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本編
終話 新たな幕開け
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「『アルスター共和憲章』
第一条 アルスター共和国国王は、国民の統一と共和の象徴として君臨すれども、統治の権を持たず
第二条 アルスター共和国国王は、血統によらず、国民の中から国民の意志と選択によって選出す
第三条 アルスター共和国の統治は、国民の衆智を集め、万機を公論に決す
第四条 アルスター共和国の国民は、法の下に平等にして、法と国益に反しない限りの自由を有す
第五条 アルスター共和国の領土は、全て共和国そのものが所有する国民共有の財産であり、国民全てに利益をもたらすために用す
第六条 アルスター共和国の国民は、領民を導き、共和国を発展に導く義務を負う」
壇上のショーンが文書を読み上げる声が、王宮の庭園に浪々と響く。
こういう行事は屋外で、というのが前世と違っていて面白いな、とアルバートは思う。
大事なことは天空の大神に証人になってもらわなければ、という理屈らしい。
前世の歴史では、だいたい王宮の大広間辺りでやっていたように思う。
読み終えた文書にショーンが署名を行う。
続いて王妃が。
国王夫妻の書名が入った文書を宰相フェリクスが受け取り、頭上に高く掲げた。
大勢の貴族が署名することを考慮して、非常に長いスクロールが用意されたらしい。
フェリクスが掲げるその文書の下側のロールはかなりの太さだ。
後世に残れば国宝間違い無しだろう。
スクロールの冒頭部分に条文が記載され、そのすぐ下に国王夫妻の署名が記載されているのが見えた。
これから、その下に『国民』が署名していく。
最初はフェリクス。
そこから先は序列の順だ。
「行こうか」
「はい」
隣に声をかける。
アルバートの腕に手をかけて寄り添うオリヴィアが応える。
二人が壇上に上がると、ざわめきが起こったようだ。
二人の顔を知らなくても、あるいは遠くてよく見えなくても、それぞれのマントとケープに刺繍された紋章は見えるだろう。
ノーマン家の男がレーヴェレット家の女を公式の場でエスコートする。
それがどういうことか、察することができない貴族はいない。
婚約の成立から今日まで日が無かったため、思わぬ形での婚約の公表になってしまった。
署名を終えて壇から下りる。
アルバート達がこの式典でやるべきことはこれで終わりだ。
共和政体の発案者とは言え、当主ではないから議会には出席しない。
まあ、第一回の議会で行うのは、以前アルバート達が提出した『共和政体案』の内容の確認と承認だ。
問題が起こる余地は無い。
次々と壇上に上がっては署名していく貴族たち。
みな、どこか高揚感を持って壇上に上がり、そして下りてくる。
その列をぼんやりと眺めながら、一連の事件に思いを馳せる。
事件の発端も、この庭園だった。
あの時も自分はこんな立ち位置で、壇上を眺めていた。
そうしたら、王子がとんでもないことを言い出したのだ。
瞬間的に頭に血が昇って、衝動的に行動してしまった。
あれから二ヶ月程度。
よくもここまで色々なことが起こったものだ。
国のあり方まで変わってしまう事件になるとは、あの時は誰も思っていなかっただろう。
「あの日のことを思い出しますね」
オリヴィアが呟くように言った。
アルバートと似たようなことを考えていたらしい。
彼女にとっては、アルバート以上に激動の事件だっただろう。
アルバートの人生は、ノーマン家の当主になるという路線は変わっていないのだから、それほど変わっていないという見方もできる。
だがオリヴィアは、王妃になる予定だったのが、婚約を破棄され、結果的にノーマン辺境伯家夫人になる予定に変わってしまった。
よくまあ、事態を受け止められたものである。
「あの日の自分を褒めてやらないといけないな。
おかげで最高の伴侶を得ることができたんだから」
