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第三章
新しい仲間
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当初の目的であった研究室での調べ物も終わり、またシンシアの誘いのおかげでマヒアドでも多くの魔物を封印し、星石を収集することができた。成果は上々と言えよう。一行は昼のうちにマヒアドを発つことにした。
「それで実のところ、その日誌のどれほどを読み解けているのだ?カミーユ」
一旦集会所へ荷物を取りにと、所長へ挨拶をしに戻る道すがら、エリーは尋ねた。それは、優人としても気になっているところだった。
「それが随分意地の悪い書き方でな。さっき言っていた『この世界はひとりの魔法使いの手によって創造された』っつーことと、『星石の正体は魔力が凝固されたものであり、それ以外の何物でもない』っつーことくらいか。それ以外のことは、どうにも曖昧だ」
「それ以外の何物でもない…?」
心底面倒だという風に言うカミーユの言葉に、エリーと優人は揃って首を傾げる。
「それについては、『その物の力はそれ以外になく、何らかの意図や目的があって生み出されているものではない』っていう補足もわかってる。多分だが、星石自体に何か意味があったり、それが生まれることに目的があるわけではなくて、ただ魔物を封印したらそれになる、っていう仕組みになってるだけのことだ、っつー話だな。水を浴びれば濡れる、風が吹けば木が揺れる、それくらいシンプルで、誰かの意思は関係のないものだってことだよ」
なるほど、よくわからん、とエリーは言う。優人も同じ気持ちだった。言わんとしていることはわかるが、それをわざわざ暗号にして書き記す意図が読めない。
「……よくわかってねえ顔してるな…まあ、いいか。当分俺はコレと睨めっこだ。長い付き合いになりそうだな」
「アレクは、ブラッドリーに会えと言っていたな」
エリーは歩きながら器用に地図を広げて見せる。マヒアドから遥か北西の山奥…とつぶやきながら、地図を指でなぞる。やがてエリーの指が止まったのはこの大陸から離れ海を越えた先の、鉤型の島の北端だった。そこはこの大陸とは違いあまり地図も詳しく書き込まれておらず、ただ山々が連なっていることを示している。
「おそらくはこのあたりのことだろう。しかし、まだまだ遠い話だな……」
「エリー、ブラッドリーさんって?」
「俺も名前しか知らねえな」
ブラッドリーなあ、とエリーはどこともつかない宙を見つめた。その表情は少し困ったような感じだ。
「わたしが生まれたばかりの頃、よく世話をしてくれた人でな。がっしりとしていて背の高い、熊のような男だが、優しかった。ブラッドリーもまた、星の一族のひとりなんだが……まあ、少し変わり者だったらしくてな。もう二十年以上も音信不通と聞いている。城から星石の転送はしているらしいが……何故かブラッドリーのことになると皆口を閉ざすのだ。だから、居場所すらも確かなことは知らなくて……」
生きておったのだな、と小さく呟くエリーの声と表情には、どこか嬉しそうな、懐かしそうな色が滲んでいた。
「いい人だったんだね」
「少なくとも、わたしにとってはな。育ての親というか、歳の離れた兄のような存在だった。だが、何故ブラッドリーが居なくなったのかも、何故皆がブラッドリーのことには触れたがらないのかも、わたしはわからないのだ……けれど、そうだな。会えるのやもしれぬと思うと……うん、嬉しいな」
「絶対、会いに行こう」
「ああ、改めて長い旅路になるが、よろしく頼む!」
兄のような存在というのは、優人には経験がなくよくわからないものだが、大切そうにその思い出を語るエリーを見れば、会わせてあげたいなという気持ちになるというものだ。
この世界の地図を見るたび、いったいどれほどの時間を必要とするのだろう、とふと思う。それでも辞めたいと思えないのは、優人自身も不思議な感覚であった。
「もう発つのか、はやいなあ」
