貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油

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1章 囚われた生活

1.14 オルトヴィアーの事情1

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 妻の母は王族。王女だった。王女は大領地エルレドルアに嫁ぎ双子の子供を生んだ。妻とその姉だ。双子であったゆえに全くの同じ姿だが、姉の方が属性が多く魔力が豊富だったので学園に来る前に彼女が領主となる事が決まっていた。
 私は彼女と学園で知り合った。二つ年下のとても可愛らしい姿だった。私は妻と学園で知り合い恋仲となり彼女が嫁いで来た。
 そして結婚し、産まれた長男がクレストリアだった。
 クレストリアが産まれた時期に妻の姉も出産していた。双子とは出産時期まで似るのかと感心したことを覚えている。
 クレストリアは生まれた直後から魔力が多く、周りは喜んでいた。だが魔力に反比例して幼い頃から体が弱かった。
 妻の姉の子供は1歳の時に誘拐された。
 領主の城から子供が誘拐された。とても厳しい監視の網を通り抜け子供を誘拐するなど外部からの犯行は無理だ。当然だが内部が疑われた。
 その後、子供はすぐに見つかった。妻を経由して事情が知らされたのは子供が見つかってからの事だ。
 ただ、妻に来た手紙は妻にしかわからない秘密の魔法が使われていて詳細を知らせる無い用が付随していたらしい。それによると戻ってきた子供は似ているが自分の子供では無いらしい。
 なぜなら、左腕にあるバラの痣が書いたような痣になっていたからだ。
 実は、この痣は王家の血筋だけに現れる痣だ。いつもあるわけではない。自分の魔力が充満している時にしか現れない。少しでも魔力を減らすと消えてしまう。消えた場合は痣の部分に魔力を流すと現れる。不思議な痣だ。
 そしてこの痣は妻にはないがクレストリアにあった。
 妻の姉の子の痣が妙に浮き出ているので気になり魔石で魔力を減らして確認したところ、痣が消えなかったそうだ。
 だが妻の姉は子供が偽者であっても気づかぬふりをする事にしたそうだ。彼女の領地は、夫の家で権力争いが起きていたらしい。その当時の夫が革新派の兄。対立していたのは古くからの利権を壊したくない保守派の弟。
 この頃に兄が行った改革がひとつ失敗した。それも実際には保守派の妨害によって起きたのだが、どうやら防ぎ様が無いほどに追い詰められた状況になっているそうだ。

 結局、子供が誘拐された数年後に保守派によって革新派の兄は毒殺された。
 偽者の子供も6歳で亡くなった。ちょうどクレストリアが体調を崩した頃に葬式があり私が出向いた。
 その時に内緒の話として事情も聞かされた。現在、姉は保守派の弟と再婚して弟との間に妹と弟が生まれていた。恐らく邪魔になった長男が殺されたのだろう。
 そんな事情があったそうだ。
 その後、家の長男のクレストリアは体調が戻らずそのまま亡くなった。今から2ヶ月前の事だ。死因は魔力の増加に体が耐え切れなかったからだそうだ。最近の王家や領主一族でよくある死亡理由だ。

 1ヶ月前、ずいぶん昔に放棄された土地の魔力が増えてきた土地に魔獣が集まりだしていると報告があった。急いで調査隊が作られ2週間前に調査に向かった。
 調査隊はすぐに戻ってきて報告があった。放棄したはずの貴族の家が立派な建て住まいとなり結界も復活している。魔力に満ちて畑もあり、僅かばかりだが人が生活している。そういう報告だった。
 最初は貴族の脱税疑惑で2度目の調査が行われた。内偵として出した兵士から暗殺を行っているという噂のダーヴィッドの根城だと報告があった。
 戦闘が可能なものもいる。
 ちょうどこの時期は危険な魔獣が増え、騎士団は討伐で忙しかった。討伐が終わるまで待ってもよかったがダーヴィッドは全領地で手配されている1級犯罪人。すぐに捕まえる必要があった。
 そこで副領主である私が領主直属の護衛騎士を率いて討伐に行く事になった。だが沢山の平民がいるらしく、逮捕者を管理するにも人数が足りないので人数あわせで新人騎士を預かり討伐に向かった。
 討伐は予想通りあっという間に終えた。魔力を使える敵がダーヴィッドとその配下1名だけ。他は魔力の無い平民。魔力のある貴族とは勝負にならない。
 ダーヴィッドをできれば生きた状態で確保しようとしたが、魔法で攻撃をして来たので、こちらからも応戦したら魔力を込めすぎてしまい一発で消し飛んでしまった。少し過剰すぎたようだ。
 討伐も終り、平民を調べ罪人を仕分けする時に隊員が慌てて私を呼びに来た。
 この隊員はなぜか私の息子が捕らえられていたと言うのだ。

 実は7歳の聖礼式を迎える前に亡くなった子供の葬式は身内でしか行わない。それまでに付き合いのあった親戚に知らせるのも99日経ってからだ。
 息子が死んでから2ヶ月。つまり息子が死んだことを知るものは殆どいない。

 死んだと知らない者が似ている子供を見かけて私の子供だと言っている。恐らくそういうことなのだろう。

 すぐに現場に駆けつけてわかった。指示を出した隊員は自宅に良く来る隊員だった。おそらく元気な頃の息子を見ていたのだろう。
 そして捕らえられていた子供を見ておどろいた。顔色は悪いが、死んだ息子にそっくりだ。妻に良く似たその容姿。間違いなく死んだ息子だった。
 そして左腕をめくり、腕に魔力を流すと息子にあったバラの痣が浮き出た。うちの子供は双子だったのかと疑うぐらいに似ている。

 この子は妻システィナグラスリンクの姉シルクヴィスクレアの子供だ。直感的にそう思った。
 いまさらかつて誘拐された息子が見つかったと連れて行っても、兄の子供は邪魔以外の何者でもないはずだ。すぐに殺されるに決まっている。そもそも誘拐された子供の替わりとして育てられていた子供も死んだのだから帰す先など無いのだ。
 それよりは家の子供として育てた方が良いのではないかと考えた。妻は子供が亡くなってからふさぎ込む日が多くなった。未だにクレストリアが死んだと信じられず、夜中にさまようこともある。
 妹と弟もいるのだからしっかりとする様に言っているが心の病はそう簡単に治せるものではない。妻の前に連れて行くとどうなるのだろうか。余計に気がふれてしまう可能性もある。その場合はその時に考えれば良いと思いを決める。
 ただ、私の兄は領主。残念ながら子供がいない。私の子供を領主候補にする予定だった。この子を私の子供にすると言う事は領主候補となる。実の母が領主なのだからこの子が領主候補になることは血筋的には問題は無い。ただクルスヴィスト領の跡継ぎには出来ないだろう。兄に相談して、この子を我が子として受け入れ、領主候補とするが跡継ぎにはしないと約束する必要があるだろう。そもそも兄に子供が出来れば問題も無いのだ。
 とりあえず頭の整理ができた。
 今のうちに確認すべきことがいろいろある。城に連絡し一緒にいたウルレアール・シルドリックの情報も必要だ。連絡を急がねば。
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