ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第六章 本心

127、閑話 〜俺の番が可愛い〜

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 俺のつがいが可愛い。

 もともと可愛かった。一生懸命に俺を拒んで、でも体は快楽に抗えず、そんな良太の苦悩を見るのはたまらなかった。

 何がそうさせているのかわからなかったが、可愛かったので問題ない。

 ただ、唯一の問題は良太が俺への罪悪感で苦しんでいること。それは可哀想だったな。

 そして今、良太は何が吹っ切れたようだった。おおまかな過去の話は聞いたが、きっとまだ何かを隠している。でも吹っ切れた部分が良太を解放した。

 「好き、先輩好き、本当に好きなの」

 こうやって、発情期ではない時でも俺に抱きつきながら愛を囁く。ちなみに俺は出会った時から好きだと言い続けている。俺ばかりが好きなのは周知の事だったが、今ではみんなが良太の変化に驚いている。

 人前でも自分から手を繋いでくるし、俺から声をかけなくても、俺の匂いを感じたらすぐにキョロキョロしだして、自分で俺を探しにくる。そして良太自ら、先輩って、声を出して俺のところに駆け寄ってくる。今までは俺が近くにいても、声をかけない限り良太は無視をする。そんなつれない態度だったのが今はこんな感じだ。

 周りは驚くに決まっている。全身で好きと伝えているのがバレバレだった。そう、俺たちはついに両思いになったのだ。


◆◆◆

  ある日の生徒会室で、会議後の恒例のお茶の時間に忍が問いかけてきた。

「なあ、桜、桐生君のあの変わりようは、いったいどうしたの? 親友としては喜ばしいけどさ、あれは可愛すぎてどうしようもないね。お前が腑抜けになるのが目に見えて怖いんだよね」

 さすがの忍も、良太の変化には驚きを隠せなかったようだ。

「忍、ついに俺たちは心から結ばれたんだ。いや前から結ばれてはいたが、良太が俺に好きだと言ってくれた。良太からだぞ!」
「あ、ああ、近いよ、わかったから、落ち着け」

 俺は興奮して、忍に近づきすぎた。アルファ同士の距離感ではなかったな。気持ち悪い思いをさせてすまないと心の中で謝った。

「セックスをしてなくてもあいつはぴったりとくっついてくるし、目が合えば好きって言う。可愛すぎてたまらない。お前はどうしてる? つがいが可愛くてしょうがない時はどうすればいいんだ?」
「えっ、どうするって、つがいが可愛いのは当たり前だし。今更そんなの聞かれても、う――ん、とにかくお前は生徒会の仕事をこなせ。桐生君も自分がべったりしすぎたせいでお前が腑抜けになったと周りから聞かされたら、ショックを受けてまた距離を取られるぞ」

 そうだった、浮かれてしまったが良太は真面目なのだった。俺の素行が悪くなれば、真っ先に自分のせいにしてしまうかもしれない。

「そうだな、危うく生徒会の仕事は全てお前に任せるつもりだった。危なかった。良太はなんでもできるスパダリの俺がいいらしい」
「あっ、そう、良かったよ。俺の仕事が増えなくて、桐生君のために華麗に仕事をこなしてくれ」

 忍は完全に呆れているがしょうがない。こいつにつがいができた当初は俺も散々こいつの惚気に付き合わされたんだから、これからも俺の良太の可愛さをつがいと離れて寂しがりながら、見てればいい。

 そこに、オメガの椿慎一郎が忍に問いかけていた。

「それにしても、上條君だって変わりすぎたよ。あんなにクールな生徒会長は何処にいっちゃたの?」
「ん――でも、つがいができるとそんなもんだよ? 俺もつがいちゃんが同じ学校にいたらそうなるって」

 忍なら、さっちゃんさっちゃんって、あのつがいの女性を追い掛け回すのは、目の裏に浮かぶ。俺はあそこまで酷くない。

「白崎君は、もともとそんなキャラでしょ。でも生徒会長は、もっと、こう……」
「なんだ、椿。俺が残念アルファだとでも言いたいのか? まあ、良太の可愛さの前では別に残念な男でもいい。それだけやばいんだよ、あいつは」

 こいつはオメガだが油断ならない、椿も良太の可愛さにやられた一人だった。良太を可愛い可愛いといつも言っている。それに良太もオメガ相手だと気が緩むみたいで、椿には甘い態度になるのが許せなかった。

「ま、まあ。確かに桐生君はつがいになる前から、可愛かったもんね。この間ちらっと見かけたけど、もっと可愛くなってた。ねぇいい加減、生徒会に連れてきてよ。つがいになった途端、ここに来させないってどういうこと? 僕もあの可愛い桐生君に会いたい!」
「だめだ、あの可愛さは俺だけのものだ。他の奴に見せるなんてもったいなくて、授業がない時間は部屋で囲っておきたいからな」
「そんなのつがいのおうぼうだ――」

 そして生徒会の仕事もこなして、部屋に戻ると良太がエプロンをつけてキッチンにいた。

 天使か!? 天使がいる。

「良太!」

 俺はその姿に思わず興奮してしまい、後ろからギュって抱きしめた。良太は一瞬驚いたけど、すぐに笑顔になっておかえりなさいって言った。

 可愛い!

