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第六章 本心
121、本当の気持ち 8
しおりを挟む迎えにきた先輩に手をひかれて、勇吾さんの元へと行った。
「良太君、後遺症は大丈夫だったかい? これでも心配したんだよ」
「うん、ごめんなさい。たくさん迷惑かけてしまって」
「僕は確かに君のした、浅はかな行為にはそうとう怒っているよ。倒れたのもどうしてかわかるよね? 病気をもらうこと、ショックで死ぬこともある、医者としても家族としても間違った行動をしていた子を注意した、わかるね?」
こないだはジジイのペースで時間は流れて、改めてあの事件に触れられて、きちんと話をするべきなんだってハッとした。
「そんな言い方はよしてください。良太は十分反省しています、それに良太がした行動は全て俺のせいだと言ったでしょう? そんなに責めるならやはり良太をあなたの元にお返しできかねます」
一瞬固まってしまった俺を心配して、先輩が間に入ってくれた。
「先輩、違うんです。僕、悪いことをしたのにきちんと謝ってない。だから、その、本当にごめんなさい。自分の行動の責任も取れず、お二人に頼りっぱなしで。本当に反省しています。僕をもう一度受け入れてもらいたいって思っています」
そこで勇吾さんは優しく笑ってくれた。
「よし! 君からの謝罪も受け取ったし、この件はこれで終わりだ。初めての家族喧嘩は少し寂しかったよ、もうこんな思いさせないでね」
「はい……」
「じゃぁそういうことだから上條君、良太君はこのまま僕が連れて帰るよ。これからも週末は僕の家、そして平日は君と学園で過ごす。この流れは変えないよ? 良太君もそれでいいよね、学園も長くお休みしたし、二人ともきちんと授業にでるんだよ」
先輩は流れを勇吾さんにもっていかれて、少し戸惑っていた。きっと先輩の元に残りますって言って欲しかったんだと思う。
「良太はそれでいいの? さっき先生とも話したけれど、良太はバイトをする必要はないんだよ? そんな辛そうな顔した良太を見たら、やっぱり無理させたくない」
先輩が爆弾を仕掛けた。
そんな話もしたけど、できないんだよ。俺の行動には絢香の命がかかっている。ううん、華の分も増えたから、このちっぽけな手には二人の人間の運命を乗せているんだ。
本音を言ったら、そりゃ先輩とずっと一緒にいたい。だけどそうしたら俺は確実に裏切り者になってしまうし、俺の命の恩人である大切な人を失ってしまう。
やりきれない思いを口に出せずにいたら、勇吾さんが口を挟んできた。
「バイトは、良太君が慣れない学園から離れる口実なんだよ。息子との息抜きに来ているんだ。あまり口出ししすぎるとまた嫌われちゃうよ?」
「ご心配には及びません。俺たちはもう大丈夫ですから」
俺は先輩の言葉に思わずキュンってしてしまった。だめだ! ここで勇吾さんと先輩が言い争ってもしようがないから、会話を終わらさなくちゃ。
「先輩いろいろと心配してくれて、ありがとうございます。せっかく勇吾さんも迎えにきてくれたし、僕帰ります。我儘ばかりでごめんなさい、僕のことを考えてくれて、すごく嬉しかったです」
「良太、いや、いいんだ。卒業したらお前が俺だけのものになるんだから、もう少しお前を独り占めするのは待つよ」
まるで先輩は、答えがわかっていたかのように納得してくれた。俺の頭を撫でて、顔を撫でて、愛おしい目で俺を見てきた。勇吾さんの前でもあるしあまり反応できないけど、でも恥ずかしくて赤い顔をしてしまった。
「あまり家族のラブシーンを見るのは僕としてはもどかしいから、その辺にしてね。じゃあ良太君行くよ」
俺は持っていく荷物も特にないので、そのまま先輩に見送られて勇吾さんの車に乗り込んだ。
勇吾さんと二人きりになって、俺は初めて緊張した。運転中に勇吾さんは少し苛立っていた。
「上條君のあの態度。あの子はやけに余裕がでてきていたね」
「え、そうかな? それより勇吾さん、俺のこと本当はどう思ってる? あんなことした俺を嫌いになったんじゃない? お爺様との契約の手前、今日は無理して俺を引き取ってくれた?」
「違うよ、今回の件は僕が君を帰した時から間違いが起きた。君のしでかしたことは浅はかだけど僕の責任でもあるし、好きだから本気で怒るんだ」
運転中だけど、片手が俺の頭を撫でた。
「誰と結婚するんだっけ? 間違えてはいけないよ、喧嘩をするたびに僕のところから逃げだすのはやめてね? 君が好きだよ」
「勇吾さんは、まだ俺を好きって言えるの? 俺の気持ち、こないだ聞いていたでしょ? この関係は完璧にお爺様の策略だよ?」
勇吾さんは路肩に車を寄せてから、俺に向き合ってきて頬を撫でた。そしていつものように顎先を触り、猫を撫でるように愛撫する。顔を寄せてきてキスをしようとしてきた。
とっさに俺は少し後ずさった。だって、俺は先輩が好きだから。勇吾さんのキスを今までみたいに嬉しいとは思えない。
「嫌だった?」
「あっ、いきなり、だったから……」
とっさに嘘をついた。というか俺は勇吾さんに恋愛感情が無いのくらい知っているはずなのに。どうしてキスを?
「そう、いきなりじゃ無かったらいいの?」
俺は勇吾さんを見返したまま、何も言えなくなってしまった。
「困らせてごめんね、でも、僕だって男だよ。可愛い君を他の男に差し出して、さらに見ず知らずのアルファにも取られた。僕の気持ちも少しはわかって欲しい」
「あの時は、番解除が目の前に迫っていて、薬が有効なのかを確かめたかったから。でも今は違うし勇吾さんの気持ちって、それでもまだ続いているの? お爺様への忠誠とか仕事絡みなら、もうこんな茶番に付き合ってくれなくてもいいよ。とりあえずは先輩が卒業するまでは、俺にそんな態度を取らなくても」
「愛しているよ」
「えっ」
こんなことをして、さらには違う男を愛している俺を本気で?
「君が上條君を好きなのは知っているけど、それは絶対に続けられない。数年後は間違いなく僕と夫婦になる。それしか絢香さんが生きられないのは知っているのに、どうしてそんなに白黒つけたがるの? 君は僕を拒否せず受け入れるしか無いんだよ。僕は君を愛している」
俺は真剣なこの人を、むやみやたらと傷つけている。
「勇吾さん……ほんとごめんね。俺、ほんとに酷い奴だよね」
「いや、ごめん。君の気持ちは番でもない僕がどうにかできるものじゃないし、理解はしているんだ。だから気にしなくていい。ただ上條君が卒業したら僕は遠慮しない。今はまだ彼を好きで良いから、僕から離れていかないで」
「うん、離れないよ。勇吾さんを好きな気持ちはちゃんとあるから、もう少しだけ待って欲しい」
勇吾さんの手をそっと握った。俺はずるいオメガだ、そして勇吾さんは車を発進させた。
「絢香さんがね、気を病んでいる。帰ったら安心させてあげてね。自分を卑下しないで、みんなに愛されている自覚をしてね、さあ我が家へ帰ろう」
勇吾さんの言葉が重くのしかかるし、俺は愛されているんだって自覚できる。素直に嬉しいと思った。
「勇吾さん、ありがとう」
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