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第五章 戸惑い
109、良太の苦悩 9 ※
しおりを挟む固まっていた先輩がようやく言葉を発した。
「いや、待て、その話は無理がある。そもそもなんでお前が金欲しさに体を売る」
金が欲しいなんて言われたことなんか一度もないのに、信じられないと。先輩はあの日、外泊すると言ったことを怒って、それでそんな嘘で俺を悲しませようとしているのかって、言ってきた。
百万なんてはした金で体を売るとは思えないと。
「……百万は先輩にははした金でも、オメガにとって大金です。それ以下の金も手に入らなくて死ぬオメガも大勢います」
「違う! 今はそんな話じゃない、お前は本気で体を売ったというのか! 嘘なら早く言え、今ならそんな笑えない冗談でも許してやる!」
俺の腕を必死に掴んできた、怖い顔をしている。腕もいたい……。先輩はこれが嘘じゃないってわかっているんだ。
「いいえ、そういう話です。先輩と僕の価値観、ものの見方が違うから、互いに理解はできないんです。僕のした行動がわからないんですよね? アルファには一生、わかりません」
こんなやりとり意味がない。俺はここを出てからどこに行こう。あの優しいアルファの連絡先、今となっては見ておけば良かったって思う。
勇吾さんにも捨てられたんだ、もちろんジジイのところにも行けない。俺はもう投げやりだった。
「もういいでしょ? どうせ番は遅かれ早かれ解消するんです、お互いに理解できない世界の話は時間の無駄です。これ以上はもう話すことは無い。あなたとは今後、」
「ふざけるな! 番を解消するって、何かあるごとに言ってそうやっていつも俺を脅す。お前こそ、俺を手の内で転がしていて楽しいのか? 俺にはお前のその考えもどうしていいのか、わからないよ……」
先輩が本気で怒鳴った、でももう譲れない。
「それこそ、です。僕は番解消を脅しの道具に使ったことはない。好きだとか言うくせに、僕を何一つ信じない。いつだって真剣に番を解消して欲しいって言った。オメガはそんなこと言わないとかいう思い込みこそが、僕の人格を否定しているんだってわかりませんか?」
先輩は怒っているのだが、俺の話す言葉にも驚いている。
「解消が死だから選べないとでも思った? 生きることがどんなに辛いか、子供の頃から死ばかりが身近にあった僕には、死は救いです。両親も立派にいて、生きること自体に不都合を感じないアルファの先輩にはわからないでしょ? ね、育った環境が違うもの同士はわかり合えない」
そう、死ぬのは辛い事じゃない。生きる方がよっぽど辛い。知っていたのに、俺はまだこんな場所にいる。
「だから、もうこれ以上はお互い演技をやめましょう。これ以上一緒にいても、互いの利益は何一つない。不毛です、終わりにしましょう」
「演技ってなんだ、お前は俺との時間が演技だったのか!」
「それはお互い様でしょ、」
「俺はお前に聞いている! 俺のとってきた行動をお前の思い込みで決めるな! どうなんだ? 演技だったのか?」
「利益があるかと思って、近くにいただけです。でも僕には何の得もなかった。これでいいですか?」
先輩の顔はずっと怖かった。
俺は殺されるんじゃないかと思った。でもそれでもいいか、その方が番解消よりもジジイにとっていい話かもしれない。自分の孫がライバル会社の子息に殺された。ビジネスチャンスじゃないか、これで恩を返せる。先輩の何もかもが怖かったけど、最初で最後の本音を言った。いっそ、逆上して殺せばいい。
そう思ったら、いきなり発情フェロモンを浴びせられた。
「はぁ、んんっ、えっ……? な、なんで、今? んん……」
アルファが番を従わせるために、発情させるフェロモンを出す。これで支配者が誰か体で教える。オメガはそうなると何もできない。ただただ目の前のアルファを誘うだけ。
