ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第五章 戸惑い

92、不安 3 ※

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「あっ、あっ、あっ、あああッ」

 先輩の動きがゆっくりな動作から、速い抽挿ちゅうそうに変わった。

 俺は奥を突かれる度に、声が漏れる。

 もう言葉なんか何も出ない、口を開けてひたすら空気を出すだけ、そしてその間に吸う。必死に呼吸をするも、口を開けっぱなしの俺に先輩は唇を重ねる。キスをくれるから返したいのに、口は開きっぱなしで、一生懸命閉じて唾液を飲み込むしかできない。

 そんな俺の唇が開いた隙に先輩の舌がニュルリと入り込み、俺の舌に絡めて、そしてジュルっと唇で俺の舌を吸い上げる。

 全ての動作が、感じてしまう。中を突かれても、その間に口内を侵されても、何もかもが気持ちいい。

「良太、良太、くっ」
「ああああんっっ、イク、イク、あっ、凄いっ、あん」

 揺さぶられながら、俺のペニスも体が揺れる度にフルフル揺れて、そしてびゅっびゅっって、白濁を吐き出す。

 先輩の押し込められたものからも、子宮にぎゅうぎゅうと精液が入り込む。そしてその刺激にまた後ろがぎゅっとして、望みのものが入ってきた俺の体が歓喜でブルっと震える。

 二人同時に達したのが嬉しくて、はぁはぁと息をきらしながらも、先輩を見上げて微笑んだ。

 先輩はそんな俺を見てキスを繰り返す。

 そして先輩の長い射精の間、緩やかな快楽のなか、やっと自分から先輩のキスに答えるように唇を動かすことができた。ちゅっ、ちゅっ、とかグチュっと、上も下も液体が混じり合う音がする。

 この光景は、愛し合うつがい同士の神聖な交じり合い、そういう風に思いたかった。

 情事が終わり、それでも先輩と離れたくなくて、まだ出ていかないでと言って、先輩を自分の中に留めた。そのまま抱き合い、先輩の胸に囲われる。いつのまにか俺は眠りに落ちていた。

 次に目を開けた時、夜になっているのが部屋の雰囲気でなんとなくわかった。いつのまに、こんなに時間が経っていたのか……眠りに落ちる寸前まで一緒に居た先輩は、そこには居なかった。俺は動かない体を必死に起こした。久しぶりのセックスに体はついていけず、ぽすっと背中をベッドの背もたれにもたれ座るのが精一杯だった。

 ああ、何をやっているんだろう。

 しかもこんな時間になっている。

 絢香、心配しているだろうな。勇吾さんにも呆れられちゃうかも。それに一番は先輩だ。あんな態度をとったのに先輩に会った途端、喜びで体からはフェロモンを出す、抱かれたくて誘う、何度もキスをねだる、やっているコトが最低すぎて笑えもしない。

 でも、あんなに抱かれたからなのか? 今朝までの変なモヤモヤは消えていた。まだ不安も残るが、どうしようっていう気持ちが減った。

 つがいに会って、抱かれるだけで全く別人みたいな気持ちになる。こんなんで先輩の卒業後、俺は本当につがい解消しても生きていけるのかな……。

 先輩と離れたら不安の気持ちが勝って生きいけない、たったこの期間だけでこんな気持ちになるくらいなら、きっとそうなる、そんな予感がした。

 うだうだと答えの見えない考えを張り巡らせていると、涙がぽろぽろと出てきた。自分が分からない。体は喜んでいる、そして心も満たされた、でもこれは勇吾さん達を裏切っているんじゃないのか? そんな思いが浮かび勝手に涙が出てきて、止まらない。その時、扉が開いて光が差し込んだ。

「良太! どうしたの? なんで泣いているの? 体、辛い?」

 部屋を開けた瞬間、動揺している先輩がいた。声を殺していたのに、どうして泣いていたのがわかったのだろう、俺はハッとして先輩を見た。

つがいだよ? わかるよ。良太のフェロモンが不安定になっているんだ、何かあった?」
「先輩は、こんな僕を許せるんですか? あんな酷いこと言ったのに……先輩の前では、いい顔していただけで、本当の僕は……」
「そうだね、でも良太の本心はきっと違う。だって、つがいにフェロモンは隠せない。お前からは俺が好きって香りするよ」
「えっ、そんな……まさか」
「認めたくない? 良太が気持ちに気づきたくないって思っているだけで、心も体も俺を求めている。でも認めたくないならそれでいいけど、こんなに、不安定になっている」

