ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第九章 運命の二人

201、命より大切な想い 1 ※

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 つがいというものから解放され、そして本来の気持ちが桜を愛していると自覚した日から穏やかに二ヶ月以上が過ぎた。

 毎日、笑っていた。

 朝に俺を起こしてくれて一緒に朝食を食べる。桜が外に行く日は夕方までは俺は一人で過ごす。在宅で仕事をする日は一緒にリビングの空間にいて、俺は桜によりかかって座っていると一日が過ぎていく。夕食も桜が用意してくれて、その後一緒に風呂に入って、セックスしたり、ただ添い寝だけして寝たり、そんな穏やかな毎日。

 俺は幸せの絶頂の中にいた。

 相変わらず俺の世界はこのマンションの一室だけだったが、この頃は自主的に読書をしたり、ドラマを見たりして、映像の年頃の高校生たちの日常を眺めていたりと、客観的に常識を学び普通の恋愛事情を見たりして楽しんでいた。

 あれから時間は過ぎる中、一つ不安はあった。

 桜を独り占めして愛を独占していたが、本当のつがいがきたら俺は放置される。そんなことわかっているけど、愛を自覚した今、耐えられるのかわからない。それを考えると暗い気持ちになって、なぜか俺は思考を閉ざして睡眠へと入ってしまう。

 ここ二週間くらいそんな感じで気付くと俺は寝ていて、寝る時間が圧倒的に多くなっていった。

「良太、もう起きようか?」

 夕方になって、一仕事して帰ってきた桜に起こされてしまった。またやってしまった! 桜を朝見送ってから、そのままベッドに入って今に至る。今日は見送る時にほんの数分起きただけだった。

「あっ、ごめんなさいっ、俺また寝ていた」
「良太もうすぐ発情期だもんね。それでホルモンバランスが乱れてきているんじゃない? でも、今起きないと、夜眠れなくなっちゃうよ?」
「発情……期?」

 そんなことすっかり忘れていた。

 意味の無さない俺の発情期。楽しい時間はあっという間に過ぎていくんだ。俺の発情期が終われば、今度は桜のつがいの発情期がくる。急に悲しくなってしまった。

「どうした? なんか不安定そうだな」

 俺の頭に手を乗せて、まるで熱を測るような感じで心配してきた。

「ごめん、大丈夫。もうそんな時期なのかと思って、忘れていたんだ。迷惑かけないようにするね」
「迷惑って何? 俺は良太の発情期は好きだよ」

 優しい顔をしている、あれ以来ずっと桜は俺にべったりで優しい。

「でも、ほら、桜のつがいも……でしょ? そろそろ発情期に合わせて帰国するかもしれないし」

 悲しそうな顔をした桜が、お前はそんなこと心配するなって言った。

「変な心配事すると、発情期に影響あるかもしれないし、何も考えずに俺に身を任せていればいいよ、お前の発情期は優先するから」

 桜こそつがいでもない俺にそんな気を回さなくてもいいのに、でも曖昧に笑っておいた。絶対嘘だから、それ。何をおいてもつがいを優先するって俺は知っているから。

「そんな不安そうな顔しないで。夕飯の前に一度抱いてもいい? 俺に愛されれば不安も吹き飛ぶだろう?」
「う、ん……抱いて」

 そしてベッドの住人のまま、欲望の世界へと導かれた。

――あ……れ――

 いつまでたっても、気持ちよくならない。キスされて、桜にモノを舐められているのにたない、なんっで?

「さ、くらっ、俺も、舐めたいっ!」
「ん? でも良太のまだでしょ? もう少し前を可愛がってからでもよくないか?」
「後ろだけでもイケルし、その前に桜のモノ、飲みたいからっ、舐めさせて」

 まだ濡れてもないのに、感じているフリは無理があったかな。

 とりあえず桜は俺の言葉を優先してくれて、ズボンのチャックを開いてくれた。だから桜の少しちはじめたそれを口に含んだ。

 いつもなら美味しいって思えるのに、その男臭い味が気持ち悪くてしょうがなかった。この味は久しぶりな気がする。オメガオークションにいた頃、毎日嗅いでいた匂い。男の欲望を吐き出した青臭い匂いだった。

 どうして桜から嫌な男の味がするのか理解ができなかったが、それを悟られてはいけないと思ってしまった。俺が桜を欲しがらなくなったら、捨てられてしまうかもしれない。そんな恐怖から少し吸い続けていると、桜がイッて、口の中に大量の精液を出した。どうしても飲み込めなくて、少し口に出してから自分で後孔にすりつけて濡らした。

「桜、これ、もう、れていい?」

 桜は俺のやりたいようにやらせてくれたので、それをしっかり握って桜にまたがり、ゆっくりと濡らした後ろにあてがったが、信じられないくらい痛かった。

「どうした? もう少し体落とさないとうまくれられないよ?」

 笑いながら、じれったい動きに桜が問いただしてきた。

「ごっめん。起きたばかりで力が入らないみたい。やっぱり桜が上になってれて?」

 桜は笑って了解っていうと、すぐに立場は逆転して俺はされるがままになった。さすがになんどもれているモノだから、すんなり入るけど、でも、痛い。

 どうして? どうして? 俺は焦ってしまったけど、桜はちゃんと快感を得られているようだった。俺の上に乗っている桜は気持ち良さそうな顔でしている。俺は下で揺さぶられているだけのマグロと化した。

 桜が中で感じて出しているから滑るものの、それでも俺から濡れることはなく、ひたすら痛かった。そして、イッタふりをして気を失った。


 ◆◆◆

「良太、どした? たった一回で気を失うなんて、そんなに気持ちよかったの?」

 シャワーを終えた桜が、寝室で横たわる俺に声をかけてきた。

「う、ん。恥ずかしい、ごめんなさいっ、もっとしたかった?」
「ん? いいよ、何度でも抱きたいけど一回でもちゃんと満足しているよ? 気を失っている間に軽く体は拭いておいたから、お風呂は体力回復したら入れてあげるね、ご飯にしようか」

 そして俺は桜に抱きかかえられて食卓へと降ろされた。

 正直、食欲はない。

 なんであんなに苦痛だったのだろうか。

 そんなことを思って食事に口をつけた。俺の体を考えて今夜は雑炊にしてくれたみたいだった。美味しそう、相変わらず料亭のような食事に目が喜び、口に運ぶ。

「……」
「どした? 良太これ好きだろう、良太の好きな味になっていると思うよ、うん、我ながら美味しくできている」

 目の前の桜がそれを食べていて、美味しいと言っていた。

「そうだね、ほっとする味がする、いつもありがとう」

 俺はそう言った。言ったが、味が全くしなかった。心配かけないように美味しいと伝えて食べた。先ほどの行為といい、この食事、俺はどうしたんだ。

 明らかな変異に不安を感じていた。
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