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番外編
9、モブは見たくないものを見た
しおりを挟む今日は最愛の旦那様、フォリス様とサーカスに行くの。サーカスという単語は僕が当てはめたんだけど、王都に期間限定で、地方都市から見世物小屋がやってきたって聞いて、僕は旦那様にお願いしてデートを勝ち取った。
お休みの日はお家でゆっくりと、僕を楽しみたいという旦那様。嬉しいけど恥ずかしいんだよね、でも旦那様とイチャイチャできる休日はやっぱり嬉しい!
日頃、王宮という窮屈な場所でお勤めの旦那様。何処にでもフラフラと行ってしまう王太子殿下こと、僕の義兄の警護という名の介護にお疲れなんだよね。
だからこそ、休みの日はお家でゆっくりしたいという気持ちは、前世の記憶の中の社畜をしていた僕なら痛いほど分かる。
分かるけど、前世は遊ぶ時間もなかったから、そんなパリピみたいな人の行く場所には縁が無かった。
でも今は僕は伯爵家に嫁いだ身分。立派なパリピだよね! そんな奥様な僕は旦那様と王都でデートしたいんだぁ。
「でも、ライラ。見世物小屋だなんて、そんな話を誰に聞いたの? 王宮の仲間は誰も知らなかったみたいだよ」
「辺境伯のお宅にお邪魔した時に、ガリアード様と家令の方の会話にそのような話が出ていて、僕聞き耳たててしまいました!」
「ガリアードとリチャードの会話?」
「なんだかお二人は深刻なお顔で、小声でお話されていたから、きっとリリアン様を驚かして、内緒でデートするプランをたてていたんだと思います! 知らずに行ったリリアン様が喜ぶお顔が見たかったんですね」
「うん? なんだかそれ怪しいな」
旦那様は腑に落ちないようなお顔をされた。そういえば見世物小屋がくるという割にはこの辺、静かだなぁ。ガリアード様が言っていた場所はここで間違いないはず。僕は必死に聞き耳たてて、盗み聞きに成功したからね。
それに王都だし、お祭りなんてよくあるみたいだから、みんながみんな見世物小屋に集まるわけじゃなくて、他の人は違うイベントに行っているのかもしれない。
「ライラ、やはり何かおかしい」
「えっ?」
「確かに人はいるけれど、よく見て。みんな仮面をつけて顔を隠している。あそこにいる男は男好きで有名な男爵だし、あっちは以前検挙をギリギリで免れた子爵家の者だ」
「なんだか不穏な方がいるのですね? そんな不審者もやはりお祭りは好きなんですね!」
旦那様は王宮で護衛騎士をしているから、貴族たちの行動に詳しい。さすが騎士! 素敵だなぁ。お祭りは犯罪者さえも一つにするんだね。そんな素敵なイベントを前に心が洗われるんだな、すごい!
旦那様は僕の微笑みに一瞬驚いた顔をした。僕は何事と思って首を傾げた。
「フォリス様? どうなさいました?」
「いや……ライラは一生そのままでいてくれ」
「?」
旦那様は僕を愛おしそうに見て、笑った。まぁいっか!
そんな感じで、王都といえど街の中心から外れた場所に、豪華な大きい真っ赤なテントがあった。松明が周りを照らしていて、なんだか妖艶な雰囲気。
入り口では、受付の人が旦那様を見て驚いた。
「あなた様は! まさかここに入られるのですか? そちらの方は……このような場所に? あぁ、お二人の閨の参考になさるとか? あまりに身分が清すぎるので、お二人はこちらの仮面をおつけください。あなた様ご夫妻がいらっしゃると知られれば、見せ物が霞んでしまいますからね」
「すまない。間違えてしまったようだ。妻とここに来たことは内密に頼む、少し中を確認したら早めに出ようと思うんだがいいか?」
「もちろんでございます。こちらは特殊な趣味を持つ方ばかりですから、誰もここでのことは言いませんよ、ウブな方には毒かもしれませんし、無理はなさらないように。それから……検挙はしないでくださいね」
なんだろ、仮面をつけるの? 秘密の見せ物? 旦那様はすぐに何かを察知したらしく、華麗に対応されていた。かっこいい!
仮面をつけて、みんながここに来たことをお互いに知らないふりをする。なんか、ワクワクしてきた!
「ライラ、ここは多分、ライラの思い描いているような場所ではない。そして、これから始まるコトを見ても声を出さないように。辛かったら目を閉じて俺に抱きついているんだ」
「ん? わかりました」
テントの真ん中に舞台があって、周りを観客で埋まっているような作りだった。内装も大変凝っていて、高級感あふれる作り。いったいどんな見せ物がはじまるんだろう! この雰囲気からして、ピエロとか綱渡りとかかなぁ、楽しみだな。
僕は旦那様のフォリス様の逞しい腕に手を絡めて観客席に座った。そして舞台に人がきた!
