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第五章 戸惑い
104、良太の苦悩 4
しおりを挟む岩峰家を出てから、あてもなく繁華街を歩いていた。
目的は無くほんとに歩いているだけ。スマホのバイブに気づき、画面を見てみると先輩からのメッセージが入っていた。
開くのも嫌で、中身を確認せずそのまま電源を落とした。勇吾さんは帰ってきたら俺の部屋にいくかもしれない。一応寝ていても、いつも確認にくるのが癖だったから、その時、俺がいないことに気づくだろうな。
学園に……帰ったとは思わないだろう。
ジジイに連絡かな、そしたら絢香は自分を責めるだろう、目に見えてわかる。俺は大事にされてきている。なのに、なぜあの時そう思えなかったのだろう。そして今、どこに向かっているのだろう。どうしていいかわからなくて、橋の真ん中で俺は大きく流れる川を見て、ずっと覗き込んでいる。そんなことをしていても何も変化は無いのだけれども。
どうすることもできずにぼぅっとしていると、ふっといい匂いがしてきた。
すぐ後ろを振り返ると、見栄えのいいアルファがいた。そのアルファは目が合うと驚いた顔で俺を見ている。
そうか、今はあの薬を飲んでいるから、先輩以外のアルファのフェロモンも感じる? じゃ俺の匂いもアルファには香っているのか?
こんな時までアルファなんかに関わりたく無い。そう思ってすぐに歩き出した。しかし、俺は思いのほか弱っていたのか、貧血を起こしてしまい、道端で倒れた。すると倒れきる前にその男に腕を引かれた。
「大丈夫か!?」低くて心地の良い声がそう言ったのを聞いた瞬間、俺の意識が消えた。
◆◆◆
「……、どこ?」
目があいたら、ベッドの上に寝そべっていた。丁寧に布団が肩までかけてある。結構上質なやつだ。どこかのホテルみたい。
「ああ、目が覚めたか? 君、身分がわかるものを何も持ってなかったから、とりあえず俺の滞在しているホテルに連れてきた。あっ、変なことしてないからな、苦しそうだったから上着脱がしただけだ。貧血か? よくあるのか?」
俺のおでこに手をあてて、うん、顔色も良くなっているし大丈夫かな? と言った。
「おい? 喋れるか? 君、オメガだろう。君からフェロモンが漏れて、目があったらいきなり倒れるから、発情っぽくはないけど……なんかダダ漏れだったぞ。それじゃ襲ってくれって言っているようなものだ」
あの薬、発情期じゃなくてもそんな作用もあったんだ。番以外にフェロモンが出る、もう俺は番に縛られてない。俺が黙っていると男は話を続けた。
「番がいてそのフェロモンってことは、ドラッグか? そういう遊びが若者の間では流行っているのか? どちらにしても自分を滅ぼす行為はやめろ。おい、聞いているのか? あっ、まだ具合悪い?」
よく喋る男だ、俺を心配? でもアルファだ、信じられるか、番って……あぁ噛み跡見たのか。
「あんた、説得力ないよ。ホテル連れこんどいて、フェロモンがなんとかって、やりたいの? 一回五万でいいよ。定期的に病院通わされていたから、病気もないし発情期も終わったから、生ですぐできるよ?」
「……真面目に答えろ、番は? 連絡してやる、俺がきちんと説明してやるよ」
「ははっ、ウケる、マジメか!? 番はいない。少し前に死んだ、噛み跡はその内消えるのかな? 今はフェロモンコントロールできないみたいだね」
「だねって、それじゃお前の保護者は? 未成年だろ?」
「俺、親いないんだ。ねえ、あっちの経験は番しかないけど、相当仕込まれたからきっとうまいよ? 試してみない? 金稼がなくちゃ生きていけないんだ、人助けだと思って一晩買ってくれない? あんた、すごく美味しそうな匂いがする」
俺はやけくそだった。薬の効果が効いているのは明日の夕方まで。誰かと既成事実結んで、先輩以外ともできることを確かめたい、もう関係ないけど俺だって先輩を裏切りたい。
