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外伝~凌辱と溺愛の分岐点~
6 夢見た世界へ
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凌辱されたリリアンとしての生を終わらせ、その後回帰した。リリアンとガリアードの初めての対面の瞬間に。
神様の計らいなのか、俺はあの時に選択を間違えずにガリアードに凌辱されずに溺愛される妻になった。回帰の瞬間に思い出したのは、日本で社畜をしていた頃の俺。俺の前世なのかそれともその先の魂なのかは分からないが、俺はそのノウハウを使って、ガリアードに愛される人生を手に入れた。
リリアンが欲しくてたまらなかったモノ……それはただ愛されて幸せになる結婚生活。
リリアンとして、実の兄の剣に自ら突き進み死を選んだ。
そしてその後に回帰したのは、旦那様ことガリアードとの出会いの日。絶望の初対面、その回帰の時にただ戻ったのではなくて、どこの記憶か分からないが、前世の一つ。日本という国の社畜という人種をしていた魂が乗り移った。その社畜はあらゆるスキルを使って、ガリアードが凌辱夫になることを回避して最終的には溺愛夫へと導いた。
社畜はこの世界のリリアンを知っていた。
日本のアニメの世界観である異世界の話として。もともとのリリアンが辿る道は、凌辱されて死を選ぶストーリー。それをなぜか知っていたんだ。どういう原理かは分からないし、実際に回帰とか前世なのか来世なのか時間軸が入り乱れること自体、ありえない話だから、そこに原理を求めるのはやめておこう。
でも自分自身の力で、言動で、未来を変えた。そしてリリアンが最も望んでいた愛される世界が出来上がっていた。
はぁ、久しぶりにリリアンの過去に辿った道を思い出して辛かった。さらに愛されている今の自分がとっても尊いものとなった。
俺はガリアードを騙すために、あざといリリアンを演出して愛され妻を演じてきたけれど、いつの間にか本気で愛してしまった。そしてガリアードの妹であるアメリア様の三人目の子供を、オスニアン辺境伯の嫡男としてもらい受けた。
今は息子と最愛の夫ガリアードと、仲良く三人家族をしている。初めの頃は猫をかぶって、ガリアード様って呼んで自分のことを「僕」と言っていたけれど、社畜と元のリリアンの性格が融合して、たまに自分のことを俺って言ってしまっていた。頭の中でもガリアードを呼び捨てで言っていたのを、寝言で知られてしまい、現在はもう自分を偽らずに、素のしゃべり方をしている。
ガリアードはその方が嬉しいって言ったから、たまにそういうプレイの時だけ今はガリアード様って言っている。それはそれで盛り上がるからね。
俺は辛い人生も楽しい人生も、あの分岐点を起点に両方経験した。だからこそ、この幸せを余計にかみしめている。
幸せはその時の自分の言葉のチョイスだったり、態度だったり、相手を想うこと。
記憶にさえ残らないような、回帰前とは違う最初の何気ないやりとり……今ふっと思い出して、懐かしさにほっこりした気持ちになった。
――ガリアードが低い声で挨拶をしてきた。
『私はこの屋敷の主、ガリアード・オスニアンだ』
――俺は転生したてで混乱する頭の中で精一杯、社畜としての知識を活用して、笑顔で答えたけど、緊張して噛んでしまった。
『リ、リリアン・ワインバーグでしゅ、あっ』
――ガリアードはそれを見て、優しく笑った。
『噂通りみたいだな。明日の婚礼までくつろがれるといい』
この始まりの挨拶から全てが変わった。
ここが分岐点。回帰前とは違い、社畜として基本の挨拶を微笑んで、目を合わせてした。
たったそれだけ。
緊張して噛んだけど、でも目を見たら記憶の中のガリアードと全てが違っていた。笑いかけてくれたんだ。リリアンの記憶では俯いてその笑顔までも確認していない。回帰前のリリアンは挨拶すらしていないからガリアードも笑いもしなかったのかもしれない。そして後で聞いた話だが「噂通り」というのは可愛い人という意味だったらしい。
リリアンの記憶では、その「噂通り」という言葉を、何もできない公爵令息というマイナスにとらえてしまっていた。
回帰後のそのやり取りをした時点のガリアードは俺への不信感より、可愛い人を嫁にできた喜びに満ちていた。全ての問題が片付いた時に、「始まり」の話を懐かしそうに、溺愛夫になったガリアードは語っていた。
俺は自分の手で新しい人生を手に入れたんだ。
安心して、リリアン。
あなたはもう浄化した。あの時の回帰前の「僕」に俺は伝えた。そうしたら心がじんわりとした。
久しぶりに風邪で寝込んだからか、記憶が混雑したがそれはそれで良かった。あの凌辱の日々からいきなり愛され妻になったところまで記憶が飛んで、あの時のリリアンが救われたんだから。やっと自分が浄化したような気になった。
