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3 今の状況
しおりを挟む俺は今、馬車に乗っているところを侍女にゆすぶられて起こされた。一瞬で頭の中に、凌辱ストーリーが蘇って今に至る。馬車から降りると立派なお屋敷、そしてあれよあれよと屋敷に入り、ガリアードとご対面。
思い出せ、俺。ここは確か出会いの場、本編では紹介されない部分、十八禁アニメのオープニングではないか?
豪華絢爛とまではいかないが、立派なお屋敷に行き届いた手入れのされている庭園、ずらっと並ぶ使用人。そして、当たり前にガリアード。
「良く参られた。私はこの屋敷の主、ガリアード・オスニアンだ」
えっと、なんだっけ。そだ、自分の名前を名乗るのか!?
社畜の基本、名刺交換、しかしこの世界には名刺が無い! そういう時は笑顔で印象をよくする。社畜の豆知識、人の印象は三秒~五秒で決まると言われている。視覚五十五%、聴覚三十八%、言語七%、人の印象は見た目がほぼ。秒で決まるなら、一瞬で見えた瞬間が勝負。すなわち笑顔。にっこり笑って、おだやかなトーンで挨拶をすれば問題ないと、前世の社畜魂を脳内リピートした。
「リ、リリアン・ワインバーグでしゅ、あっ」
噛んだ、オワタ。
「噂通りみたいだな。明日の婚礼まではくつろがれるといい」
あれ? ガリアードが笑った。
セリフだけ聞くと、冷たい感じに聞こえるが、顔を見ると柔らかい。そんな出会いだっただろうか。そういえばアニメのリリアンは、会う前からガリアードに対する予備知識を入れすぎたせいか、怖すぎて挨拶もろくにできず俯いただけだったから、ガリアードの表情までは見ていなかった。
そしてガリアードのセリフは、一言一句アニメと相違ない。
アニメではなぜか初めから不仲だったような、初夜から同意なく襲われるところスタートだったが、もしやリリアンの態度も悪くて印象が悪い始まりだったのかもしれない。とにかく婚礼は明日、初夜も明日。一日猶予ができたことに俺は喜んだ。
使用人に通されるままに、自分の部屋と言われるところに入った。そして公爵家から連れてきた侍女がお茶を入れる。リリアンとしての記憶も不思議と自分の中にはある。だからこの子のこともよく知っている。
「リリアン様、お可哀想に。あんな屈強な男の嫁になるなんて。大切にお育てしたお嬢様、じゃなかったお坊ちゃまが」
「……今、僕のことお嬢様って言ったよね?」
「そうでした? さて、これから医師による診察が控えておりますから、早速ですが湯あみをいたしましょう」
「お風呂? なんで診察前に体洗うの?」
普通に疑問に思ったことを侍女に聞いた。アニメの中に転生したとはいえ、自分は生きてリリアンとして動いている。疑問は残さない、これはミスをしないための社畜の基本。
「あら、だって、お嬢様が処女かどうか確かめるために、アソコのご確認があるんですよ。綺麗にしとかないと。それと明日の初夜に合わせて今からお肌を整えるべきですわ」
「ぶふぉっ!」
「あらあら、大変。お茶をこぼされるなんて公爵家のお嬢様がはしたない……」
「ちょ、いろいろツッコミどころ満載だけど、まずは僕は男だからね」
侍女のジュリがきょとんとした。
「あらあらそうでした! リリアン様は男の娘! それに突っ込まれるのはリリアン様ですよ、きゃっ」
「……」
リリアンの侍女は、気さくで卑猥だった。アニメだけ見ていると、こんなに細かい設定までは流れてこなかった。やはり自分は生きていることを噛みしめた。そしてリリアンの見た目は、男というより女に見えなくもないが、小さいながらあそこにも男の象徴はついている。
とはいいつつも、ここは十八禁の世界観。突っ込まれるのは間違いない。このリリアンは初夜でもちろん先ほどの屈強な男に犯される。しかしその前に心が折れる最初の出来事がある。それはリアルお医者さんごっこだった。
医者はリリアンの処女を確かめるだけではなく、旦那様を受け入れるためには感度を上げる必要がありますとか言い、リリアンの体を舐め、しまいにはリリアンの尻の中まで舌を入れ込んできた男だった。もちろんガリア―ドはその事実を知らない。
ちょっと待てよ、確かその医者は王家から派遣されて、リリアンを処女じゃないという嘘をガリアードに耳打ちした奴だ。
第一王子からの、嫌がらせ指示。
まんまと策にハマったリリアン。処女じゃない息子を送った公爵家に対して、ガリアードは不信感を抱いた。男も嫁ぐなら処女が条件である。というなんとも嫁を自分だけに染められるという時代錯誤な世界観。ちなみにやる側の男の貞操は関係ない。
怒ったガリアードはリリアンを痛めつけた。初めから処女に対する行為じゃなかったのは、リリアンがヤリマンだと勘違いしたからだった。
リリアンの死後、物語の中ではガリアード自らネタ晴らしをしたのだが、初めの出会いの時点でガリアードはリリアンに惚の字だったらしい。それがとんでもない淫乱で、ヤリマンだと医者から嘘を吹き込まれたことで、素直になれなかった。
ていうかこんな可憐なリリアン見て、それを信じるガリアード君を俺は疑うね。なにが惚の字だよ、童貞か!
そんなことを思い出していたら、手際のいいジュリに風呂で体を洗われ、丁寧に全身マッサージまでされて極楽だった。
女の子に肌見せるのも、このリリアンの体は慣れていたようで抵抗もなく素直にされるままになっていた。
それにしても、公爵家の息子っていいなぁ。
こんな贅沢なエステを受けられる男がこの世にいることに驚いた。ブラック企業所属の会社員という名の社畜には、そんなことをする暇もない、金もない、金は全てSMに消えていく。
体が辛いという時は、家電量販店でマッサージチェアお試ししたいと言い、説明聞くふりして体をほぐしていた。店員に嫌な顔をされながらも、最高の時間を得るのがちょっとした楽しみ。
そんな悲しい人生だったから、こんな贅沢な時間はご褒美だと。そんな思いで意外にもリリアンを満喫していた。
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