もう少しゆっくりして行けば良いではないか、と寂しそうに言ったのは所長だった。世話になった挨拶をしに行けば、そこにはシンシアも一緒に居て、また来た日と同じ談話室のような部屋に通された。
「そういう訳にもいかぬ。ずっと居たいほど良い町であることは確かだがな」
エリーがそう言うと、所長もシンシアもうんうんと頷いた。マヒアドは大変な町ではあるが、活気があって人々は皆前を向いていて、良いところだった。良い出会いもたくさんあった。確かに、離れがたいとも思える。
「研究室のことも、取り計らってくれてありがとうな、助かった」
「収穫はあったのかね?」
「ああ、思った以上にな……所長さんは、この世界の始まりの魔法使いのことは、知ってるのかい」
カミーユが尋ねると、所長はふむ、と腕を組んで記憶を遡るような仕草を見せる。
「もちろん、聞いたことはあるが。そして、何やらアレクくんやマリオンくんがそういう研究をしているらしいってこともね」
「マリオン……」
「でもホラ、私は立場上、研究室にはあまり干渉しちゃいけないから……いや違うな、適度に見守らなきゃいけないんだけど、“その中身を知ると止めなきゃいけなくなる”……意味はわかるかね?」
所長はそれまでの緩んだ雰囲気を少しだけ引き締めて、そう言った。それは、研究室では何か知られてはまずいことをしている、ということだろうか。
「……やっぱりそうか」
「君にとっては、喜ばしいことではないかもしれないね」
「いや、それだけわかれば十分だ、ありがとよ」
所長とカミーユの二人が何を話しているのか、他の面々はさっぱりわかっていなさそうだったし、事実わかってはいなかった。これ以上は良くない、と言い、カミーユは口を閉ざす。
「……ところで、お願いがあるのだがね、エリーくん、カミーユくん、そして救世主殿」
「?なんだろうか」
しばしこれからの予定を話したところで、所長が姿勢を正し、改まった態度で話を切り出す。
「シンシアを、旅の供に加えてやってくれないか」
「は?」
「え!?」
驚いたのは優人たち三人だけではない、誰より大きな声をあげて驚いたのは当の本人、シンシアであった。
「何を仰いますの所長!?私は隊長ですのよ!隊はどうなさるのですか!」
声を荒げて所長を問いただすシンシアに対して、所長はごく冷静に右手を上げ、彼女を諌めた。
「お前が率いた隊は本当によく育った。それに倣って、他の隊員たちも。それは間違いなくお前の功績だ。お前の力で皆は奮い立ち、その技も心も強くしていった」
「え、ええ、皆よくついてきてくれていると思いますわ」
「次は、お前が育つ番だよ、シンシア」
大事に一言ずつ紡がれたその言葉に、シンシアは目を丸くする。私が…、と小さく零したと思えば、それまでの慌てふためいた空気は鎮まり、視線を自らの手元に落とし、考え込んでいるようだった。
「救世主殿の旅路は、決して易しいものではないだろう。全て承知の上だ。頼まれてはくれないか」
「え……そうですね、はい。シンシアが居てくれたら、とても心強いなと思います」
三人は、既にシンシアの強さを知っている。二日間共に討伐作戦に出て、その力をすぐそばで見ていた優人はなおさらだ。
「まあ、俺らも三人じゃ心許ないとは思ってはいたからな。マヒアド騎士団の部隊長サマなんて、こっちとしちゃ願ったり叶ったりだ」
「うむ、わたしも異存はない!見聞を広めるのも悪くはなかろう」
「みなさま……」
優人たちが口々に歓迎の意を述べると、シンシアは今まで見たことのないような、泣き出してしまいそうな表情になる。いつも自信に満ち溢れたシンシアからは想像がつきにくいものだから、優人は少し動揺した。
「……私は、このマヒアドの町が好きです。この騎士団が好き。だから、ずっとここで生きていくのだと思っておりました」
シンシアは膝の上で握った手にぎゅっと力を込め直す。そして顔をあげて、まるで花が咲いたみたいにふわりと微笑んだ。
