか、ううん、私はいつかきっと! 起きている時に幸成君のことを思い出すから!」
紗里はもう一度深呼吸をして。
「だからその時、私を幸成君の彼女にしてください。お願い……、します」
そこまで言うと、紗里は俯いて表情を隠した。
紗里は俺をからかっているのだろうか。いや、そんなはずはない。紗里の言葉を、その決意を、俺は疑っちゃいけない。それならば、俺はなんと言えばいい。なんて答えればいい。
これは告白、なのだろうか。俺だって、夢の中だけで紗里に惹かれている。それは間違いない。だからこんなに嬉しいことはない。もちろん、と言えばいいだけのことだ。
けれど、そんなに無責任なことをしていいのだろうか。紗里は毎晩この世界にいて、俺はそうではなくて。次いつ会えるのかもわからない。現実で紗里のことを思い出せるのかもわからない。これからも紗里はこの世界での長い時間を過ごしながら、俺を待ってくれるのだろう。いつ現れるかわからない俺を。それなら俺は、紗里を拒絶するべきなのかもしれない。
そうして幸成は戸惑っていた。すると紗里の足下に涙が落ちる。幸成は確かにそれを見たのだ。しかし紗里は俯いたまま、顔を上げようとはしない。
幸成の胸の奥で、何かがくっ、と締め上げられたような気がした。
何を俺は余計なことを考えているんだろう。紗里は覚悟を決めたんだ。どんなに長い時間を過ごすことになろうとも、俺を待とうと。ここで俺が紗里の告白を拒絶したら、紗里は拠り所を失う。
それに、何よりも大切なのは。
俺が、この夢の中だけだとしても、紗里のことを好きだということ。紗里の覚悟に応えるのに必要なのは、ただそれだけなのだから。
幸成は言った。
「顔を上げてくれる?」
紗里は涙を拭くと、ゆっくりと顔を上げた。不安そうな、切実な、そんな紗里の表情。それを見て、幸成は続けた。
「俺は夢の中だけで、紗里のことを想っています。けれど、いつか現実で紗里のことを思い出したら、それは現実の恋になる。その時は、紗里に会いに行くよ」
紗里は目を見開いて、それから次第に顔をくしゃくしゃにして、再び涙を落とした。そして紗里は幸成に抱きついた。幸成の胸に顔を埋めている。
「全く。すぐ返事してよ……」と紗里。
「ごめんね」
「なんだか今回は謝ってばっかりだね、幸成君」
「堂々としなくちゃな。紗里の彼氏になるのなら」
「そうだよ」
幸成もまた、紗里の背中に腕を添える。その晩の夢が終わるまで、幸成と紗里が離れることはなかった。
気付くと幸成は夢の中にいた。やはり砂漠と石の塔が広がっている。幸成にとって、4回目の夢の世界であった。
夢の中での記憶が幸成の頭へと舞い込んでくる。ずきん、と幸成の頭が少し痛んだ。
随分と久しぶりだ。前回は何週間前だろう。もしかすると一月経ったかもしれない。またあの池で紗里と会えたら、確認してみよう。
幸成は周りを見渡し、森の方向を探す。
あった。さて、とりあえず池に向かおう。
そして幸成は砂を踏みしめ、歩き出す。どうして俺はいつもここから夢が始まるのだろう、どうせなら最初から池に配置してくれればいいのに、と思いながら。
幸成は以前に来た時と変わらぬはずの砂漠を歩く。しかし、何か違和感があった。
前と変わらないはず。砂漠があって、石の塔がある。空には雲ひとつなくて、太陽があって、風もないのになぜか肌寒い。いつも通り森も見える。なのに何だ。何かがおかしいような気がする。気のせいだろうか。
まあ、いいや。それにしても、もし紗里が今もまだ毎晩この夢を見続けているのだとしたら。何週間もの間、たった1人でこの世界にいたことになる。1週間俺が夢を見なかっただけの前回ですら紗里は寂しがっていた。なのに今回は下手したら1ヶ月は。
幸成の中に、申し訳なさと紗里への心配が生まれた。
少し急ごう。俺がいたとして、紗里にとって何かが変わるかどうかはわからないけれど、それでも1人でいるよりかはましだろうから。
