貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油

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第2章 上級貴族の息子

2.18 突発の結婚

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 夜に部屋で眠る準備。お風呂に入れてくれて出ると貴族の傍仕えは家に帰る。その後は平民の娘だけが部屋に残る。今日もお風呂をでて、傍仕えのおばちゃんが帰り支度を始めた頃に今日の当番の娘を何気に鑑定で見て状態変化に気がついた。
 ありゃりゃ。どうしよう。とりあえず専属のおばちゃん貴族であるフランチェスカ質問するか。
「貴族の常識として教えて欲しいのだけど、僕の世話をする平民の娘達だけど、もし妊娠してたらどうなるの?」
「え、突然何を聞いてくるかと思えば妊娠ですか。…あまり質問ならさない坊ちゃまが聞いてこられてのですから答えましょう。まず坊ちゃまが妊娠させられる年かどうかで変わって来ます。まず坊ちゃまとは魔力に違いがありすぎて平民が妊娠する事はありえません。妊娠したなら別の男が坊ちゃまの所有物に手を出した事になります。ここの娘達は坊ちゃまの為に集められた娘です。家元からのあずかっている立場。坊ちゃまの名誉を傷つけた行為になります。強引に迫ったなら死罪。娘と合意であっても坊ちゃまへの裏切り。相手の両親への対応などを坊ちゃまがせねばなりません。こちらで処罰はしませんが2人に良い未来は無いでしょう」
 うーん、今の話は聞こえたようだな娘が1人呆然としているよ。
「それは、今の僕でも一緒なの?」
「今の状況だからですよ。坊ちゃまの為に集めた娘とは言え、坊ちゃまの愛人になる為に集めたわけではありません。急に集めたの事もあり、それなりの富豪の家で教育を受けた中から集められているはずです。平民と言えどこちらの不注意で傷物にしたなら坊ちゃまやこの家の主人の責任を問われます。ですから普通は妊娠した娘をばれないように処分します。失敗をとがめて死罪にしたと言った方が都合がよいでしょう」
「うーん、そうなのか。でも僕は面倒でも殺してない事にはしたくないな」
「それはそれで結構ですが、平民に侮られてはいけませんよ。面倒と言うだけでは無いのです。坊ちゃまは貴族。それも領主一族です。この家で平民が勝手をしたと言うのは許されませんからね」
「そうか。わかった。答えてくれたありがとう」
 その後で、おばちゃんはそそくさと家に帰って行った。
「聞いてたでしょ」
「はい」
さっき呆然と立っていた娘だ。僕の世話をする5人娘の中ではかなり顔立ちの良い娘だ。
「えっと、アリエルだったかな。それで、どうなの。理由によっては何とかしようとおもうけど」
「なんとかとは」
「なるべく温和に済ませたい。君は妊娠している。新たな生命の誕生と言うめでたい事を原因として誰かが死ぬなどそういことにはさせたく無い」
「ぼっちゃま、私は妊娠しているのですか?」
「妊娠してる。僕が気がついたのは君の体の状態異常を見つけたからだよ」
「ぼっちゃま、わたくし。わたくしは子供を産みたいです。子供と一緒に暮らしたいです」
「おかあさまに相談して穏便に済ますことはできるかもしれない。戻ってから君達がどう扱われるかまでは補償できないけど。できる限りそうならないようにはしたいと思っている」
「平民である私にそこまでして頂けるのですか。どうして」
「それは捕まっていた時に平民と一緒に暮らしていたからさ。とにかく相手の男、それに無理やりなのか、合意なのか、いつからなのか正直に話して」
「はい」
 アリエルは複数の工房を所有する富豪の末娘。家を継ぐ長男もいて、姉達は家の工房を継ぐ次代の人達と結婚をしている。自分は政略的な結婚の必用はないから恋愛結婚をしても良いと言われていたらしい。貴族からの傍仕えの求人は最長でも5年。貴族の家で働いたと言うと穿くが尽くし、たまたま見初められて貴族の愛人になるのも良いと思って応募したらしい。
そして相手の男性は精麦機を作った時に来た職人だった。
 必ず迎えに来ると言ってくれたのに、春になっても来てくれないのでやっぱり嘘だったのかと諦めようとしていたところだそうだ。
「話を聞いておおよそはわかった。ただ、騙されないか。上流貴族の家に平民が迎えに来るってどう考えても無理でしょ」

 はっとした顔をしてこちらを見る。アリエルは見た目は大人びて見えるが成人したばかり。恋の駆け引きなどできない。まだまだ子供だった。とりあえずこれはバッカスを呼び出して確認が必要だ。
「相手の男は精麦機を完成させたという業績がある。本当に君を迎えに来るつもりがあるなら精麦機を完成させた褒美として君を与える事ができるかもしれない。でも僕は貴族の常識をきちんと把握しているわけじゃない。まだ子供だからね。とりあえずおかあさまに相談する。もしかしたらお祝いとしてかなり優遇した状態で出せるかもしれない。まずはバッカスを呼び出して相手の男の意思を確認する。もし相手の男に既に妻がいたら悪いけど男を見逃すことは出来ないと思うよ」
「はい、ご主人様にお任せします。浅羽かな行動でご迷惑をおかけしました。申し訳ありません」
「とりあえず、今屋は1人にすると思い余って自殺をされると困るから、今日は僕と一緒に寝るんだよ」
「はい」

