旧転生者はめぐりあう

佐藤醤油

文字の大きさ
上 下
12 / 182
1部 誕生編

戸籍管理

しおりを挟む
 文官をまとめるのは宰相を勤めるメルミーナ公爵家を中心とした人々だ。全ての貴族が文官の試験を受けることが出来る。平民でも頭の良い子は受けれるのだ。
ハイルデン公爵家の派閥は武官。
アレクサンドロ公爵家の派閥は魔道士。
そしてメルミーナ公爵家の派閥が文官。
これが一般的なコースだ。ただ、最近は血の混じりも多く、割と自由に職業を決めている。

 さて、ここは、王宮内の戸籍管理部署。貴族は、全て戸籍の登録をしている。戸籍には、個人を識別するために、最低限の情報として髪の色と目の色を登録している。
そして、先日提出された戸籍を見て、担当のライラは困惑していた。

 なにに困ったかといえば、ジルベール・クロスロードの戸籍登録だ。ハイルデン公爵家から提出されたのは、金髪。右が金、左が青。アレクサンドロ公爵からは、金髪。右が青、左が金。これが、別人ならば良かったが、どう見ても登録上は同一人物。しかもこれが、普通の貴族からではなく、最高位の公爵家から出されている。それが意味するところは、両家が後見人として立候補していると言うこと。
 通常、後見人は、1人だ。承認と共に、後見人としての登録もするのだ。

 こまったライラは、宰相であるメルミーナ公爵に相談した。
 戸籍登録の責任者は、侯爵の爵位持ちの男性だったが、ちょうど1ヶ月前に引退していた。暫定で中間管理職の伯爵がいるが案件に公爵家が関わっているので中間を飛ばし最高責任者のメルミーナ公爵に相談に行ったのだ。メルミーナ公爵は、宰相なので大変忙しい。今回の案件も15分の相談が1ヶ月待ちだった。 金眼が関わる案件として重要度大で申請してようやく相談が出来た。

 最近の世代は急激に継承可能な男児の金眼が減っている。現在の王の子では、ルカ王子、マクシミリアン王子にと立て続けに2人。更に生まれたばかりの王子と王家だけは安泰であるが。

 ハイルデン公爵家も、アレクサンドロ公爵家も直系に金眼の子がいるが、親戚の金眼はかなり減った。最近では、数年ぶりにハイルデン公爵家の親戚にオズワルト侯爵家に男子が生まれたばかりだ。王家と、公爵家を残し男女共に金眼の子供が急速に減っている。

 貴族全体で10歳までの金眼は数名しかいない。

 先ほどの2公爵家の系統は、公爵家の領主は全て金眼が主となっている。国を支える2家にとっては、建国より続く金眼が主となる必須用件なのだ。今までも養子を取り続け、2公爵と16侯爵家が金眼を持つ者を優先的に継承させていた。それだけ、金眼の持ち主は希少で重要案件であった。なぜなら今まで金眼持ちは漏れなく武もしくは魔術のどちらかに秀でた才能を持っていたからだ。

 唯一メルミーナ公爵系だけが文官としての才能が優先されていた。というわけで、ライラは自分の権限を越えたこの面倒くさい案件をメルミーナ公爵に放り投げた。

 まさか、この後すぐに転勤になるとも知らずに。ライラの平凡な日常がもうすぐ終わりを告げようとしていた。時が動き出したその瞬間だったが、ライラは単に面倒くさくて何も気がついていなかった。

 この案件をメルミーナ公爵に見せると、すぐさま、自分以外が見ていないか聞かれた。もちろん見せてはいない。仕事ができないライラと同僚からは言われているが仕事が丁寧なだけだ。メルミーナは、少し考えたのち幾つかの手紙を書き、部下への資料集めの指示を出した。そして資料が揃う時期を考慮しメルミーナ様自身が確認に行く予定を立てられた。
 辺境の地への現地確認には転移門が使われる。転移門の利用は高位の貴族の申請が必要だ。申請さえあればライラ単独でも使えるが今回はメルミーナ自ら確認に行く。もちろん担当者であるライラも行く。現地での移動に関して、馬車の手配や事前に面会する文官への連絡もライラが準備をした。ただ、今回やたらに丁寧な検査になっている理由までは知らない。
 現地に行き、目を確認すれば終わりなだけではないか。どちらかが間違っているのだろう。ライラの頭の中には両方が金眼であると言う前提は想定出来なかった。疑問には思いつつも言われた仕事はキチンとこなした。

 そしてようやく準備が完了し、移動日となった。前日までクロスロード家には連絡を入れていない。メルミーナの配下から、前日に急に調査に向かうと書かれた手紙を届けさせる。それにはリリアーナに朝から家で待つように書いてあった。

 そして移動日。ライラも一緒について行く。そして領地に到着。メルミーナはまず配下に会いに役所へ向かう。情報を集め口止めを徹底する。中には文官全体への指示が可能な役職の人もいた。
 宰相とはいえ、普通は地方の領地にいる文官への口出しは本来ご法度。というか普通は出来ない。しかし、このクロスロード家はやたらにメルミーナの配下が多い。しかも重要職に何人も。それだけメルミーナが目をかけていた領地である証拠。

 メルミーナは、一通りの必要な情報を入手し終え、ようやくジルベールのいる領主館へ移動を開始した。

 この時点でも勘の鈍いライラは、ノンビリとしていた。メルミーナについてジルベールの元に行き、両目が金眼のその少年の存在を知るまで彼の生活は平和に満ちていた。根はまじめで、仕事の重要度のつけ方仕事を進める速度もライラは特に問題は無い。だがこの感の鈍さ。一度考慮から漏れてしまうと、後で想定するケースを増やそうともしない。これがライラの欠点。

 だが、ライラはリリアーナの下につき、リリアーナの仕事を直接見ることによって、変わる。
彼は、10年後に立派な文官に生まれ代わり、メルミーナの元へと戻るのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!

菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...