22 / 89
【7】澪のバレンタインデー
②
しおりを挟む運ばれてきたシャンパンは、淡いブルーの光が反射して、まるで夜景の一部のように綺麗で、2人は静かにグラスを合わせ乾杯をした。
「澪さん、この前と感じが違いますね?」
「そうですか? この前はちょっと飲み過ぎたみたいです。 お酒を飲むと変わるね。ってよく言われるんです 笑」
「そうなんですか? ほろ酔いの澪さん可愛かったですよ 笑」
(素面で言われると恥ずかしい……)
ひと品目のサラダが運ばれてきた。赤、緑、黄の色とりどりの野菜は、窓から見える夜景のように綺麗に盛り付けられている。
尾崎がサラダを取り分けてくれて、澪は手を合わせて「いただきます」と小さな声で言った。
「んっ! このサラダ美味しいです~!」
口の中でシャキシャキと音がして新鮮なことがわかる。
尾崎は澪のペースに合わせるようにシャンパンを飲み終わると、
「ワインは赤と白どちらが好きですか?」
「どっちも飲みます。でもオマール海老のローストなら白がいいかなぁ?」
「では、白にしましょう」
尾崎が店員にワインリストをお願いして白ワインをボトルで注文した。店員は手際良く、ワインクーラーを用意するとボトルのエチケットを尾崎の方に見せて目の前で開栓してくれた。
最初の一杯を澪に勧め、続いて尾崎のグラスにも注いでもらうと、店員は店の奥に消えた。
尾崎がグラスを置くと、
「会社は淀屋橋でしたよね? 番組のロケでよく行くんですよ」
「へぇー、どんなロケが多いんですか?」
「飲食店が多いですが、タレントさんと一緒にお勧めのお店に行ったりもします」
「では、美味しいお店や素敵なお店たくさん知ってるんですね!」
「そうですね。お勧めのお店一緒に行きましょう!」
「ありがとうございます! 楽しみです」
雰囲気も和んできたところで、澪は鞄を手に取ると、用意してきたチョコレートを取り出した。
「はい。これ、どうぞ!」
「何ですか?」
「バレンタインデーなので……」
「えっ! チョコですか? ありがとうございます!」
「あと、これも」
「えっ⁉︎ 2つあるんですか? 開けていいですか?」
「はい、どうぞ。気に入ってもらえたらいいんですが……」
「嬉しいです。なんだろ? おっ! 名刺入れじゃないですか。いい色ですね。ありがとうございます! さっそく明日から使わせてもらいますね」
何を買ったらいいか悩んだが、喜んでくれた顔を見て澪はホッとした。
前菜に続いてパンが運ばれてきた。テーブルに並んだ焼きたてのフォカッチャを澪はちぎって口へ入れる前に香りを楽しんだ。
「このフォカッチャいい香りがしますね」
「そうなんです。オリーブオイルとハーブの風味がしっかりしてるでしょ?」
「うん。私、パンが好きでいろんなフォカッチャ食べましたがこんないい香りがするの初めてです」
「よかったー」
尾崎が嬉しそうに笑った。
「尾崎さんもパン好きなんですか?」
「はい。パン好きですよ。番組でパンの特集をした時はテンション上がりました! 笑」
「いーな! 仕事でいろんな美味しいもの食べられてー」
「いやいや、いいことばかりじゃないですよ! 若い時は、ロケの下見でバンジージャンプをさせられたり本当に泣きそうでした」
前菜の次はパスタが並んだ。2人の会話は途切れる事なく楽しい時間が過ぎていく。
パスタを食べ終わった尾崎が、いよいよお待たせとばかりに、
「次はいよいよお勧めのオマール海老のローストですよ!」
オマール海老がくるまでの間、尾崎が話題を変えた。
「どんなタイプの男性が好きですか?」
「んー……。ひと言で言うと、男らしくて優しい人ですね。仕事も一生懸命で、周りにもちゃんと気遣いが出来る方が理想です。もちろん、一緒にお酒が飲めることは絶対条件ですけど 笑」
「そうなんですね。 僕、仕事に一生懸命ですよ! お酒も飲みますしね」
「あはは、私の理想ですね 笑」
「私の仕事は基本同じことの繰り返しですが、尾崎さんはいろんな仕事でたくさんの人を楽しませたり感動させたりすることができるのは素晴らしい仕事ですね」
「そうですね、会社は視聴率ばかり気にして現場は大変だけど、やりがあいのある仕事です」
(視聴率かぁ、みんな数字に追いかけられるんだなぁ…)
その時、オマール海老が運ばれてくるのが見えた。
14
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
私と継母の極めて平凡な日常
当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。
残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。
「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」
そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。
そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。
※他のサイトにも重複投稿しています。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる