転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし

文字の大きさ
上 下
17 / 74

16.リンドン1

しおりを挟む
「ノエル、結婚しよう……!」

昼休みに、パンを頬張るノエルの片手を取って、俺は詰め寄った。
セオドアがその横で、ぶは、と飲んでいた珈琲を吹き出す。あ、ちょっと。俺の制服に珈琲かかってないだろうな⁈染み抜き大変なんだぞ⁈──余談だが、この世界は中世っぽい設定なのだが、ス〇バっぽいカフェはあって、陶器製のカップで提供にはなるがテイクアウトの珈琲や紅茶があったりする。学園の所々に回収ワゴンがあり、飲み終わったカップはそこへ返せばいい──
ノエルはもぐもぐとゆっくり咀嚼をして飲み込んだ後、

「ナイジェルがいるから無理かなー」

にこ、と笑うとまたパンを頬張る。
ですよね!知ってた!

「ふぉもふぉも、リアム、ふぉくはこのみじゃないでひょ」

なんて?いや、なんとなくは分かったけれども!
俺はノエルの手を離して、溜息をつく。セオドアはまだちょっと咳き込んでいるようだ。
俺は手を伸ばして、その背をさする。
相変わらず俺たちは昼休みになると三人で昼食をとることが多い。誰かが用事があれば二人になったりもするが、いつメンというやつだ。
今日も天気が良いので、芝生の上に円陣を組むように座っていた。

「セオ、大丈夫?」

俺がセオドアを覗き込むと、セオドアはゆっくり息を吐いて頷いた。

「いきなり求婚劇がはじまってちょっとびっくりした……」

なるほど。意外と真面目だな。……いや、セオドアは口調こそ砕けているが基本は真面目な奴だ。そこそこ正義感も強かったりするので、ゲーム中でのセオドアの行為はリアムに引きずられたり命令されていたりしたが故だろう。
俺のせいでむせている友人の背を撫でつつも、俺はもう一つ溜息を吐く。

「いや、だって……レジナルド様との噂が……」

あー、といったように二人は頷いた。
先日の『おでこにちゅう』事件から、とにかく俺とレジナルド、そしてディマスの噂で持ちきりだ。

『レジナルド様はリアム様を王太子妃に考えていらっしゃる』とか
『ディマス様は王族の地位を捨てて侯爵家に……⁈』とか

……言い方は違えど基本的にはこの内容。おかしくね?俺を解けて噂がたってもいいじゃん⁈ディマスとレジナルドとかでさぁ!よほどお似合いだろ。金銀でめでたい色合いだし。
そして最悪なことにそんな中ででも、ディマスはしげしげと俺の元に通ってくるわけで……ディマスって噂が耳に入らないのか。それとも自分のいいように改変されていくのか……それにしたって皆、それなりに会話が聞こえているはずなのに、おかしな方向へと修正されていく。
レジナルドはレジナルドで噂を否定してくれればいいものを、面白がってかはぐらかしてあの顔面偏差値馬鹿高なお顔に笑みを浮かべるだけ……だとか。
なんだかなぁ……本当におかしな事態になりつつある。本来の俺は悪役令息という立場にあるが、今の俺はノエルを虐めるどころか仲が良い。ここから生じるズレはそりゃあるにしろ、どうして俺が主役ポジみたいなことになる⁈
以前にノエルが言っていたことが当たっているということなのか……しかし主役ポジと言ってもいきなり聖属性の魔法に目覚める気配はやはりない。

「リ、リア……!それなら俺と……!」
「やあ、こんにちは」

セオドアと声を重ねて現れたのは、リンドン・パストラーレだった。
俺たちと同い年ではあるが、俺たちより少し先に生徒会に入っていた人物で、お茶会にいたメンバーであり、攻略対象者だ。リアムを性奴隷化して飼い殺しとかえっぐいエンドをかましてくる奴でもある。
セオドアの背から手を引かせながら、俺は、こんにちは、と返す。ノエルとセオドアもそれぞれに挨拶をした。……挨拶をしたセオドアが少しリンドンを睨んだように見えたが……まあ、気のせいかもしれない。

「三人とも仲がいいんだねぇ……ねえ、僕もいれてよ」

リンドンはにこ、と人懐こい笑みを浮かべた。
リンドンは攻略対象者の中で言えばショタ枠というか弟枠というか……そういう扱いなので、顔も格好いいというよりは可愛い系だ。股間に余計なものがついている奴なので、俺は興味ないが。


「どうぞ」

面と向かって嫌うわけにも省くわけにもいかないので、俺は少し場所をずれて、セオドアとの間にリンドンが座れそうなスペースを作る。
リンドンは、ありがとう、と言いながらそこに座った。

「あまり生徒会以外ではクラスも違うし、お喋りをすることもないからね。ここに混ざれて嬉しいなぁ」

リンドンが俺たちを見回した後にそう言った。
嫌味な言葉ではなく、本当にそう思っているような声音ではあるが……。

「もうお昼は済んだ……んですか?」

どうもこいつに話しかけるときは言葉遣いに迷ってしまう。
リンドンは俺の問いかけに小さく笑って、

「僕たちは同い年だし、気軽に話してくれていいよ。僕もそうするし。君たちのことも名前で呼んでいいかな?」

と首を傾げ、リンドンは再度、俺たちに視線を巡らした。
正直、仲良くなりたいわけじゃないが……今の雰囲気でそれを主張するにはあまりにも空気が読めてないだろうなぁ……俺が、もちろん、と頷けば二人も笑みを浮かべて頷いた。ノエルはパンを食べながらだが。え、それいつまで……つか、何個目?

「ノエルは結構マイペースなんだね」

ハムスターのようにパンを頬張ったままのノエルに、リンドンはまた笑う。
そして、そういえばさ、と前置きをして俺を見た。

「レジナルド先輩と随分噂になってるけど、真相ってどうなの?」

問いかけに、俺は数度目かの溜息を吐いた。こう溜息ばかりを吐くんじゃ、幸せが光速で逃げそうだわ……。

「レジナルド先輩とは何でもないですよ……僕をからかっていらっしゃるんだと思います」

最低限失礼がないように俺がそう述べると、リンドンが反対に首を傾げた。

「へー……じゃあ、ノエル自身は王太子妃とかなりたくない感じかな?」

スペンサーにしてもそうだが、そんなに王太子妃って狙わなきゃならんのだろうか。侯爵家にとっても名誉なことには違いないだろうが、世の中の妙齢男女貴族全員が狙ってるわけじゃないと思うんだよな。セオドアとかもそんな気はなさそうだし。

「ないですよ。僕にはもったいないお話なので」

ねーーーーよ!とか叫んでやりたい気持ちを抑えて俺がそう返すと、ふうん、とリンドンがまた首を傾げた。じゃあさ、と言葉を繋げる。

「僕と結婚しようよ、リアム」

にこにこと愛らしい笑みを浮かべ、リンドンは俺の顔を覗き込んだ。
セオドアが持っていた珈琲を今度は落として、うわ、と叫び声があがる。
…………俺、今、求婚されてますかね……?
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

処理中です...