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8.勘だ
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「失礼しました。お詫びに私からコーヒーを」
何を詫びられたんだ、俺は。
特に思いであることがないので、時宗は首を横に振る。
「ところで、どうしてあの男の家が傾いていると?」
「勘、ですかね」
とぼけたような言い方でかわされてしまった。だが、そのミステリアスな笑い方も常連がつく由縁かもしれない。
しかし。
「勘であそこまで推理できるんですか?」
「噂で娘様の婚約を急がれていると聞いてましたし、婚約が決まる前まではため息も多かったですし。婚約を急ぐ理由を考えたときに、もしかして、お仕事の調子が良くないからかと考えただけです。まさか当たるとは思いませんでしただ」
確信めいたあの言い方だったにも関わらず、憶測であそこまで言うとは。憶測であそこまで言うとは、志乃は案外肝が座っているのかもしれない。
そうすると、ただの女給ではなくて。
「もしかして志乃さんは探偵ですか?」
時宗の言葉に志乃は目を丸くし、瞬きを何回かはっきりとした。時宗の突飛な言葉に驚いているのは志乃の顔を見るだけでよくわかる。
黒岩が置いて行った紙を時宗は見てから志乃に問う。
「この手紙には『待っていてください』と書かれているだけでしょ? それであそこまで想像を働かせ、推理できるとは探偵以外にできないことかと」
黒岩から引き上げたカップを手早く洗い、戸棚にしまう志乃。背中を向けられているせいで、どんな顔をしているかわからない。
「私はただの女給です。普通女給はこんなことしないですよね」
後半の言葉はさっきと違い、どこか自信なさげだった。時宗はコーヒーを啜ってから言う。
「普通って誰が決めるんでしょう?」
時宗の言葉に弾かれたように志乃は振り返った。冷静な顔も、冷たい表情も、穏やかな客向けの笑顔もそこにはなかった。ただ戸惑いだけがありありと浮かんでいた。
「これから時代はどんどん変わってくると俺は思います。その時に今の普通を当てはめて拒絶するのは何か違う気がします。俺は志乃さんが普通ではないと感じません」
「お優しいんですね」
志乃はふっと口元を緩ませて笑った。
なんとも言えないその優しい微笑みに、時宗は思わず見とれてしまった。
「そ、そんなことはない、です」
そう答えるのが精いっぱいである自分に時宗は動揺した。
これまで何人かの女性と見合いをしてきたが、こんなに動揺することはなかった。宗一の考えに流されたかのような見合いはしたくないし、結婚もしたくない。かといって、すぐに自分の手で伴侶を見つけるということも考えていなかった。
ただ、自分のやりたいことをやりたい。
それだけを考えてきたからか、見合いの席でも相手から断られることが多かった。
自分の動揺をごまかすように話を変える。
「あ、そういえば。勘というのは、何か物に触れているときにビビッと感じるものですか?」
時宗の問いに、志乃は言葉を返せずに微笑んでいるだけだった。ようやく帰ってきた言葉と共に、志乃の微笑みは崩れた。
「どうしてそうお考えになられたのでしょうか?」
穏やかに微笑んでいた女給はどこにいったのだ。
これでは剣道の真剣試合と同じだ。背中に冷たいものが一粒だけ落ちていく。
答えられないまま、時宗は志乃の目をまっすぐ見る。
「もう一度お伺いします。どうしてそのようなお考えになられたのでしょうか」
答えなければ。
志乃が答えを待っている。しかも何か気づいてはいけないものを気づいてしまった時宗の答えを。
「いや……勘、だ。あまり気にしないでください」
「そうでしたか。失礼しました」
カランと入り口の扉が鳴った。
今この場を早く逃げたくて、ポケットから無造作にお金を出す。