「それでは、わたくしも素直にアルバート様の手を取ったことを褒めてあげないといけませんね」
顔を見合わせて笑い合う。
こんな関係になるとは思わなかった。
個人的には文句の付けようが無い結末だ。
あとは、この結末を国や領地にとって最高の未来へと繋げなければならない。
幼い頃の誓いは今も変わらない。
アルバートの根幹は、今もノーマン領にある。
ノーマン領をもっと豊かに、もっと安全に、もっと暮らしやすい場所にする。
生まれてきた誰もが、その恩恵を享受し、満足いく人生を送れるくらいに。
もちろん、現実には絶対に取りこぼしが出てしまうことは理解している。
だが、それでも理想は掲げ続けなければならない。
でなければ、それに近づけることもできなくなる。
領内の状況はだいぶ改善された。
そこにはソフィアやヘンリックを始めとして、領内の多くの人々の助けがあった。
我ながら、多くのことができたと、ある程度自画自賛しても良いのではないかと思っている。
だが、同時に領内でできることの限界を感じていたのも事実だ。
これからは、相利共生の関係にあるアルスターとの関わりが、さらに重要になる。
これまでもルガリア流域の諸侯との友好関係の樹立には奔走してきたが、それをさらに広げる時が来たのだろう。
ヘンリックはアルスターをノーマンの伴侶と言ったらしいが、上手く言ったものだと思う。
どんな運命の悪戯か、アルバートはアルスターを代表するような女性を伴侶に得られることになった。
これから、公的にも私的にも、良い関係を作っていこう。
それが、ノーマン領を含めたアルスター共和国全ての人々にとって、良い結果をもたらすはずだ。
そんな想いと共に、オリヴィアの手を握った。
しっかりと握り返してくれる手が、心地良く、心強く思えた。
それから数日。
アルバートはノーマン領へと向かう船の上にいた。
領地に戻るアルバートやソフィアと共に、ノーマン領視察団が乗り込んでいる。
視察団の正規の人員は、オリヴィアやシャーロットを含めた十名。
ちなみに、現在のシャーロットの身分は「ヴェスタ公爵令嬢」となっている。
政治的な空白を避けるためショーンは国王に留任したが、それが一代限りであることを明確に示すため、先に「ヴェスタ公爵家」が設立され、ショーン本人以外の身分はそちらに移ったのだ。
彼らはみな貴族である。
しかも高位貴族が混ざっている。
当然ながら、護衛や随員という者たちが付き従うことになるし、持ち運ぶ必要のある荷物も多い。
それらの全てを馬で移動させるとなると大変な労力が必要だし、時間もかかる。
また、馬での移動は快適なものとは言い難い。
サスペンション付きの馬車などという物はまだ存在しないのだ。
ノーマン領の者であれば、それでも馬を選ぶだろうが、視察団の面々はそこまで馬にこだわりは無い。
自然とその移動には海路が選ばれた。
もっとも、だからと言って彼らが船での移動に慣れているわけではない。
アルスターは内陸国でこそないが、海岸線は北側に限られている。
それ以外の地域に住む者には、海など見たことも無い、という者も多い。
彼らにとって、船と言えば川船である。
アルスターの北の海は比較的波が穏やかだが、それでも川よりは揺れる。
結果、視察団の多くは、船酔いにノックダウンされることになった。
アルバートの腕に掴まって立つオリヴィアも、少し顔色が悪い。
「最初の目的地はトレストでしたよね?」
「ああ。
ノーマン領ではないが、ルガリア流域の繁栄を感じるには最適な場所だ」
トレストはまず間違いなく、アルスターで最も繁栄している商業都市だ。
シュレージやコルムのように政治や文化発信の場になっているという要因もなく、単純に通商の力のみで成長した都市としては、この世界でも最大級と言って良いのではないかと思う。
それを目にすることは、視察団にとって大きな刺激になるだろう。
「しかし、発案したわたくしが言うのはおかしいかもしれませんが、よろしかったのですか?