やがて幸成は森に着き、スニーカーに入った砂を落としながら池へとやってきた。池の上には木々の葉が無く、陽の光が差し込んでいる。
以前来た時と変わらない、はずなのに。やっぱり何かがおかしいような。何だ。何がおかしい。
すると彼女は今回もそこにいて、何やら小石を池に投げていた。
「紗里。こんばんは」
幸成の声に、彼女はびくりとして振り返る。彼女は目を丸くしていて、そして次第にその目を輝かせた。
「……やっと来てくれた」
紗里はそう言うと、幸成の元へと駆け寄り、そして抱きついた。
幸成は突然の紗里の行動に戸惑った。女子に抱きつかれることなど初めてのことであったし、ましてや紗里は初恋の相手であり、そして今の幸成にとっても(例え夢の中だけであっても)特別な存在である、そんな異性に抱きつかれたのだから。
紗里はぐっ、と抱きしめる力を強めた。そして幸成は紗里の体が震えていることに気付いた。
「ごめんね」と幸成は言った。
「許さない。でも、幸成君のせいじゃない」
「誰のせい?」
「小人」
「小人?」
すると紗里は腕を離し、幸成からも離れた。そして紗里は笑顔になって、言った。
「そう。きっと小人が全部悪い!」
「何がなんだか……」
「細かいことは気にするな! 幸成君が鬼ね。鬼ごっこスタート!」
紗里は幸成の肩をぱしん、と叩くと、幸成から逃げるように駆け出した。幸成は紗里の背中を呆然と見つめていたが、ふう、と息をついた後、紗里を追いかけた。
足が草を蹴る。トンボが横切る。やがて池から離れ、木々の間を通り抜けていく。
「紗里! 俺さ、最近女の子の友達ができたんだ!」森の中を走りながら、幸成は紗里の背中に向けて言った。
「何それ! いやらしい!」紗里は振り返らず、走るスピードも落とさずにそう返した。
「いやらしくはないでしょ!」
「私だって、かっこいい男の子に惚れられてるんだから!」
「それで?」
「わからーん!」幸成からは見えないが、紗里は笑っているようだった。
「どんな人?」
「幸成君より、よっぽどかっこいい人!」
「随分格好良くなった、って言ってくれただろ!」
「前と比べて、ってことだよー!」段々と距離を詰められ、焦る紗里。
そうして幸成は紗里に追いつくと、紗里の背中をタッチした。
「……残念でした」と幸成。
紗里と幸成は肩で息をしていて、そして紗里がその場に座り込んだ。そこは池から少し離れた森の中であった。池や砂漠と違って、森の中は薄暗かった。
「幸成君、なかなかやるじゃないか」と紗里。
すると幸成は気付いた。
「……あれ、ここ、気温が低いからかな。汗が出ない」
「そういわれてみれば。そうだ、考えたことなかったけれど、私、この世界でトイレが無いのに困ったことがない」
「ということは、やっぱりここは夢の世界なんだ。こんなに鮮明なのに」
そう言うと幸成もまた、紗里の横へと座った。
「もう、わけわかんないよ。私はいつまでここにいるんだろう。いつまでこんな夢を見続けるんだろう。起きたら忘れて、寝たらここに来て全てを思い出して。一体私は……」
紗里はそう言って顔を幸成から背ける。
「前に俺がここに来てから、何週間経った?」
「1ヶ月。もう、会えないかと思ってた」
紗里の声は震えていた。
やっぱりそうか。そして俺がこの夢の世界にいない時でも、紗里は毎晩この世界に来て、毎晩、毎晩、毎晩、たったひとりで。どんな気持ちだっただろう。どんなに心細かっただろう。どれほど寂しかったのだろう。
そういえば、今回は何か違和感があった。何が今までと違うのかわからないから、それほど大きな違いではないはずなのだけれど。しかし何故だか気にかかる。
「紗里、この世界で何か変わったことはない?」
「変わったこと?」
「そう。なんだか、前に来たこの世界と何かが違うような気がして」
