166 / 237
第七章 決断
165、別れ 2
しおりを挟む「良太、俺は今日からは一緒に暮らせないけど、良太が卒業して寮を出たら籍を入れて一緒に暮らすからね。それまでいい子にしているんだよ。卒業まで一年間は毎日電話すること、そして週末は必ず泊まりで家にくる。わかった?」
「必ずだよ、お願いだ。約束して?」
ついにこの日が来てしまった。
「はい……」
先輩は俺にキスをしてきた。
これが最後のキス、そう思うと思いの外気持ちが入りすぎてしまい、少し息を切らしてしまった。自分でも嫌になる。キスの嬉しさと、そして最後であると自覚した悲しさなさと、番の愛おしい香りに、思うところが多すぎてよくからない感情が生まれ、顔を赤くしながら俯いてしまった。
先輩はそんな俺の態度を、キスが嬉しいとか、恥ずかしいとか、そういう風に思ったみたいだった。そういえば、俺が慣れないことをして恥ずかしがる姿を見るの、この人好きだったよな。
「良太……煽らないでくれ、離れたくなくなる。そんな可愛い顔は誰にも見せてはダメだよ、わかってる?」
「可愛いなんて……そんなこと言うの先輩だけです。僕なんて、真面目な優等生で面白みのない人間って思われていますよ? だから安心してください」
先輩が髪を触ってくれる。この手が好き、たまらなく好き。
「あの、貴重な先輩の高校生活を僕だけで終わらせてしまって申し訳ないと思ってます。僕が……その、先輩を初めての発情期で誘惑しちゃったから……。だから大学に行って好きな人ができたら、僕を忘れてくれても構いません。この二年間とても大切にしてもらえたから、僕はそれだけで満足で……んっんん……」
俺はちゃんとお別れを言う代わりに感謝の気持ちも伝えたくて、別れは言えないけどせめて他の人を選んでも、俺のことを気にしなくてもいいと伝えたかった。
でも俺は言葉に詰まって、うまく喋れなかったと思う。最後はキスで塞いでくれた。
ああ、先輩にキスされた。
俺は涙が出てきた。もうあなたとはいられない。だから、せめて、本当に好きな人を見つけて、そして幸せになって欲しい。辛いけど本当の気持ち。
「あっ……ん…はぁ、先輩っ あっ」
そしていつものように俺に欲情してくれる先輩は、俺を抱く。最後まで俺の隅々に爪痕を残す。必死にしがみついて最後の行為を精一杯噛み締めて、何度も、何度も絶頂を迎えた。
俺の体力が尽きた頃、名残惜しそうに最愛の番はこの部屋を出て行った。一人になりベッドで横たわると、ふと乾いた笑いが出てきた。
「ふふ、あは ははっ、先輩……さようなら」
――やっとだ、やっと解放される――
この二年いろいろあったけど、一応、従順な恋人を演じてきた。発情をコントロールしていたにもかかわらず、アルファと同じ部屋にいたせいか、まさかの発情期を迎えてしまい、その場に最もいてはいけない相手と発情のままに番ってしまった。
――可哀想なアルファ、本能に逆らえない哀れな人種、こんな出来損ないのオメガを番にしちゃうなんて――
そう心の中で思い、いや……無理に思い込もうとして、動かない体をベッドに預け一人で笑い始めた。
その痛みさえもが、解放された喜びへと変わっていくんだって、そう信じたかった。
でも違う、本当は違う。
叶うなら、あの人と一生を共にしたかった。
「ッ、うッ、ううっ! ぅわっっ――」
俺はやり場のない思いに大声をあげて泣き出した。今ここには誰もいない、誰も聞いてない、だからこれが最後、だから。
「先輩、好き、本当はあなただけに愛されていたかったし、愛してたかった。ごめんなさいっ」
俺は誰にも聞かれることもない、懺悔の言葉を口にしていた。
――さようなら――
応援ありがとうございます!
25
お気に入りに追加
1,711
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる