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第一章
歓迎
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賑やかな音楽と明るい歌声が聞こえてくる。
星が瞬き空を動かす、民は導きを得て、果実は鮮やかに実る…そんな歌詞だった。
街は鮮やかに飾り付けられ、祭りのような雰囲気だった。通りに溢れかえる人々は、皆笑顔だった。
王都デアルクス。城から出た優人たちが初めて訪れた外の街である。
この世界で最も大きな街であり、人口も多い。女王の城から少し離れてはいるが、ここが最も城に近い都市であり、王都と呼ばれている。
都市とは言え、現代の日本で思い描くような近代的な街並みではなく、レンガや石造りの建物が並ぶ空の広い街だ。
「ずいぶん賑やかな街なんだね」
「ああ、農地に囲まれてはいるが、ひとつの大きな都市だからな。それに今は収穫祭の時期だ」
「…歩きづれェ…」
収穫祭。その言葉で優人はなるほどと思った。通りに並ぶ屋台には色鮮やかな果物や野菜、それを使ったであろう料理などが売られている。
篝火を灯した櫓を囲み、人々が歌い踊る様はいかにも祭りといった様子だ。
「美味しそうだね」
「ああ、流石に腹が減ったよなぁ。携帯食糧ばっかじゃ飽きてくるしよ」
すぐそばで売られている果物の蜜漬けや野菜のスープの香りに、ついお腹が鳴ってしまう。城を出てから、というか優人はこの世界に来てから携帯食糧しか摂っていないので無理もない。
「いらっしゃい!旅人さんかい?どれも美味しいよ」
「あ、えっと」
ついつい屋台を覗き込んでいると、男性の店員に声を掛けられた。見てはいたのだが、優人は金などは持っていないので少したじろいでしまう。
「金ならあるぜぇ、おっさん、俺はこれにする。オラ、お前も選べ」
「うん、ありがとう、僕は…」
急にカミーユが懐からじゃらりと硬貨が入っているのであろう巾着を取り出すと、優人の頭上から屋台を覗き込み、優人にも何か選ぶよう促す。
「おや、お客さん…」
優人がどれにするか決めようとしている僅かなうちに、おじさんがカミーユの顔を見るなり眉を少し寄せた。そして二人の後ろに居たエリーの姿も確認すると、ワッと大きな声を上げた。
「カミーユ様に、騎士団長のエリザベト様じゃないか!」
その店員のおじさんの声に、一気に街の人々が騒がしくなる。
「本当だ、エリザベト様だ!」
「おお、カミーユ様も…!」
祭りの騒がしさからは一変して、皆がこちらに注目している。二人はやっぱり有名なんだなあ、などと優人は考えていたが、そのざわめきはまたすぐに向く先を変える。
「ではあの共にいらっしゃる方が…!」
「ああ、違いない」
「エリザベト様!その方が救世主様ですか?」
「救世主様だって?」
二人に注目していた人々の目線は全て優人に向けられた。えっ、と優人は急な出来事に戸惑い、エリーのほうを見る。
「話が伝わるのが早い、人の口に戸は立てられんな」
エリーは感心したように頷いていた。
「おお、じゃああんたが救世主様なのかい!」
店員のおじさんが興奮気味に、優人の肩を掴みながら問う。がっしりした体格の良いおじさんの揺さぶる力に、優人は少し振り回される。エリーの顔を見ると、にっこりと笑ってうんうん、と頷いていた。
「は、はい、そうです…」
優人が肯定した一声に、周りからおおっと一斉に声が上がる。その大きさたるや、中心に居た優人たちは肩をびくつかせるほどで、カミーユは少し怒りながら耳を塞いでいた。
「救世主様、ご活躍をお祈りしております!」
「来てくださって、ありがとうございます!」
しかし、口々にかけられる言葉はあたたかい。優人はこんなにも注目されることは生まれて初めてのことで、恥ずかしさやちょっとした怖さも感じていたが、街の人々が心から笑って応援してくれている気持ちはすごく嬉しかった。
「ありがとうございます、精一杯頑張ります…」
割れんばかりの歓声に怯えながらも、月並みな言葉ではあったがその応援に答えた。
「救世主様、万歳!」
「万歳、万歳!」
