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番外編
4、サリファスの想い 2
しおりを挟む俺は、全てを放棄してもいいと思えるくらいの相手に出会ってしまった。だがそんな本気の相手であるリックは俺に愛を求めない、そして俺も肝心なことは何も言わない。
本気だと思われて引かれてしまわないように、オスニアン家の使用人に軽く手を出すふりをリックの前でしていた。あくまでも使用人とは遊びで付き合うという風に見せることで、リックが狙われないように。王子の本気の恋人が平民だと知れたら、それは暗殺されかねない。
立場がある以上、簡単に言葉にできない俺はそれとなく王子をやめると言ったら、速攻で否定された。それが答えなのだろうか? 王子という立場を失くしたらリックに愛を伝えることが出来るが、今はまだそんなことを言葉で伝えるには、身分が重すぎる。
「なぁ、ガリアード。俺は王子をやめるべきかな、それともリックを開放してやるべきなのかな?」
「なんだ、いきなり」
「愛しているんだ……」
「そうか」
ガリアードは昔から多くは語らない、だが驚いた顔をしていた。
「リックは、この家にとってなくてはならない子だ」
「ああ」
「そして、お前はこの国にとってなくてはならない存在だ」
「知っている」
「俺はそれしか言えない、ただあの子を悲しませないで欲しい」
それはどっちの意味だろう、別れを切り出して悲しませるな。それとも王子をやめることによって、この国の腐敗を増やして自分の生まれた場所を悲しい場所にするなというリックの想いなのか? ただ俺に王太子を目指すことをやめないで欲しいと言うリックを考えると、後者なのかもしれない。
「それと、お前とリックの関係を良く思っていない奴がいる。そいつは本気でリックを想っていて、口説き落とそうとしているぞ」
「え……誰だ」
俺のリックに懸想するやつがいるとは!
「戦場で知り合った騎士だ、そいつは爵位を捨ててリックに寄り添うと言っていた。本気に見えたぞ」
「そうか、リックは?」
「さあな、私には分からないが、お前がいるからその騎士との進展は今のところないみたいだ。だが、俺から見てもそいつ……ヤンはとても頼れる存在だ、あいつにならリックを任せても問題は、ない」
そうか、そうだよな。リックのために爵位を捨てられる。それがそいつの答えだ。俺はいまだにうじうじと悩んでいる。しかもガリアードが信頼するべき相手なら、きっと相当いい奴なのだろう。
「サリファス、お前は持っているモノが大きすぎるだけだ、お前もヤンと同じ立場なら迷いなどなかったはず」
「ああ、でもそれこそが答えなのかもしれないな」
そうして俺は行動に起こした。
リックが俺の上にまたがって、一生懸命に腰を振る。なんて淫らでエロくて綺麗なんだろう。こんなの知らない。俺をとりこにするのは、こいつだけだった。二人で達し、リックは激しく乱れて疲れたのか俺に抱き着いて、動かなくなった。
「リック?」
「俺、俺この何年かとても幸せだった」
「リック……」
「サリ、こんど大きなことしようとしているでしょ。こないだガリアード様の書斎片付けて、分かっちゃったんだ。人身売買なんて絶対だめだよ。サリの立場ならそれを止められる」
「……うん」
リックは何を言おうとしているのだろうか。リックは俺の胸に手を当てて体を引き離した。その際、リックの中を満たしていた男根は外された。
「ふっ、あん、このサイズ、俺には大きすぎるよ」
「そんなことないだろ、お前を満足させられるのは俺だけだよ」
「ふふ、自意識過剰じゃない?」
もしかしたら、リックもそろそろ潮時だって分かっているのかもしれない。これ以上、俺がリックに本気になれば悪影響になりかねないと。王子をやめるとまで言い出した俺に焦ったのかもしれない。
自分からこの関係をやめたいとは立場上言えない? 俺はこいつの上司の友人で、この国の王子。きちんとした関係を言えない俺たちは、いわば恋人でもない。王子の性処理としての立場とも言えなくもない。リックは妖艶な笑顔で俺を見た。もしかして俺に、俺に最後の言葉を言わせたいのか?
