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【7】澪のバレンタインデー
⑤
しおりを挟む「私たち空を飛んでるみたいですね 笑」
「このまま一緒に遠くへ飛んで行きますか?」
尾崎も興奮しているのか、いい大人が恥ずかしくなるような言葉を口にした。
「あははは、私も子供の時そんなこと言ってました。いい大人が面白いですよね。尾崎さん何歳でしたっけ? 笑」と冗談交じりに聞くと「48歳です」と真顔で答えた。
(私より歳上なんだ)
「尾崎さんお若いですね~! とても48歳に見えないですよ」
お世辞ではなく本心だった。いつもお洒落にしている歳下の男性だと思っていた。楽しく食事をして緊張もなくなった。しかし、ゴンドラで2人だけの空間のせいか澪の気持ちも高ぶってきた。
「冷静に冷静に」
自分に言い聞かせた。
冷静になろうと思った理由は、地に足をつけて尾崎と向き合いたいと思ったからかもしれない。
ゴンドラの降り口が近付いた。係員がゴンドラの鍵を外してドアを開けると、二人はまた現実の世界へ引き戻される。
ゴンドラから降りると、乗車前にすれ違った女性の「めっちゃ綺麗かったなぁ」の気持ちがわかった。
チケット売場の窓が閉められようとしていた。時計を見ると22時30分。
「澪さん明日仕事ですよね?」
「はい」
「もう帰らないとダメですよね?」
「うーん。いえ、まだ大丈夫ですよ」
尾崎が笑顔になった。
「天満でもう少しだけ飲みませんか?」
「いいですね!」
まだ、終わらない時間が嬉しくなり笑顔がこぼれた。
尾崎は《空車》表示のタクシーの前に出ると、すっと手を挙げて車を止めた。
「どうぞ」
奥のシートへ澪を勧めた。
「運転手さん、天満駅までお願いします」
走り出した車に揺られながら(やっぱりゴンドラの方がいいな 笑)と、心の中で澪はつぶやいた。
天満駅には10分程で着いた。2人は線路沿いにあるハンバーガー屋さんの角を入った。この通りは昔ながらの飲食店が並んでいて、ここを歩くのは2人とも初めてだった。道幅3メートルくらいの狭い道に行き交う人がごっちゃ返している。20メートルも行かない左手にお洒落でいい感じのバーがあった。
「こんな所にバーがあるんですね?」
「入ってみましょうか」
よくある横長のカウンターでなく、コの字型でマスターを囲むような作りだ。マスターの後ろから赤と青のネオンが嫌みなく照らしていた。
尾崎とのドキドキした1日がクールダウンするように静かに時間が流れた。1時間ほど他愛もない話をしたところで今夜も歩いて帰ることにした。
今夜は、いろんな話が出来て楽しかった。しかし、この時間が終わるのかと思うと寂しくなる。時間を止められないのなら、一緒に同じ時間を歩みたいと思ったが、そんなことはとても恥ずかしくて言えない。
澪は自分のマンションが見えたところで「今日はありがとうございました。とても楽しかったです」と言うと「僕も楽しかったです。また、近いうちに会えると嬉しいです」
そう言って、今夜も分かれ道の所から見送ってくれた。
そして家に帰ると、今夜もドレッサーの前で白いバスローブを羽織り、たっぷりの化粧水をしながら心を踊らした。
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