ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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番外編

9、藤堂はじめ苦難の日々 1

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 俺は藤堂一とうどうはじめ、護衛対象の桐生良太を十歳の頃から監視して、早十年。その良太は、今では結婚もして上條の姓に変わり、可愛い子供まで産みやがった。

 めでたしめでたし……で終わるわけもなく、俺の苦悩はここから始まったと言ってもいい。この先も、その護衛対象だった良太だけではなく、その子供達までもが俺を悩ませる対象となっていった。

 そして、その子供がなぜか今、俺の膝を占領している。ここは妻の特等席のはずなのに……なぜ。

「うわぁ、はじめさんのお膝で寝ちゃったの? そこ気持ちいいもんねぇ」
「すぐにどかそう。今すぐお前がここに寝るべきだ」
「なに馬鹿なこと言ってるの、もぅ。それにしても本当に可愛いね! 僕たちも、もう一人作っちゃおうか?」
「今すぐ始めよう!」

 俺は膝で寝ているしずくを持ち上げると、雫の目がパチリと開いた。そして大泣きを始めてしまった。こいつがいると子作りどころじゃない。

「ああ、起きちゃったじゃん。ほら、しぃ君こっちおいで」

 最愛の妻が、雫を抱っこした。可愛い、俺の嫁が可愛すぎる。雫も抱っこされて泣き止んだ、早いな、嘘泣きか!?  こら、俺の嫁の胸を独占するなんて生まれながらにアルファの能力発揮しやがって。

「それにしても災難だよね。良ちゃんの発情期に由香里さんが風邪ひいちゃって、さらに絢香さんのところも家族旅行中でしょ。しぃ君はまだ由香里さんか絢香さん以外だと、長時間預けられるほど安心してる人がいないもんね! はじめさんがしぃ君に懐かれててほんと良かった。これなら一週間、我が家で過ごせそう、ねぇ、しぃ君!」
「あぃーー」
「うん、ご機嫌さんだ!」

 ちなみに俺は不機嫌さんだ。

 良太の発情期に合わせて、今日から俺の休みも決まっていたのに。俺と妻のイチャイチャウィークが無くなるなんて、とほほ。

「せっかくの休み二人きりで過ごすはずだったのに、ごめんな、他人の子供の子守りをさせるなんて」
「ううん、僕もはじめさんの役に立てるの嬉しいよ。それにこういうの久しぶりで、なんだかいいなって思ってたの。僕たちの子供は早くに独り立ちしちゃったし、子育てがまた体験できるなんて新鮮だよ、しぃ君可愛いし!」

 そんな穏やかな夫夫ふうふ時間も、まぁ悪くないか。俺と妻と雫で一週間親子ごっこでもするか。そう思っていたら、ばたばたばたっと家の中に騒がしい音が入ってきた。

「親父! しぃ君がきてるんだって!?」
「親父、母さん、ただいまぁ――」
「なんでお前らが来てるんだ」

 俺たちの双子の息子が騒がしく帰ってきた。今は全寮制の学園に通っていて満喫しているが、たまに妻に呼び出されてちょくちょく俺を抜かして三人でランチに行ったりと楽しんでいるのは知っている。妻が喜ぶなら見過ごすことにしているが、さすがにアルファとして自覚を持ち始める年頃なので、そろそろ母親との逢瀬はやめて欲しいが、俺が忙しい分、息子たちに妻をねぎらわせるのは仕方がないとあきらめも入っている。

 実家にすぐに帰ってくる双子だが、将来は、警察キャリアになるとか言っているので、真面目に学生生活を送っていると信じたい。

 俺は息子たちに言った、それはやめておけと。

 世の中の誰かを守るよりも、たった一人の最愛を守れる方が誇らしいし、今の俺を見ろと。良太にいいように使われて、さらにはその子守までもさせられていると。

 それを見た息子たちは、やっぱり護衛かっこいい――と訳のわからんコトを言っていた。

 妻は父親の背中ちゃんと見て育って良かったねって言ったが、あいつらは何を見ていたのだろうか。俺のこの苦難の日々を知らなすぎる。俺は若いうちに稼ぐだけ稼いで早期退職して、子供が巣立ったころには妻と悠々自適なラブ生活を過ごす予定だったのに!

 子供だけが早くに巣立ち、俺はいまだ良太に惑わされている。

「しぃ君、こっちおいで」
「うわっ、マジで可愛い。良ちゃんの子供だもんね、そりゃ顔も良くなるか」
「ん? でもこの顔ってどちらかというと、あの傲慢アルファに似てねぇか?」
「あ――、そうかも。でもいいじゃん、まだ赤ちゃんだしさ」
「そだな、どちらにしても、俺たちの弟分には変わりない!」

 双子が雫を抱っこして、なにやら意味の分からないことを言っている。

「ふふ、あの子たちもあっという間に、誰か特別な子を連れてきて、僕たちにもしぃ君みたいな可愛い孫ができるのも、時間の問題かもね?」
「そうか? 何ならあいつらの兄弟を今から作ってもいいんじゃないか?」
「んもう! はじめさんったら。そんな年の離れた兄弟なんて、恥ずかしいでしょ」
「ああ、あいつらなんで今日帰ってきたんだよ!? 俺たちの子づくりができないじゃないかぁ」
「やめてよ、もう。しぃ君を預かっている最中はどっちにしてもそんなこと、出来ないでしょ」

 赤い顔をして俺にぼそっという妻が、最高に可愛い。

 双子もまぁ、デキはいい方みたいだし、これからの俺の心配もやはり良太なのだろうな。いや、雫という赤ん坊も増えたから、前より酷いじゃねぇか!? くそっ、上條め! 破格の報酬をもらってもなお、あいつは憎い。俺と妻の素敵な休日が、結局は息子と孫みたいな雫に潰されてしまい、ここから一週間、雫に妻を占領されて俺の心は久しぶりに乱されたのだった。
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