「サリ、キスしよう」
「あ、ああ」
キスは思った以上に長く続いた。愛おしいこいつを放したくない、だけど、俺じゃこいつを幸せにはできない。たとえ王太子になっても俺はこいつを嫁にすることはできないし、貴族たちが許すはずもない。だからといって愛人にしてしばりつけることもできない。それほどに俺はリック一人にはまっているから。だから、もう、潮時だった。
「リック、俺のこと好きか?」
「なに、それ」
リックは笑う。そして俺はリックに嫌われるために、リックがどうしても俺を受け入れられないという行為をさせようとした。直前まで答えはわからなかった。リックは俺の大きな男根を躊躇なく飲み込むし、俺を喜ばせるのは誰よりも上手だったから。
だけどリックは、笑って言った。
「百年の恋も冷めるね、できないよ……殿下」
殿下呼びになった。これが俺とリックの終わりを告げる。
「そうだよな、俺はこれが出来る奴を嫁にする」
「あんた、一生結婚できねぇな、あはは」
そんないい思い出の別れ話を思い出していた。
◆◆◆
「それにしても、第一王子断罪劇の時の、あのリリアン様の三日分のミルクの話、あれ殿下がリリアン様に言わせたんですか?」
「俺じゃねえよ。あの劇は全てリリアンとガリアードのアドリブだ」
ヤンが俺に兄上断罪劇の話を振ってきた。
「ああ、あれ、俺がリリアン様に教えてあげたんだよ! どっかの変態に昔言われて、す――っと、気持ちが冷めたことあったんだ。リリアン様にそれ言わせたら、第一王子もさすがにリリアン様への恋心も冷めるかなって思って」
「へえ、そんな変態に絡まれたことがあったのか? 俺の妻は可愛すぎて心配だな」
「今はヤンっていう最強の旦那がいるんだから、さすがにもう無いよ、愛してるよ」
「ああ、俺もリックを愛している」
また暑苦しい夫妻のイチャイチャが始まる。
「お前らさ、ほんと不敬だよ。嫁にかまわれない寂しい新婚生活送っている俺の前で平気でイチャイチャとさ」
「だったらそんな頻繁に辺境に来ないで、王太子妃に真面目に謝ってくださいよ」
「本当だよ、いつも可愛いリリアン様をからかって、いい加減ガリアード様に殺されちゃうよ!?」
ヤンとリックと、そんなたわいもない話をしていた。俺たちの別れ話でのエピソードが、あの断罪劇に使われた。リックの入れ知恵だとは分かっていたし、笑い話にしてくれて救われた。リックは今とても幸せそうで安心するし、やっぱり愛されているリックを見るのは嬉しい。
俺もあの失恋を経て、嫁と出会えた。彼女は下級貴族であり、何とか伯爵家の養女にすれば俺と結婚できる身分ではあった、結局国に役立つ立場とか関係なく、普通の下級貴族を嫁にしたな、俺。それほどの恋じゃなくちゃ、無理だった。リックを忘れさせてくれるくらい溺れる女じゃなければ。
もちろん三日分は飲ませていない、あれはリックじゃなきゃ無理だ……リックにも断られたけれど。初夜ではやらかしたが、俺は嫁を本気で愛している。ちゃんとリックとは別の気持ちをもって、これから一生彼女を守ると決めている。ただこうやって昔本気で愛した人と、関係が途切れないでいてくれることに安堵して、俺はこれからも辺境になんだかんだと理由をつけて、こいつの幸せを見守り続けるのだろうなと思った。
それにしても、あの変態伯夫妻。いつまでヤッてるんだよ。全く部屋から出てこねぇな!
****
本編にでてきたリリアン側の凌辱劇に使われたシナリオの元のお話でした! サリファスとリックの本気の愛に使われた「ミルク秘話」
応援ありがとうございます!
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