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最終章 それぞれの選択
223、最終章 13
しおりを挟む「君たちは、なんてすれ違いばかりしているんだろうね。それに寝起きに僕の名前ね……それは嬉しいな、それでアルファ様はキレた訳だ、可哀想な良太君、その時、君はきっと寝ている良太君にいやらしい手つきで触っていたんじゃないの?」
むっとした桜の答えが聞こえた。
「ええ、まどろんだ時にあなたの名前を言われた。それこそ無意識下の本心でしょ」
「それはね、違うんだよね。僕がそういう風に躾けたの。顔から触れて首のある一点を触ったら僕の名前を言ってキスをねだるように。抱くたびにそれをやらされていたから良太君の癖になったんだね。可哀想に、ただの意味のない癖で良太君は捨てられたのか。ほとんど僕のせいだったんだね」
なにそれ。勇吾さん、俺、犬じゃないんだから、触ると名前呼ぶシステムって。もう俺の変な癖とか性癖とか、色々俺の口出しできないとこで聞かされるって拷問じゃん。
「アルファって馬鹿なんだね、可哀想になってきたよ」
「いや、アルファがバカなんじゃなくて、こいつが特別のクソってだけだ。上條って遺伝子は最悪だな。良太がお前の子供を産みたくないわけだ」
え――俺そんなこと言ってないじゃん! 藤堂さん何言っちゃてるんだよ。桜の遺伝子だよ? とても俺の腹が大事だよ。俺の遺伝子を残したくないだけって言ったじゃんかよ――。ってか桜に妊娠していることまで言っちゃたの? 酷いよ、ラスボス藤堂。
「ちょっと藤堂さん、良太君の想いを捻じ曲げちゃダメですよ、彼、聞いていますから。きっと今あなたに怒っていますよ? お腹の子供は愛おしいって言っていたでしょ?」
「ああ、そんなことも言ってたっけな? 俺それ聞いた時、ぞっとしたけどな。大事だっていいながら腹の子供に自分と一緒に死んでくれなんて、マジで演歌の世界で、呪いの世界だ、お前みたいなクソアルファと匹敵するくらい良太の愛情も相当だったな」
「俺は、録音を聞いて歓喜しました。良太は俺のこと狂うくらい愛してくれていたんだって、番に愛される喜びを、悔しいけど藤堂さんと良太の会話で痛いほど感じられました。感謝しています」
さっき言っていた、レコーダーって藤堂さんとの会話だったの? 俺、あの喫茶店で最後だと思って思いっきり包み隠さず桜を愛しているって話を連呼していたじゃん……恥ずかしい。
藤堂さん、やり過ぎです。
「良太の子供は無事なんですか? まさか、俺の子供を身籠っていたなんて。そんなことを知っていたら、無理やりにでも俺の元で幸せにする決意ができたのに……。子供を身籠ったことも良太には死ぬ覚悟を覆せなかったんですね」
「お腹の子供は無事だけど、もう諦めなさい。どっちにしても今の良太君には産むことはできないよ。精神的にも肉体的にも。だけどお腹の子供が流れても良太君はその場で命を絶つ。子供を愛しているから一人では逝かせないって言っていた、彼はすでに立派な母親だよ。もう出すべき結論は一つなんだよね、良太君の中では……」
「残念だったな、お前より腹の子を取ったんだ。オメガは本当に凄い生き物だよ。良太はまだ十八歳だってのに、もう立派に母親ヅラだったな。責任も持てない男に孕まされて、本当に可哀想に」
藤堂さん……。
「お願いです。良太をどうか繋ぎ止めてもらえませんか? 俺はやっぱりきちんと話してからにしたい。良太の意思は尊重すべきなのはわかりました。でも、でも、俺は良太を死なせたくない……愛しているんです。子供と良太と三人でやり直したい」
「そうだね、本来はそれが一番自然でいい。僕も桐生氏も、絢香さんだって、良太君からの恩恵は十分に受けているんだ。良太君は罪悪感に苦しんでいたけど、誰にそう思うことはない。だって、良太君を引き取った十億は君が総帥に渡したし、絢香さんは総帥と結婚できて結果、幸せになって守ってもらえる人を見つけた。総帥も良太君を失ったけど、絢香さんを手に入れられた。そして僕は当初の目的通り、薬の開発もできて総帥の後ろ盾ももらえたし、また新しい薬を開発できるだけの資金も手に入れた。十分すぎるほどの報酬を得たんだよね。だから良太君の心配することや罪悪感は少なくとも僕らにはもう適応しないんだ。僕らは良太君を失ったけど、それぞれが良太君のおかげで当初からの遂行したい願いは成就して、それ以上のものをみんな受け取っている」
それは違うよ、勇吾さん。お金でなんとかできる以上のものを俺はもらったし、みんなに辛い経験を与えてしまった。
「良太は頑固でアホだから、そこには気づいてなかったな! ちなみに良太の警護はこの件で終わることになっている。生きて成功さえすれば俺の報酬も一生困らないくらいのものになるんだけどな……おい! 良太聞いているか! 俺の貴重な時間を何年費やしたんだと思っているんだ。俺に感謝しているなら俺の退職金のためにとりあえず生きろ、死ぬなら俺が金受け取って高飛びした後にしてくれ」
これは藤堂さんなりの優しさの言葉。今までの氷のような態度に比べて、容赦ないけど、でも凄く、くすぐったい。
勇吾さんと藤堂さんが俺に言っているんだ。そうか、みんな目的達成はできていたんだ。それだけは良かった。藤堂さんもあんな言い方だけど、仕事関係なく俺に生きて欲しいっていう気持ちはちゃんと伝わった。……口、悪すぎだけど。
「それなら、俺も良太を番にできて、あなたたちから引き離す、それが俺の目的です。桐生を陥れたいなんて思ってなかったけど、良太は俺を誤解していた。俺はいくらかかろうと良太さえ手に入れば他はどうでも良かった。じゃあ、俺が良太を囲った時点で全て終わっていたことだったんじゃ……? 良太の意思だけが罪悪感にまみれていた。それだけだったのか……」
ええ! そうなの? みんなそれぞれ解決していたの? 俺だけが悲劇のヒロインと化していた?
「良太らしいな、遅れてきた中二病だ」
藤堂さん、それ好きなのな! 俺をどうしたって痛い人物に仕立て上げたいだけじゃね――の?
「ねえ良太君、そろそろ起きたら? 僕たちはそれぞれもう苦しみから解放されている。君がいつまでもそんな不幸のど真ん中みたいな態度取る必要ないんじゃない? 番に愛されるだけの人生、始めてみたら?」
勇吾さんはゆっくり俺の近くにきて、そして、全ての器具を外していった。
「さあ、物語の最後は、必ずお姫様は起きるものだよ」
体の自由ができた俺は、ゆっくり目を開けた。
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