できるだけ動揺を悟られないように軽く頭を下げてから、時宗は入ってきた客とすれ違うように店を出た。
店を出る直前に志乃が見送る言葉をかけてくれたが、時宗の耳を通り過ぎただけだった。
外に出ると、日はすっかりてっぺんに上っている。
時宗が自分の腹が減っていると気づいたのは店を出て少し歩いてからだった。
喫茶店ならば何か軽食を食べることができるかもしれないが、あの態度で出てきてしまっては戻りづらい。
浪漫俱楽部を背に、時宗は再び歩き出す。道信に連れられてここに来ていたためか、浪漫俱楽部の周辺を特に見ることなく歩いていたことに、今更ながら時宗は気が付いた。
住宅ばかりが続き、飲食店の一つも見つからないまま、バス停に着いた。
秋なのにいつもより少し暑い。首元をパタパタと扇ぎながら、隣を見ると、和装の、カップルが仲睦まじげにしている。
2人とも他からの視線を気にせずに、肩を寄せ合っていた。町中でこんな堂々としているのは、余程自分たちの周りが見えていないのかもしれない。
体を寄せ合いながら耳元で囁きあう。顔が思ったよりも近く話している様子に、時宗は思わず目を反らしてしまった。
女性が袂から何か小さくちぎった紙を男の懐にしまった。その行為に時宗は疑問を感じた。
もしかしたら、この二人は恋仲ではないのか。
時宗の頭の中に疑問が浮かんだ。ちらりと男女を見ると再び肩を寄せ合いながら、秘め事でも話すかのようにお互い耳元で囁やきあっている。
もしかしたら、気のせいだったのかもしれない。
時宗は再度男女から目線を外した。
遠くからバスが近づいてくる音がした。よそ事を考えることをやめて、周りをもう一度見る。バス停には時宗と男女以外に並んでいる人はいない。
バスに順調に乗れるかと思いきや、バスの中は思ったよりも乗車率は高く、乗り込むのも難しそうだった。
それにバスの中では何人かハンカチや手ぬぐいで汗を拭っていた。少し蒸し暑いだけで嫌になるくらいだ。次に乗れば良い。
時宗はバスに乗ることを諦め、見送った。
バスを見送ってから、次の到着時刻を確認すると、30分以上も開いてしまっている。
次のバスでは昼食時間内に間に合わない。休みの日は弁当ではなく、食堂に来た人たちが都度注文をする流れになっているから、間に合わなければ、締め切られてしまう。
時宗は諦めてバス停を離れ、どこかで食べられないか歩いて探すことにした。
駅まで行けば飲食店が見つかるかもしれない。しかしここから駅までどのくらいの距離があるかも時宗にはわからない。
そういえば、道信が浪漫俱楽部では美味しい軽食もあると話していた。
時宗は腹が減っている状態であることを理由に浪漫倶楽部に戻ることにした。
浪漫俱楽部に到着すると、中は先ほどとは違い、想像よりもにぎわっていた。開店時よりも客が多く、女給も志乃以外に2人ほどいる。志乃に見つからないように、時宗は窓際に座り、お品書きに書かれていたオムライスを近くにいた女給に頼む。
マスターも先ほどとは打って変わり、忙しそうに料理を作ったり、コーヒーを入れたりしている。その傍らでは志乃も飲み物の準備を忙しなくしていた。
女学校に行けば良妻賢母になるために料理や裁縫などを習うと聞く。時宗が見ている限りは料理の腕に困っているようなことはないようだ。その証拠に時折マスターの代わりに料理の手伝いをしている。
ぼうっと志乃を見ていると、女給がオムライスを運んできた。
真っ赤なトマトのソースに黄色の卵が映えている。固めの卵ではなく、少しばかり半熟になっていて、食欲が一層そそられる。
手を合わせてから、時宗はスプーンでオムライスの端っこからひと口分すくい上げた。少し息を吹きかけ、冷ましてから口に運ぶ。オムライスの中を見ると、中はケチャップで作られたごはんに玉ねぎとひき肉が混ぜられていた。
学食のメニューで出されることもあるが、学食とは比べられないほどだった。熱々なままいっきに時宗は一気に食べきる。空腹が美味しさの加担をしているとは思うが、それ以上に純粋に美味しかった。