 俺の髪をかきあげながら、俺でも気づいていない俺のことを教えてくれる。つがいは香りで判断できるらしい。それって絶対嘘つけないんじゃ? でもそれを認めたらダメだ。俺の気持ち一つで動いていい訳なんかない、俺の行動、言動には絢香の人生がかかっているんだから。俺が心を強くもたないから、こんなことになった。

「そんな難しい顔、しないで? 心はしょうがないけど、体だけでも定期的に俺を受け入れて欲しい。そうしないと良太は壊れちゃうよ」
「でも、先輩はそれでいいんですか? 僕、都合よく先輩の体を使っているだけになりませんか?」
「うん、よくはないけど、良太が苦しむ姿を見るのは嫌だから。今はこれでいいよ、体が欲しいのは俺もそうだしね」
「でも! 先輩も苦しんでいますよね、僕の言葉で傷ついていますよね……」

 少し間を置いて先輩が心配するなと話をする。

「大丈夫、俺はもっと自分を鍛えるから。今回は迷惑かけてごめんね」
「迷惑かけたって、それ、僕のセリフです……この数日ずっと辛くて、だからって楽になるために先輩を求めて、自分のやっていること最低だとわかっています。自分の行動を棚にあげて……」
「良太も俺を求めてくれたって、知れただけでも嬉しいよ」

 この人はなんて優しい人なのだろう。俺の仕打ちにも怒らずに耐えてくれて。俺はまた涙が出てきた。こんな優しい人に俺は何をしているんだ。

「ありがとうございます……じゃあ、僕もう帰ります、突然、お仕事のお邪魔をしてすいませんでした」
「もう岩峰には連絡入れておいたから、今夜は帰らなくていいんだ。彼は医者だ、ましてやお前と一緒に住んでいる。良太がつがいと会えなくて限界になっていたのも、気づいていたって」
「そう、なんですか。勇吾さんは僕には何も言ってなかった」
「悔しかったんじゃないのか? 今日はここに泊まろう。まだ完全に不安が消えたわけじゃない。俺と一緒に過ごせば安定するって岩峰が言った」
「じゃあ、勇吾さんは今日僕が先輩と過ごすのを許してくれたんですか?」
「許されなきゃ俺たちは一緒にいられないの?」

 先輩が怪訝な顔をするから、慌てて言い訳を言った。

「勇吾さん、先輩に意地悪……したでしょ? あの日わざと僕の言葉を聞かせたのは、僕の体を自由にしすぎた仕返しだって……」
「どういうこと?」

 先輩が俺の横に腰をかけて、ベッドに二人で座る形になった。じっくり話でもするつもりなのかな?

「僕の主治医で定期的に体を調べるから、先輩が跡をつけ過ぎなのを見て酷いって……」
「岩峰に、裸を見せているの?」
「……僕は桐生から預かった大事なオメガです。性行為があった後は間違いが起きない様に、色々検査しなくちゃいけないって……イヤラシイ意味はないですよ?」
「医者でも男だ、もう見せないで? 気になるならゴムもするし」
「わかりました。勇吾さんは病気と妊娠を気にしていたから、そのための検査だって言っていたので、それなら見せなくても大丈夫だと思います」
「良かった、俺が知らないこと多いな。岩峰には今日の外泊は許可取れているから心配しないで、もっとお互いを補充しよう」

 抱きしめられたから、自然に抱きしめ返した。俺の羞恥心はどこへいったのか。今は一緒にくっついていないといけないと思って、とにかく離れないようにした。

「午前中に会ったのに、もうすっかり夜だ。お腹すいただろう? ディナー運ばせてあるから、あっちで食べよう?」
「そうですね、お腹すきました」

 俺は笑って応えた。
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