アルスターに技術が流れることで、ノーマン家が心血注いで作り上げた産業が打撃を受けることもあるのではありませんか?」
「多少はあるだろうな。
でもまあ、ノーマンの全てをさらけ出すわけではないし、最終的に棲み分けはできるはずだ。
今はそれよりも、共和国全体を強化しないといけない。
でないと危険だ」
ノーマン領で行っている施策の成果をノーマン家で独占する気は、アルバートにはもはや無い。
ノーマンで実績をあげている各種政策を共和国全域に広げ、国全体の力を上げる。
その国力を基礎に、軍備を拡張するのだ。
だが、だからと言って、ノーマン領の全てをさらけ出すわけにはいかない。
相対的にノーマン家の力が小さくなり過ぎれば、国政でのイニシアティブを取れなくなる。
民主政はこの世界では全く前例の無い政体だ。
自惚れる気は無いが、基本的な仕組みが定着するまで、アルバートが先導できる体制を保ちたい。
リベルム・ヴェトのようなとんでもない制度を作らせるわけにはいかない。
バランスを取るのが難しいが、やらなければならない。
アルバートには危機感があった。
おそらく、これから動乱の時代が始まる。
近隣の国家は全て封建制の王国だから、この「貴族革命」が革命の連鎖を起こすのではないかと警戒するだろう。
それは共和国への干渉を生むはずだ。
当然それには、武力行使も含まれる。
アルバートが想定しているのは、地球の歴史であった対仏大同盟だ。
フランス革命を見た諸外国が、革命の伝播を警戒し、フランス共和政の打倒を目指して同盟を組み、戦争という手段に出た。
アルスター共和国の近隣の諸外国は、どこも王がいて貴族がいる政体を取っている。
王たちに与える危機感は強いだろう。
戦争が起こる可能性は高い。
それに備えなければならない。
それさえ乗り切れば、共和国は上手くいく。
外敵に対して団結して当たる経験が、国内の一体感を強めるはずだ。
歴史上、そういった例は多い。
そうでない例ももちろんあるが、そうなるように努力するしかない。
絶対に、乗り越えてやる。
アルバートは決意を新たにした。
婚約破棄から始まった貴族革命は、この時代としては特異な国家を生み出した。
それは一つの終わりであり、同時に一つの始まりでもある。
後世において『黄金の自由』と称される時代が、幕を開ける。
ー 完 ー
第一条 アルスター共和国国王は、国民の統一と共和の象徴として君臨すれども、統治の権を持たず
第二条 アルスター共和国国王は、血統によらず、国民の中から国民の意志と選択によって選出す
第三条 アルスター共和国の統治は、国民の衆智を集め、万機を公論に決す
第四条 アルスター共和国の国民は、法の下に平等にして、法と国益に反しない限りの自由を有す
第五条 アルスター共和国の領土は、全て共和国そのものが所有する国民共有の財産であり、国民全てに利益をもたらすために用す
第六条 アルスター共和国の国民は、領民を導き、共和国を発展に導く義務を負う」
壇上のショーンが文書を読み上げる声が、王宮の庭園に浪々と響く。
こういう行事は屋外で、というのが前世と違っていて面白いな、とアルバートは思う。
大事なことは天空の大神に証人になってもらわなければ、という理屈らしい。
前世の歴史では、だいたい王宮の大広間辺りでやっていたように思う。
読み終えた文書にショーンが署名を行う。
続いて王妃が。
国王夫妻の書名が入った文書を宰相フェリクスが受け取り、頭上に高く掲げた。
大勢の貴族が署名することを考慮して、非常に長いスクロールが用意されたらしい。
フェリクスが掲げるその文書の下側のロールはかなりの太さだ。
後世に残れば国宝間違い無しだろう。
スクロールの冒頭部分に条文が記載され、そのすぐ下に国王夫妻の署名が記載されているのが見えた。
これから、その下に『国民』が署名していく。
最初はフェリクス。
そこから先は序列の順だ。
「行こうか」
「はい」
隣に声をかける。
アルバートの腕に手をかけて寄り添うオリヴィアが応える。
二人が壇上に上がると、ざわめきが起こったようだ。
二人の顔を知らなくても、あるいは遠くてよく見えなくても、それぞれのマントとケープに刺繍された紋章は見えるだろう。
