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第八章 束の間の幸せ
183、決着 7(桜 side)
しおりを挟む正親が興奮して話しを始めた。
「桐生が最近孫の存在を明かしていたな。たしか岩峰病院の次男と婚約をしていた。それがこいつなのか? 良太……ああ、良って呼ばれていた。そうか、こいつは桐生の孫だったのか。ってことは、絢香は今、桐生のものなのか? ははっ、見つけた、やっとだ! 俺のオメガだ!」
俺のオメガだと?
「どういうことだ、良太は俺の番でお前のオメガじゃない!」
正親は驚いた顔をした。
「このガキが桜の番だと!?」
「そうだ、お前は何を知っている?」
どういうことだ? 絢香とは誰だ?
「ああっ、俺が言っているのはそのガキじゃ無い。俺の運命の番は絢香っていう女だ。その絢香が養っていた子供がこいつだ、数年たってだいぶ整った顔をしているがあの時のガキだ、まさかこんな大物のところにいたなんて、どおりで探せなかったわけだ。それにしても桜がこいつの番? どういうことだ」
以前言っていた運命の話か? 番にするもなくなく別れることになったと言っていた。興味がなかったからその話は詳しくは聞いていなかった。
そもそも別れることを了承するなど、本当に運命なのか? それすらも俺にとっては疑問だった。その女が良太と関係ある? 従兄弟はこれが俺の女の絢香だ、とてつもない美人だろうと言って、財布にしまってある番の写真を見せてきた。
この人は、まさかっ。
「この女性が本当にお前の番なのか? この人は岩峰の家に住んでいる、岩峰勇吾の女だった」
「なに? 岩峰だと、あのガキだけではなくて、絢香までっ! ベータのくせに桐生からオメガ二人をもらったというのか!」
「桐生からもらった? そういえば彼女は岩峰と普通にキスをしていた。たとえベータでも受け入れられないはずなのに、本当に番にしたのか?」
どういうことだ。
良太だけなら桐生絡みのビジネスだとわかるが、その女性は? 岩峰はそもそも、そんな不誠実なことをする奴ではなかったはず。
「会った瞬間にお互い発情して、運命だと感じてそのまま番になった。それなのに俺以外と接触ができていたのか? どうなっているんだ。絢香は確かに俺の番だ、規約で解除は一生しないことになっているからな。それにこのガキも桜の番なら、二人とも番持ちだ、たとえベータとだって寝れないはずなのに」
規約? なんのことだ。そうだ、その絢香さんのことはわからなかったが、良太が俺以外とできるはずがない。それにあの岩峰が、そんな苦痛を伴う行為を大切にしている良太にするはずが無い。
しかし気になる。
良太のオメガ管理をずっとしていた岩峰が、そんなオメガを陥れることをするとは思えない。見るからに大事にしていたはずだ。製薬部門ではオメガ製品を多く輩出している桐生。もしかすると番解除のための薬でも開発をしているのだろうか? 近いうちに桐生が岩峰と提携する話もある。
「そもそも、なんで番を手放した? その絢香さんがお前と共にいたら、俺と良太はもっと自然に巡り会えたはず、お前の番だった頃から桐生は絡んでいたのか?」
従兄弟は嫌そうな顔をするも答えた。
「絢香はホステスで、偶然出会った。あの頃は桐生の影など見えなかった。ただ絢香は両親を亡くした子供を縁あって引き取っていると言っていた。番が自分以外を大切にするなんて許せなかったし、絢香はそんな俺を見抜いていて俺よりあのガキを選ぶと言って俺と結婚しないと言い放った。だから二人ともオメガオークションに売った」
「……は?」
こいつが良太をオークションにやった張本人だったのか? それになぜ運命の相手を売れるのだ?
「俺が絢香だけ買い取って、あのガキと引き離す予定だった。だがオークションではあのガキが純オメガとわかり買い手が殺到、そこで番持ちの使い物にならない絢香とセット販売になったんだ、それでも俺が買い取るつもりだったが、どこかの誰かが十億の値段をつけてその場で支払った。俺では手が出せなくなったんだ」
なんて話だ!
