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第九章 運命の二人
199、番解除 5 ※
しおりを挟む「じゃ良太君またね! 僕はしばらくニューヨークで過ごすことになるから、その間は桜のことよろしくね」
桜の番は笑顔でマンションを去っていった。
彼はニューヨークで仕事をしていて、今回発情期で休暇をとったらしいが、本来忙しいのだ。だから次、日本に帰ってくるのは三ヶ月後の発情期。
元番の俺がここにいてくれる方が、知らない誰かと浮気されるよりいいのだと言った。
番の印はそうとう強く噛んだのか、首の後ろに大きなガーゼを貼っていた。それを見て俺の心がぎゅっと痛くなった。そして、そんな痛々しい約束を交わしたというのに、番になったばかりでも離れて生活ができる自立したオメガ、それを桜も許す。そんな二人の関係性にまた辛くなった。
俺が番の時とは全然対応が違う。
俺の場合は基本、ずっと桜に見張られていた気がする。こんな伸び伸びと、よそで過ごすことを二年間許されたことがなかった。
でも今ならわかる。俺は最初から信頼なんてされてなかった。だからこの二人の自由な関係性を見ると、自分は番としても成り立たないくらい、お粗末な関係性しか築けてなかったのだと実感させられていた。
だから俺は番が終わっても性欲処理としてしか使われない。尊重して自由にしてくれることもない、ただの雇い主と飼い犬の関係性。
「良太も疲れたでしょ、他人がずっと家にいて。今日からはまた俺と二人きりだよ」
彼を見送ったばかりなのに、桜は俺を抱きしめる。
俺はいったいどうすればいいのだろう、単純にそれを喜んでいいの? それともそういう扱いをされていることに嘆けばいいの? 何すればいんだ……自分の環境の変化に頭が追いつかなくなった。
「良太? 良太は俺と二人きりの方が嬉しいよね?」
そうだ、俺に思考はいらない。
それに最愛な人とあの青年が発情期を過ごすまではずっと一緒に居られるはず。だったらそれを喜ぶ、飼いならされた犬でいいじゃないか? もうこれ以上苦しい思いはしたくない。
桜は俺が甘えることを望んでいるのは確かだから。
「うん、やっと二人きりになれて凄く嬉しい」
そうやって抱きついて、甘える。
でもキスを求めたりその先は、自分からはもう求める権利はないから、そこは流れに身を任せればいいか。そうすると、桜は何を思ってかキスをしてきた。
散々、あの美しい番と発情期を過ごしたのに、俺を抱きかかえて寝室へと運んだ。
流石に二人の匂いで溢れた部屋で抱かれるのは抵抗を隠せなくて、俺は自分にまだそれが許されているかわからないけどおねだりをした。
「桜、するならソファがいい、だめ?」
桜はすでに俺の服を脱がせながら、俺の胸の頂にキスをしていた。
「ここじゃだめなの?」
「できれば俺の匂いの付いているソファで、桜に俺の匂いを感じてほしい。だ、だめなら、いいけど」
俺は勇気をもって言ったけど、反抗的だったかもしれない。でもあの美しい人の匂いで溢れているここでは辛い。乳首をかじられていつもならすぐに気持ちよくなるはずだけど、今はただ痛いだけで、キスでも胸でも俺のモノは硬くなる兆しも見せてなかった。
桜はそれを感じ取ったのか、抱っこしてそのままソファにおろしてくれた。
「ありがとう、桜。愛している」
すぐに俺を抱く行為を始めるだろうと思っていたら、桜がびっくりした顔をして動作を止めた。どうしたんだろう? あれ? もう抱く気なくなったのかな。
「良太が愛しているなんて言葉、ここに来て初めて言ってくれた……」
えっ、図々しかったかな。
前はよく言っていたけど、もう番じゃないからだめだった? どうしよう、不安になっておどおどしていたら、桜が年相応の十代の顔になって、くしゃくしゃに笑った。
あっ、この顔、久しぶりに見た。
