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第四章 番
74、番として 9
しおりを挟む「体に俺を覚えさせないと。もちろん明日は動けないし岩峰の家への外泊もなし。番になったばかりだし、初めての週末に外泊なんてもともと許すつもりなかったけどね」
なにそれ……! なにそれ!
先輩は笑って、さも晩御飯のおかずは何? みたいな当たり前のような会話の流れでとても怖いこと言っている。俺は恐怖で抱きしめられた腕を必死で解いた。
「こ――ら! ここにきて抵抗していいの? 良太は俺を騙して離れるっていう一番しちゃいけないことを考えたんだよ? ただで許されると思っている? 岩峰に迷惑かけたくないんでしょ。良太が体で答えてくれたら、今回の無かったことにしてあげる、それでも拒否する?」
先輩は俺の両腕をいとも簡単に掴み、俺の顔の前に綺麗な顔を近づけて、俺に淡々と怖い話をする。
「先輩、怖いっ、何するつもりですか?」
「何って、良太の体に俺無しじゃいられなくなるような快楽を覚えさせるだけだよ。怖くなんてない。気持ちいいことだけだ、あぁこれじゃお仕置きにならないかな? じゃあ動画も撮ろう! 良太がまた俺から逃げられないように恥ずかしい記録を残そうかな」
俺は、泣いて抵抗した。
「ごめんなさい! もうしないから、許してください。僕、そんなことできない、したくない。怖いっ、怖い」
「でも、俺怒っているんだよ? 何かしてくれないと収まらないよ」
「何かって、でも僕にできることなんて何もないです」
「良太にしかできないことは沢山あるよ? まずは岩峰に電話しようか、俺と離れたくないから今回は週末を、寮で過ごすのを許してくださいって、それくらいはできるよね?」
俺のスマホを渡された。
スピーカーで話せって言われて勇吾さんへかけた。お願い! 出ないで! そんな願いも虚しく勇吾さんは安定の優しい声を俺に聞かせてくれた。
『もしもし。良太君どうしたの? 学園に居るのに電話してくるなんて珍しいね。ホームシックにでもなったかな?』
優しく笑いながら話してくれる勇吾さんが想像できて、涙が出そうになった。でも先輩が目の前で見ているからぐっと堪えた。
「あ、あの、先生、僕、明日行けなくなりました……その、先輩と、離れたくなくて」
『……そう? まぁ番になったばかりだもんね、急に来られなくなると岬が寂しくて泣いてしまうから、今回だけだよ。良太君は僕たちに会えなくて大丈夫?』
勇吾さんはあっさりと了解してくれた。疑われもしない? それともこれは想定内だったのか。番になったからばかりだからと、そんなことを婚約者に言わせてしまった。
「……今回は我慢します。また来週、伺わせてもらうので、ごめん……なさい」
『いいんだ。それよりこの一週間は大丈夫だった? 上條君から酷いことはされていない?』
「あっ、は……い 問題なく過ごしていました。じゃあ、また来週お願いします」
俺は先輩に勇吾さんとの会話を聞かれたくなくて、早く切るようにした。スピーカーにしているから丸聞こえだけど、それでも二人の会話を聞かれたくない。
『うん、良太君、本当に今回だけだからね? 約束、覚えているよね? 守れないようなら、上條君との契約だって破棄できるんだよ。来週からはきっちりウチヘ帰ってきなさい。今回のことはお爺様には黙っていてあげるから、くれぐれも無茶なことだけはしないでね。君は体が弱いんだから。異変を感じたらすぐに電話しなさい、いいね?』
「君は体が弱い」そんなコトバ初めて聞いた。
これは先輩に無理やり電話をさせられているのが、わかっているのだろう。俺の口調も硬いし、先生なんて本人の前で言ったこともない。電話を監視されているものと思って話してくれている。だから俺は素直に勇吾さんの話に合わせて返答をした。
「はい」
『愛しているよ、また来週ね』
勇吾さんは先輩が聞いているって、わかっている。わかっていて、先輩を煽るようなこと言った! 勇吾さんの愛の囁きは普段なら嬉しいのに、今は怖くてたまらない。
電話を切ると、先輩に携帯を取り上げられた。
「これで心置きなく一緒に土日を過ごせるね、さあ良太、服脱ごうか?」
