ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第九章 運命の二人

191、強制発情 7

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 風呂に入ってからも、桜の性欲は衰えることなくひたすら泣かされた。

 体を洗ってもらい、ドライヤーをかけてもらっている時はすでに体力の限界で、船を漕ぎだしていた。そこで桜にベッドに連れていかれてやっと眠ることができた。

 翌朝、目覚めると桜はいなかった。

 腕は縛られたままだった。痛む足をかばいながら部屋を出ると、桜はリビングでコーヒーを飲んでパソコンに向かっていた。コーヒーのいい香りに一気に覚醒した。

「良太、目が覚めたの? いい加減起こしに行こうと思っていたところだったよ、よく寝てたね」
「もう昼?」

 すっかり日が昇りきっていた。桜が笑ってこっちにきて、俺を抱えた。

「まだ一人で歩いたらダメだよ。家の中では俺が抱っこするから、すぐに俺を呼んで」
「ありがとう」

 俺は少し学習した。

 素直に従うのが一番何事もなく過ごせるのだと、抱っこしたいならしてればいい。

「お腹すいたよね? 今ご飯用意するね、とりあえずコーヒー入れてくるからここに座って大人しくしていてね、ああ、寝起きだからトイレが先?」
「大丈夫! まだしたくない。それにお腹も空いてない」

 くすって笑って桜は話す。

「だめだよ、良太はほっとくと何も食べないから、目の前にごはんがあれば、きっと食べる気になるよ」

 なんの根拠があってそう言うのだろうと思ったが軽く頷いておいた。桜がコーヒーを持ってきたので香りを楽しんだ。

 縛られた手で器用にカップをもって、少しだけ口に含んでそのまま飲んでいるふりをした。水分はとりたくない。またあんな恥ずかしい思いをして桜の前で排泄をしなければいけないのかと思うと、極力尿意を催さない努力をする必要があった。それに食事をしたら大きいほうもしたくなる、固形物も極力さけたい。

「おいしい……」
「これ、良太の好きな豆であっているよね? 良太に飲ませたくて取り寄せといたんだよ、気に入ってくれてよかった」
「うん、ありがとう。嬉しい」

 桜は隣で俺の膝をずっとさすっている。ゾワゾワするけど、何も感じないフリをして絶えた。明け方まで散々やられ過ぎているのに、また昼から盛られても困る。しばらくそうしていると飽きたのか、キッチンへと向かって食事の用意を始めた。

 前は温めるしかしらなかったのに、今は立派にフライパンまで振っている。すげ――なと思って見ていると食欲を誘う香りがしてきた。テーブルにパスタとサラダと野菜スープが並んでいる。一通り支度が済むと、また俺を抱え上げてテーブルの前の席につかせた。

「凄い、美味しそう……」
「さあ、食べよう。良太に食べさせたくて、あれから料理の勉強したんだ」

 そうだったのか。

 大学生活に、仕事に、そして俺を取り戻すのに桐生に仕掛けたりと、桜のこの半年は忙しかったはずなのに料理まで覚えていたなんて。俺の庶民的なのとは違って、レストランで出されるような料理だ。俺との未来は絶対だって自信があったのかな、それとも、俺との未来がなくても、将来誰かとつがいになるために取得したのだろうか……。

「これ、とって? 食べられないよ」

 俺は自分の腕を前に差し出した。

「そうだったね、もう無理はしないでね、さぁ召し上がれ」

 やっと腕に巻きついた布を外してもらえた。

「いただきます」

 桜がずっと俺を見ているから、悪いと思ってパスタに手をつけた。とても美味しくて驚いた。見た目だけではなくて中身まで完璧だった。

「美味しい」
「そう、不安だったんだけど良太に気に入ってもらえて良かった」

 桜も満面の笑みだった。

 この男が不安に思うことなんてあるのか? 疑問だったが、桜も一緒に食べ始めていた。俺はパスタを一口だけ口に入れてから、スープも飲んだ。どれも本当に美味しい、フォークをつついて、なるべく時間を引き伸ばし、少しの量を口に含む、そして休む。それを繰り返して、なるべく食べないようにしていた。

「良太どうした? 味濃かったかな? あまり進んでないね」
「あっ、美味しいよ。だけどあまりお腹すいてなくて、ごめんなさい」
「そうか、無理しない程度に食べて? 他に何か食べたいものあれば言って、和食は苦手だけど他はなんとかできると思うよ」

 和食、苦手なのか……。

 俺が作るのはほぼ和食だった、美味しいって食べてくれてたけど、もしかしたら好きじゃなかったのかな……。

「桜でも苦手なジャンルあるんだね」
「和食は良太の作ったものを食べたいから、だから俺が習得する必要ないと思ってね」

 俺の不安を吹き消すような言葉をくれてホッとした。俺のたいしたことない料理を桜は美味しい美味しいって、大げさに感動していてくれたなって、あの時は凄く嬉しくて恥ずかしくて、でも毎回ああやって感動してくれるのもすごく嬉しかった。

 食べるものも作るものも、俺の庶民的なのとは全く違う、それを知った今、高校時代を思い出して恥ずかしくなった。

「良太どうしたの? なんか難しい顔しているね」
「一緒に暮らしていた時、桜はたいしたことない俺の作った食事を美味しいって食べてくれていたなって思い出していて。こんな凄い料理作れる人に出すものじゃなかったなって」
「顔が赤いからどうしたのかと思った。ふふ」

 桜はフォークを置いて、前の席から俺の唇を指でなぞった。

「俺は良太の作った食事が世界で一番美味しいと感じるんだ。どんな高級レストランよりも、俺には値段もつけられないくらい価値のあるものだよ、愛するつがいが作るんだ。それに、つがいうんぬんを置いていても良太の味付けすごく好き、ずっと言っていたんだけどね、知らなかった?」
「桜は俺に優しかったから、だから毎回過剰に褒めてくれるだけなのかと思ってたし、あまり信じないようにしなくちゃって思っていたから」

 不思議そうな顔で聞き返された。

「どうして?」
「だって、喜んでいてそれが違った時、とても悲しいから。だから……」
「じゃあ、これからはそう思わないで? 俺がお前に言うことは全て真実。お前には嘘をつかない」
「うん」
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