俺の後孔からは蜜がこぼれ出す。
クプって音がして、息もあがる。前は完全に勃ち上がり、こんなシリアスな場面でも発情に逆らえずよだれを垂らす。
「なあ、それも演技か? 俺には番を求めるオメガに見えるんだけど、しかも淫乱な」
「んっ、やめ……て。その匂い……」
「演技で前をギチギチにおっ勃てる根っからの淫乱だ。番がいながら他の奴とできる。しかも丸二日も。オメガは番以外受け入れられないって淫乱のお前には関係なかったんだな」
俺を言葉で責め立ててくる。
「今度は俺の前でアルファと寝る? だって俺だけじゃ足りないから、他の奴と寝れるんだよな? 吐きながらヤルの? そういうプレイが好きだなんて知らなかったよ、それじゃあ俺とのセックスに満足しないな?」
「はあ んんっ やめて、やめ……」
酷い言われようだけど、確かに淫乱だ。
こんな状況でもギチギチで、しかもズボンにシミがにじみ出るくらいに濡れている。後ろも前も。俺は辛すぎて、床に崩れ落ちた。
「ソファまで濡れているし、急にアルファ呼べないから、とりあえず俺でいいよね?」
ズボンを下され、いつのまにか先輩のも勃っていて、その剛直を何のほぐしもなく突き立てられた。
「あぁぁぁぁ――」
無言のまま、四つん這いにされて、両手を後ろで引っ張られて、後ろから何度も何度も突き立てられる。
まるでエロビデオのようなシチュエーションだ。こんな体制辛いだけなのに、痛いのに、でも、後ろは慣れた快楽を拾い集めた。前からもピュピュっ、と突き立てられるたびに蜜が出てくる。こんな状況でも自分のアルファが中に入ってきている喜びを体が感じている。
偽物とは違う。あの薬でやったセックスは最高だったけど、やっぱり違う、俺のアルファはこの人だって体全体でそう言っている。
「はっ、これ演技? ねえ、俺とのセックスちゃんと感じてる? 満足してないんだよね? 本番で演技するくらいって、俺そんなにへたくそだったかな、じゃあこれはどう? これなら演技じゃなくていける?」
「あああっ、いやああぁぁぁ――っ」
角度を変えては、突き刺す。
俺は何回イッただろう。出るものも無くなって、今度は後ろがへんな感覚になり、ついには出さないでもいった。
「まさか、こんな状況で出さないでいくなんて。その好みのアルファに調教された? 今度は潮でも吹く? すぐに仕込むのは大変かな? 俺は趣味じゃないけど、良太の可愛らしいペニスの中に細い棒でも刺してみる? 良太は淫乱だから、何をやっても喜んじゃうよね」
「あっ、あっもう、いやっ、ゆる……して……んんっ、あぁぁぁっ――」
俺が意識を失いそうになると、頬を叩かれて、まだ寝るなって言われては、すぐに力を無くすほど、突かれる。その繰り返しを何度したのだろう。行き過ぎた快楽に、俺は本当に限界だった。
そうしていると、先輩がついに飽きたのか、部屋を出ていった。俺は立ち上がる力もなく、床に崩れて泣き続けた。裸でうつ伏せの姿勢で地べたを涙で濡らす。
少ししてから先輩が戻って、良太って耳元で俺の名前を囁く、もう怒りは収まったのか声のトーンは落ち着いていた。
だけど俺は恐怖で顔を床に突っ伏したままで抵抗した。手で目元を隠して、それでも後ろから抱きついてくる先輩に体は震えだした。ずっと泣きながら震えて、そしたらまた先輩が後ろから、前触れもなく挿れてきた。
「うっ、ううっ」
体を揺すぶられて、でも俺はずっと、うっ、うっ、って泣きながらえずいていると、ついに気持ちが悪くなって、体が痙攣して呼吸ができなくなった。それにやっと気づいた先輩は急いで後ろから自分のを抜いて、俺を抱え上げたが、俺はもう起きることすらできなかった。
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