「ただいま良太。どうしたの? そんな可愛い格好して」
「これね、相原君がくれたんです」

 相原? ああ良太のクラスの上位種アルファのつがいで、良太の唯一の友達の相原君、よくやった!

「凄く可愛いよ、似合ってる。でもどうして相原君は良太にプレゼントしてくれたの?」

 目元にキスしながら、そして抱きしめてついでに良太のお尻を触りつつ、褒めたら、赤い顔をしてしまった。

 ああ、いちいち可愛すぎるぞ! 良太、このまま襲ってしまいたい。

「前に僕が少し料理をするって言ったんです。そしたらこないだのお休みに自分のも買ったからついでにってくれたんです」
「そうか、じゃあ俺からもお礼を言っておかなければね、ねえ? 良太、あれ言ってくれないか?」
「あれ?」

 良太がわからないという顔をして来た。そうだ、男の欲望をかき乱す、あの言葉。誰もがつがいに言われたい言葉だ。

「そう、ご飯にする? お風呂にする? それとも……ってやつ、知ってる?」

 かあ――って、効果音があるなら、間違いなく出ているだろう、そう良太は知っていたのだ。良太だからそういう類の言葉は知らないかと思っていたが……可愛いな、もっと真っ赤になって!

「えっ、でも、まだご飯作ってる最中だから、そのセリフは……お風呂もまだお湯はってないし」

 最近は良太が料理をしてくれている。今も俺が後ろから抱きしめながらも器用に野菜を切っていた。

 マンションで過ごしていた時に、良太が手料理を作ってくれた。俺は感激してそれからも手料理を食べたいとおねだりをし、夕飯は良太が作ってくれている。

 良太の料理は素朴で美味しい。外で豪華な食事ばかりで全て外食だったから、こういう食事は有難いと本当に思った。

 良太も褒められて嬉しいみたいだったし、料理は嫌いじゃ無いと言ってたから無理のない範囲でお願いしている。そして今夜は良太の手料理の日だった。

 それはさておき、良太の食事もいただきたいが、今は目の前の極上のご馳走を先にいただきたかった。エプロンを早く脱がしたい。

「大丈夫だ、俺の答えは決まってるからその二つを選ぶ選択肢は無い」

 良太は目を見開いた。

 そしてプって可愛く笑って、振りかえってきて前から抱き合う形になった、上を向いて俺と目を合わせる。

「それって、聞く意味ないじゃないですか!」
「それでも、男としては愛するつがいに聞かれたいんだよ、ねっ、お願い、言って?」
「もぅ恥ずかしい、でも一回だけですからねっ」
「ああ、頼む」

 真顔で俺はお願いした。本気で言って欲しかったんだ。良太は照れながらも笑った。

「先輩、ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも……ぼく……に、するっ? んんっ!」

 思わず最後のセリフを聞く前に、良太の可愛い唇を塞いでしまった。我慢できずにその唇をむさぼり、舌を入れて、良太の味を堪能した。

「良太だ! お前が欲しいっ」

 やっと空気が据えたと、プハって息をした良太だった、そしてもう可愛いフェロモンが出始めていた。俺を誘う可愛い香り。

「もう! 言い切る前に、ひどい。責任、とってください……」

 そしたら今度は良太から怪しく腕を首に絡み始めて、キスを仕掛けてきた。そのままキスをしながら良太を抱え込み寝室へと俺たちは消えていった。

 情事を終えて、お腹すいたなってキッチンに戻った頃には、せっかくの豚カツがすっかり冷めてしまった。二人して笑って、そして今度は俺のリクエストに答えてくれて、恥ずかしながらも裸のまま、いや、下着は履かせてくれと言うので、下着にエプロンという卑猥な姿で、冷めたカツを卵とじにしてカツ丼にリメイクしてくれた。

 それを作る最中も俺のフェロモンが出ているのを、良太がしまえと言ってきた。

 ご飯食べないと体力が続かないからと言われたので、必死に煩悩と戦って良太を眺めていた。

 できたご飯を美味しくいただいたら、良太が食べ終わるのを待ち、そのまま良太も美味しくいただいたのだった。

 良太も本当は調理している時から、早く俺に触りたかったと言っていた。そしてその夜は一生懸命俺に答えてくれた。

 ああ、俺のつがいが可愛い!
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