次々に湧き上がる声に驚きながら、優人たちはなんとかその場を離れ、一先ず宿に入ることにした。
「はあ、びっくりした」
宿に着いてからも店主や他の客たちに盛大な歓迎を受けたりはしたが、なんとか部屋まで辿り着くと、優人はベッドに腰を下ろして深く息を吐いた。
「祭りだったのが要因だろうな、城から役所へ伝達はしているはずだが、民たちにまで伝わるのが実にはやい」
「それだって初耳だよ、あんなに騒がれるとは思わなかった」
「ま、おかげで食い物はタダだわ宿も割安だわ、得もするわな」
祭りの屋台通りを離れる際に、辺りの屋台があれもこれも持っていけとたくさん食べ物を持たされたのだ。カミーユはさっそくテーブルへ広げて食べ始めている。
「は~、生き返る~。うまい食い物はいいよなあ」
「僕も食べよう…、それにしても、すごい量だな」
貰ったのは具沢山のスープやパイ、果物を使ったゼリーのようなものや、果肉がごろごろと入ったジャムに、香ばしいパン。どれも豊かな作物の味を活かした料理たちだった。
優人はまずスープを食べ始める。魔法が施された容器らしく、しばらくは温かいままなのだという。人を癒したりするだけではなく、こんな日常にも魔法が活用されているのだ、と感心しながら食べ進める。野菜の優しい甘さとみずみずしさが喉を、体を潤しながらも満たしてくれた。
「美味しい」
「ここら辺は大型の魔物が少ないからな、畑が豊かで食い物がとにかく美味い」
カミーユは食べながらも器用に話す。よくこぼさないで食べられるな、と思いながら優人は黙って話を聞きながら食べた。
ふとエリーのほうを見ると、エリーは何も口にしていなかった。
「エリーはお腹空いてない?」
「あ、ああ、いや、わたしは」
エリーが少し驚いたように、戸惑ったように曖昧な否定の言葉を繰り返した。エリーだってここ二日ほどろくに食べていないのだから、空腹でないはずがない。優人が首を傾げているとカミーユが溜息を吐くのが聞こえた。
「エリー、そろそろ食っとけ」
その声のトーンは少しいつもよりも低く、怒っているような響きを持っていた。その声にエリーはぐう、と唸るような声をあげ、ばつが悪そうな表情を浮かべる。
「今日の朝から、だいぶフラフラしてるだろ、何気にしてんのか知らねえが、倒れられると困るんだからな」
「わ、わかっている…」
いつもはカミーユの悪態をエリーが叱る立場だが、今は珍しく逆転している。確かに言われてみれば、今日のエリーはどことなく元気がない。目に力がないのだ。
優人が不思議そうに見ていると、エリーは観念したように腰に提げていたポーチから、星石を二つほど取り出した。
「…ユウト、わたしは普通の食事は取らないんだ」
「…?」
エリーはそう言うと、星石をひとつつまみあげて、少し上を向きながらそれを口元まで運んでいく。まさか、と優人が思ったその瞬間に、エリーはそれをぱくりと口に含み、そのまま飲み込んでしまった。
「…!エリー、それ」
「…ふう、」
星石をすっかり飲み込んでしまったエリーは、ひとつ息を吐くと少しすっきりしたような顔つきになった。それでも驚く優人を見て、気まずそうに眉を寄せる。
「これがわたしの糧なのだ。ちゃんと、説明しておくべきだったな」
「星石が、糧?」
星石はその名の通り石のようなもので、非常に硬く、形も少し尖ったところもある。そんなものを飲んでエリーは大丈夫なのだろうかと、優人は気が気でなかった。しかしエリーはそれが生きるための糧なのだと言う。
「この国で王族と呼ばれる者たちには、もうひとつ呼び名がある。星の一族と言う、ヒトとは異なる存在だ。わたしや、アリアンナ様がそうだ。星の一族は…人間とも、魔法使いとも違うものだ」
エリーは取り出した星石を手で弄びながら話してくれる。いつもは真っ直ぐに目を見つめてくるが、今は手元へ視線は落ちていた。
「星の一族は、救世主が生み出すこの星石の力を体内に取り込むことでのみ生きられる。救世主の力無しでは生きられぬ存在だ」
「人間じゃ、ないってことか」
「そういうことだ、ユウト、手を」
エリーに言われるがままに手を差し出すと、エリーはつけていた長手袋を外しユウトの手に触れた。