水を飲もうとコップに手を伸ばすと、いつの間にか水が空っぽになっていた。女給を探そうと辺りを見回したところで、タイミングよく時宗のコップに水が注がれる。
「学校へはお戻りにならなかったようで」
ゆるりとしたその声に時宗は驚き、食べる手を止めた。
マスターは水差しを持ちながら、時宗に少しだけ目線の高さを合わせた。
「志乃さんに御用でしょうか」
「いえ、腹が減ったし、バスも良い時間がなかったので食べに来ただけです」
「そうでしたか。わたしはてっきり志乃さんにお会いになりたいのかと思いましたので」
「そういうわけでは……」
「先ほどのあなたは志乃さんに恋をしているのかと思いましたので。あくまでも老人の独り言だと思って聞き流してくださって結構です」
前置きをしたマスターは、少しだけ声を小さくしながら話を続けた。
「彼女の秘密を暴いた者はいませんが、簡単に暴いて良いものではないですよ。暴くならば責任を伴うようにしてくださいね」
見た目とは違った物騒な物言いに、時宗はマスターから目を外すことができなかった。穏やかな微笑みをしているが、目だけは真剣そのものだった。
「それはどういう意味ですか?」
時宗の真剣な声に応じるようにマスターは声を小さくして話を続けてくれた。
「人は普通というものを好みます。しかし、普通が本当にその人にとって幸せかどうかはまた別物です。個人の自由というものが主張されるようになってきましたが、それでも人と同じであることの安堵感は誰しもが持っているものかもしれない。そこのバランスは簡単なようで難しい。彼女はそれを知っている。それだけのことですけどね。彼女に気づいたあなたなら、良い理解者に慣れるかもしれませんが、それを求めないならばただの客でいることがお互いに最善ですよ」
マスターは全て言い終えたのか、水差しを持ったまま別のテーブルに移動しようとした。しかし、時宗はマスターの服の裾を思わず掴んだ。
「マスターは彼女が何者かをご存じで」
何を詫びられたんだ、俺は。
特に思いであることがないので、時宗は首を横に振る。
「ところで、どうしてあの男の家が傾いていると?」
「勘、ですかね」
とぼけたような言い方でかわされてしまった。だが、そのミステリアスな笑い方も常連がつく由縁かもしれない。
しかし。
「勘であそこまで推理できるんですか?」
「噂で娘様の婚約を急がれていると聞いてましたし、婚約が決まる前まではため息も多かったですし。婚約を急ぐ理由を考えたときに、もしかして、お仕事の調子が良くないからかと考えただけです。まさか当たるとは思いませんでしただ」
確信めいたあの言い方だったにも関わらず、憶測であそこまで言うとは。憶測であそこまで言うとは、志乃は案外肝が座っているのかもしれない。
そうすると、ただの女給ではなくて。
「もしかして志乃さんは探偵ですか?」
時宗の言葉に志乃は目を丸くし、瞬きを何回かはっきりとした。時宗の突飛な言葉に驚いているのは志乃の顔を見るだけでよくわかる。
黒岩が置いて行った紙を時宗は見てから志乃に問う。
「この手紙には『待っていてください』と書かれているだけでしょ? それであそこまで想像を働かせ、推理できるとは探偵以外にできないことかと」
黒岩から引き上げたカップを手早く洗い、戸棚にしまう志乃。背中を向けられているせいで、どんな顔をしているかわからない。
「私はただの女給です。普通女給はこんなことしないですよね」
後半の言葉はさっきと違い、どこか自信なさげだった。時宗はコーヒーを啜ってから言う。
「普通って誰が決めるんでしょう?」
時宗の言葉に弾かれたように志乃は振り返った。冷静な顔も、冷たい表情も、穏やかな客向けの笑顔もそこにはなかった。ただ戸惑いだけがありありと浮かんでいた。