もう俺は大丈夫。どんなガリアードでも受け入れている。本質は凌辱気質があっても、今ではただのプレイとして閨を盛り上げるだけの性癖になっているし、実際溺愛バージョンがほとんど毎日繰り広げられている。
あの時夢見た未来がここにはある。
◆◆◆
「お母さまぁー。 はやくぅー」
「リアム、転ばないようにね!」
俺は大声を上げて、ジュリと一緒に走るリアムを見ている。ここは辺境伯の中庭の大きな広場。庭師のトムが綺麗に手入れをしてくれて、今日は家族と使用人たちとでピクニックをしている。
「リリアン、手を繋ごう」
「うん、ガリアードいつも俺の手を取ってくれてありがとう」
「いや、あなたの手をいつでも支えさせてくれてありがとう」
俺たちは結婚して、子供もいるけれど相変わらずラブラブだった。そこにはガリアードの専属騎士のヤンと、回帰前もリリアンを気にかけてくれた侍従のリックという二人の仲の良い夫妻もいた。息子はみんなに愛されて今日も楽しそうに遊んでいる。
今では国王陛下になったガリアードの親友、第二王子だったサリファス様がお忍びで、たまに予告なくふらっと、自分の子供を連れて魔法で瞬間移動してくる。そこには相変わらず庭師のトムがいて、毎回面白いくらいに驚いて腰を落としてしまうが、最近では陛下がトムを素早くお姫様抱っこして腰を抜かすのを防いでいる。
あの頃には想像もできなかった幸せな時が溢れている。今日も辺境伯のお屋敷は、笑顔で満ちている。
みんながはしゃいでいる中、俺とガリアードは木陰でいつも通りキスをしていた。それを見た息子が俺とガリアードに駆け寄って抱き着いてきたので、俺たちは愛しの息子を挟んでお互いに息子のかわいいほっぺにキスをした。
リリアン、俺は幸せだよ!
―― 溺愛夫編 fin ――
お読みくださりありがとうございました!
☆riiko☆
神様の計らいなのか、俺はあの時に選択を間違えずにガリアードに凌辱されずに溺愛される妻になった。回帰の瞬間に思い出したのは、日本で社畜をしていた頃の俺。俺の前世なのかそれともその先の魂なのかは分からないが、俺はそのノウハウを使って、ガリアードに愛される人生を手に入れた。
リリアンが欲しくてたまらなかったモノ……それはただ愛されて幸せになる結婚生活。
リリアンとして、実の兄の剣に自ら突き進み死を選んだ。
そしてその後に回帰したのは、旦那様ことガリアードとの出会いの日。絶望の初対面、その回帰の時にただ戻ったのではなくて、どこの記憶か分からないが、前世の一つ。日本という国の社畜という人種をしていた魂が乗り移った。その社畜はあらゆるスキルを使って、ガリアードが凌辱夫になることを回避して最終的には溺愛夫へと導いた。
社畜はこの世界のリリアンを知っていた。
日本のアニメの世界観である異世界の話として。もともとのリリアンが辿る道は、凌辱されて死を選ぶストーリー。それをなぜか知っていたんだ。どういう原理かは分からないし、実際に回帰とか前世なのか来世なのか時間軸が入り乱れること自体、ありえない話だから、そこに原理を求めるのはやめておこう。
でも自分自身の力で、言動で、未来を変えた。そしてリリアンが最も望んでいた愛される世界が出来上がっていた。
はぁ、久しぶりにリリアンの過去に辿った道を思い出して辛かった。さらに愛されている今の自分がとっても尊いものとなった。
俺はガリアードを騙すために、あざといリリアンを演出して愛され妻を演じてきたけれど、いつの間にか本気で愛してしまった。そしてガリアードの妹であるアメリア様の三人目の子供を、オスニアン辺境伯の嫡男としてもらい受けた。
今は息子と最愛の夫ガリアードと、仲良く三人家族をしている。初めの頃は猫をかぶって、ガリアード様って呼んで自分のことを「僕」と言っていたけれど、社畜と元のリリアンの性格が融合して、たまに自分のことを俺って言ってしまっていた。頭の中でもガリアードを呼び捨てで言っていたのを、寝言で知られてしまい、現在はもう自分を偽らずに、素のしゃべり方をしている。
ガリアードはその方が嬉しいって言ったから、たまにそういうプレイの時だけ今はガリアード様って言っている。それはそれで盛り上がるからね。
俺は辛い人生も楽しい人生も、あの分岐点を起点に両方経験した。だからこそ、この幸せを余計にかみしめている。
幸せはその時の自分の言葉のチョイスだったり、態度だったり、相手を想うこと。
記憶にさえ残らないような、回帰前とは違う最初の何気ないやりとり……今ふっと思い出して、懐かしさにほっこりした気持ちになった。
――ガリアードが低い声で挨拶をしてきた。
『私はこの屋敷の主、ガリアード・オスニアンだ』
――俺は転生したてで混乱する頭の中で精一杯、社畜としての知識を活用して、笑顔で答えたけど、緊張して噛んでしまった。
『リ、リリアン・ワインバーグでしゅ、あっ』
――ガリアードはそれを見て、優しく笑った。
『噂通りみたいだな。明日の婚礼までくつろがれるといい』
