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番外編
5、超モブ転生 〜ライラ視点〜
しおりを挟む僕は昔好きだったアニメがあった。
なぜかタイトルが思い出せないのだけど、たしか王太子を決める争いの中、壮絶イケメンの第二王子がヒロインに出会って、敵である実の兄の第一王子を打ち破り、見事王太子になってヒロイン結ばれた。
第一王子の悪政を立て直し、みんな幸せになる物語。
その物語ではもちろん犠牲になる人もいる。とても可哀想な公爵令息がその代表格だった。二人の争いの種にされるためだけに辺境の地に一人嫁ぎ、凌辱夫に虐げられる。彼の死により物語が動き出す大事な最初の犠牲者だから必要なのだろうけど、ひど過ぎる話だなって僕は思った。
でもね、もっと前に犠牲になる人もいるの。
それが僕、ヒロインの弟である男爵家ライラという素朴な男の子だった。
なぜ僕がそんなことを知っているかって? それはこの世界に転生したから。その記憶を思い出したのは最近だったけれど、記憶の中の僕は毒親に娼館に売られる、そこでいろんな男に犯されて死ぬ運命だった。この世界は僕が生きた日本とは違い、同性婚が普通にある世界。だから体を売るのは女だけではなく男もお尻を使って抱かれるのが当たり前の世界。
前世では、僕はそういう人種だったからそこは問題ないのだけど、でも売られた先でやられ過ぎて死ぬって、どういうこと!? そんな経験をするために転生したわけじゃないと信じたい。でも僕の死をきっかけにヒロインである姉が人身売買の現場を取り押さえようと躍起になる中で、第二王子と出会う大事なきっかけ。
だからヒロインが主人公と出会うのに必要な大義ある死なのだけどさ、それ死ななくても僕が人身売買の証拠を見つけて第二王子に渡せばよくない? だって僕はそれを掴む方法をすでにアニメで知っているから。
そんな感じで、僕は売られる前に行動を起こして、無事に殿下と出会った。もちろん姉に泣きついて、親に売られることを知ったからその前に、その人身売買をする現場を押さえて、街の守衛に突きつけたいと相談すると、ブラコンの姉はすぐさま協力してくれた。そんな中、身分を隠して潜入捜査をしていた第二王子と姉は出会い恋に落ちた。
なぜか僕は殿下の護衛騎士に、危ないところを何度か助けられるうちに惚れられてしまった。
そして僕もその騎士に救われて、毒親から引き離してもらいその彼の家に居候することとなり、結婚の約束をしてもらった。僕の記憶のお陰で僕は死なずに済んだし、物語も第二王子が第一王子を打ち破り、見事姉と結婚した。
でもちょっと待って!?
僕はモブ中のモブだったし、物語に名前さえ出てこなかったキングオブモブだけど、主要人物でこのハッピーエンドの場にいるはずのない人がいた。
それは、物語の最初の数分で死ぬ、公爵令息のリリアン・ワインバーグだった。
◆◆◆
「ライラ! 今日はありがとうな。お前の姉さんは俺が一生かけて守っていくから安心しろ」
「殿下、本日はおめでとうございます。どうか姉のこと末永くよろしくお願いいたします」
今日は姉と第二王子の結婚式だった。第一王子はなにかやらかしたそうで、平民になったらしい。そして第二王子が王太子になり、姉との結婚。すなわち僕の姉は今日から王太子妃なのだった。
「おいおい、俺はもうお前の兄貴だ、殿下なんて呼び方は卒業だろ? お兄ちゃんって言ってみろ? ほら、早く」
「え、お、お義兄様?」
「ふはっ、赤い顔して、ほんとお前は可愛いな。お前は純朴で野草そのものだ。可愛い義弟よ」
野草って。酷くない?
「殿下、私の妻になる人を野草などと……。ライラ、この式が終わったら私たちもついに結婚出来るよ。楽しみだね」
「はい! 本当に嬉しいです。殿下、じゃなかったお義兄様、僕と姉を救ってくださり本当に感謝しております!」
「ああ、お前たちのことはもう安心だ。ライラよ、夫となるこいつとお前こそ末永く幸せになれよ」
僕は幸せだった、死なずに旦那様になる人まで出来て。
モブなのに、めちゃ幸せ。姉はあっちで人に囲まれて幸せそうにしている。そして今、姉と話しているのは、例の死ぬはずだった公爵令息だった。その隣には妻を愛おしそうに見つめながら、腰を抱いているあの凌辱夫である辺境伯がいた。
殿下もそっちを見て、笑っている。
「今おまえの姉と話しているの、俺の親友のオスニアン辺境伯に嫁いだ”王国の花“と呼ばれる麗しき辺境伯夫人だよ。あのリリアンが花ならお前は純朴な野草だ。これは誉め言葉だぞ! あの花はああ見えてあざとくしたたかで、夫と変態プレイを楽しむ凌辱夫妻だからな。お前はくれぐれもあんな変態にならずに、いつまでも俺の可愛い野草でいてくれよな」
「変態? 凌辱夫妻?」
なんの話?
「ああ、あの二人見て見ろよ。相思相愛丸出しで、どちらも狂おしいくらいにお互いが好きなんだって。政略結婚から始まった割には純愛でさ、俺としては親友が幸せならそれはそれで嬉しくてな。今回の兄上を討伐する際、リリアンが大活躍してくれたんだ」
リリアンが大活躍!?
どういうことだろう。でも第一王子が平民になったという結末は僕の知る結末と違う。僕が知る結末は……リリアンの死後、辺境伯はリリアンに愛されていたと知り、そしてリリアンを凌辱する原因になった第一王子に恨みを抱き、第一王子が幽閉される場所に連れていかれる時、辺境伯に暗殺されたのだった。
「そ、そうなんですか。リリアン様も幸せになられたのなら良かったです」
「ん? お前リリアン知ってた?」
「いえ、噂で“王国の花”を知っている程度です」
そうかリリアンも、もしかしたら僕と同じ転生者なのかもしれない。アニメで見るリリアンはただただ可哀想で、夫に従うだけの従順な妻だったはず。でも僕の目に映るリリアンは、そんなおどおどした風には見えず、自分から旦那に抱き着いて笑っている。
可愛いだけのリリアンは、レベルの高い人種が転生したのだろう。それで夫を逆に支配して、凌辱夫を手なずけて自ら凌辱を楽しむ、凌辱妻としての地位を得て、あのように幸せな結末になったのだろうな。
いつか機会があったら、リリアンと話してみたい。でも、どんな日本人だったんだろう? そんなあざとくて策士な人と僕みたいな、ただの根暗な元社畜と話が合うかは疑問だ。あの人の転生前はきっと、パリピだったんじゃないかなと僕は踏んでいる。
「ライラ、どうした?」
「あ、何でもありません。僕もお義兄様やリリアン様みたいに幸せな結婚したいなってそう思っただけです」
そうしてリリアンに見習い、夫になる人に寄り添ってみた。そしたら彼は赤い顔して僕に笑った。
「ライラ、俺はあなたを誰よりも幸せにする。愛しているよ」
「僕も、僕もあなたを愛しています」
彼は僕にキスをする、そしてお義兄様は笑った。
「はは、お前らも相当だな。俺の周りは妻バカばかりで頼もしいよ」
今日も平和な転生生活だった。
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