「…!」
「…冷たいだろう。星の一族の身体は特殊でな、血は通っていない。脈打つ心臓もない。汗もかかないし、人で言うところの内臓がないから食べ物を食べて消化して、力に変えることはできない。しかし星石の力を得ることができれば……人よりは長い時を生きることができる」
エリーの手は思わずその手を引っ込めてしまいそうになるほど冷たかった。皮膚のように少し柔らかくはあるが、汗を一切かいていない肌はさらりとしていてまるで陶器や磨かれた石のようだった。
「…星石を集める旅っていうのは、そういうことだったのか」
「…ああ。何より第一は魔物を討伐するためで、星石は副産物に過ぎないが……わたしにとっては、我が一族が生きるために、為さなくてはならないことだ」
エリーは伏せていた目をようやくこちらに向けた。けれどその瞳はどこか不安気で、いつもの強い目ではない。
「民のため、世界のためだと説明したうえで、ユウトはそれに協力してくれると言ってくれた…なのに、我ら一族が生きる糧を得るためというのはな……、どうにも、言い出しにくかった」
エリーはどこか申し訳なさそうに、怯えるように話した。しかし、優人にはその意味がよくわからずにいた。
「どうして? エリーも、この世界に生きてる人でしょ」
「……え?」
「エリーが何をどう考えて引け目を感じてるのか、僕にはよくわからないんだけど……僕が助けたいって思った人たちの中に、エリーも入ってるよ。だから、その石がどう使われようと構わないし、それが僕にしか作れなくて、エリーの一族の役に立つのなら、それが僕は嬉しいと思う」
優人が正直に話すと、エリーは驚いた顔をして、カミーユは溜息を吐いた。
「…だから言っただろ、こいつは大丈夫だって」
「……ああ、そうだな。…ありがとう、ユウト」
「? ううん、こちらこそ、話してくれてありがとう」
優人はまだ疑問が残っていたが、エリーが安心したように笑ってくれたのが嬉しくて、気持ちが伝わって不安が晴れたのならそれでいいかと思うことにした。
それからは三人でしばらく卓を囲み、山ほどの料理を優人とカミーユで平らげ、エリーは星石をあといくつか口にした。
星が瞬き空を動かす、民は導きを得て、果実は鮮やかに実る…そんな歌詞だった。
街は鮮やかに飾り付けられ、祭りのような雰囲気だった。通りに溢れかえる人々は、皆笑顔だった。
王都デアルクス。城から出た優人たちが初めて訪れた外の街である。
この世界で最も大きな街であり、人口も多い。女王の城から少し離れてはいるが、ここが最も城に近い都市であり、王都と呼ばれている。
都市とは言え、現代の日本で思い描くような近代的な街並みではなく、レンガや石造りの建物が並ぶ空の広い街だ。
「ずいぶん賑やかな街なんだね」
「ああ、農地に囲まれてはいるが、ひとつの大きな都市だからな。それに今は収穫祭の時期だ」
「…歩きづれェ…」
収穫祭。その言葉で優人はなるほどと思った。通りに並ぶ屋台には色鮮やかな果物や野菜、それを使ったであろう料理などが売られている。
篝火を灯した櫓を囲み、人々が歌い踊る様はいかにも祭りといった様子だ。
「美味しそうだね」
「ああ、流石に腹が減ったよなぁ。携帯食糧ばっかじゃ飽きてくるしよ」
すぐそばで売られている果物の蜜漬けや野菜のスープの香りに、ついお腹が鳴ってしまう。城を出てから、というか優人はこの世界に来てから携帯食糧しか摂っていないので無理もない。
「いらっしゃい!旅人さんかい?どれも美味しいよ」
「あ、えっと」
ついつい屋台を覗き込んでいると、男性の店員に声を掛けられた。見てはいたのだが、優人は金などは持っていないので少したじろいでしまう。
「金ならあるぜぇ、おっさん、俺はこれにする。オラ、お前も選べ」
「うん、ありがとう、僕は…」
急にカミーユが懐からじゃらりと硬貨が入っているのであろう巾着を取り出すと、優人の頭上から屋台を覗き込み、優人にも何か選ぶよう促す。
「おや、お客さん…」
優人がどれにするか決めようとしている僅かなうちに、おじさんがカミーユの顔を見るなり眉を少し寄せた。そして二人の後ろに居たエリーの姿も確認すると、ワッと大きな声を上げた。