「え……」
「ライラ、口閉じて」
「だって、アレ」
「ああ、かつての高貴な身分のお方だ」
まさか舞台の真ん中には、第一王子だった人が大きな男の人に抱えられて登場した。あんなにキラキラしたイケメンの顔を忘れるわけがないし、有名な方だから、貴族なら誰しもが知っている顔。
薄いスケスケのレースの下着だけつけて、首には頑丈な首輪と、手にも手枷を付けられている。第一王子はうっとりとした顔をして、その大きな男に口づけをした、そして、会場にはくちゅくちゅという唾液が交わる音が響く。
大きな男は王子の下着の上から、いやらしい手つきで触る、また新たな男が舞台に登場して、今度はその男が第一王子に口づけをする、そして第一王子は二人の男に体を舐め回されて、喘いでいる。
「うそっ」
僕は思わず自分の手で自分の口を塞いだ。そうしないと、何か叫んでしまいそうだった。他人の閨なんて見たことないし、しかも大勢の人の前で第一王子は我を忘れて感じている?
第一王子の顔が、すごく、すごくえっちだ。それでいて自ら後ろを自分の手で開いて見せて、二人の男に笑いかけた。なんだろう? なぜかその時とても満ち足りたお顔に見えた。
えっ、うそ、まさか、ええっ! 王子の中に二人のアレが同時に……。第一王子の、気持ちいいと言うお声と、大きな喘ぎ声が会場に響き渡ると、客席からは歓声があがった。僕の斜め前に座る人なんて、ズボンを下げてあそこをし、しご、しごいている? な、なんなの、この卑猥な会場は!
僕はフォリス様の胸に顔をくっつけて、視界を閉ざし、耳を塞いでしがみついた。
「あっ、フォリス様。僕もう」
「そうだね、これ以上はライラの目がやられてしまうね。出よう」
「はい、あっ、腰が抜けた」
僕はあまりの衝撃的な光景に力がぬけてしまった、フォリス様はそんな僕を抱きかかえて、その会場を後にした。
テントを出て、やっと賑やかな街の中心に戻った。そしてフォリス様は、僕を噴水の近くのベンチに座らせてくれた。
「フォリス様……先程のアレは」
「あぁ、平民になった元第一王子だ」
「なんで、あんないやらしいことを大勢の前で?」
「私も詳しくは知らないんだが……」
そこでフォリス様が知っていることを教えてくれた。第一王子は、リリアンとガリアードの結婚前に、リリアンの処女診断を歪めるために医者を派遣した。そして医者はリリアンを凌辱しようとする。その内容は僕も知っている。だって前世でアニメで見たから。
ただアニメ通りに行かなかったから、リリアンは今生きて幸せになっている。医者に凌辱されずに頑張ったリリアン、そして第一王子の策略を阻止した第二王子とガリアード様とリリアンは、逆に第一王子を罠に嵌めて断罪した。
そこからは義兄が一人でやったことがあった。
それはリリアンを凌辱できなかった医者を、第一王子と結婚させた。王都から離れた場所で、本来リリアンにしようとした行為を、第一王子にしろとお達しだった。そして、たまにこうやって特殊趣味の方を楽しませるために、凌辱お披露目をしているらしい。そこは医者の趣味らしいけど。
フォリス様は、話には聞いていたけれど、実際は報告だけで内情をそこまで知らなかったらしい。まさか妻からその現場に連れて行かれるとは思ってもいなかったから、驚いたと言われた。
「気づいたら教えてくれてもいいのに、中まで入るなんて」
「ライラが人の話をこそこそ聞くから、そういうことになるんでしょ? これに懲りたら俺以外の人が話すことに興味なんて持ったらダメだからね」
「う、はい。気をつけます」
でも驚いた。リリアンが凌辱されないルートになるためには、第一王子が平民堕ちして二人の男に公開凌辱をされるというルートが開けたのか。
「でもあの方が、たとえ平民になったにしても、あんな従順に男性を、しかも二人を受け入れているなんて驚きました」
「よっぽど、調教されたのだろうな。あの医者はそういう類の趣味を持っているらしい。それに自分の境遇を受け入れて順応されていたのは驚いたが、まぁ自業自得だ。あの方は今自分がされていることを、もともとはリリアン様にしようと企んでいたのだからな」
そうだよね、同情はいらないよね。それに本来ならガリアード様に暗殺されていた未来が、平民堕ちなら命は繋げたしね? それに第一王子のあのお顔は、心から嫌がっているようには見えなかった。適材適所ってあるんだね、知らなかったよ。
「それは……リリアン様も恐ろしかったでしょうね」
「ガリアードがリリアン様に一目惚れして、初めから独占欲が強くて医者の診察すら許さなかったらしいぞ。だから医者の凌辱は免れたんだとさ。もしリリアン様が凌辱でもされてみろ、今頃あの舞台にいた医者も第一王子も生きていなかっただろうな」
「そ、そうですね」
うん、僕の旦那様は鋭いね。
でもあんな破廉恥な結末になるのは、やっぱり驚きしかなかったよ。物語の強制力かな? 凌辱は必ず成し遂げなければいけないとか? そんなことないか!
リリアン、良かったね! 凌辱されるルートは第一王子が無事に果たしてくれているからね。あとは溺愛ルートしかないはず。うん、嫌なものを目にしたけれど、なんか妙にこの物語に納得をしてしまった僕だった。
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