この始まりの挨拶から全てが変わった。
ここが分岐点。回帰前とは違い、社畜として基本の挨拶を微笑んで、目を合わせてした。
たったそれだけ。
緊張して噛んだけど、でも目を見たら記憶の中のガリアードと全てが違っていた。笑いかけてくれたんだ。リリアンの記憶では俯いてその笑顔までも確認していない。回帰前のリリアンは挨拶すらしていないからガリアードも笑いもしなかったのかもしれない。そして後で聞いた話だが「噂通り」というのは可愛い人という意味だったらしい。
リリアンの記憶では、その「噂通り」という言葉を、何もできない公爵令息というマイナスにとらえてしまっていた。
回帰後のそのやり取りをした時点のガリアードは俺への不信感より、可愛い人を嫁にできた喜びに満ちていた。全ての問題が片付いた時に、「始まり」の話を懐かしそうに、溺愛夫になったガリアードは語っていた。
俺は自分の手で新しい人生を手に入れたんだ。
安心して、リリアン。
あなたはもう浄化した。あの時の回帰前の「僕」に俺は伝えた。そうしたら心がじんわりとした。
久しぶりに風邪で寝込んだからか、記憶が混雑したがそれはそれで良かった。あの凌辱の日々からいきなり愛され妻になったところまで記憶が飛んで、あの時のリリアンが救われたんだから。やっと自分が浄化したような気になった。
もう俺は大丈夫。どんなガリアードでも受け入れている。本質は凌辱気質があっても、今ではただのプレイとして閨を盛り上げるだけの性癖になっているし、実際溺愛バージョンがほとんど毎日繰り広げられている。
あの時夢見た未来がここにはある。
◆◆◆
「お母さまぁー。 はやくぅー」
「リアム、転ばないようにね!」
俺は大声を上げて、ジュリと一緒に走るリアムを見ている。ここは辺境伯の中庭の大きな広場。庭師のトムが綺麗に手入れをしてくれて、今日は家族と使用人たちとでピクニックをしている。
「リリアン、手を繋ごう」
「うん、ガリアードいつも俺の手を取ってくれてありがとう」
「いや、あなたの手をいつでも支えさせてくれてありがとう」
俺たちは結婚して、子供もいるけれど相変わらずラブラブだった。そこにはガリアードの専属騎士のヤンと、回帰前もリリアンを気にかけてくれた侍従のリックという二人の仲の良い夫妻もいた。息子はみんなに愛されて今日も楽しそうに遊んでいる。
今では国王陛下になったガリアードの親友、第二王子だったサリファス様がお忍びで、たまに予告なくふらっと、自分の子供を連れて魔法で瞬間移動してくる。そこには相変わらず庭師のトムがいて、毎回面白いくらいに驚いて腰を落としてしまうが、最近では陛下がトムを素早くお姫様抱っこして腰を抜かすのを防いでいる。
あの頃には想像もできなかった幸せな時が溢れている。今日も辺境伯のお屋敷は、笑顔で満ちている。
みんながはしゃいでいる中、俺とガリアードは木陰でいつも通りキスをしていた。それを見た息子が俺とガリアードに駆け寄って抱き着いてきたので、俺たちは愛しの息子を挟んでお互いに息子のかわいいほっぺにキスをした。
リリアン、俺は幸せだよ!
―― 溺愛夫編 fin ――
お読みくださりありがとうございました!
☆riiko☆
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執事といったら田中さんかセバスチャンでおーっと?となりましたね笑笑
ご感想ありがとうございます。
安定のセバスチャン、そして日本なら田中さんですよね‼︎私の中の執事名ですがw
そこの反応ありがとうございます(๑>◡<๑)
凌辱夫編、再録
ありがとうございます💗
これはこれでリリアンには辛い日々だったけど、ガリアードは確かにリリアン愛してたんですよね〜
だから初夜で裏切られた?!みたいに思って暴走止まらなくなっちゃってね〜
自分だって散々ご友人と閨自慢?し合うくらい致してた過去あるのにね〜(笑)
リリアン限定処女厨ガリアード🤭
本編でリリアン幸せにリなれたからこそ楽しめる凌辱夫編。。。
ご感想ありがとうございます(๑˃̵ᴗ˂̵)
物語の整理をして…作品を削除する前にこちらにまとめちゃいました^ ^
もう何度目⁉︎という感じですが、また読んでくださり嬉しいです‼︎‼︎
外伝で物語がすべてが纏まるので、やはり残したいなと思ってのせちゃいました!
リリアン限定処女厨(⁎⁍̴̆Ɛ⁍̴̆⁎)間違いございませんw拗らせガリアードは、実は社畜に救われてました!
楽しかった
お嫁に行った元第一王子のハードなあれやこれやも見たかったです
ご感想ありがとうございます。
お楽しみいただけて嬉しいです(о´∀`о)
第一王子のハードなアレやこれや∑(゚Д゚)この穏やかな番外編にいきなりのハードプレイは穏やかでは無くなる!?でもせっかくいただいたご感想なので、ライラ視点のお話で王子のその後がちらっとお出ししますね☆