やっぱり冬が好き

たろいも

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二章:夏(なつ)

夏(なつ)

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二章:夏(なつ)

 懐(なつ)かしくなる前に「夏」が終わってくれたら、飽き(あき)が来ないうちに「秋」が訪れる。

 今年の夏は暑い。異常だ。年間を通して千葉とあまり夏の気温の差はないが、東京の夏は暑い。人混みのせいだろうか。相変わらず、授業とバイト、寝ては起きて、そんな繰り返しである。しかしそんな大学一年生も節目を迎えようとしていた。来週のテストが終われば、大学生において一番長い休みであろう、「夏休み」というものに突入する。大学生が大学生たる由縁と言っても過言ではないだろう。人生においてこの休みの期間ほど、長く貴重なものはないだろう。

「今年の夏は、どうするんだ?郷は、」

「どうするも何も、まあバイト三昧だろうなぁ。相も変わらず。」

「浮かないねえ。大学生と言ったらやっぱり夏休みだろう。海とか水着とか花火とか海とかさあ。」

「海で始まって海で終わるのかよ。」

東京と言っても、位置的には周りは他県に囲まれている為、海といえばお隣の神奈川県に出るか、自分の地元である千葉県まで足を運ぶほかない。よく子供の頃は家族で海水浴に行ったものだ。千葉県も神奈川同様海に面しており、海水浴で困る事はない。何より海産物でも有名な銚子にもよくいっては新鮮な海の幸を食べたものだ。
海水浴での楽しみといえば、何と言っても海の家で食べる「かき氷」が至福であったこと。どこで食べるかき氷も、真夏であれば美味しいことは間違い無いのだが、海で食べるそれは何か特別な味がした。もともと自分は泳げる方ではなかったので、海水浴と言っても波打際で水遊びをする程度で、海水浴というよりも日光浴といったほうが良いほどであった。
しかしそれでも、海というものは楽しい記憶で溢れている。

「トミーはこっちで海行くとしたらどこへ行くんだ?こっち海ないだろう」

「そうだなあ、やっぱり一番好きなのは江ノ島かな。有名だろう?」

「江ノ島!噂には良く聞くよ。しらすとかも有名だって」

江ノ島は神奈川の右下の端のほうにある、神奈川県きっての海水スポットである。中でも釜揚げしらすは有名で、その隣の鎌倉市では鎌倉大仏も有名である。

「じゃあ今年は江ノ島で決まりだな!」

突然の提案とトミーの声に圧倒されたのか、自分でも驚くくらいの調子で、

「もちろん!」

と言ってしまった。言ってしまった手前、断ることはできないと考えたが、久しぶりの海も悪くないなと考え直した。
今年の夏はいつもより忙しくなりそうだ。そんな予感がした。
でもやっぱり自分の中で夏はあまり好きな季節じゃない。とにかく身ぐるみを脱いでも脱いでも、真夏の中では体温調節をするのには限界がある。汗をかいて肌に汗が張り付く感触が何と言っても気持ち悪くてたまらない。なんせ、大好きなラーメンを真夏になんか食べようなら完食した時には汗の海だ。塩ラーメン好きにはたまらないだろうか。

  そんなこんなで、大学の最期の講義も終え、夏休みを迎えた。

と言っても、相変わらず友達は出来ず、バイト、トミー、バイト、休日にはレコードショップを巡る、と言ったような具合であった。
季節や時は手も止めずただひたすらに回る。そんな中そんなことを知る由もなくただレコードは回る。雑念や躊躇もひとまとめにして。最近はというと、ロックばっか聞いていた自分がジャズにも手を出し始めた。中でも、クインシージョーンズは心地よくて好きだ。音楽的に詳しいことはわからないが、ヴォーカルの鼻にかかったような声のトーンと、とにかくブルースギターが最高にイカしている。


そういえば、最近出会いがあった。バイトに久し振りに新入りが入ってきた。新入りという表現は、随分上からな感じがするが、滅多に人の入れ替わりのないこの店においては、新しい人が入ってくるというのはとても珍しいことなのである。
わかりにくい立地、レコードを売る、給料はほぼ最低賃金。物好きな人しか寄り付かないという。その上、給料の良さに目がくらみ、結局は大学生にありがちな給料の良い居酒屋に行ってしまうのが鉄板だという。
  そんな中、バイト募集の張り紙を見かけて面接にやってきたの、想像もしていなかった、自分と同い年くらいの女の子であった。いや女の子というよりは女性という言葉が似合いそうな、気品に溢れ、清潔感のある子であった。
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