ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第五章 戸惑い

91、不安 2

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「しろ、さき……先輩」

 そうだった、彼は先輩の秘書。

 夏休みは一緒に仕事をしているはずだった。そんな人に見つかったら先輩にバレてしまう。俺は一目先輩を遠くから見られればいいと思っていたのに、関係者に見つかったらそのミッションもクリアできない。

「桐生君、こんな所でどうしたの? うちの社員と知り合い?」
「あ、いえ。今、会ったばかりです」
「あっ、ジュニアの……」

 この人、白崎先輩を知っているんだ。そうか先輩についてまわっていれば社員の人には顔を見られるもんね、白崎先輩の目が厳しくなった。

「あなたは、仕事中に高校生をナンパですか?」
「いえ、その、息抜きにきたら可愛い子がいたからつい。白崎さんはこの子と知り合いですか?」
「この方は、上條桜の恋人です」
「えっ!」

 俺をナンパしていた男が驚いているし、周りがざわついている。

 そうだ、このカフェ先輩の会社の人が多く利用しているし、白崎先輩も容姿的に大変目立って華がある。そして先輩の秘書だし、みんな動向が気になるのだろう。上條グループの主軸の人間になりかねない人だ。

「白崎先輩、その、先輩には僕がここに居たと言わないでください……僕、帰ります」
「ちょっと待って、そんなことしたら桜に怒られちゃうし、もう遅いと思うよ」

 ぶわって、男らしい森のようなたくましい香りが鼻を掠めた。そう、息を切らした俺のつがいがそこにいた。

「……良太っ!」
「あっ、帰ります! すいませんでしたっ」

 急いで荷物を片付けていたら先輩に腕を取られ、その触れ合いと匂いで俺は涙が出てきた。ここはいろんな人がいるカフェなのに、先輩はここにいる人たちの頂点になる人なのに。でも久し振りにつがいに会えて、肌が触れ合って俺は歓喜した。

「先、輩……」

 先輩は俺の目をじっと見ている。俺は目を反らせない、それに涙が流れてくる。俺の頬に手をあてて涙をそっと拭って先輩は目をそらすことなく、白崎先輩の声掛けに俺を見ながら話す。

「桜、ここは目立つから……」
「ああ、わかっている。良太少し場所を変えよう」

 手を繋がれてカフェを出る。

 荷物はいつのまにか白崎先輩が片して持ってくれた。手を繋いでいる……その事実にまた俺は歓喜し、自然とつがいへと匂いを出していたみたいだった。
 
 それに俺の手を引いて前を歩く、スーツをきちんと着こなした俺のつがい、かっこいいって思ってずっと熱い目で見てしまった。そしたら白崎先輩に指摘された。

「桐生君、桜を熱い目で見すぎだよ。それにフェロモン出しすぎじゃない? 俺には効かないけど、つがいの桜は辛そうだよ」
「えっ……」

 フェロモンが出ている?

 実際どうやって出すのかとかもわからないから、抑え方も知らない。それに他人に指摘されるくらい俺は先輩を目で追っていた。

 周りの社員達も仲がいい、羨ましい、とか、ジュニアお似合いです、ジュニア愛されているな、とかみんな優しい言葉をかけてくれていた。先輩の人柄の良さがこうやってみんなから見守ってもらえる、そんな空気にしているんだろう。

 そして俺の方が先輩を好きで仕方ない、そう見えているみたいだった。

「忍、余計なこと言うな。良太が恥ずかしがるだろう」
「ごめ-ん、でもこんな桐生君初めて見たからさ、可愛いなぁと思って」
「お前が良太を可愛いと言うな、俺のだ」

 先輩が少し赤い顔で言っていた。

 そうか、つがいだからオメガがフェロモン出せばそれに反応するのはつがいのアルファだけ。だから白崎先輩にはわからないけど、先輩のアルファのふわふわした感じは筒抜けだから……か?