ノーマン家の男がレーヴェレット家の女を公式の場でエスコートする。
それがどういうことか、察することができない貴族はいない。
婚約の成立から今日まで日が無かったため、思わぬ形での婚約の公表になってしまった。
署名を終えて壇から下りる。
アルバート達がこの式典でやるべきことはこれで終わりだ。
共和政体の発案者とは言え、当主ではないから議会には出席しない。
まあ、第一回の議会で行うのは、以前アルバート達が提出した『共和政体案』の内容の確認と承認だ。
問題が起こる余地は無い。
次々と壇上に上がっては署名していく貴族たち。
みな、どこか高揚感を持って壇上に上がり、そして下りてくる。
その列をぼんやりと眺めながら、一連の事件に思いを馳せる。
事件の発端も、この庭園だった。
あの時も自分はこんな立ち位置で、壇上を眺めていた。
そうしたら、王子がとんでもないことを言い出したのだ。
瞬間的に頭に血が昇って、衝動的に行動してしまった。
あれから二ヶ月程度。
よくもここまで色々なことが起こったものだ。
国のあり方まで変わってしまう事件になるとは、あの時は誰も思っていなかっただろう。
「あの日のことを思い出しますね」
オリヴィアが呟くように言った。
アルバートと似たようなことを考えていたらしい。
彼女にとっては、アルバート以上に激動の事件だっただろう。
アルバートの人生は、ノーマン家の当主になるという路線は変わっていないのだから、それほど変わっていないという見方もできる。
だがオリヴィアは、王妃になる予定だったのが、婚約を破棄され、結果的にノーマン辺境伯家夫人になる予定に変わってしまった。
よくまあ、事態を受け止められたものである。
「あの日の自分を褒めてやらないといけないな。
おかげで最高の伴侶を得ることができたんだから」
「それでは、わたくしも素直にアルバート様の手を取ったことを褒めてあげないといけませんね」
顔を見合わせて笑い合う。
こんな関係になるとは思わなかった。
個人的には文句の付けようが無い結末だ。
あとは、この結末を国や領地にとって最高の未来へと繋げなければならない。
幼い頃の誓いは今も変わらない。
アルバートの根幹は、今もノーマン領にある。
ノーマン領をもっと豊かに、もっと安全に、もっと暮らしやすい場所にする。
生まれてきた誰もが、その恩恵を享受し、満足いく人生を送れるくらいに。
もちろん、現実には絶対に取りこぼしが出てしまうことは理解している。
だが、それでも理想は掲げ続けなければならない。
でなければ、それに近づけることもできなくなる。
領内の状況はだいぶ改善された。
そこにはソフィアやヘンリックを始めとして、領内の多くの人々の助けがあった。
我ながら、多くのことができたと、ある程度自画自賛しても良いのではないかと思っている。
だが、同時に領内でできることの限界を感じていたのも事実だ。
これからは、相利共生の関係にあるアルスターとの関わりが、さらに重要になる。
これまでもルガリア流域の諸侯との友好関係の樹立には奔走してきたが、それをさらに広げる時が来たのだろう。
ヘンリックはアルスターをノーマンの伴侶と言ったらしいが、上手く言ったものだと思う。
どんな運命の悪戯か、アルバートはアルスターを代表するような女性を伴侶に得られることになった。
これから、公的にも私的にも、良い関係を作っていこう。
それが、ノーマン領を含めたアルスター共和国全ての人々にとって、良い結果をもたらすはずだ。
そんな想いと共に、オリヴィアの手を握った。
しっかりと握り返してくれる手が、心地良く、心強く思えた。
それから数日。
アルバートはノーマン領へと向かう船の上にいた。
領地に戻るアルバートやソフィアと共に、ノーマン領視察団が乗り込んでいる。
視察団の正規の人員は、オリヴィアやシャーロットを含めた十名。
ちなみに、現在のシャーロットの身分は「ヴェスタ公爵令嬢」となっている。
政治的な空白を避けるためショーンは国王に留任したが、それが一代限りであることを明確に示すため、先に「ヴェスタ公爵家」が設立され、ショーン本人以外の身分はそちらに移ったのだ。
