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5.8 子爵家の息子として生まれる

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 僕の魔法特訓はかなり順調に進んでいる。
 戦略級の攻撃魔法や防御魔法は、父上とほぼ同等、系統によっては僕の方が効果が高いぐらいだ。総魔力量も僕の方が多く、魔法の訓練はほぼ終わりだ。現状、戦略級以上の天災級と呼ばれる魔法があるらしいが、それはこの国には存在しないので勉強できない。
 占領された土地からの流出者は去年の秋から冬にかけて大量に発生してしまった。あらかじめ受け入れ態勢は取っていたが、想定以上の人の増加で、食料を持ってくる人がもう少し少なければ足りなくなるところだった。

 これほどの人が逃げ出し、逃げ先がこことわかると、問題が起きそうな気がして困っている。だが逃げてくる者達を受け入れないわけにはいかない。

 今年が問題だ。入手した情報では不作では無い。昨年よりは実りが多く、例年通りだと。
今年は人の脱出は少ないだろうと考えている。


 秋になった。 秋の収穫祭も無事に終わり、こちらの農作物は良く取れた。想定よりも多い収穫に喜んでいた。それに鉄鉱石も順調に鉄にでき、王都へも多くの鉄を送り出せた。余剰もあるので、農具、生活用品を鉄器で作り改善を進めている。
 
 例年通りならばもうじき雪が降り始める。長い冬が始まるのだ。

 戦略の常識から考えるとこの時期に戦争は無い。
 攻めるのに数日だとしても、雪で帰れなくなる。そうすると食料が足りない。仮設のテントで冬を越すことなどできない。だから戦争は無い。
 そんな思い込みをしていた中で、皆は冬越しの準備に勤しんでいた。

 伝令が駆け抜ける。
 しまった、油断してしまった。敵に裏をかかれた。

 どういうつもりか解らないが、1万もの大軍がこちらに向かっている。平時のあちらの戦力が数千と聞いていたが、1万の軍隊をいつ用意したのか。
 こちらの兵力は兵士が500人、それに平民の動員数が1千人程度。
 相手側がいつも2千人程度の兵力を残していたので、攻める事は不可能だが、防衛だけならギリギリだった。
 それが5千となると防衛すら不可能だ。

「どうやら、あれらは我々貴族や兵士を皆殺しにしてここの建物や食料を当てにしているのだろう。そうでなければ冬を越す手段がない。1万の行軍なら到達まで時間がかかるだろう。この街の収容限界がそもそも1万人だ。
相手側はその情報を元に移動していると思われる。
そうなると、戦いを行わない労働の担い手達も殺される可能性がある。だから街全員、皆で退避しよう。街を明け渡すしかない」
 伝令を出し、荷車に荷物を詰め込み急いで脱出の用意をする。
 街の維持に必要な最小の人を残して、僕らは街を出た。

 貴族、および貴族に準じる者達が家族を含めて1000人。平民の住民が9000人
 蓄えた食料を全て持ち出すことはできない。水は魔法で賄うことにして、持てるだけの食料を持って休憩もそこそこに移動した。
敵が、先行部隊出していれば追い付かれる。あちらの兵力は1万だ。兵力を5つに分けてもこちらの兵士よりも多い。追いかけるだけの余裕のある兵力があるのだ。

 僕らは最後尾で移動し、全員を励ましながら隣の領地を目指した。
 隣の領地までは最短で数日。ただあまりに大人数なので、通常の倍ほどの時間がかかる。
 出発から4日。もう少しで隣の領地へと入れるはずだった。
 だが、その先の丘に広がるおよそ2千の兵士は全て敵兵だった。

 経路違いで前に出られた。戻ってもダメ、進む事もできず。
 まずい、非常にまずい状況だ。
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