「けれど今は、みなさまが私の成長を望んで、応援して、必要としてくださっていることが、何より嬉しいんですの。このシンシア、不束者ではございますが、ぜひ皆様にお力添えしたいと思いますわ」
「シンシア…!うん、これからよろしく」
前を向いて笑うシンシアは綺麗だと、優人は思った。敵に立ち向かう姿も、変化を恐れない強さも、眩しいばかりだった。
不安を感じていないわけではないだろう。それでも、環境を変え自分の力を試し成長することを選んだシンシアの横顔を、誇らしそうな顔で所長も見つめていた。
「……ところで、お前転移魔法は使えるのか?」
シンシアが旅に加わる話がひと段落したところで、カミーユが身を乗り出してシンシアに尋ねる。
「え、ええ、人並みには……転送機はなくとも陣を繋げられれば、それなりに大きなものでも運べますわ」
「よっしゃ!」
「おお、それはいい」
急に食い気味とも言えるほどの勢いで迫られたシンシアは戸惑っていたが、その答えを聞いたカミーユとエリー、特にカミーユはこれまでにないほどに嬉しそうだった。
「転移魔法?」
「ああ、前に転送機を使った星石の転送を見せただろう。あれはあのカゴ自体に転移魔法の力と陣を組み込んでいるものでな、特に魔力や知識がなくとも使えるものではあるのだが……いかんせん、組み込まれた陣はその場所と結び付けられているものでな。あの場所からは移動させられず、持ち運ぶことはできないんだ」
「転移魔法が使えりゃ、あのカゴがない場所でも物を送ったり受け取ったりできるってこった」
「ああ、そういった意味でも君たちの旅は楽になるだろう、星石も町から町へ運ばずともよいし、騎士団からの支給として食料も送ろう」
なるほど、カミーユが喜ぶはずだ、と優人は合点がいった。カミーユは常々、携帯食糧が美味しくないし飽きるということをボヤいていたのだ。
「よっしゃ~、頼めばあとは待ってるだけで食いモンが届くようになるんだぜ、便利なモンだよな~魔法使いってのはよぉ」
「そんな、人の魔法を出前みたいに……」
「ちょっと、私が仲間になることよりも食べ物に喜んでませんこと!?」
怒るシンシアに、みんなが笑った。
何はともあれ、新しい仲間を得て、マヒアドを発つことになった。賑やかな旅になりそうだ、と思いは同じであった。
「それで実のところ、その日誌のどれほどを読み解けているのだ?カミーユ」
一旦集会所へ荷物を取りにと、所長へ挨拶をしに戻る道すがら、エリーは尋ねた。それは、優人としても気になっているところだった。
「それが随分意地の悪い書き方でな。さっき言っていた『この世界はひとりの魔法使いの手によって創造された』っつーことと、『星石の正体は魔力が凝固されたものであり、それ以外の何物でもない』っつーことくらいか。それ以外のことは、どうにも曖昧だ」
「それ以外の何物でもない…?」
心底面倒だという風に言うカミーユの言葉に、エリーと優人は揃って首を傾げる。
「それについては、『その物の力はそれ以外になく、何らかの意図や目的があって生み出されているものではない』っていう補足もわかってる。多分だが、星石自体に何か意味があったり、それが生まれることに目的があるわけではなくて、ただ魔物を封印したらそれになる、っていう仕組みになってるだけのことだ、っつー話だな。水を浴びれば濡れる、風が吹けば木が揺れる、それくらいシンプルで、誰かの意思は関係のないものだってことだよ」
なるほど、よくわからん、とエリーは言う。優人も同じ気持ちだった。言わんとしていることはわかるが、それをわざわざ暗号にして書き記す意図が読めない。
「……よくわかってねえ顔してるな…まあ、いいか。当分俺はコレと睨めっこだ。長い付き合いになりそうだな」
「アレクは、ブラッドリーに会えと言っていたな」
エリーは歩きながら器用に地図を広げて見せる。マヒアドから遥か北西の山奥…とつぶやきながら、地図を指でなぞる。やがてエリーの指が止まったのはこの大陸から離れ海を越えた先の、鉤型の島の北端だった。そこはこの大陸とは違いあまり地図も詳しく書き込まれておらず、ただ山々が連なっていることを示している。
