ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第七章 決断

153、最後の夏休み 3

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 おしゃれなカフェで先輩とカップルみたいに過ごした。

「どれにしようかな、どれも美味しそう! いちご綺麗、ピスタチオも食べてみたい気がする、でもチョコははずせないかな――、あっ先輩は?」

 俺はケーキメニューを眺めている。そしてモンブランだって、光り輝いて俺を魅了する。あ――っ決められない。

「じゃあ、二人でその三つを食べよう。それからテイクアウトでモンブランも買っていこう」
「えっ」

 気になる三つは言ったけど、モンブランが好物だってなんで知っているんだろう。

「ん? 大丈夫だよ、残ったら俺が平らげるから、食べられるよ」
「違くて! モンブランそれはなんで? 先輩ケーキ食べないでしょ。それに三つも甘いもの先輩食べられるの?」
「ああ、甘いのは苦手だけど食べられないわけじゃないよ。モンブランはなんとなく、良太食べたいのかなって勝手に思ったんだけど違った?」
「違わないです」

 俺は満面の笑みで答えた。

 それを見た先輩は俺に笑顔を向けてから店員さんにそう指示していた。すごい、これはつがい効果? 俺にはそんなことできない、先輩が好きなものなんて聞かなきゃわからないから。

 そんな考えの中、先輩の腕をギュってした。カフェのショーケースの前で男同士のカップルがイチャコラして、店員さんごめんなさい。そんな俺たちみたいなカップルの対応も慣れているのか、店員さん笑顔で席へと案内してくれた。

「先輩、ありがとうございます。僕の好きなものをこんなにたくさん選ばせてくれて」
「いや、そんなことで喜んでくれて嬉しいよ、俺の心も満たしてくれる良太は最高の恋人だな」

 ケーキと紅茶が席に出されて二人で仲良くつついていた。といっても俺がほとんど食べていたが。そして、先輩の口にたまに俺が運ぶ。そうすると口を開けてパクって食べてくれるからだ。

「ふふ、良太に食べさせてもらうと一層美味しいな」
「なんか恥ずかしいけど、でも嬉しいです。本当にここのケーキ美味しい! 一緒に入ってくれてありがとうございます」

 そしてお腹いっぱいケーキを食べて、少し日が落ちてきて涼しくなってきた公園で手を繋いで歩いて、マンションへと向かった。

 マンションに入ると先程購入したものは、それぞれのところに収納されていた。関心をしていると、先輩が俺の目の前にきてキスをしてきた。軽めのではなくて、舌を絡める濃厚なもの、えっ、このまま突入するのかと少しビクついてしまった。

 だって、まだ後ろ痛いし。

「良太、そんな逃げないで。ちゃんと舌出して俺に答えて?」
「んっ、んんんっっまっ、待ってせんぱ、んっ」

 口を開いた瞬間に、もっと深く絡まってきた。

「待てないよ、スーパーで、カフェで、公園で、可愛い良太を目の前に見せつけられてきたんだ。早く良太を食べたくてしょうがなかった」

 キスをしながらも、器用に話してくる。

「いやっ、ちょっと、まってください。僕、ご飯作りたいし、それに、今日はさすがに後ろが痛いから無理かも」

 ちょっと涙目になって必死に訴えると、先輩が顔を離して笑った。

「違うよ、キスをしたかっただけ、そりゃ抱きたいけど、明け方まで散々したから少しは休ませてあげようと思ってるよ」

 あっ、俺は勘違いした? キスが濃厚だからそのまま抱かれるのかと思ってしまった。

「恥ずかしいっ、勘違いしてごめんなさい」
「ふふっ、じゃあキスの続きしようか」
「……はい」

 そして、俺は先輩の首に腕を絡めて自分から口を開きながら、その唇を貪った。

 それから俺が料理をしているのを、対面キッチンの向こうのカウンターに座りながら笑顔で眺めている、そんな先輩に少し恥ずかしかったけど、でもずっと見守ってくれるのもすごく嬉しかった。

 作っている最中もカウンター越しに、味見したいと口を開けてくる。俺からあーんとしてもらうのを求めてやっているのが、バレバレだ。そればっかり求めるから、お腹いっぱいになったら困るしもう味見は終わりって言って、大人しく座ってもらった。

 今夜は和食。白いご飯に、ナスとお豆腐のお味噌汁、メインはブリの照り焼きに焼き野菜を添えて、あとは肉じゃが、きんぴらごぼう、簡単につけた浅漬け、シンプルだったかな? 寮で作るときは時間ないし、パパっと作れる丼物とか肉料理が多かったけど、本来俺はこう言う沢山の小鉢とか、色んなものを少しずつ食べる家庭っぽい料理が好きなんだ。

 二人でご飯を食べ始めると、先輩は美味しいって言って食べてくれた。でも気になることも言っていた。

「良太は最高のシェフだ。でも俺だけのシェフでいてね? この料理は他の人に食べてもらいたくない」
「えっ、やっぱり庶民っぽすぎました? さすがに家族以外には作る機会ないと思うけど、先輩には合わなかったですか?」

 ショボンとした。あまりにも俺の料理が食べたいって言うし、結構うまくできた気がするけど、でも所詮ふつうの一般的な感覚のご飯なのかな。先輩が作ってくれる、といっても先輩お抱えの料理人の作る料理の冷凍だけど……。それはいつも繊細で細やかな味付けだし。これはただの家庭料理。俺のご飯を食べたいって言うのは社交辞令? 流石に調子に乗りすぎたかな。

「美味しいよ、美味しすぎる、それにすごく手が込んでいる。いつもの寮でだしてもらうご飯も手際よくボリュームがあっていいけど、これだけのおかずを作るのは大変だったろう? 愛情を感じるよ、もう他の料理人のご飯は食べたくないくらい、良太のご飯が俺の好みだ。だから他の人間がもしこの味を知ったら、他のやつも良太を専属の料理人にしたがるだろう、そんなの俺は耐えられない」

 真面目な顔で、何を言う。馬鹿じゃないのか!? 恥ずかしい。

「はははっ、先輩そんなこと考えたんですか? つがいだからかな、そんなに好みが合うのは。他の人が食べることはないですよ、だって僕は好きな人にしか手料理は作りません、安心した?」
「ああ、良太に好きって言われるとすごく安心する」

 そこ? 会話がかみあわないような気がしなくもないが、お互いに満足しているからいっか。

「僕も先輩が褒めてくれたり、嫉妬してくれるたびに愛されているって感じて嬉しいだけですよ?」
「本当に、良太は愛らしい。愛してるよ」

 食卓を挟んで向かい合って、俺たちは何をしているんだ。

「もう! 僕のことはいいから、ご飯食べて下さい、足りなかったら先輩の好きなもの作るから遠慮せず言ってくださいね」
「ああ、せっかく作ってくれたんだ、温かいうちに食べよう」

 そんな新婚さんみたいな夕食が、和やかに終わった。
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