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第五章 戸惑い
102、良太の苦悩 2
しおりを挟むまだ夕方だから勇吾さんは仕事中だと思ったけれど、まずは勇吾さんと二人で話したかった。
勇吾さんに会いにいくとメールしておいたので、仕事が落ち着いたら合流するから受付に言って副院長室に通してもらっていてと返信がきた。それに従い部屋で出してもらったお茶を飲んで待っていたら、白衣姿の勇吾さんが入ってきた。
「良太君、どうしたの!? 何かあったの? あるから来たんだよね? まず僕の元に来るってことは、何? 何だろう? 体調か! 具合が悪いのか! 上條君は?」
「ははっ勇吾さん、落ち着いてよ。俺は全く健康だよ、大丈夫。突然ごめんね」
「いや、それならいいけど、どうしたの?」
「うん、話があって。あっ、それより勇吾さんのデスクにあるの、例の薬? 今どんな段階なの?」
俺は思ったより落ち着いた態度でいられた。そしていきなり本題に入るのもなんだったら、先程待っている間に見つけた薬について聞いてみた。
「えっ、薬? ああ、これね、そうか、そうだよ。開発はかなり進んで、試験段階に入っているんだ。この間、初めて治験した時には完璧とは言えないけど、番のいるオメガがアルファを受けいれられた。ただ、その後に嘔吐があったのと、翌日は熱が出てしまったけど、情事中は問題なかったそうだよ」
「えっ! もうそんな段階なの!? すごい。さすが勇吾さんだね、それって効果の時間とかは? 詳しく教えてよ」
「ああ、これはね、凄いよ。一回一錠で効き目はなんと一日。しかも飲んですぐ効果が現れるし連続服用七日までオッケーで、だからヒート期間に耐えられる」
「へぇ、簡単でいいね」
「服用中の妊娠も可能だし、望まないならアフターピルが必要になる。今の段階では、挿入による不快感はないけど、直接入ってきた番以外の精液に対する副作用が抑えられてないから、数時間後には体に無理がくる。それでもどうしてもしたいっていうならできないわけじゃない。ただ、たとえゴムをつけていても嘔吐と発熱覚悟だけど、あとはそこさえ解決すれば、完成だよ」
仕事熱心な勇吾さんは雄弁に語ってくれた。
「もうそんな段階なんだ! でもよく治験に協力してくれるオメガなんて居たよね? 症例は多いほうがいいでしょ? 俺もそれ試してみようかな? ね、勇吾さん、しようよ」
勇吾さんが一瞬固まっていた。
「言ったでしょ、まだ完璧ではないって。そんな不安定なもの、良太君に試せる訳がないでしょ。それに今そんなことしたら、確実に上條君に気づかれる。アルファの嗅覚をなめたらダメだ、僕としたことバレるよ?」
とりあえず座ろうねって言って、俺を座らせたら勇吾さんは自分の分のお茶も入れて、目の前のソファに腰をかけた。
「もうバレてもいいと思う。仕事中にごめんね? 先輩とのことを家では話したくなくて、絢香に余計な心配かけたくないんだ」
勇吾さんは俺真面目な顔に、何か重大なことが起きたのかと心配そうな顔で見てきた。
「上條君と、何があったの?」
「先輩、今夜婚約者と過ごすみたい。俺、遅かれ早かれ番は解消されるよ? お互いに騙しあっているならもう一緒に暮らしたくない……。学園辞めたい。それに当初予定はその薬ができるまでだったでしょ? もう試せるなら解除しても大丈夫じゃない?」
「……良太君、なんでいきなりそんな話になったの? 婚約者なんて。それに上條君は君が大好きすぎるってくらい誰が見ても溺愛していたけど、なのになんでいきなり婚約者? 勘違いじゃないの?」
「ほんとだよ、見たんだ。先輩が以前お爺様から見せてもらった写真の婚約者と抱き合っていたの。先輩からキスしていたし、彼女と付き合っていると思う」
「そんな、まさか」
「俺さ、桐生の弱みを掴むための目的や性処理の相手として見られているなら、これ以上あいつに抱かれたくない。ねえ勇吾さん、俺のこと抱いてよ? 試そうよ、その薬」
戸惑う勇吾さんの前で、俺は薬を飲み込んだ。さっきその薬を二錠だけ、こっそりポケットに入れといた。勇吾さんは、あっ! て言って、しまった! という顔をしてきた。
「なんてことを! 上條君の件はまだきちんと調べないと。それにその薬は副作用があるっていったでしょ? もう、飲んじゃったものはしょうがないけど」
「そんなの気にしない、抱いてよ」
「良太君! 性行為さえしなければ大丈夫だから今日はもう大人しく僕の家に帰ろう。学園の話も、今後のことも総帥にきちんと話をして決めようね、いいね!」
そう言われる気はしていた。勇吾さんは大人だから、勢いとかでそういうことはしないことくらいわかっている。それにここは職場だ。
家に帰ったらチャンスはあるかな? 俺はどうしても先輩以外の人を受け入れられるのか試したい。確実に番をやめられるっていう、確証が欲しいんだ。
その意思を見せるために勇吾さんの隣に座ってキスをした。勇吾さんはびっくりして俺を引き離そうとしたけど、なめるな! 俺は散々あのクソアルファから教え込まれたんだ。だからとってもいやらしいディープキスをした。
「うん……はっあ、……クチュっ……は、勇吾さ……ん」
「はっ、良太君!……んん、君はなんてキスをするんだ!」
力技で引き離されてしまった。
力はかなわないから、俺を引き離すくらい簡単だ。アルファだったらフェロモンで落とせるのに、ベータを落とすのは意外と難しいんだな。
でもキス気持ちよかった。
それに唾液絡めたのに全然苦しくなかったし、頭も痛くない。快楽だけしかなく、俺のあそこは少し固くなっていた。
「やだ! 離さないでよ。俺、ちゃんと感じてるよ? ほら、触って? 勇吾さんは俺じゃだめなの? キスしたくならない? 抱きたくならないの? 俺は勇吾さんに抱かれたいのに……」
勇吾さんの手をとって俺の股間に当てた。んんっ、と言ってしまったが、感じているんだもん、わかって欲しい。
「良太君、好きだよ。だから抱きたいと思うし、キスは、すごく良かった。でもね、大事な君をこんな場所では抱けない」
キス、気持ち良かったんだ。
「それにこれからオペが入っていて、どっちにしても夜遅くまで体はあかないし、副作用を味合わせたくない。一年後、結ばれるんだよ? 焦らないで、もう少し研究頑張るから、ねっ?」
勇吾さんは俺の頭を撫でて、今度は勇吾さんから深く深いキスをしてきた。
俺のキスなんかより数倍、いやらしい。
大人だ、俺はキスに感じてしまった。勇吾さんは俺のズボンの中に手を入れてきて、触ってくれた。ゆっくり大事なものを扱うように、丁寧にしごいてくれて、俺はあっけなく勇吾さんのその大きい手に欲望を吐き出した。
「は……んん 勇吾さん、気持ちいい。俺、待つよ」
「良太君は本当に可愛いね、一旦僕の家に帰るんだ。入り口に車回してもらうから、それに乗るんだよ? 今の君は可愛すぎて誰かに襲われないか、心配だからね」
色々手配してくれて、勇吾さんが下まで送ってくれた。俺は用意された車で、勇吾さんの家へと向かった。
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