「な……んだと。お前は俺の番になんてことを。良太はそこでどんな目にあったと」
「桜の気持ちはわからなくもないが、俺もアルファだ。その時は番の心を奪う邪魔なガキでしかなかった。ようやくわかったよ、あいつらを買ったのは桐生だったんだな。どおりで探せなかったわけだ」
こいつの話を聞いて気分が悪くなるが、でもこの情報のおかげで良太に少し近付けそうだ。俺は悔しさを堪えて、こいつから情報を引き出すことにした。
「では、お前が彼女と出会った時にはすでにその絢香さんが良太の保護者で、桐生は居なかったのだな? 番にしたのはいつだ?」
「三年くらい前だ。絢香は人気のホステスだったからいいマンションに住んでいたが、ガキと二人暮らしで援助を受けていると言う話は聞いてなかった」
三年前というと、俺と出会う一年前? 良太は十四歳だ。その時はまだ桐生に拾われていない? 十歳の時に母親を亡くし、保護施設に入った。すぐに保護施設から逃げたと言ったが、桐生に保護されるまでには空白の日々は四年間あり、その日々を一緒に過ごしていた人がその絢香か。
出会った頃に愛している女性がいると言ったのは、彼女のことだったんだな、でもその歳なら男女の関係ではないはず。そもそも良太は俺と出会った時には処女で童貞なのは間違いない。
「その二人に、男女の関係は?」
「絢香は恩人の息子だというあいつをかなり溺愛していたが、あのガキはまだ子供でオメガだ。ただの扶養相手だったはずだ。二人は親子か姉妹みたいな感じに見えたが、番を捨ててもいいと思うほどの絆が二人にはあった。今思えばあのガキを蹂躙しとけば絢香は簡単に手に入ったと言える」
こいつはそんな尊い関係の二人すらも許せなかったのか? 自分も人のことを言えないが、でもそこまででは無い。だから良太はアルファの本性を信じられなかったのだろう、運命を前にした男のやったことが、良太に運命の恐ろしさを教えたに違いない。
こいつのせいで、良太の歪んだ考えが構築されたのだろう。
「桜はどうするつもりだ。なぜ番の桜から逃げた? 絢香を殺すとでも脅したのか? あの二人の関係は異常なくらいに誰も入れない深いものがある、あいつら二人の前では番なんて軽薄なものになるらしいぞ」
そうか、もしかしたら良太は絢香さんを桐生に人質に取られている? 母親を亡くした十歳の頃、天涯孤独となり絶望している時に拾って育ててくれた人、それから七年の歴史が二人にはある。そのうちの四年は誰に見つかることなく、オメガ女性が一人で少年を匿った。そんな大切な家族を人質に取られたら? 桐生に従うしかなかった、そうとしかもう考えられなかった。
「俺はその絢香さんのことを知らなかった。絢香さんの話は一度も聞いたことがない。良太とは二年間いっしょに寮で暮らしていて、本当にうまくいっていた。良太は俺の卒業とともに消え、番解除の申し立てが桐生から届いた、そこから接触すらできていない」
「と言うことは、桐生が上條を拒んでいるんだな。まあ会社の関係上、実の孫が上條の番など許せないのだろう」
本当にそれだけなのか?
「俺は良太を何としても再び手に入れる、お前は絢香さんを諦めてないんだろう? だったらやることは見えてきたな」
「あぁ、黒幕がわかっているならなんとでもしよう。オークションの事実が表に出れば桐生は終わる」
こいつは馬鹿か?
オークションの話が出ればお前も終わるだろう。この男には堕ちてもらおう、もう会社にも必要ない。この子会社もこいつが数年見ていたせいか、相当汚れている部分が見えていた。一気に上條のクリーン化を図ることにしよう、まずはこの会社を潰す、こいつごと。
この会社はもともと本社の副社長になる前に、父親から立て直しを任せられた一つに過ぎない。この男も使えるうちは俺の手駒になってもらうため、上條の諜報部を使わせることを許可した。
これで少し動き出しそうだ。
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