「あの、ごめんなさい。僕フェロモンの出し方もしまい方もわからなくて……」
「しまい方って。はは、大丈夫だよ、桜がウキウキしちゃうだけだから、ただコントロールできるオメガはあざとく生きられるよ? 今度俺のつがいに会ってみる? うちのはあざといから、すげぇフェロモンコントロール上手いよ!」
「忍! 余計なこと教えるな」

 でも、公衆の面前で先輩に恥を欠かすわけにいかないし、コントロールできるまでこんな街中では会わない方がいいかも。

「白崎先輩、ぜひ今度ご教授お願いします。今日は僕、なんだかふわふわして、これ以上いると迷惑かかるので帰りま……ふわっ」

 先輩の手にギュって力が入ってきた。そしたら俺の力が抜けてフニュってなったので、先輩が俺を抱きかかえて、そのまま待機していた車の前にきた。

「ちょっと、桜、やりすぎだよ……」
「うるさい。良太はこうでもしないと大人しくならないだろ」

 俺は先輩のフェロモンに当てられて立っていられなくなったんだ。そして抱きしめられてますます俺の中の何かがおかしくなった。

「せ、んぱい……」

 俺はギュって、先輩の首に回った手に力を込めて、首をすんすんって嗅いでうっとりしていた。先輩はビクってして、ますます香りが強くなる。

「せん…ぱい…」
「じゃあ、今日の予定はキャンセルしとくけど、ここはまだ社員もいる……程々にしろよ」

 白崎先輩の焦った声が聞こえたが、もう周りの声もどうでもいい。早くこの男が欲しい…ますます欲しくて、顔を胸になすりつける。匂いをもっと直に嗅ぎたい……。

「ああ、悪いな。さぁ良太少し車乗るよ。このままホテルでいいよね?」
「我慢できない……」
「大丈夫だ。すぐ着くからね」
「せん、ぱ、い、あんっっ」

 そのまま車に乗せられて、本当にすぐ近くにある高級ホテルに連れていかれた。もう部屋も手配していたみたいで俺は駐車場に直結したエレベーターに乗せられて、そのまま部屋に連れていかれた。

「あっ、はっ、んんっ……」

 部屋に入るなり、抱っこされたままなのに歩きながらキスが始まった。待っていたつがいの愛おしい液体が俺の唾液と絡むと、たまらなく甘く、痺れる。そしてもっととねだって、溢れるくらいの唾液が混ざり合う。

「せんぱい…んんっ」

 くちゅくちゅって、凄く卑猥な音。

 途中チュって軽く可愛い音。いろんな音を聞きながら俺は楽しくなって、もっともっとって、唇から離れなかった。

「くちゅっ、りょ、うた。もういい加減、離して、他も味わいたいよ」
「あん、いや、もっと欲しい、離さないで……」
「ふふ、とりあえずベッドに横になろうか?」
「あっ」

 俺は離れないって、抱っこされたはいいが、足を絡めて降りようともせず、ずっとその体制でキスをねだり続けていた。ベッドに降ろされて少し恥ずかしさが出てきた。

「ごめんなさい、僕、なんでこんなに盛っているんだろう……」
「二週間以上離れていたし、こんなに体を繋げなかったのは初めてだから不安を感じていたんだろう、つがいに会ったら離さないって本能がそうさせているんだよ。俺の味を感じて少し落ち着いた?」

 かあ――って、まるで音が出たかのように、俺の顔が赤くなっていく。そうか相手の体液を取ると落ち着くのか。

「ふふ、おかしなことじゃない。つがい同士だ。正常だよ。俺も良太に会った途端抑えられなかった」
「先輩も?」
「ああ、どうしても良太に連絡する勇気がなくて、こんなになるまで放っておいて悪かった」
「違うんです、僕が悪いんです。僕の言葉や態度が先輩を傷つけているって、知っていたのに、だけど、どうしようもなく会いたくなって……勝手にこんなところまで、すいませんでした」

 先輩が上に乗っている状態で、またキスをしてきた。話の途中だったけど、本当はもう我慢の限界で、またキスをしてもらえて嬉しかった。許してくれているのかな……また不安になって、不安を打ち消すために体を先輩に擦り付けた。

「良太、今はもう何も考えないで俺に抱かれて、話はその後にしよう、愛しているよ」
「んんっ、抱いてください」

 愛しているって言葉、聞いただけで子宮が疼きだした。先輩はその変化に喜んで、俺の乳首を弄り始めた。

「ふふ、可愛い。愛してる、つがいのこの言葉は魔法みたいに心も体も満たしてくれるんだ。良太も言って?」
「あっ、あっ、ん、ん、もっと、触って……」

 俺はまだ聞こえているが、もう理性が働いていないフリをしてごまかした。

 ごめんなさい、先輩、嘘でも演技でも言えない言葉があるんだ。俺はずるい。酷いオメガだって自覚はある。聡い先輩は俺をどこまで理解しているか知らないけど、そこには触れずに優しい声で俺を喜ばしてくれた。

「ああ、全身くまなく触ってあげる」
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