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第七章 決断
159、最後の夏休み 9
しおりを挟むホテルに戻ってからも、体中が痛くてしょうがなかった。
何かおかしいことになっているのか不安になって、主治医の勇吾さんに連絡すると言い出した俺に、慌てて先輩は俺のやらかしたことというか、先輩のやらかしたことを話してくれた。
「そっか、そんなにエッチしてたんですね。それならこの体の痛みは納得しました! ってなる訳ないじゃないですか! も――っ恥ずかしくて死にそうっ」
「死んだら困るよっ、良太。だって、良太からねだってくれたんだよ? それなのに、拒否なんかするつもりはないけど、できないでしょ?」
俺は昨年に続き、この開放的な夏の海で頭がバカになっている。なぜに敵地で酒なんかっ。また俺の失態を先輩にもご両親にも晒してしまった。先輩のご両親とはあの時のこともあり、きちんとした対応で今後は後腐れなくするつもりだったのに。
「それにしても酷い。酔った僕を抱いて揺さぶった挙句、嘔吐? それなのにお風呂でも、さらにはその後、またベッドでも、ヒートでもないのに一晩でそんなにしたなんて。そんなに抱き潰すとか、僕の記憶一切ないのにっ」
「でもね、それはもう可愛かったんだよ。俺から誘導したのもあるけど、昨晩のほとんどは良太からのおねだりで、ねぇ、今夜も歯磨きしてもいい?」
「ん、歯磨きですか?」
なんの話?
「そう、良太が俺に磨けって言って、昨夜は俺が良太のお口をきれいにしたんだよ、さらに良太も俺の歯磨きしてくれたんだ。あれは幸せだったな」
な、な、なんだ!? それ。そんなことを!? この俺が?
「先輩、騙してません?」
じと――っとした目で見た、調子に乗ってんじゃねぇぞっ、と意味を込めて。そしたら赤い顔してモゴモゴ言い出す。
「そんな嘘は言わないよ。吐いて口が気持ち悪いから磨けって、それに髪も体も洗えって良太に命令されて、俺は……ちょっといろんな上書きをしただけで」
め、命令? オメガの俺が番とはいえアルファの先輩に!? それに上書きってなんだ!? いや! もう恥ずか死ぬっ、聞きたくないっ!
「も、も――いいです! 色々やらかしてすいませんでしたっ、もう忘れてくださいっ」
「いーやーだ! 普段も可愛いけど、あんなに可愛いくて素直な良太を忘れられるわけがない、ということで二十歳になったら、俺と酒を飲もうね。今後、俺以外の前で酒を飲むことを禁止します」
にっこり笑っていう。
「一生、お酒は飲みません!」
そんなこんなで、なんとも賑やかでしんみりする余韻も何もない先輩との夏休みだった。こんなくらいがちょうどいい。変にこれが最後とかいちいち思ってしまったら、感の良い先輩に異変を気付かれてしまうかもしれない。こんな風に番の前で酒に酔って暴れるくらいのハプニングがある方が、なんだかちょうど良かった気がする。
お酒のことは記憶にないが、どうやら俺はかなりやんちゃな性格が現れていたって。酔って素が出ている姿を見て、俺の父さんを知っている楓さんは、性格がそっくりだと話したそうだ。顔は母さんに似ていて、中身は父さんに似ている。父親の一面を聞けて嬉しかった。
楓さんが言うには、俺の父さんはオメガで綺麗な男性ではあったが、勝気で男気溢れる強い男だったらしい。オメガだけど男らしくてかっこよかったって。その話が聞けたなら、酔っ払って良かった。香りは母さん、性格は父さん。俺を通して二人を感じられるから。
そして、先輩のもとで過ごす最後の夏休みも終わり、勇吾さん家族と過ごしていた。その夏休み最後の日にヒヤリとする話をされた、もうあと半年だねと。
明日から九月に入る。勇吾さんのその言葉は、俺への断罪の日が決まったと言われたのかと思うくらい、本能で体が畏怖していた。
すでに薬は出来上がった、そう言われたんだ。
あとはひたすら先輩にバレないように過ごして、約束の契約解除の日を迎えること。この半年、穏やかに過ごしなさいと念を押されたのだった。
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