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20 甘い朝

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 幸せな夜だった。俺は男だったし、社会を代表する社畜だったから、必死になって守るべきものを守るために、自らが動くのを当たり前だと思って生きてきた。

 ここに来てもそれは変わらず、俺は、俺ことリリアンを守るために、必死に働いてきた。だけど、なんだこの充足感、守られている感? 自分で何かを行動するよりも、誰かの胸で休むことがこんなにも満たされることだとは思わなかった。

 昨夜、溺愛ルートは約束された。

 俺の体はガリアードを心から受け入れて、ガリアードも何度も愛していると言ってくれた。これでハピエンで終わって、そのままただの幸せライフでもいい気がしてきた。俺は、この男に守られていればいい、たった一夜ですべてが塗り替えられた気がした。

 目の前にいる美丈夫はリリアンを愛している。俺も愛なのかはわからないが、嫌じゃない。目が覚めると温かいぬくもりに抱きしめられていた自分に、安堵していた。そして、心地がいいと感じた。

 じっとガリアードの寝顔を見ていると、ガリアードが薄く目を開いた。

「リリアン? おはよう」
「おはようございます、ガリアード様」

 朝から低い声が、俺の心臓にきた。朝の寝起きの男が色っぽいなんて知らなかった。そんなこと感じたことなかった、異世界やべぇ。男の中の男という男臭い、男男している男を色っぽいと認識してしまうくらいに、男という単語が俺の脳内を埋め尽くしていく。

 ついに異世界転生のバグが、視力にも現れた。

 俺は目を擦ってもう一度目の前の男を見るけど、何回見直しても同じだ。

「かっこいい……」
「リリアンは、寝起きも可愛いよ」
「あっ、恥ずかしいです」

 思わず俺の本音が出ていたみたいだった、だってかっこいいんだもん。仕方ない、そしてリリアンは寝起きでも可愛いと言われた、俺の寝起きの顔をお気に召されたようで良かった。

「体は大丈夫か?」
「はい」
「そうか、昨夜は可愛かった。今も可愛いけど」
「……ガリアード様は常にかっこいいです」

 ベッドの中で、たくましいガリアードに抱きしめられながら、朝からイチャコラ会話をしている。初夜後の朝ですよ、まだ色気が残った男に抱きしめられている。俺っちどうしていいかわからない。するとガリアードがいきなり起きた。そしてベッドの下におりて膝をついた。

「えっ、えっ、ガリアード様!?」
「リリアン、私の妻。あなたを一生、この命にかけて守ります」
「あっ、僕もあなたを夫として、この命をかけて支えます」
「愛してるよ、リリアン」
「ぼくもっ」

 俺は起き上がって、ベッドの下にいるガリアードに抱きついた。

 そうだった、この世界の初夜後の挨拶、夫婦としての愛を改めて誓う定型文があるんだ。俺はアニメを見て憧れていたから、感動して思わずガリアードに抱きついた。憧れたというのはね、第二王子が未来の王妃と初夜を迎えた時にそういうシーンが出てきたんですよ。アニメ本編の主役は第二王子だから、第二王子が幸せになる過程に必要なこと、十八禁ではなく地上波の誰でも見られるアニメだったから初夜シーンはない。翌朝見つめあう二人、膝をつく第二王子、そしてキス。それくらいの感じ。清い、尊い、誰もが感動したシーンだった。

 もちろんガリアードとリリアンの回ではそんなシーンは出てこなかった。最初から酷い扱いだったから、愛を誓って貰えなかった。公爵家で育ったリリアンは結婚に憧れがあったのに、何一つ憧れ通りにはならず、散らしていった。

 お前の無念は今、俺がはらしてやったぞ!

「相変わらず可愛らしい人だ」
「好きです。ガリアード様」

 二人熱い抱擁を交わしていた。

 本来の十八禁アニメのままなら明け方まで貪られて、少し気を失って、目が覚めたらまた始まる。終わらない初夜、それが数日続いていた。だから俺はこのまま、またガリアードに抱かれるのかと思って、ちょっと期待していた。昨夜は酷い抱かれ方など一切なく、一度だけの契りだったから、体力気力ともに俺には余裕がある。もちろん精力も! なんなら興味も、全てにおいて受け入れ態勢バッチコーイ!

「リリアン、昨夜は疲れただろう」
「初めてのことで、戸惑うこともありましたけど、ガリアード様が優しくしてくれたのでそこまで疲れも残っていません、ただただ幸せでした」
「ふふ、可愛い人だ。私もだよ、幸せだ」

 あまぁーい!

 抱き合っていた腕を離されて、キスが降りてくる。俺はそれを受け止めたが、すぐに唇が離れていった。あれ? キッスが軽くない? 初夜が済んでガリアードは達成感で満たされてしまった? もう俺、飽きられた? 

「お腹空いただろう? 初夜の翌朝はベッドで食べる習慣があるんだよ、ここに食事を運ばせようか」
「……はい」

 そうか、溺愛夫になったから、この世界の常識通りの対応だった。リリアンならがっついてはいけない! ちょっと、ほんとはもうちょっと、チョメチョメしてもいいかなって思っているんだけど仕方ない。甘々新婚生活の始まりだーい!

 それから朝はジュリと、オスニアン家の侍女たちが部屋に食事を運んできた。その際、ジュリがリリアンにウィンクとサムズアップをこっそりしてきたから、僕は微笑んでお返しした。

 あれは、その後の処理もうまく出来たということだろう。甘い朝にあえて仕事の経過報告をしないという、できた侍女だった。

 リリアンとして、俺はガリアードと甘い朝の時間を二人で過ごした。エロなしで!

 ガリアード、屈強な大きな体をしている男なのに、手の動きは繊細で綺麗にフォークとナイフを使い、リリアンの小さいお口に食事を運んでくれる。全く動かずに、食事するのは初めてだよ。介護じゃない、これは溺愛行動。餌付けとも言う? ガリアードが嬉しそうにリリアンの可愛い口に小さく切った野菜や肉を入れてくる、俺がもぐもぐしている間に自分の口にはリリアン用の三倍くらいの大きさの肉を口に運んでダイナミックに噛んでいた。

「かっこいい」
「ん?」

 俺、本気で見惚れた。戦場で生きる男、ガリアード、かっけぇぇー。朝からカッケェ! 男なら憧れる男の中の男! 

「ガリアード様は、お食事をしていているお姿もかっこいいです」
「そうか? はは、リリアンは小さい口で一生懸命噛んでいる姿も愛らしい」

 こんな和やかな朝食会場は、ガリアードの部屋のベッド。

 あまぁぁーい!

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