彼らはみな貴族である。
しかも高位貴族が混ざっている。
当然ながら、護衛や随員という者たちが付き従うことになるし、持ち運ぶ必要のある荷物も多い。
それらの全てを馬で移動させるとなると大変な労力が必要だし、時間もかかる。
また、馬での移動は快適なものとは言い難い。
サスペンション付きの馬車などという物はまだ存在しないのだ。
ノーマン領の者であれば、それでも馬を選ぶだろうが、視察団の面々はそこまで馬にこだわりは無い。
自然とその移動には海路が選ばれた。
もっとも、だからと言って彼らが船での移動に慣れているわけではない。
アルスターは内陸国でこそないが、海岸線は北側に限られている。
それ以外の地域に住む者には、海など見たことも無い、という者も多い。
彼らにとって、船と言えば川船である。
アルスターの北の海は比較的波が穏やかだが、それでも川よりは揺れる。
結果、視察団の多くは、船酔いにノックダウンされることになった。
アルバートの腕に掴まって立つオリヴィアも、少し顔色が悪い。
「最初の目的地はトレストでしたよね?」
「ああ。
ノーマン領ではないが、ルガリア流域の繁栄を感じるには最適な場所だ」
トレストはまず間違いなく、アルスターで最も繁栄している商業都市だ。
シュレージやコルムのように政治や文化発信の場になっているという要因もなく、単純に通商の力のみで成長した都市としては、この世界でも最大級と言って良いのではないかと思う。
それを目にすることは、視察団にとって大きな刺激になるだろう。
「しかし、発案したわたくしが言うのはおかしいかもしれませんが、よろしかったのですか?
アルスターに技術が流れることで、ノーマン家が心血注いで作り上げた産業が打撃を受けることもあるのではありませんか?」
「多少はあるだろうな。
でもまあ、ノーマンの全てをさらけ出すわけではないし、最終的に棲み分けはできるはずだ。
今はそれよりも、共和国全体を強化しないといけない。
でないと危険だ」
ノーマン領で行っている施策の成果をノーマン家で独占する気は、アルバートにはもはや無い。
ノーマンで実績をあげている各種政策を共和国全域に広げ、国全体の力を上げる。
その国力を基礎に、軍備を拡張するのだ。
だが、だからと言って、ノーマン領の全てをさらけ出すわけにはいかない。
相対的にノーマン家の力が小さくなり過ぎれば、国政でのイニシアティブを取れなくなる。
民主政はこの世界では全く前例の無い政体だ。
自惚れる気は無いが、基本的な仕組みが定着するまで、アルバートが先導できる体制を保ちたい。
リベルム・ヴェトのようなとんでもない制度を作らせるわけにはいかない。
バランスを取るのが難しいが、やらなければならない。
アルバートには危機感があった。
おそらく、これから動乱の時代が始まる。
近隣の国家は全て封建制の王国だから、この「貴族革命」が革命の連鎖を起こすのではないかと警戒するだろう。
それは共和国への干渉を生むはずだ。
当然それには、武力行使も含まれる。
アルバートが想定しているのは、地球の歴史であった対仏大同盟だ。
フランス革命を見た諸外国が、革命の伝播を警戒し、フランス共和政の打倒を目指して同盟を組み、戦争という手段に出た。
アルスター共和国の近隣の諸外国は、どこも王がいて貴族がいる政体を取っている。
王たちに与える危機感は強いだろう。
戦争が起こる可能性は高い。
それに備えなければならない。
それさえ乗り切れば、共和国は上手くいく。
外敵に対して団結して当たる経験が、国内の一体感を強めるはずだ。
歴史上、そういった例は多い。
そうでない例ももちろんあるが、そうなるように努力するしかない。
絶対に、乗り越えてやる。
アルバートは決意を新たにした。
婚約破棄から始まった貴族革命は、この時代としては特異な国家を生み出した。
それは一つの終わりであり、同時に一つの始まりでもある。
後世において『黄金の自由』と称される時代が、幕を開ける。
ー 完 ー
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