「これから時代はどんどん変わってくると俺は思います。その時に今の普通を当てはめて拒絶するのは何か違う気がします。俺は志乃さんが普通ではないと感じません」
「お優しいんですね」
志乃はふっと口元を緩ませて笑った。
なんとも言えないその優しい微笑みに、時宗は思わず見とれてしまった。
「そ、そんなことはない、です」
そう答えるのが精いっぱいである自分に時宗は動揺した。
これまで何人かの女性と見合いをしてきたが、こんなに動揺することはなかった。宗一の考えに流されたかのような見合いはしたくないし、結婚もしたくない。かといって、すぐに自分の手で伴侶を見つけるということも考えていなかった。
ただ、自分のやりたいことをやりたい。
それだけを考えてきたからか、見合いの席でも相手から断られることが多かった。
自分の動揺をごまかすように話を変える。
「あ、そういえば。勘というのは、何か物に触れているときにビビッと感じるものですか?」
時宗の問いに、志乃は言葉を返せずに微笑んでいるだけだった。ようやく帰ってきた言葉と共に、志乃の微笑みは崩れた。
「どうしてそうお考えになられたのでしょうか?」
穏やかに微笑んでいた女給はどこにいったのだ。
これでは剣道の真剣試合と同じだ。背中に冷たいものが一粒だけ落ちていく。
答えられないまま、時宗は志乃の目をまっすぐ見る。
「もう一度お伺いします。どうしてそのようなお考えになられたのでしょうか」
答えなければ。
志乃が答えを待っている。しかも何か気づいてはいけないものを気づいてしまった時宗の答えを。
「いや……勘、だ。あまり気にしないでください」
「そうでしたか。失礼しました」
カランと入り口の扉が鳴った。
今この場を早く逃げたくて、ポケットから無造作にお金を出す。
できるだけ動揺を悟られないように軽く頭を下げてから、時宗は入ってきた客とすれ違うように店を出た。
店を出る直前に志乃が見送る言葉をかけてくれたが、時宗の耳を通り過ぎただけだった。
外に出ると、日はすっかりてっぺんに上っている。
時宗が自分の腹が減っていると気づいたのは店を出て少し歩いてからだった。
喫茶店ならば何か軽食を食べることができるかもしれないが、あの態度で出てきてしまっては戻りづらい。
浪漫俱楽部を背に、時宗は再び歩き出す。道信に連れられてここに来ていたためか、浪漫俱楽部の周辺を特に見ることなく歩いていたことに、今更ながら時宗は気が付いた。
住宅ばかりが続き、飲食店の一つも見つからないまま、バス停に着いた。
秋なのにいつもより少し暑い。首元をパタパタと扇ぎながら、隣を見ると、和装の、カップルが仲睦まじげにしている。
2人とも他からの視線を気にせずに、肩を寄せ合っていた。町中でこんな堂々としているのは、余程自分たちの周りが見えていないのかもしれない。
体を寄せ合いながら耳元で囁きあう。顔が思ったよりも近く話している様子に、時宗は思わず目を反らしてしまった。
女性が袂から何か小さくちぎった紙を男の懐にしまった。その行為に時宗は疑問を感じた。
もしかしたら、この二人は恋仲ではないのか。
時宗の頭の中に疑問が浮かんだ。ちらりと男女を見ると再び肩を寄せ合いながら、秘め事でも話すかのようにお互い耳元で囁やきあっている。
もしかしたら、気のせいだったのかもしれない。
時宗は再度男女から目線を外した。
遠くからバスが近づいてくる音がした。よそ事を考えることをやめて、周りをもう一度見る。バス停には時宗と男女以外に並んでいる人はいない。
バスに順調に乗れるかと思いきや、バスの中は思ったよりも乗車率は高く、乗り込むのも難しそうだった。
それにバスの中では何人かハンカチや手ぬぐいで汗を拭っていた。少し蒸し暑いだけで嫌になるくらいだ。次に乗れば良い。
時宗はバスに乗ることを諦め、見送った。
バスを見送ってから、次の到着時刻を確認すると、30分以上も開いてしまっている。
