ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第七章 決断

160、桜の煩悩 1(桜 side)

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 それは別荘でのこと。俺の両親と共に、良太と四人でバーベキューの後の寛いでいる時間だった。

「良太?」
 
 室内でお茶を楽しんでいたら、良太がいきなりことんと俺の肩に頭を乗っけてきた。

「おれ、ねむくなってきちゃった」
「っ!?」

 これは、甘えている。

 しかも両親のいる前で。良太の『オレ』発情期でしか聞けない貴重なオレがでた。俺は目を見開いて肩に頭を乗っけている、虚ろな目をした良太を観察した。

 ――何があった? まさかの発情期か? いや、匂いは特段強くなっていない――

「あれ、良太君おネムになっちゃったのかな?」

 目の前で母さんが微笑ましい目をして言う。

「うん、おれ、も――眠い。先輩っ、だっこ」
「えっ」

 そう言うと俺の膝に移動して抱きついてきた。条件反射で思わず抱え込んだが、目の前の両親も流石に驚いている。優等生の良太はどこへいった?

「桜、良太君は随分と、その先程までとは感じが変わったが、ひょっとしてこのチョコで酔ったのか?」
「チョコで?」

 父さんが戸惑った感じで話してきた。

「ああ、このラムボールは俺たちの好物で、チョコというよりラムの味の方が強いんだ、エスプレッソと合うから食後によく食べるんだが、すまん。すっかり酒が入っているものとして考えてなかった。良太君には強かったみたいだな」

 父さんが謝ってきた。

 そりゃそうだ、つがいの甘えている可愛い姿なんて他人に見せるのを良しとするアルファなんていない。父さんは俺に気を使ってきた。俺は甘いものは好かないから食べてなかったけど、これはアルコールが入っていたのか?

「良太、大丈夫? 気分は悪くなってない?」
「んっ、らいじょぶ、ちょっと気持ちいいくらいっ、先輩っ、だ――いしゅきっ」
「ぶふぉっ……んんっ」

 呂律の回らない口調で、オレにキスしてきた。甘いチョコの香りとスパイシーなラムに、良太の香り、そしてその発言にはやられた。軽くやられたっ、両親の前で弱みを見せてしまった。

「うわっ、桜のそんな顔初めて見た。ぶふぉっ、だって! 聞いた? 楓」
「ああ、この耳でしっかりとな。息子ながらそんな情けない顔を見られて安心したよ、お前はつがい持ちの立派なアルファになった」

 両親は俺のこの行動をなぜか喜んでいる。それよりも、良太をどうしたらいいのだ? キスは嬉しいから、俺もちゃっかり良太の口を堪能していたが、酒に酔ったなんて、大丈夫なのか。

 ひとまず、ちゅうちゅうと可愛らしいキスをする口を離した。

「良太、そんな無防備な姿をたとえ両親の前でも見せないで欲しい、可愛いけど」
「あぁ――ちゅうが! もぅ可愛いならいーだろ。おれ可愛いの?」
「ああ、最高に可愛い!」
「なら、いぃだろ? もっとイチャイチャしよっ」

 首に腕を巻きつけて、ケラケラ笑う良太は本当に可愛い。たまらない、抱きたいっ。

「あれれ、こりゃ完璧酔っ払ってるね、それにしてもそれが良太君の素なんだね、ここに来て僕たちの前だから緊張させちゃてたのかな、桜の前だとオレっていうんだね。言葉使いもやんちゃで可愛いな」
「母さん、違います。良太は俺の前でも二人に対するのと同じような言葉使いです。オレっていうのは唯一発情期の期間だけ、まあそれが素の良太だと思うんですが、なかなか俺に対しての敬語も抜けないままで」

 つがいになって随分たつけど未だに敬語は抜けない、発情期以外でこんな良太を見られるなんて貴重だった。

「良太君は、本来そういう子だったんだろうな、桐生に引き取られたことによって再教育されたのが俺たちの前で見せるおしとやかなオメガなのだろう。そういえば今の雰囲気は彼の父親にそっくりだ」
「えっっ、父さんは良太の父親を知ってる?」
「ああ、言っただろう? 彼らの手助けをしたって、良太君の母親の雪華につきそう彼に何度か会ったことがある。彼はオメガだけどとてもやんちゃで、言葉使いもヤンキーみたいだった。勝気で、カッコよくて男気溢れる、それでいて可愛い男だった」

 父さんは懐かしそうにそんな話をした。顔は母親そっくりだけど、きっと性格は父親似なんだろうと。父さんは甘えている良太を見てそう言った。

 良太に教えてあげたい、良太は父親のことはほとんど覚えてないと言っていたから。そしてそのやんちゃなオメガを引き継いでいる良太が愛おしくてたまらなかった。

「桜、今日はもうここに泊まりなさい、酔っているなら無理して移動させることないだろう」
「はい、そうさせてもらいます」

 良太を抱きかかえ起き上がろうとしたら、ふと良太が違うって騒いだ。

「えっ?」
「なんで立つの? オレまだここで、こうやってラブラブしたいのにっ」

 良太の口から、ラブラブが出た! こんな可愛い姿もう両親に見せるのは辛い、早く二人だけになって閉じ込めたいっ。

「でも、良太もう眠いだろう? そろそろベッドに行った方が」
「いーやーだ――。こんな楽しいのに寝るの嫌っ」
「楽しいの? でも良太俺にくっついて寝てるだけだし」
「あん? オレはこうして、みんなの話を聞いてるのが好きなのっ、家族団欒っていいよねっ、オレしたことなかったからこういうの凄く嬉しいっ、先輩はおとーさんとおかーさんといっぱい話して大事にしてあげてっ、それだけでおれ、嬉しいし楽しいよっ」

 そうか、良太は両親と一緒に過ごした記憶がないのか。それでオレが二人と話しているその雰囲気の中にいるだけで嬉しいと? オレは良太の頭をすっと撫でると、良太は気持ち良さそうにゴロゴロとオレの胸に顔を埋めて嬉しそうにしている。

「なんだか、良太君の生い立ちとか考えると泣けてくるねっ、僕たち親子の会話を聞いていたいだなんて」
「ああ、由香里、そうだね。俺たちでこの子の親になっていこう、今はおネムだけど起きている時は家族として過ごせば少しは彼の過去の悲しみを拭えるかな」

 母さんはそう言うと父さんに寄りかかって、涙ぐんでいた。父さんも母さんを抱きかかえて、良太に優しい目を向けてくれている。この二人は良太をとても気に入ってくれているのがわかる。

「父さん、母さん、良太のことをどうかこれからも本当の親のように接してあげてください」
「ああ、勿論だ。雪華の大事な息子だ、そしてお前のつがいなんだ、俺たちにとっても息子同然だ」

 良太は俺たちの会話をBGMのように聞いていて、むにゃむにゃしながらもニコニコしている。こんな穏やかな日々がこれからも続くといいなと思って、俺は良太をさすりながらも両親と話をしていた。
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