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【第四章「吉原の死闘」】

四十二 居合抜刀の一閃

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※ ※ ※

「ちっ――!」

 闇から飛来する手裏剣を弾き、得体の知れない黒い玉をかわし、クナイをくぐりぬける。
 忍者兄弟の息のあった攻撃に手を焼くが、梅次郎はどうにかすべてをかわしていた。

(そろそろ手裏剣も変な玉も尽きた頃だろ!)

 飛び道具は無限に持つことはできない。
 それが尽きたなら、最後は短刀で仕留めるしかないのだ。
 そのときを、梅次郎は待っていた。

「いやぁ、すばしっこいでござるなぁ。忍者にしたいくらいでござるよ」

 闇の中から伊蔵の軽口が聞こえてくる。

「冗談じゃねぇ。闇討ちしか能がねぇ卑怯者になるぐれぇなら死んだほうがマシだ」

 あえて挑発するようなことを言って、梅次郎は構えた。

「……挑発には乗らないでござるよ」
「……兄者。しかし、これでは埒が空かないでござる。ここは一気に決めて英之進殿と合流せねば」

 兄弟の会話から、ほかの襲撃者の存在がわかった。

(英之進って奴ぁ、あの辻斬りか?)

 梅次郎としても、玉糸たちのことは気になる。
 早くこの場で雌雄を決したい気持ちは同じだ。

「俺を倒したいんならさっさと来やがれ。これならかかってこれるだろ? 弱虫どもが」

 梅次郎は正宗を鞘に納めた。

「くっ! おのれ――!」
「待つでござる波蔵っ!」

 あからさまな梅次郎の挑発に乗った波蔵は、たまらず飛び出してきた。

 手には短刀。
 一直線に刺突する構えだ。

(かかった!)

 梅次郎は腰を落とす。
 黒装束からわずかに覗いた波蔵の瞳が驚愕に見開かれた。

(気がつくのが遅かったな! 俺ぁ居合の修練も積んでたんだ!)

 沈ませた体をひねらせるように鞘から刀身を滑らせる。
 下半身のバネと回転の力を十分に加えた刀は、虚空に半円を描いて青白く輝く。
 梅次郎の心臓目がけて猛進していた波蔵に、到底よけることなどできない。

「ぬぁ―――!?」

 驚きの声をあげたときには、波蔵の体は宙を舞っている。
 手応えは十分。
 梅次郎の居合抜刀は波蔵の腕を斬り落とし、胴体にも致命の傷をつけていた。

(人を斬るってのぁ嫌なもんだな)

 これまでに何度か探索時に下手人と刀を交えることはあったが、ここまで完全に人間を斬ったのは初めてだ。
 実力差があったから峰打ちですんでいたが、今回はそんな余裕などなかった。
 らねば、られる。


(決まりすぎた。いや、正宗なら当然か)

 ナマクラ刀なら、腕を斬り落としたところで切れ味は落ちているだろう。
 梅次郎の技量もさることながら、名刀の切れ味は抜群だった。
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