次のバスでは昼食時間内に間に合わない。休みの日は弁当ではなく、食堂に来た人たちが都度注文をする流れになっているから、間に合わなければ、締め切られてしまう。
時宗は諦めてバス停を離れ、どこかで食べられないか歩いて探すことにした。
駅まで行けば飲食店が見つかるかもしれない。しかしここから駅までどのくらいの距離があるかも時宗にはわからない。
そういえば、道信が浪漫俱楽部では美味しい軽食もあると話していた。
時宗は腹が減っている状態であることを理由に浪漫倶楽部に戻ることにした。
浪漫俱楽部に到着すると、中は先ほどとは違い、想像よりもにぎわっていた。開店時よりも客が多く、女給も志乃以外に2人ほどいる。志乃に見つからないように、時宗は窓際に座り、お品書きに書かれていたオムライスを近くにいた女給に頼む。
マスターも先ほどとは打って変わり、忙しそうに料理を作ったり、コーヒーを入れたりしている。その傍らでは志乃も飲み物の準備を忙しなくしていた。
女学校に行けば良妻賢母になるために料理や裁縫などを習うと聞く。時宗が見ている限りは料理の腕に困っているようなことはないようだ。その証拠に時折マスターの代わりに料理の手伝いをしている。
ぼうっと志乃を見ていると、女給がオムライスを運んできた。
真っ赤なトマトのソースに黄色の卵が映えている。固めの卵ではなく、少しばかり半熟になっていて、食欲が一層そそられる。
手を合わせてから、時宗はスプーンでオムライスの端っこからひと口分すくい上げた。少し息を吹きかけ、冷ましてから口に運ぶ。オムライスの中を見ると、中はケチャップで作られたごはんに玉ねぎとひき肉が混ぜられていた。
学食のメニューで出されることもあるが、学食とは比べられないほどだった。熱々なままいっきに時宗は一気に食べきる。空腹が美味しさの加担をしているとは思うが、それ以上に純粋に美味しかった。
水を飲もうとコップに手を伸ばすと、いつの間にか水が空っぽになっていた。女給を探そうと辺りを見回したところで、タイミングよく時宗のコップに水が注がれる。
「学校へはお戻りにならなかったようで」
ゆるりとしたその声に時宗は驚き、食べる手を止めた。
マスターは水差しを持ちながら、時宗に少しだけ目線の高さを合わせた。
「志乃さんに御用でしょうか」
「いえ、腹が減ったし、バスも良い時間がなかったので食べに来ただけです」
「そうでしたか。わたしはてっきり志乃さんにお会いになりたいのかと思いましたので」
「そういうわけでは……」
「先ほどのあなたは志乃さんに恋をしているのかと思いましたので。あくまでも老人の独り言だと思って聞き流してくださって結構です」
前置きをしたマスターは、少しだけ声を小さくしながら話を続けた。
「彼女の秘密を暴いた者はいませんが、簡単に暴いて良いものではないですよ。暴くならば責任を伴うようにしてくださいね」
見た目とは違った物騒な物言いに、時宗はマスターから目を外すことができなかった。穏やかな微笑みをしているが、目だけは真剣そのものだった。
「それはどういう意味ですか?」
時宗の真剣な声に応じるようにマスターは声を小さくして話を続けてくれた。
「人は普通というものを好みます。しかし、普通が本当にその人にとって幸せかどうかはまた別物です。個人の自由というものが主張されるようになってきましたが、それでも人と同じであることの安堵感は誰しもが持っているものかもしれない。そこのバランスは簡単なようで難しい。彼女はそれを知っている。それだけのことですけどね。彼女に気づいたあなたなら、良い理解者に慣れるかもしれませんが、それを求めないならばただの客でいることがお互いに最善ですよ」
マスターは全て言い終えたのか、水差しを持ったまま別のテーブルに移動しようとした。しかし、時宗はマスターの服の裾を思わず掴んだ。
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