「おそらくはこのあたりのことだろう。しかし、まだまだ遠い話だな……」
「エリー、ブラッドリーさんって?」
「俺も名前しか知らねえな」
ブラッドリーなあ、とエリーはどこともつかない宙を見つめた。その表情は少し困ったような感じだ。
「わたしが生まれたばかりの頃、よく世話をしてくれた人でな。がっしりとしていて背の高い、熊のような男だが、優しかった。ブラッドリーもまた、星の一族のひとりなんだが……まあ、少し変わり者だったらしくてな。もう二十年以上も音信不通と聞いている。城から星石の転送はしているらしいが……何故かブラッドリーのことになると皆口を閉ざすのだ。だから、居場所すらも確かなことは知らなくて……」
生きておったのだな、と小さく呟くエリーの声と表情には、どこか嬉しそうな、懐かしそうな色が滲んでいた。
「いい人だったんだね」
「少なくとも、わたしにとってはな。育ての親というか、歳の離れた兄のような存在だった。だが、何故ブラッドリーが居なくなったのかも、何故皆がブラッドリーのことには触れたがらないのかも、わたしはわからないのだ……けれど、そうだな。会えるのやもしれぬと思うと……うん、嬉しいな」
「絶対、会いに行こう」
「ああ、改めて長い旅路になるが、よろしく頼む!」
兄のような存在というのは、優人には経験がなくよくわからないものだが、大切そうにその思い出を語るエリーを見れば、会わせてあげたいなという気持ちになるというものだ。
この世界の地図を見るたび、いったいどれほどの時間を必要とするのだろう、とふと思う。それでも辞めたいと思えないのは、優人自身も不思議な感覚であった。
「もう発つのか、はやいなあ」
もう少しゆっくりして行けば良いではないか、と寂しそうに言ったのは所長だった。世話になった挨拶をしに行けば、そこにはシンシアも一緒に居て、また来た日と同じ談話室のような部屋に通された。
「そういう訳にもいかぬ。ずっと居たいほど良い町であることは確かだがな」
エリーがそう言うと、所長もシンシアもうんうんと頷いた。マヒアドは大変な町ではあるが、活気があって人々は皆前を向いていて、良いところだった。良い出会いもたくさんあった。確かに、離れがたいとも思える。
「研究室のことも、取り計らってくれてありがとうな、助かった」
「収穫はあったのかね?」
「ああ、思った以上にな……所長さんは、この世界の始まりの魔法使いのことは、知ってるのかい」
カミーユが尋ねると、所長はふむ、と腕を組んで記憶を遡るような仕草を見せる。
「もちろん、聞いたことはあるが。そして、何やらアレクくんやマリオンくんがそういう研究をしているらしいってこともね」
「マリオン……」
「でもホラ、私は立場上、研究室にはあまり干渉しちゃいけないから……いや違うな、適度に見守らなきゃいけないんだけど、“その中身を知ると止めなきゃいけなくなる”……意味はわかるかね?」
所長はそれまでの緩んだ雰囲気を少しだけ引き締めて、そう言った。それは、研究室では何か知られてはまずいことをしている、ということだろうか。
「……やっぱりそうか」
「君にとっては、喜ばしいことではないかもしれないね」
「いや、それだけわかれば十分だ、ありがとよ」
所長とカミーユの二人が何を話しているのか、他の面々はさっぱりわかっていなさそうだったし、事実わかってはいなかった。これ以上は良くない、と言い、カミーユは口を閉ざす。
「……ところで、お願いがあるのだがね、エリーくん、カミーユくん、そして救世主殿」
「?なんだろうか」
しばしこれからの予定を話したところで、所長が姿勢を正し、改まった態度で話を切り出す。
「シンシアを、旅の供に加えてやってくれないか」
「は?」
「え!?」
驚いたのは優人たち三人だけではない、誰より大きな声をあげて驚いたのは当の本人、シンシアであった。
「何を仰いますの所長!?私は隊長ですのよ!隊はどうなさるのですか!」
声を荒げて所長を問いただすシンシアに対して、所長はごく冷静に右手を上げ、彼女を諌めた。
