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第4章 学園編2

4.4 犯人

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「僕はまだ毒だとは言ってませんよ」
 テトラルキアが少し焦った顔で答えた。
「食事中に騒いだから毒と思っただけだ」
 貴族としての仮面が取れつつある。指輪が見つかったのが意外なのだろうか。王族に鑑定能力を持つ者がいる事は知られている事だと思うのだが。
「犯行に使われたのは、この指輪です。この指輪には転移機能のついている。そして私の目の前で使い、使用済みになった直後にこれが毒に変わった。このような魔道具をただの給仕が用意できわけがありません」
「転移の指輪。だから証拠が得られなかったのね」
「食べる寸前に毒を入れられるのですから、調べるのは困難ですね。人に直接毒物を入れる事が出来ないのが幸いです。どうやら命中率も完全ではないようで、一度誤って撃たれていたようです」
「鑑定能力があり確定しているような言い方だが、毒物の鑑定に物品の鑑定など王族でも二つの鑑定が同時にできた例は無い。そなたの狂言であろう。都合の良い様に言っているだけ」
 ああ、そういえば王女達の能力はどちらか片方だったような。
「残念ですが僕の得た王族の能力は全鑑定です。確かに近年は能力に制限のある鑑定しか得ていないようですが、初期の王族にはあった能力ですよ。僕は物品も毒も人も全てに対しての鑑定能力があります」
 テトラルキアが僕の護衛に抑えられ、エルレドルアの騎士に引き渡され魔力を封じる枷を付けられた。
「さて、テトラルキア様。僕がシルクヴィスクレア様の本当の息子だと言う噂を流して貴方が動くのか見たのですが、真実を教えましょう。実は領地を周り横領の証拠をつかみました。毒殺の実行まで待たずに捕まえる事はできました。ですがそれでは過去の殺人に関する罪を裁けない。だから実際に犯行に及ぶところまで泳がすことにしました。さてこれで貴方には横領罪、そして王族を殺そうとして反逆罪を問えます。その証明として記憶を覗く魔道具の使用を要求します。シルクヴィスクレア様、領主とそして実行を」
「領主として命令します。テトラルキアを捕まえなさい。未来の国王となるクレストリアへの毒殺容疑、領内の横領と反逆罪、すべては記憶を覗きその他の言い分が正しいか調べます」
「くそ、なぜだ」
「テトラルキア様、最後にもう一つ教えてさしあげます」
「なんだ」
 彼に近づき、周りにはあまり聞こえない声で伝えた。
「僕がランスターエルリックだと言う噂は真実です」
「な」
「僕を誘拐したダーヴィッドは、本当の父であるポールジャンドゥムが雇った男です。貴方に殺されないようにね。これでようやく父の仇がうてた」
「はは、ポールがここで邪魔をするのか。しかし無駄だ。すでに事は始まっている」
 何の話をしているのだ。
「シルクヴィスクレア様、テトラルキアはまだ何か企んでいるみたいです。急いで記憶を覗いてください」
 シルクヴィスクレア様の指示で警戒レベルがあがり騎士たちが動き出した。僕らは男女それぞれ一つの部屋に集まり夜明けを待った。だが領内で反乱がおきたような様子は無かった。
 朝になり、食事の準備ができたと呼ばれシルクヴィスクレア様からの報告もかねて食堂へ集まった。
「昨夜、テトラルキアの記憶を読みました。今までのテトラルキアの悪事は判明しましたが、問題の大きさがこの領内だけでは無かった事がわかりました」
 シルクヴィスクレア様は一息入れて、まじめな顔で続きを話した。
「貴方を誘拐したダーヴィッドが所属していた裏組織はテトラルキアとも繋がっていたようです。あの組織は王を支える組織だったはずですが1枚岩では無かったようです。今の王に反対する組織とテトラルキアは手を結び、テトラルキアが私を廃し領主になる見返りに色々と手伝っていたようです。真なる王を排出する事が彼らの狙いです。ですが昨夜から領地間の緊急連絡装置は使えず、学園寮への転移もできません。実際に王都で何かが起きているのでしょうが、情報がありません」
「真なる王と言うことは神の書を狙っているのですね」
「そうです。ですが神の書を手に入れた王は数代さかのぼらなければならないほど昔の出来事。その入手方法は王家の中でも失われています。彼らはどうやってその方法を入手したのか」
「失われた? 学園の図書館に入手方法が書かれた本があるとエイレーネアテナ様が言ってましたけど。失われたのは書を読む古代語の知識だったのではないのですか?」
「エイレーネアテナ様がそのような事を言ったのですか?」
「はい、彼女は本好きの領主候補生でした。領主候補生には珍しくご自分が率先して図書館に通っていましたから、見つけたのは偶然でしょう。領主候補しか入れない部屋にその本があると言ってました。私に3年生になったら入るように言われています。そして5年生になった後で回る祠も教えて貰いました」
「祠。それも学園にあるのかしら」
「はい。学園内のある祠を周らないと神の書は取れません。神の書がある場所は図書館に裏にある祠です」
「学園の離宮に住まわれているおばあ様やヴィルヘルム王子が危険ですね。転移ができないからここから救出に向かっても数日かかるわ。どうしましょう」
「普段は禁止されているから使ってませんが、僕の転移は領地を越えれますよ。数人なら連れていけます。腕利きの騎士だけを連れて転移しましょうか?」
「それは貴方が危険すぎるわ」
「おかあさま、今はそういう事を言っている状況では無いですよ。どこの誰かわからない者達が神の書を取り礎を奪われると今の王族、それに連なる者達は処分の対象になるでしょう。僕もかあさんもアイリーンクリスタも王族に連なる一族ですよ」
「そうね。確かに。でも貴方は次代の王となるべき一番守らなければならない立場なのよ」
「時代の王ならなおさら、礎を守るべく動くべきです。シルクヴィスクレア様、申し訳ありませんが、騎士を10名貸してください。準備が整い次第出発します」
「わかったわ。騎士はいつでも動けるはずです。用意をさせましょう」
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