領主を継いだので好き勝手やってみた～小話～

ある癇癪を起こす女の子の話

『ある見習い女商人の話』の頃のお話です。


　仕事で兵士の詰所へ書類を持っていく。領主直営店と言っても建前上は他の店と同様の扱いをしている。
　そのために申請書類を提出する必要がある。
　ここで受付した物は領主様の屋敷へ持って行って審査するのだが、場合にってはあたしが初夏書類を書くことになる。
　はっきり言って、建前上の意味はない。
　もう、この手続き省略して良いんじゃない？

　愚痴を言っても、仕事は減るはずもないので街の入り口にある兵士の詰所へ向かう。そこは役所的な役割を兼ねているので公的な手続きはそこでする事になっている。
「かんにちは～」
　詰所に挨拶をして入ると、チャラい変な兵士の人しかいなかった。他の人は巡回に行っていて留守番しているらしい。
「いらっしゃいっス。ちょうど、暇なんスよ。なぞなぞでもして時間つぶしに付き合わないっスか？」
　そんなこと言っても、関係ないわよ。あたしは忙しいの。
「あれあれぇ～。自信がないっスかぁ～？」
　そんな安い挑発に乗る訳ないでしょ。
「そうっスか～。やっぱりマイハニーの言ってる通り、幼馴染みと乳繰り合うので忙しいっスね」
「そのマイハニーって誰よ！？」
　その誤報を言ったキモい呼び方されてる不届き者って誰よ？　シメてやるんだから！
　まあ、でもそこまで言われたら、受けて立ってあげるないこともないわ。こんな変な兵士に馬鹿にされる謂れはない。
　サクッと答えてあげるんだから。

「簡単な問題っスよ。答えはシンプルっス。これ領主様に貰ったうちの一枚っス」
　黒っぽく、形の崩れた歪なクッキーを見せてくる。それって昨日屋敷の皆で食べた残り？　でも、あたしも貰って食べたけれど、ちゃんと丸い綺麗な形だった。
　もしかして、この人って失敗作を押し付けられてるんじゃないの？
　この人は知らずに受け取ってるみたいだけど、指摘しといた方が良いよね。
「えっ、マジっスか。いやいや、なぞなぞには関係ないっス。ないったら、ないっスよ！
　さて、このクッキーを直接手を触れずに二人で遺恨が残らないように公平に分けるにはどうすれば良いっスか？　さあ、答えをどうぞっス」
　何か、自分の中で葛藤があったらしい。


　まあ、この人が冷遇されようがどうでも良いわ。それより問題の答えね。この形だと綺麗に二等分するのは難しいわね。
　クッキーはひとりに分けさせて、分けたのと別の人に先に選ばせるのはどうかな？　残ったクッキーが小さかったとしても、自分で分けたんだから自己責任でしょ。
　手を触れるのがダメっていうのは、普通に包丁を使えばＯＫでしょ。
「ハズレっス」

　まあ、そんな簡単な訳ないわよね。ハンマーで粉々に潰してから二等分するってのはどうかな？
「不正解っス」

　じゃあ、天秤ばかりに載せて重量できっちり分ける。
「残念。ボッシュートっスね」

　同じものをもう一個作って仲良く分ける。
「間違いっス」

　クッキーを売り払ってお金に換算してから分ける。
「違うっス」

　第三者に分けてもらう。
「ブッブ～」

　ジャンケンで勝った方が全部もらう。
「正解ならずっス」

　これでどうよ？　片方を亡きモノにして、独り占めする。
「怖いっスよ！？」

　一体どうするってのよ！？　もう実力行使しか思いつかない。
「いや～、思い付かないっスか？　答えは、シンプルって言ったじゃないっスか」
　だから、答えは何なのよ。さっさと言いなさい。
「いや、だから答えは・・・」

　うがぁぁ～～！！　何よ！？それっ！！　それってアリなの！？





◇◇◇◇◇


　ムカついたあたしは件の問題を下僕幼馴染みに出してみる。なお、この男は間違っても乳繰り合う相手ではない。
「えっと。答えは『シンプル』？」
　驚くことに、やすやす苦も無く正解を口にする。
　何であっさり分かるのよ！？
「えっ？　いくら何でも、オイラをバカにし過ぎだぞ。こんな言葉遊びなんてすぐ分かるぞ」

　何ですって～～！

「えぇぇぇ～！？　何でオイラ殴られるの？」

　知らないわよ！！！