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第九章 運命の二人
193、新生活 2
しおりを挟む発情期が終わったようだった。
気怠さの加減からそれはわかった。今回はすんなり抱いてもらえたのか? なぜか最初から全く記憶にない。
「良太、体は大丈夫? 久しぶりに一週間激しいセックス漬けだったから、疲れたよね? 今日のご飯は消化にいいものだよ、学生時代に良太がすごく気に入ってくれた出汁をたっぷりきかせたうどんだよ」
「……ありがとう」
俺はこれを気に入っていたのか? 最近昔の記憶も曖昧になってきた。でも食べさせてくれたそれはすごく美味しくて、ご飯を食べてほっこりしたのは、ここにきて初めてな気がする。
桜も嬉しそうだ。
「発情期明けには、一番にこれ食べたいって言って、毎回食べていた味だからかな。良太のそんな顔久しぶりに見たよ」
そうなんだ、でも本当に美味しい。
「良太どこまで覚えている? 発情期に入った日は?」
どこまでどころか何も覚えてない。いつも通りソファに座って過ごしていて、気付いた時には風呂に入れられていた。でもいつもそうだから疑問にも思わない。ソファに座っていたと思ったら、ご飯食べていたり、桜が抱きしめていたり、そんな感じで一日のどこかは記憶が飛んでいるから。
「ヒート、全く記憶にない。俺ソファに座っていたところまでは覚えているけど、スッキリしているし、セックスはしたんだよね。もしかして今回は抱いてくれたの? それとも誰かに抱かせた?」
桜がこんなことを聞くくらいだから何かあったのだろう。でも俺がそれを聞いたところでどうしようもないから、もはや気にもならなかった。桜は苦い顔をした。俺また言葉を間違えた?
「俺とたっぷり愛し合ったよ、最高に可愛かった」
そうなんだ。桜が抱いたのか。
「ねえ、そろそろ勉強してみる? 家庭教師をここに連れてこようか? 良太、勉強好きだったし、大学受験してみない?」
オメガの俺が勉強してどうなるの? 大学だって行って何するの? 疑問だ。だがそんな疑問もどうでもいい。
「ううん、いい、しない」
「どうして?」
「どうしてそんなこと聞くの? 俺にそれ、して欲しいならするよ。桜に従うから俺に何かを聞く必要ないよ、決定なら教えて?」
「そうじゃないよ。良太がやりたいことを聞いているんだ」
ん? 何を聞いているって? もはや疲れてきた。
「そんなのないよ、桜とセックスするのが俺のやることでしょ?」
最近考えることをしてないからか、会話ってこんなに大変だった? 桜はまだ何か言いたそうだったけど、俺はもう喋ることをやめたかった。
「お腹いっぱいになったし、少し寝てもいい?」
「あ、そうだね、発情期明けだし、まだ体も辛いよね」
桜は俺を抱きかかえてベッドにおろしてくれた。別に眠くないけど、会話を止めるにはそれしか方法がないと思ってそう言った。そういえば、自分から何かをやりたいと言ったのはいつぶりだろう。眠りたいとか、そんな欲望すらここにいるとなんの欲望も湧いてこない。いつも桜がしろと言うことに従っていた。
そんな思考を巡らせていたら、いつのまにか俺は眠っていた。今は夜? 桜も隣で寝ている。
これであと三ヶ月は発情期を気にしなくて済む。前の強制発情の記憶が今でも俺を苦しめる。だから今回は発情とともに意識が保ててなかったのだろうか? 何一つ覚えていないのは防衛本能?
なぜか次の日に、キッチンに扉がつけられていて俺が入れなくなっていた。
それには流石に疑問に思ったので、聞いてみたら、なんと俺は発情期に包丁を振り回したらしい。俺は桜を殺そうとした? 桜はその言葉に、俺を殺したいのって悲しそうに聞いてきた。流石にそんなの思ったこともない。
事の真相は、俺が自傷行為をしようとした。
前回の発情時ガラスを脚に刺したことを思い出し、血を流せば発情が止まると思ったのだろう、それで納得した。俺は桜を恨んではいるが、決して死んで欲しいなんて思ったことはない。でもこんな危険オメガ、もう死んだ方がいんじゃないか?
「俺、発情期にそんな狂うなら、キッチンに入らないようにするんじゃなくて、俺を殺した方がいいと思うよ。ここに出入りする人もこんなおかしなオメガの相手をしていたら可哀想だし、いつ被害があるかわからないよ」
「良太は今でも死にたい?」
今でも? 俺、死にたがっていた?
「ん? どっちでもいい。桜が判断したことに従う」
「だったら、二度とそんなこと言わないで、良太は俺に愛されていて」
「うん、わかった」
それからの生活も変わりなく、いつものルーティンの繰り返し。また生産性のない日々が続いていた。でも俺はこれが最善なのかなとも思った。人生で何も考えずに、ただ番に守られるだけの生活。なんだか今までの人生の方が不思議なくらい、ここにしっくり落ち着いてきている。
日中は思考を止めればいつのまにか桜が帰って来ているし、朝がきたら桜が起こしてくれる。そしてまた桜が帰ってくる。今まで、なんで仕事や勉強をしていたんだ? だんだんわからなくなっていった。
「だだいま、良太、いい子にしていた?」
「お帰りなさい、桜、すき」
楽しくもなんともない生活だが、そうやって番を迎える日々になんの疑問も抱かなくなっていた。
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