 次の日、おかあさまに緊急で話をする時間を取ってもらう。
 朝食の後で急いで話しをした。
「そう、それでクレストリアは簡単には消すと言う事はしたくないのね」
「はい。せめて僕がもう少し大きければ受け入れることができるかも知れませんが、僕が育った環境も考慮して下さい。平民だからと簡単に殺すなど許容出来ません。僕自身、死からあがいてなんとか生き延びてきたのです。それに子供が産まれると言うめでたい事を原因として誰かが死ぬなど許せません」
「わかったわ。とりあえずバッカスを呼び出しましょう」
 バッカスは、昼には屋敷に来た。突然の呼び出して非常に戸惑っているのがわかる。もしかしたら職人から話が言っているのかもしれない。
「バッカス。クレストリアの世話係りをしている娘の件を相談したいのだけど、私が言う前にあなたから言う事がありますか。あるならならば穏便に済ませるためにも貴方の話を聞きましょう」
 バッカスは、着いた時から顔色が悪かったが、おかあさまからの娘の言葉をきいて思い当たる事があったのか、どっと汗が拭き出した。かなりあせっているようだ。
「は、はい。もしかしたら私が連れてきた職人の1人がこの屋敷にいる娘に恋をした迎えに行きたいなどとたわけた事を言ってました。もしかしてその件でしょうか」
「それはいつの事ですか」
「仕事が終わり平民街にに戻ってからすぐに聞いてました」
「なぜ今まで黙っていたのですか」
「貴族街で働く娘が欲しいなど、そのような事を言えると思っていませんでした。貴族街にいる平民は、平民街の平民とは身分が違います。貴族様の庇護下にいるのですから。あれが言い出した時も説教をしました。身分違いを理解していなかったようで、仕事バカで教育が不足していたのを後悔しました。ですが呼び出したあったと言う事は、こちらの娘からお願いでもあったのでしょうか」
「まあ、そうね。それに近いわ。気がついたのがクレストリアだったからまだ穏便に済ませようとしていますが、もう暫く放置していたら誰の目にもわかる状況になるところでした」
「気が付いたというのは体に変化があったと言う事ですか。まさか。もう手を出した後だったのか。それは非常にまずいですね」
「ええ、まずいのよ。わかるわね。そのままだと2人とも不幸にまっしぐらよ」
「大変申し訳ありません。あの、2人もですが、私もですか?」
「バッカス。まだ穏便に済ませたいと言ったでしょ。ですが死罪になってもおかしく無い状況であることは肝に命じなさい。平民のために腰を折るのは今回だけの対応です。クレストリアは記憶を失ったばかり。今の時期に精神的な負荷をかけたく無いの。よいわね」
「は、はい。それでどのような対応に」
「精麦機を完成させた褒美を送る事にします。褒美の1つはその娘よ。それだともう一人の職人が受け取る褒美がないでしょう。そちらには相応の物を貴方が負担なさい。貴方に対する罰はそれよ」
「は、恩赦ありがとうございます」
「では、褒美としての娘ですから、それなりに色をつけなければ行けません。貴族の事情で嫁に出すのです。まず娘に服を見繕う必用があります。それに輿入れ用の道具も。時間が経つと目立ちます。採寸はこちらでして手紙で送ります。既製品で集めなさい。そして1週間後に全て用意なさい。荷物は貴族街の門の前に馬車を並べて待機させなさい。クレストリアの我が侭なのだから費用は貴方がみなさい」
「はい。僕が負担します」
「バッカス。これは本当に特例なのですよ。次は無いわ。クレストリアも甘い態度を取るのは一度だけです。次は許しませんよ。平民に侮られる態度は本来許されないのですからね。これで貴方とバッカスの罰は良いでしょう。それで手を出した男の罰はどうしますか」
「はい。おかあさま。仕事漬けを罰にしたいと思います。幸いな事に領主様から大量の仕事が出ているはずです。納期を可能な限り短くしてはどうでしょうか」
「本当は体に罰の刺青を入れたり、仕事に支障が出無い程度に傷をつけるのが軽いと言われる罰なのよ。まあ今回は良いでしょう。バッカス。相応となる程度に働かせなさい。仕事の監視も貴方に任せます。どのみち沢山の仕事をしないと子供の世話もできないでしょう。丁度良いわね」
「はい。死なない程度に厳しくします。私にお任せ下さい」
 結果をアリエルに伝えると喜んではいたが、沢山のお金を使わせてしまったと申し訳なさそうに言ってきたが、誰も不幸にならないのだから良かったのだと納得させた。
 それから1週間後にバッカスが衣装を持ってやって来た。アリエルを着換えさせて家から出て行く。僕とおかあさまと執事長に護衛が付いて貴族街の門まで一緒に行く。アリエルは平民街に待機させていた馬車に乗り換える。後ろに荷物を満載した馬車が数台用意されていた。平民のそこそこの富豪の娘が輿入れするのと同じぐらいの物が用意されているそうだ。道には花びらが撒かれそこをあるいて馬車を移動した。馬車が出発すると門が閉じる。そのまま別れて、僕らは家に向かって馬車で帰る。
 この屋敷にいる平民達にはアリエルが妊娠していたことは伏せられている。お腹もわかるほど膨らんでいないので、恐らくだれも知らない。ただ感ずいている者達は結構いるだろう。
 後日、改めてこの屋敷に勤める平民達全員に厳重に注意が入った。まず主に黙って勝手に関係は持ってはいけない。結婚したい相手が出来たらまず主や執事に相談する。主を困らせる事をしてはいけないと注意が徹底された。
 アイリーンとお茶会をした時に「お兄さまは上級貴族としては失格ですね。でも私はそういお兄さまは好きですよ」と言ってくれた。
 どうやらアイリーンのところには全てが伝わっているようだ。女性の情報収集力は侮りが足し。とりあえず嫌われた行動ではなかったと言う事のようなので良かった良かった。
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