「お前が率いた隊は本当によく育った。それに倣って、他の隊員たちも。それは間違いなくお前の功績だ。お前の力で皆は奮い立ち、その技も心も強くしていった」
「え、ええ、皆よくついてきてくれていると思いますわ」
「次は、お前が育つ番だよ、シンシア」
大事に一言ずつ紡がれたその言葉に、シンシアは目を丸くする。私が…、と小さく零したと思えば、それまでの慌てふためいた空気は鎮まり、視線を自らの手元に落とし、考え込んでいるようだった。
「救世主殿の旅路は、決して易しいものではないだろう。全て承知の上だ。頼まれてはくれないか」
「え……そうですね、はい。シンシアが居てくれたら、とても心強いなと思います」
三人は、既にシンシアの強さを知っている。二日間共に討伐作戦に出て、その力をすぐそばで見ていた優人はなおさらだ。
「まあ、俺らも三人じゃ心許ないとは思ってはいたからな。マヒアド騎士団の部隊長サマなんて、こっちとしちゃ願ったり叶ったりだ」
「うむ、わたしも異存はない!見聞を広めるのも悪くはなかろう」
「みなさま……」
優人たちが口々に歓迎の意を述べると、シンシアは今まで見たことのないような、泣き出してしまいそうな表情になる。いつも自信に満ち溢れたシンシアからは想像がつきにくいものだから、優人は少し動揺した。
「……私は、このマヒアドの町が好きです。この騎士団が好き。だから、ずっとここで生きていくのだと思っておりました」
シンシアは膝の上で握った手にぎゅっと力を込め直す。そして顔をあげて、まるで花が咲いたみたいにふわりと微笑んだ。
「けれど今は、みなさまが私の成長を望んで、応援して、必要としてくださっていることが、何より嬉しいんですの。このシンシア、不束者ではございますが、ぜひ皆様にお力添えしたいと思いますわ」
「シンシア…!うん、これからよろしく」
前を向いて笑うシンシアは綺麗だと、優人は思った。敵に立ち向かう姿も、変化を恐れない強さも、眩しいばかりだった。
不安を感じていないわけではないだろう。それでも、環境を変え自分の力を試し成長することを選んだシンシアの横顔を、誇らしそうな顔で所長も見つめていた。
「……ところで、お前転移魔法は使えるのか?」
シンシアが旅に加わる話がひと段落したところで、カミーユが身を乗り出してシンシアに尋ねる。
「え、ええ、人並みには……転送機はなくとも陣を繋げられれば、それなりに大きなものでも運べますわ」
「よっしゃ!」
「おお、それはいい」
急に食い気味とも言えるほどの勢いで迫られたシンシアは戸惑っていたが、その答えを聞いたカミーユとエリー、特にカミーユはこれまでにないほどに嬉しそうだった。
「転移魔法?」
「ああ、前に転送機を使った星石の転送を見せただろう。あれはあのカゴ自体に転移魔法の力と陣を組み込んでいるものでな、特に魔力や知識がなくとも使えるものではあるのだが……いかんせん、組み込まれた陣はその場所と結び付けられているものでな。あの場所からは移動させられず、持ち運ぶことはできないんだ」
「転移魔法が使えりゃ、あのカゴがない場所でも物を送ったり受け取ったりできるってこった」
「ああ、そういった意味でも君たちの旅は楽になるだろう、星石も町から町へ運ばずともよいし、騎士団からの支給として食料も送ろう」
なるほど、カミーユが喜ぶはずだ、と優人は合点がいった。カミーユは常々、携帯食糧が美味しくないし飽きるということをボヤいていたのだ。
「よっしゃ~、頼めばあとは待ってるだけで食いモンが届くようになるんだぜ、便利なモンだよな~魔法使いってのはよぉ」
「そんな、人の魔法を出前みたいに……」
「ちょっと、私が仲間になることよりも食べ物に喜んでませんこと!?」
怒るシンシアに、みんなが笑った。
何はともあれ、新しい仲間を得て、マヒアドを発つことになった。賑やかな旅になりそうだ、と思いは同じであった。
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