「気のせいじゃないかな。ずっと変わらないと思う。日数を数えている岩はずっとあるし、池にいるトンボさんたちもいつも同じ子達だよ。長いこと一緒にいるから見分けがつくようになったんだ」紗里は人差し指をくるくると回した。
「気のせいか……」
「気持ちはわかるよ。ここに来ると、混乱するから。起きている時の私と、ここにいる時の私。持っている記憶の量が変わる。頭がどうにかなってしまいそうだよ。そんな感覚だったんじゃないかな」
「ああ。きっとそうだ。ここに来た時、頭が少し痛くなったし」
そう言って幸成は頭を少しかく。
そんな幸成を、紗里はじっと見つめた。幸成はその真っ直ぐな目に圧倒される。ショートカットの黒髪、透明感溢れる肌、そして吸い込まれるような瞳。美少女とは紗里のような人のことを言うのだろうな、と幸成は思った。そして彼女は何かを伝えようとしている、そう幸成は感じた。
「ね、幸成君」
「ん?」
「こんな状況だからかもしれない。寂しさと混同しているのかもしれない。幸成君にとっては、きっと何が何だかわからないよね。でも、私の気持ちは本物だと思う」
「何の話だろう?」
紗里は大きく息を吸って、そして言った。
「私はこの夢の中でだけ、幸成君のことを想っています。もしいつか、ううん、私はいつかきっと! 起きている時に幸成君のことを思い出すから!」
紗里はもう一度深呼吸をして。
「だからその時、私を幸成君の彼女にしてください。お願い……、します」
そこまで言うと、紗里は俯いて表情を隠した。
紗里は俺をからかっているのだろうか。いや、そんなはずはない。紗里の言葉を、その決意を、俺は疑っちゃいけない。それならば、俺はなんと言えばいい。なんて答えればいい。
これは告白、なのだろうか。俺だって、夢の中だけで紗里に惹かれている。それは間違いない。だからこんなに嬉しいことはない。もちろん、と言えばいいだけのことだ。
けれど、そんなに無責任なことをしていいのだろうか。紗里は毎晩この世界にいて、俺はそうではなくて。次いつ会えるのかもわからない。現実で紗里のことを思い出せるのかもわからない。これからも紗里はこの世界での長い時間を過ごしながら、俺を待ってくれるのだろう。いつ現れるかわからない俺を。それなら俺は、紗里を拒絶するべきなのかもしれない。
そうして幸成は戸惑っていた。すると紗里の足下に涙が落ちる。幸成は確かにそれを見たのだ。しかし紗里は俯いたまま、顔を上げようとはしない。
幸成の胸の奥で、何かがくっ、と締め上げられたような気がした。
何を俺は余計なことを考えているんだろう。紗里は覚悟を決めたんだ。どんなに長い時間を過ごすことになろうとも、俺を待とうと。ここで俺が紗里の告白を拒絶したら、紗里は拠り所を失う。
それに、何よりも大切なのは。
俺が、この夢の中だけだとしても、紗里のことを好きだということ。紗里の覚悟に応えるのに必要なのは、ただそれだけなのだから。
幸成は言った。
「顔を上げてくれる?」
紗里は涙を拭くと、ゆっくりと顔を上げた。不安そうな、切実な、そんな紗里の表情。それを見て、幸成は続けた。
「俺は夢の中だけで、紗里のことを想っています。けれど、いつか現実で紗里のことを思い出したら、それは現実の恋になる。その時は、紗里に会いに行くよ」
紗里は目を見開いて、それから次第に顔をくしゃくしゃにして、再び涙を落とした。そして紗里は幸成に抱きついた。幸成の胸に顔を埋めている。
「全く。すぐ返事してよ……」と紗里。
「ごめんね」
「なんだか今回は謝ってばっかりだね、幸成君」
「堂々としなくちゃな。紗里の彼氏になるのなら」
「そうだよ」
幸成もまた、紗里の背中に腕を添える。その晩の夢が終わるまで、幸成と紗里が離れることはなかった。
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