勇吾さんの愛しているには、触れてこなかった。俺は震える体をかばった。逃げられないとわかっているのに、抵抗をやめなかった。
「だって、電話したから、帰らないって言ったから。それだけじゃ、だめですか……」
「むしろ、なんでそれで終わると思うの? 週末一緒に過ごすのは決めていたから、さあ、早く」
「脱いで何をするんですか? 本当に動画を?」
「そうだよね、そうだった。ただ抱くだけじゃご褒美になるから、良太がもう恥ずかしくて俺に逆らえないっていう記録撮らなきゃ。じゃあ、脱いだら自慰でもみせてもらおうかな」
「じ…い…?」
先輩は楽しそうに笑って言った。俺はひたすら怖くて、どうやったら逃げられるのか必死に考えるけど、全く頭が働かない。
先輩は俺を躾けるつもりでいる。
それって、やっぱり番は奴隷ってことなのか? だったらなんの利益にもならないこの人じゃなくて、俺を高い金で買ってくれる人に渡ったほうが、ジジイの得になる相手の奴隷として受け渡された方が、金にもなって、結果、絢香のためになるじゃないか? 薬の開発がまだな今、勇吾さんの婚約者でいても意味はない。せっかく開けた道も急に閉ざされたような気がしてきた。
どうせこんなクソみたいな人生なら、もうどうでもいい。目の前のアルファに従う理由はなかった。俺はさっきまでの恐怖が一気に引いた。
「できません。僕はそんなことをするためにここに戻ったんじゃない」
「岩峰の家は、どうでもいのいの?」
「勝手にしてください。そしたら先生が負担する損害以上の利益を出すために、僕は桐生の孫として、自分のオメガ性を高値で買い取ってくれるアルファを見つけるだけです。番がいようともそれを楽しむ鬼畜なアルファを僕は知っているので、全く問題ないです」
先輩の顔が歪んだ。
俺はこの人を怒らせるしかできない。きっとこの人と俺の人生は交わらない。
「どうして! 良太は俺の番だ! 他のアルファに抱かれてもいいって言うのか!」
先輩が珍しく興奮している。俺はもう諦めたからか、争う気にもならなかった。それに、何を言っているんだろう。番のいるオメガが他のアルファに抱かれていいわけないだろう。それほどに、この関係が嫌だという意味が通じないのか?
「いいわけないじゃないですか。でもオメガとして生きていくにはそうするしかない。先輩といてもお爺様へはなんの恩返しもできないし、嫌なことを強いられる。だったら相手は誰でもいいです。少しでも利益になる相手に自分を売るだけです」
「何それ。お前はいつから売り物になったの? 学校は? そんなにアルファの性奴隷になるのが俺といるよりいいの?」
「先輩は知らないだろうけど、オメガは生まれた時から商品なんですよ? それに今更普通の生活が送れるとは思っていないので、諦めます。お爺様の役に立てるなら、それがたとえ奴隷だとしても先輩といるより精神的にマシです」
俺はこれ以上の話し合いには何の意味もなさないと思い、取られたスマホは諦め、部屋に置いてある財布だけをもった。
「ふざけんな! そんなこと許さない」
勢いよく俺は腕を取られて、そのままベッドルームへと連れていかれた。どうあがいても俺の体力では抵抗してもビクともしない。もう諦めて先輩がしたいようにさせた。
どうせ抱くだけだろう? もう何回か抱かれているし、先輩が飽きるのを待って、それからここを出てもいいや。
「抵抗しないの? それとも性奴隷希望の良太はセックスできるなら誰でもいいの?」
俺は体の力は抜いたが、目だけはそれを許さなかった。どうしても憎くて、でも話すのも嫌で。それでも一言だけ告げた。
「どうぞ、勝手にしてください。どうせ僕の力では先輩に敵いませんから。動画でもなんでも撮ったらどうですか? これが終わったら、僕とあなたの関係も終わりです。契約上破棄できるので、問題ありませんよね? 僕は自分の番を奴隷みたいに従わせるような人とはいられません」
先輩が俺の上で固まっている。
「どうしたんですか? 淫乱オメガ、抱きたくて仕方ないんでしょ? いいですよ。最後だからサービスします」
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