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二章:夏(なつ)
夏(なつ)
しおりを挟む イベント終了十五分前にアナウンスが流れ始め、出展者たちはそれぞれ撤収にかかりだした。慧一は後片付けをする二人にくれぐれも逃亡しないよう念を押してから、一旦会場の外に出た。
男性用トイレで用を足しながら何となくほっとしている。女ばかりの環境にいると、男要素が恋しくなるものだ。
慧一は手を洗いつつ、鏡に映る自分をしげしげと眺めた。
「王子様……か」
慧一は赤ん坊の頃から色白だった。それも、産湯につかったその時から既に白く、赤ん坊という感じではなかったらしい。
女性の看護師に取り囲まれ、かわいがられていたと両親から聞いた。その頃からすでにモテモテだったわけだ。
慧一には弟が一人いる。野武士のような風貌で、いかにも男くさいスポーツマンタイプである。同じ兄弟でありながら、こうまで違うのも珍しいと、周囲に言われ続けている。
中身に関しても、兄は軟派で弟は硬派。
弟は一途な恋をして、既にその女性と家庭を持っている。
結婚式での仲睦まじい姿を見て、慧一はらしくもなく羨ましい気持ちになった。そんな恋人が欲しいと、ぼんやりと憧れた。
誰にも言わない、彼の心情だ。
幼稚園に小中高、そして大学と、彼は周りの女から崇拝とも取れる眼差しを注がれてきた。皆、勘違いしていると分かったのは、女を知った頃。
滝口慧一は清廉な紳士で、それこそ王子様のように女性を扱うのだろう。そんなふうに彼女らは思い込んでいる――
女のように美しい肌と、優しく見える目元が、そう思わせるらしいのだ。
だが、慧一と付き合い、彼という人間を初めて目の当たりにした女達は揃ってがっかりし、終いには離れていった。
(俺は泥臭い人間で、どちらかというと下品かもしれない。思ったことはストレートに表現するし、相手に自惚れる暇を与えない。俺が王子様? 悪寒がするよ)
慧一は、峰子は少しばかり違うと思った。
『モース』に登場するケイは、もちろんそのまんまではないが、ある程度自分の本質を突いていると思う。
その辺りを聞きたい。今夜、必ず聞きたいのだ。
慧一は鏡の前で頬を一発張ると、会場へと戻った。
峰子を捕まえるために。
男性用トイレで用を足しながら何となくほっとしている。女ばかりの環境にいると、男要素が恋しくなるものだ。
慧一は手を洗いつつ、鏡に映る自分をしげしげと眺めた。
「王子様……か」
慧一は赤ん坊の頃から色白だった。それも、産湯につかったその時から既に白く、赤ん坊という感じではなかったらしい。
女性の看護師に取り囲まれ、かわいがられていたと両親から聞いた。その頃からすでにモテモテだったわけだ。
慧一には弟が一人いる。野武士のような風貌で、いかにも男くさいスポーツマンタイプである。同じ兄弟でありながら、こうまで違うのも珍しいと、周囲に言われ続けている。
中身に関しても、兄は軟派で弟は硬派。
弟は一途な恋をして、既にその女性と家庭を持っている。
結婚式での仲睦まじい姿を見て、慧一はらしくもなく羨ましい気持ちになった。そんな恋人が欲しいと、ぼんやりと憧れた。
誰にも言わない、彼の心情だ。
幼稚園に小中高、そして大学と、彼は周りの女から崇拝とも取れる眼差しを注がれてきた。皆、勘違いしていると分かったのは、女を知った頃。
滝口慧一は清廉な紳士で、それこそ王子様のように女性を扱うのだろう。そんなふうに彼女らは思い込んでいる――
女のように美しい肌と、優しく見える目元が、そう思わせるらしいのだ。
だが、慧一と付き合い、彼という人間を初めて目の当たりにした女達は揃ってがっかりし、終いには離れていった。
(俺は泥臭い人間で、どちらかというと下品かもしれない。思ったことはストレートに表現するし、相手に自惚れる暇を与えない。俺が王子様? 悪寒がするよ)
慧一は、峰子は少しばかり違うと思った。
『モース』に登場するケイは、もちろんそのまんまではないが、ある程度自分の本質を突いていると思う。
その辺りを聞きたい。今夜、必ず聞きたいのだ。
慧一は鏡の前で頬を一発張ると、会場へと戻った。
峰子を捕まえるために。
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