ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第四章 番

71、番として 6

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 カフェテリアへ到着すると、いろんな所から目線がこちらに集まったのを感じた。

 俺はびっくりして先輩の背中に隠れた、って子供か!?

 背中からそっと前を見ると、そこはとても天井が高くて自然光が入る大きな空間、まるでどこかのホテルのビュッフェ会場のような活気。そして席にはたくさんの生徒と、えっ、ウェイターまでいる! って、ここ学生食堂じゃなくて高級レストランじゃね?

 後ろに隠れている俺を見て、可愛い可愛いと笑顔満載の先輩に、先輩のお友達たちが話しかけてきた。

「桜、おっ、珍しい子がいるね。あっ、人が多くて隠れちゃったの? 桐生君は可愛いね、桜とつがいになってくれてありがとう。俺は桜の幼馴染でもあるけど、家が桜の会社と絡んでいるし、卒業後は桜の下で働くことになっているんだ。今でもこき使われているけどね、だから、君とはこれからもずっとよろしくね!」

 うう、さわやかなイケメン、早速登場だよ。

 白崎忍しろさきしのぶ先輩は生徒会のお手伝いとか何かと会っているし、問題ないけどさ。でも生徒会ツートップイケメン、学園のナンバーワンとナンバーツーがお揃いになると、周りの反応も凄い……まるで王子様を見る観衆じゃないか、そこに俺。庶民代表の俺、そしてなぜかナンバーワンのつがい。俺、殺されるんじゃないのか……。

「白崎先輩、その…ご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」

 先輩の後ろから出て挨拶をした。

「桐生君、生徒会は特別にテーブルが違うところにあるから、ここじゃ騒がしくて怖かったでしょ? さぁ行こう」

 俺は一応生徒会の方達からは、以前から大事にされていた。

 今思うと、先輩は俺に初めて会った時から俺を自分のものにすると決めていたみたいだから、みんなもそのつもりで俺と接してくれていたんだろう。知らなかったとはいえ申し訳ない。

「忍、それはだめだ。今日は記念すべき良太のカフェテリアデビューだ。なんでお前たちと一緒にいなきゃいけない? 繊細な良太は生徒会の席ではなくて、奥の個室で俺と二人きりだ」

 先輩がすかさず俺を後ろから抱きしめて話した。そこでナンバーワンが人前で一人の生徒に抱きつく、はい、歓声! 俺はビクっとして、先輩から離れる。

「先輩、僕はどこでも大丈夫です。僕、先輩達のお昼を邪魔したくないので、端っこの方に座らせていただければ問題ないです、勉強もしたいので他の方がいた方が先輩もいいでしょ? お嫌じゃなければ同席させていただいてもいいですか?」
「だめだ、二人きりで過ごしたい。お前ら邪魔だ、慎み深い良太はお前らがいると遠慮してしまうだろうが」

 いやだ……二人きりじゃ、ずっと俺を見ているだろう。そういう空気感がほんと辛い。

「先輩、二人きりなら夜なれますし、僕は普段の皆さんと過ごす先輩の日常を見て見たいですけど、やっぱり僕が混ざると迷惑ですか……」
「良太が俺の日常を見たい? 少しは俺に関心持ってくれるのか。みんなにもつがいになったと伝えてサポートしてもらえるように、良太も改めて生徒会の奴らを認識してくれたほうがいいかもな。じゃあ、いつもの俺たちの席に行くか」

 みんなが先輩のことを哀れそうな目で見ている。そうだろう、天下の極上アルファ様が、オメガの俺がつがいに関心があるのを見せただけで、この甘々態度だ。俺といると先輩の格が下がるのではないだろうか……。

「桐生君、もうすっかり桜を手懐けたね! アルファは単純だよ、つがいの一言で凄く喜ぶんだ。ありがとう、君が桜を懐柔してくれるとこっちも助かるよ」

 白崎先輩はこっそりと、俺に耳打ちしてきた。俺は猛獣使いか何か!?