「カミーユ様に、騎士団長のエリザベト様じゃないか!」
その店員のおじさんの声に、一気に街の人々が騒がしくなる。
「本当だ、エリザベト様だ!」
「おお、カミーユ様も…!」
祭りの騒がしさからは一変して、皆がこちらに注目している。二人はやっぱり有名なんだなあ、などと優人は考えていたが、そのざわめきはまたすぐに向く先を変える。
「ではあの共にいらっしゃる方が…!」
「ああ、違いない」
「エリザベト様!その方が救世主様ですか?」
「救世主様だって?」
二人に注目していた人々の目線は全て優人に向けられた。えっ、と優人は急な出来事に戸惑い、エリーのほうを見る。
「話が伝わるのが早い、人の口に戸は立てられんな」
エリーは感心したように頷いていた。
「おお、じゃああんたが救世主様なのかい!」
店員のおじさんが興奮気味に、優人の肩を掴みながら問う。がっしりした体格の良いおじさんの揺さぶる力に、優人は少し振り回される。エリーの顔を見ると、にっこりと笑ってうんうん、と頷いていた。
「は、はい、そうです…」
優人が肯定した一声に、周りからおおっと一斉に声が上がる。その大きさたるや、中心に居た優人たちは肩をびくつかせるほどで、カミーユは少し怒りながら耳を塞いでいた。
「救世主様、ご活躍をお祈りしております!」
「来てくださって、ありがとうございます!」
しかし、口々にかけられる言葉はあたたかい。優人はこんなにも注目されることは生まれて初めてのことで、恥ずかしさやちょっとした怖さも感じていたが、街の人々が心から笑って応援してくれている気持ちはすごく嬉しかった。
「ありがとうございます、精一杯頑張ります…」
割れんばかりの歓声に怯えながらも、月並みな言葉ではあったがその応援に答えた。
「救世主様、万歳!」
「万歳、万歳!」
次々に湧き上がる声に驚きながら、優人たちはなんとかその場を離れ、一先ず宿に入ることにした。
「はあ、びっくりした」
宿に着いてからも店主や他の客たちに盛大な歓迎を受けたりはしたが、なんとか部屋まで辿り着くと、優人はベッドに腰を下ろして深く息を吐いた。
「祭りだったのが要因だろうな、城から役所へ伝達はしているはずだが、民たちにまで伝わるのが実にはやい」
「それだって初耳だよ、あんなに騒がれるとは思わなかった」
「ま、おかげで食い物はタダだわ宿も割安だわ、得もするわな」
祭りの屋台通りを離れる際に、辺りの屋台があれもこれも持っていけとたくさん食べ物を持たされたのだ。カミーユはさっそくテーブルへ広げて食べ始めている。
「は~、生き返る~。うまい食い物はいいよなあ」
「僕も食べよう…、それにしても、すごい量だな」
貰ったのは具沢山のスープやパイ、果物を使ったゼリーのようなものや、果肉がごろごろと入ったジャムに、香ばしいパン。どれも豊かな作物の味を活かした料理たちだった。
優人はまずスープを食べ始める。魔法が施された容器らしく、しばらくは温かいままなのだという。人を癒したりするだけではなく、こんな日常にも魔法が活用されているのだ、と感心しながら食べ進める。野菜の優しい甘さとみずみずしさが喉を、体を潤しながらも満たしてくれた。
「美味しい」
「ここら辺は大型の魔物が少ないからな、畑が豊かで食い物がとにかく美味い」
カミーユは食べながらも器用に話す。よくこぼさないで食べられるな、と思いながら優人は黙って話を聞きながら食べた。
ふとエリーのほうを見ると、エリーは何も口にしていなかった。
「エリーはお腹空いてない?」
「あ、ああ、いや、わたしは」
エリーが少し驚いたように、戸惑ったように曖昧な否定の言葉を繰り返した。エリーだってここ二日ほどろくに食べていないのだから、空腹でないはずがない。優人が首を傾げているとカミーユが溜息を吐くのが聞こえた。
「エリー、そろそろ食っとけ」
その声のトーンは少しいつもよりも低く、怒っているような響きを持っていた。その声にエリーはぐう、と唸るような声をあげ、ばつが悪そうな表情を浮かべる。
「今日の朝から、だいぶフラフラしてるだろ、何気にしてんのか知らねえが、倒れられると困るんだからな」