とにかく、今すぐ俺に残る番の匂いも存在も消し去りたい、誰かに上書きしてもらいたい。
そんな思いで必死に嘘をついて目の前の男にすがった。そうだ、金は必要だ。もう誰の前にも姿を見せられないなら、逃亡資金を稼がなくちゃ。
もう一錠、あの薬がポケットに入っている。だからその間に沢山の男からお金を稼ぐ必要がある。金は対価を支払わなければ手に入らない、オメガはみんなそうやって生きてきた、母さんだって! 俺だってしなくちゃ。一人だけ綺麗でなんていたから、バチが当たったんだ。
「だったら金はやる。番が死んだなら、オメガ保護センターに連れてってやる。しばらく利用して国に養ってもらえ、ほら、もう元気になったのなら起きろ」
「あんたは、オメガじゃないから知らないんだ! 国はなんの助けもしてくれない。そんなことしてくれたなら、売られることもなかったし、俺は無理やり番にされることもなかった」
男はいい奴なのだろう、俺の言葉に驚いていた。
「もういいよ、抱いてくれないなら他の男に声かけるから。俺には生きていくのに金が必要なんだ。俺だっておめでたくないから、対価なしに金を得られるなんて思ってない。じゃあな、世話になったよ」
そう言って、俺はベッドから起きて部屋を出ようとした。すると腕をつかまれた。
「お前、番とはそういう関係だった? お前がそれでいいなら、俺はお前を抱く。金も対価分払う、だからそんな無防備なフェロモンを外で撒き散らすな、俺の精液が入れば少し香りも落ち着くだろう。その雰囲気で外に出てみろ、最悪、金も手に入らずにその辺の奴らにレイプされるだけだぞ」
なんだ、こいつ。
「別に情けならいいよ。あんたそんなかっこいいんだし、男にも女にも困ってないだろう? 俺みたいな粗悪なオメガ抱く必要ないもんな。誘って悪かったよ」
「いや、お前の香りは正直やばい。抱いたら理性保てねぇぞ。お前の番忘れるくらいにとろけさせてやるけど、いいのか?」
「ああ、いいね、その自信。俺もあんたの匂いさっきからやばかった、早く……食べたい」
俺は、そいつの唇に噛み付くようにキスをした。俺が優勢を保ってやるって思って、そのまま男のベルトを外してすぐにものを出そうとしたら、止められた。
「お前のテクニックはわかったから、まぁ待て。俺がお前を買うんだ。俺のやり方で抱かせてもらう、お前はおとなしく感じていろ」
「ははっ! 変態とかだったら、金額上乗せな?俺、一応ノーマルなのしか知らねぇぞ?」
「ば――か、ガキはされるままにアンアン言ってろ!」
それから本当にアンアンいう羽目になった。先輩のそれとは違い、いきなり凄く激しかった。でも、優しすぎない手つきは、緊張して虚勢を張っていた俺の体を解いていく。
俺はやっぱり快楽に弱いらしい。
すぐに気持ち良さに飲まれた。一回っていったのに、こいつ何回やる気だ。それに一回が長い。最初こそガンガンに突かれたけど、その後は俺をとにかく感じるだけ感じさせて、もうお願いって言うまでしてくれなかった。そんな俺は、挿入されたと同時に果てた。早すぎだろ!って、笑われた。屈辱だがしかたない。
番以外との行為でもすぐに快楽に陥った。はっ、やっぱオメガは節操ない。それにしてもこの薬はすごい。これって媚薬も入ってんじゃないの? それとも薬とか関係なく誰でも良いとか、俺は根っからのビッチだったのか、それともこの男のテクニックがえげつないのか。
先輩以外経験がなかったから、なんとも言えないけど、この目の前の見ず知らずの男とのセックスは最高だった。
他人と寝るのは心が痛むのかと思ったけど、そんなことも頭によぎらないくらい、ひたすらセックスに溺れた。
応援ありがとうございます!
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