ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第九章 運命の二人

197、番解除 3

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 夜になると、桜は寝室から出てきてキッチンで料理をしはじめた。俺はその気配に気付いていたけど、ずっと丸くなって知らないフリをした。

「良太、ご飯できたよ。こっちにおいで」
「ごめんなさい、今お腹すいてないから、二人で食べてください」

 桜が怪訝な顔をした。

「なんで敬語なの? その態度は何。つがいを作った俺に対する嫌味? 自分で解除しろって、そう言ったのは忘れたの?」
「忘れていません。もうつがいじゃないし、離婚もするから、他人だからっ、」
「その態度と言動は傷つくからやめろ。今まで通りで話して、さぁご飯食べないと倒れちゃうよ」 
「ごめんなさい、わかった。でもご飯はいらない、桜は知らないかもしれないけど、解除後のオメガはもう栄養を必要としないから、僕に食べ物はいらないんだ、お腹も空いてないし」

 桜がこっちにきた。

「良太は何か勘違いしているね? あいつとつがいになったから良太とは離婚するけど、良太は俺の所有物だってこと忘れたの? お前は俺が買った商品であいつがいない時の代用品。あいつは普段、ニューヨークで仕事をしている。だから彼の発情期以外は、良太が俺の性欲の処理をするんだ。解除しても元つがいとだけは、セックスできるのは知っているでしょ」

 衝撃が走った。

 てっきり、ほとぼりが冷めて世間に離婚を公表したら、ここを出されると思っていたから。まさか、このまま一生ここに閉じ込めておくの? それを喜ぶオメガの体と、そしてまだ桜は俺から解放されないのだろうかという哀れみで、ちぐはぐな心が俺を苦しませた。

「離婚しても、俺はここにいるの?」
「ああ、だからお前は死なない。それ以上痩せたら抱き心地悪くなるから、ご飯は食べて」

 俺が何も言えなくなると、抱きかかえられて食卓の椅子へと座らされた。やはり桜に触れるだけで体は歓喜するも、あのオメガの移り香が桜の体から香ってくると、その匂いに吐き気がしてきた。座った瞬間、うってなった。

「良太?」

 ごめんなさいって言葉をいって、そのままトイレへと駆け込み嘔吐した。そういえば、桜が出て行ってからまともに食べてなかったから、胃液しか出てこなかった。

 トイレに桜も入ってきて、水の入ったコップを渡してくれた。

「流石に今日はいろいろあって、無理か。明日は朝ごはん一緒に食べよう、お風呂に入れてあげるから、温まったら眠ろう」

 口をゆすいだら、また抱っこをされて風呂へと連れていかれた。

「や、めて。一人で入れるから。桜はつがいについていてあげなきゃ。つがいになりたてで、他のオメガの匂いついたら絶対傷つくから、発情期中は俺に触らない方がいいよ」
「そんなふらふらしていて人の心配? あいつなら大丈夫だよ。理解があって、凄く出来の良いオメガだから」

 その言葉にまた悲しみが増した。

 俺は出来の悪いオメガだったから、手間をかけていたのだろうか。桜との絆が無かったから、つがいの時も何度も不安になっていたのか? 

 いつの間に二人はそんなに深い仲になっていたの? ますます力が入らない体になってしまい、桜のされるままに裸にされてそのまま二人浴槽の中に入った。

 後ろから包まれている。

 桜の股間が硬くなっているのは、あの青年が発情期中だからであろう、現にその硬くなったものを俺に使おうとしてこない。性欲をうながす触り方ではなく、ただ家族の介護をするように、俺の世話をしているだけだった。

 涙をこらえてされるままに世話をされ、水気を拭き取った体は丁寧に仕上げられてソファに降ろされた。そして厚めの布団をかけられてから、眠るように言われた。

 しばらくすると桜の気配は消えて、寝室からはまたあの青年の色っぽい声だけが響いてきた。

 布団にくるまって耳を塞ぐも、その布団からは桜の香りがした。それすらも俺にとっては辛い物であった。たとえ匂いに欲情しても、桜は俺を抱いてくれない。それに、つがいの発情期に元つがいが欲情しているなど知ったら、怒り狂うだろう。

 悔しくてその匂いを嗅ぎ続けることはできず、なるべく寝室から離れた窓際でうずくまり、何もかけることなく膝を抱えて暖をとり深い眠りへと入っていった。

 翌朝、目覚めるといつの間にかソファで、あの桜の香りのする布団をかけて寝ていた。

 今日も一日この空間で耐えなければいけない。

 いや、今日だけじゃない。

 この先、一生あの二人の情交を、一枚壁を隔てた空間で感じていなければならないのか。

 どうしてこんなにも俺の人生はクソなんだろう。

 つがい契約を解除されたにもかかわらず終わりの見えない闇の中から出られない。穏やかな最後さえも望めない。

 助けて。

 ううん、助けなくていい、もうやめたい。なにもかもこの体に残った記憶を全て消せたらいいのに。

 そんなわけのわからない夢を見て、また終わりの見えない今日が始まった。

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