不良だらけの中学校生活

ポコたん

文字の大きさ
上 下
9 / 12

【第九話】けんじの卒業

しおりを挟む

 ユーグリッドとレオンが結婚して番になったのは三年前だ。

 18歳で上級学校を卒業し、レオンはすぐにクリスタニア家の研究所員となった。学校でも無事に生活し、Ωであるという認識が、危機感が無くなっていた。薬でフェロモンも発情期もコントロール出来ていると思っていた。
 その過信が良く無かった。
 セルトレインのように少なくとも番を作ってから勤めればよかったと、後悔しても遅い。

 レオンは研究所内で予期せぬ発情を迎えた。

 二週間前に発情期は終わっていた。三か月周期のそれが起こるはずがなかったのだ。
 混乱した。
 とにかく一緒に居たβの研究員に両親のどちらかを呼んでもらうようお願いして、身を隠せる場所を探した。

 番のいるΩは不特定多数のαを惑わせるフェロモンを出すこともなければ、番以外のαから発情を誘発されることもない。だが番のいないレオンのフェロモンは不特定多数のαを惑わすし、αからの発情期の誘発も受けた。

(誰かがΩを発情させようとしたのかな?)

 誤ってそれが自分に起きてしまったのかもしれない。
 第二性を扱う研究の多い場所だ。αも多いためその扱いは慎重に行われているが、番のいないΩの研究員はレオンだけだった。
 そもそもΩの研究員は数が少ないので、今までの設備ではこういった抜けが出来てしまっているのかもしれない。

(原因追求はとりあえず後回しだ。今は隠れないと……)

 他の研究員、特に優秀なαに迷惑がかかってしまう。
 そんな突然の発情期や、αの傲慢にΩが利用されないよう、カトラシアは法律で建物内に一定間隔でΩが逃げ込める避難場所を作る様に定められている。
 それらは不備がないように、抜き打ちで国家組織が点検をするくらい徹底したものだ。

 研究所にもΩが避難できる場所があることを小さい頃から出入りしているレオンは当然知っていた。
 だが、その入り口のことごとくにαがいた。

 そのうちの一人の顔を見た時に、数日前の会議を思い出す。

(そうか! 俺は実験に利用されてるんだ!?)

 今、レオンは首にフェロモンの消臭が期待できる素材で作ったネックガードを嵌めている。その素材の効果をどのように確認するか、先日話し合っていた。この技術が進めば急なΩの発情が起きても、理性を失ったαに襲われる確率はさらに下げることができる。

 番夫婦に頼んで発情期に検証してもらうということで決まったが、その話し合いの中で「番ったΩではフェロモンが変わってしまっているから、番ってないΩで試さなければ意味がないんじゃないか」という意見も出た。
 
 十数名居た会議室の中、数名のαがレオンを見た。その視線にゾワリと背筋が凍る。αの威圧を感じたからだ。

「それは時期尚早だろう。番のいるΩで効果の確認が取れてからでなければ無駄な実験になる」

 そのレオンにとっては気持ちの悪い空気を吹き飛ばすように、静かな声が会議室に響く。会議に参加している中で一番上役であるユーグリッドが否と言えばその話は無効になった。
 会議の後、せっかくだから使ってみたらどうかとβの研究員に渡されたネックガードを、レオンは身に着けていた。

 実験をするにしても、Ωに手出しが出来ないようにαを拘束した状態で行ったり、フェロモンに影響を受けないβを同席させるべきだ。
 もしネックガードの効果がなく、発情中のΩのフェロモンが作用してしまえばαは欲望を止めることが出来ない。発情し運動機能を低下させたレオンにも抗う術がない。

 そんなことは考えたくなかったが、避難場所に行ったが最後、どうなるか判ったものじゃない。

 研究所内でレオンは顔は悪いが優秀なΩと認識されていた。
 αばかりの学校を優秀な成績で卒業した事実は大きい。

 顔が悪くて魅力が無かろうが、番のないΩのフェロモンはαを強制的に発情させるのだ。レオン相手でも発情し、優秀な子どもを産ませることができる可能性は高い。

(いやそんな事じゃなくて、ネックガードの効果実験……だ、間違いない)

 自分が狙われるなんて思えなかったが、震える身体を叱責しながらどうにか足を進める。
 フェロモンを消臭するネックガードはきちんと効果があったのだろう。αに捕まることなく、気付けばユーグリッドの執務室の前にたどり着いていた。

 扉をそっと開ければふわりと大好きなユーグリッドの匂いがする。
 レオンはふらふらと室内に入り執務机の足元のスペースに身を隠した。そのままユーグリッドの匂いの濃い椅子へ頭を乗せる。

 レオンの記憶がはっきりしているのはここまでだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

処理中です...