ここに来て常に攻撃的で、たとえ笑っていても緩むことない表情で淡々としていたから、今のこの顔は昔を思い出してしまい、涙がでてきた。
「さくらっ、好き、大好き。まだこの言葉を言うの、許してくれる? 俺、桜を愛している」
「良太、嬉しいよ。俺もお前を愛しているよ」
たとえ二番目でも嬉しいと思ってしまった。
桜からいまだにその言葉を聞けるとは思わなかった。俺は涙が止まらない。そんな俺を無理に抱こうとするのではなくて、頭を撫でて宥めてくれる。そして胸に収めて抱きしめられた。
俺の涙は止まることなく流れ続けて、さくらっ、さくらって、言葉しか発せられなかったが、ひたすら桜はそれをただただ、受け止めてくれていた。撫でられて少し落ち着いてから、俺は今の思いを告げた。
「俺、今……番じゃ無くなって、これが本当の意味で、桜を愛してるってやっと自覚できたよ。番とかオメガとか、運命とかに惑わされない、そんなの抜きにして、ひとりの人間としての俺の初めての感情だって思える。今更気が付いても遅いよね、番でいた時に、なんのしがらみもなく桜を愛してるって言いたかった。本当に今更でごめんなさいっ」
涙はまだ止まらないし、桜の顔も見られない。今更言ってもしょうがないことを言っていると思う。もう桜の心も俺には戻らないとわかっている、ただの自己満足で桜を苦しめることになる。
「ごめんっ、ごめんなさいっ」
胸から引き離されて、俺の顔をじっと桜が見てきた。この熱情のこもった目を俺は知っている。散々番でいる間、この目で見られていたから。もしかしてまだ少しは情が残ってくれているのかな。
「良太、その言葉信じてもいい? いや、お前は案外不器用だから、しがらみがない方が本来のお前の素直な心がでるのかな。やっと心からの言葉を聞けて嬉しいよ」
「迷惑じゃないの? 番以外からこんな言葉聞きたくないでしょ。もう言わないようにするからっごめんなさ」
「迷惑じゃない! 嬉しいって言っているんだよ。お願いだ、そんなこと言わないでこれからも俺に愛を囁いて欲しい。その言葉が俺の励みになるから」
そうなのか? 励みって、なんだろう。やっとこのオメガを征服できた喜び的な? でもなんでもいいや、どんな理由があろうとも桜を愛している、もう人がどう思おうと考えない、俺の残りの人生はこの人の奴隷なら、愛しているって思ってた方がラクだし、もう自分を騙したくない、そんな強い信念が生まれた。
「あり、がとう、桜、本当に好き、愛しています」
「良太っ!」
そこからは桜のペースで抱かれて、あっという間に高みに達していた。
「あっ、ああ、いい。気持ち良い、好きっ、好きっ、桜愛してる」
「俺も、良太を愛してる」
「んんッ、イク!」
「出すぞ、くっ」
それから何度も何度も交わった。あんなに番の発情期を一緒に過ごしてきたはずなのに、相変わらずたくましい生命力に驚く。
最後の一滴まで俺の中に注いでくれて、やっとそこから桜が出て行きそうになった時、俺は思わず力を込めて阻止した。
「……! 良太!?」
「ごめんっ、桜、もう少し俺の中にいて欲しい。桜を感じたまま眠りたい」
最後は、後ろから抱きしめられたままのバックの姿勢だった。広めのソファだったので、二人くっついていれば寝れないこともない。
桜のモノはまた硬くなり、そのままもう一度中で達してくれた。アルファの精を全て出し切る長い時間、二人で寝そべっていた。きっといつもならこのまま寝ちゃうところだけど、頑張って自我を保っていた。どうしても繋がっていたかったから。
「良太がそれで辛くないのなら、一晩中お前の中にいよう」
ギュって背中から抱きしめてくれて、俺のうなじにキスをおとして、そう優しく囁いてくれた。
「ありがとう」
俺は嬉しくて、頬をすりよせたまま目を閉じた。
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