 そんなやりとりを公衆の面前でしていたので、生徒会長がつがいにめろめろだとか、やっぱり二人はつがいになったとか、ざわざわ聞こえてくる。俺は人から注目されるのに慣れてないので、この場からすぐに立ち去りたかった。先輩はご機嫌で俺の手を握って席へと案内させる、針のむしろだ。

 ランチを一緒にするメンバーは、生徒会役員の二年生たちだった。先輩、白崎先輩、その二人と同じ特進クラスのアルファの先輩と、そのアルファのつがいであるオメガの先輩、そしてよく俺に構ってくるオメガの椿つばき先輩の五人だった。

 やっと他の生徒からは会話が聞こえない位置にある、生徒会専用テーブルまでたどり着き、俺を含むその六人が同じ席についた。するとオーダーを取りにウェイターがきた。

 カフェテリアは、いわゆる学生食堂ではなくて高級レストランのように思えた。オーダー制の席もあれば、好きなものをその場で見て、自分でとりにいく普通の形と二種類ある。

 生徒会の人達は大変人気があるまめ、人混みに混ざると周りがほっとかない。だから大抵は席でのオーダーシステムを利用するようだ。他の学年の生徒会役員も同じように個室を利用しているみたいだった。

「桐生君、お昼は食べないんだっけ? でもさ、これからは栄養もしっかりつけないとつがいには体力でついていけないよ? ここ、ヘルシーなメニューもあるし、少しずつこういうので慣らしていったらどう?」

 白崎先輩が席に着くと、俺に気を使ってメニューを見せてくれた。

「そうだな、発情期だけで体重がニキロも落ちたし、このまま普段の生活でも今のままの食生活では夜の方も心配だしな。これからは少しずつ昼も食べられるようにしていこうか」

 先輩はにっこりと笑って、さらりと恥ずかしいことを言っている。

 そしてなぜ俺が二キロ落ちたって知っている? 痩せたとは思ったがそんなの俺だって初耳だ。言葉の全てに不信感しかない。でも周りは桐生君愛されているねとか、嬉しくないことを言っている。あっ、俺、アルファとオメガの会話についていけないかも……。

「ありがとうございます、じゃあ軽めのものをいただきます」

 すると向かいに座る一人が俺に話しかけてきた。唯一つがい同士で生徒会役員をしている、オメガの先輩だった。

「僕もね、前まで食べられなかったけど、つがいができてからやっぱり寝込むことも貧血になることも多くなっちゃって。ほら、つがいになったばかりはずっと、シテルこと多いでしょ? それでこれじゃいけないって、よく食べるようになったんだ」

 んんん!? シテルこと。してることぉ!? この人、昼間から何を言っているんだ!? 顔を少し赤くするなら、濁しているとは言え、言うな! するとそのオメガの先輩の隣に座るガタイのいいアルファの先輩が、その人を抱き寄せて俺に話をした。

「でもお前、まだまだ体力足りない。本当はもっと食べて欲しいな、桐生君も生徒会長が相手だから大変だと思うけど、俺から生徒会長に寝込んだ時のつがいへの指導を教えておくからね、こいつにオメガの事情は聞くといいよ。もう俺たちはつがいになって三年経つから、少しは役にたつと思う」

 って、そこ二人くっつきながら言わなくてもいいでしょ。と思うも、俺のために言ってくれるのでお礼を言った。この先輩二人は中等部の時につがいになったと言っていた。そして高等部では同じ生徒会役員として常に一緒だ。息がつまらないのかな……。さすがにそれは聞けなかった。

 つがいって、こんなに人前でも常にくっついていたいものなの? 先輩の構いたがりにはうんざりしていたけど、それが本来のつがいの姿なのか?

 それに先輩とやりまくっているの、みんなが認識しているのかって思ったら途端に恥ずかしくなってしまった。それに気がついた先輩が、俺の顔を隠すように自分の胸に抱き込んだ。

「お前ら、あんまり良太を刺激するな。いちいち反応が可愛すぎて、良太に惚れるやつが現れるかもしれない。良太もこんな公の場所であまり可愛い顔を晒せないでね?」

 また理不尽なことを言っている先輩にうんざりして、抵抗するのも面倒くさくなってそのままみんなの前で先輩に抱きしめられていた。
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