「わ、わかっている…」
いつもはカミーユの悪態をエリーが叱る立場だが、今は珍しく逆転している。確かに言われてみれば、今日のエリーはどことなく元気がない。目に力がないのだ。
優人が不思議そうに見ていると、エリーは観念したように腰に提げていたポーチから、星石を二つほど取り出した。
「…ユウト、わたしは普通の食事は取らないんだ」
「…?」
エリーはそう言うと、星石をひとつつまみあげて、少し上を向きながらそれを口元まで運んでいく。まさか、と優人が思ったその瞬間に、エリーはそれをぱくりと口に含み、そのまま飲み込んでしまった。
「…!エリー、それ」
「…ふう、」
星石をすっかり飲み込んでしまったエリーは、ひとつ息を吐くと少しすっきりしたような顔つきになった。それでも驚く優人を見て、気まずそうに眉を寄せる。
「これがわたしの糧なのだ。ちゃんと、説明しておくべきだったな」
「星石が、糧?」
星石はその名の通り石のようなもので、非常に硬く、形も少し尖ったところもある。そんなものを飲んでエリーは大丈夫なのだろうかと、優人は気が気でなかった。しかしエリーはそれが生きるための糧なのだと言う。
「この国で王族と呼ばれる者たちには、もうひとつ呼び名がある。星の一族と言う、ヒトとは異なる存在だ。わたしや、アリアンナ様がそうだ。星の一族は…人間とも、魔法使いとも違うものだ」
エリーは取り出した星石を手で弄びながら話してくれる。いつもは真っ直ぐに目を見つめてくるが、今は手元へ視線は落ちていた。
「星の一族は、救世主が生み出すこの星石の力を体内に取り込むことでのみ生きられる。救世主の力無しでは生きられぬ存在だ」
「人間じゃ、ないってことか」
「そういうことだ、ユウト、手を」
エリーに言われるがままに手を差し出すと、エリーはつけていた長手袋を外しユウトの手に触れた。
「…!」
「…冷たいだろう。星の一族の身体は特殊でな、血は通っていない。脈打つ心臓もない。汗もかかないし、人で言うところの内臓がないから食べ物を食べて消化して、力に変えることはできない。しかし星石の力を得ることができれば……人よりは長い時を生きることができる」
エリーの手は思わずその手を引っ込めてしまいそうになるほど冷たかった。皮膚のように少し柔らかくはあるが、汗を一切かいていない肌はさらりとしていてまるで陶器や磨かれた石のようだった。
「…星石を集める旅っていうのは、そういうことだったのか」
「…ああ。何より第一は魔物を討伐するためで、星石は副産物に過ぎないが……わたしにとっては、我が一族が生きるために、為さなくてはならないことだ」
エリーは伏せていた目をようやくこちらに向けた。けれどその瞳はどこか不安気で、いつもの強い目ではない。
「民のため、世界のためだと説明したうえで、ユウトはそれに協力してくれると言ってくれた…なのに、我ら一族が生きる糧を得るためというのはな……、どうにも、言い出しにくかった」
エリーはどこか申し訳なさそうに、怯えるように話した。しかし、優人にはその意味がよくわからずにいた。
「どうして? エリーも、この世界に生きてる人でしょ」
「……え?」
「エリーが何をどう考えて引け目を感じてるのか、僕にはよくわからないんだけど……僕が助けたいって思った人たちの中に、エリーも入ってるよ。だから、その石がどう使われようと構わないし、それが僕にしか作れなくて、エリーの一族の役に立つのなら、それが僕は嬉しいと思う」
優人が正直に話すと、エリーは驚いた顔をして、カミーユは溜息を吐いた。
「…だから言っただろ、こいつは大丈夫だって」
「……ああ、そうだな。…ありがとう、ユウト」
「? ううん、こちらこそ、話してくれてありがとう」
優人はまだ疑問が残っていたが、エリーが安心したように笑ってくれたのが嬉しくて、気持ちが伝わって不安が晴れたのならそれでいいかと思うことにした。
それからは三人でしばらく卓を囲み、山ほどの料理を優人とカミーユで平らげ、エリーは星石をあといくつか口にした。
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