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第三章 幸せへの道
62、岩峰家 1
しおりを挟むジジイとの話し合いが終わると、勇吾さんと一緒に岩峰家へと向かう。いつものように助手席に座ったが、俺は何となく気まずくて外をずっと眺めていた。
「良太君、少し寄り道していいかな?」
「えっ、どこいくの?」
「うん、雪華さんのところに行かない? 君のことをきちんと報告したいな、嫌かな?」
「……ううん、ありがとう」
俺はまた窓の外を見た。
ジジイが俺を引き取ってくれたと同時に、都内の一等地に墓地を買ってくれた。俺はやっと両親が一緒になれたのだと、泣いて喜んだ。
そこへは時々勇吾さんが連れてってくれる、そう、なにか変化があった時には必ず。だから今回もその報告を兼ねて行くのだろう。
番ができたこと? それとも勇吾さんと二年後結婚すること? どちらにしても、勇吾さんは母さんをとても慕っていたらしくて、そういうのを大事にしてくれる。
勇吾さんはとてもステキな人だ。
男には興味ないから、そういう風には一度も見たことないけど。先輩に抱かれた今、勇吾さんに抱かれることにはなんの抵抗もない気がする。
勇吾さんと結婚して欲しいという、ジジイの要求もなんの抵抗もなかった。むしろ先輩よりも勇吾さんとそうなるほうが自然で受け入れやすい。
俺はもう心からオメガになったと心の中で笑った。でも、だからといって他のアルファや男に抱かれたいとは思わない。
勇吾さんだから、大丈夫だと思う。
でも、勇吾さんはいいのかな……? きっと嫌だと言えなかったのだろう。だって勇吾さんは、ジジイに援助してもらっている部分が多いから、逆らえない、だから。
「あのさ……さっきの話だけど、その……俺とのこと、お爺様から強制されている……よね」
俺は気になっていたことを聞いてみた。
でも外の景色を観ながらも、勇吾さんの顔は見られない。そして勇吾さんは運転しながら、ふふって笑って答えてくれた。
「良太君は、きっと誤解していると思った。もちろん話自体は総帥から提案されたけど、僕にだって断る権利くらいはあるよ? 強制じゃないよ、自分から良太君が欲しいって言った」
俺は思わず勇吾さんの方を向いた。
「えっ、でも、どうして? 勇吾さんは俺のこと、大事にしてくれているって、うぬぼれじゃなければそうだって思っていたけど、それは岬に向けるような気持ちでしょ?」
「良太君が好きだよ、可愛いって思っている。初めて会った時、邪な気持ちはなくて、それこそ岬や絢香さん、華と一緒で家族だよ。君は男をそういう目で見てないのも知っているし、僕も全くそういう感情は無かった」
やっぱり、そういう想いだと思った。だったら尚更こんなこと良くない。
「じゃあ、なんで? 俺のこと……抱けるの? そういう目で見られるの? お爺様の言っているのは、そういうことだよ、今までみたいな関係じゃないんだよ!」
「もし初めから婚約者として出会ったら、僕は君を一人の愛しい恋人として見えたんじゃないのかなって考えた」
「そんな、もしも、とか無いよっ」
「ふふっ、総帥からこの話が持ち上がった時、他の男に抱かれるくらいなら、僕が君を抱きたいって思った。それが全てかな……ひいた?」
ちゃんと俺をそういう目で見ている? でも俺は気持ち悪いとは思わない、もしかしたら、俺こそそれが全てなのか。
「……ううん、俺も、勇吾さんなら全てを任せられるって思う」
「良かった」
「抱かれたいかって言われると、よくわからないけど嫌悪感は無い……かも。他の男だったら絶対嫌だって即答できる。だから少なくとも俺は勇吾さんが好きだと思う……」
俺は言っているセリフが恥ずかしくって、下をむいて話を続けた。勇吾さんが俺をそういう意味でも大丈夫だと言ってくれたことに、安心していた。
そしたら、信号が赤に変わったと同時に、勇吾さんが俺の顔に手をあてて、あごをつかみ上げてきて、そのままキスをしてきた。俺はびっくりして目を大きく開いて勇吾さんを見上げた。
一瞬、触れ合うかくらいの軽いキスだった。勇吾さんは、可愛い顔して笑った。
青信号に変わったのでまた何も無かったかのように、前を向いて運転し始めた。俺は恥ずかしくって、でも嫌じゃなくって、でもやっぱり恥ずかしくて、真っ赤な顔して下を向いて黙ってしまった。
そんな俺を横で感じたのか、ハンドルを持ってない片手が俺の頭を撫でてきた。
「嫌じゃなかった?」
「……うん」
そして目的地に到着すると、そんなことなかったかのように勇吾さんは、いつも通りの手順でお墓を綺麗にして、母さんに報告をした。
岩峰家に着く前に、車の中で岬や絢香にはどう伝えるかって話になって、岬はまだ子供だから黙っておこうとなった。
絢香に隠し事はしたくないから、俺から全て話すと言って話はまとまった。
そして勇吾さんは、俺があいつの番でいる以上、俺には手を出さないし、二人の情事のこともしょうがないと思って目を瞑る、医者としてきちんと支えていくから、彼との性的なことは包み隠さず言ってくれと話してきた。
「俺は、またあの人に抱かれなくちゃいけないの?」
「嫌なら、拒めばいいよ」
「そんなこと、この一週間で無駄だって学習した。でも、俺オメガだけど、あんなのもうしたくない、嫌いな人とするなんて」
勇吾さんは、聞いてくる。
「そうか、上條君を嫌いになったんだっけ? でも番になる前は同室の先輩としてうまくいっていたでしょ?」
「あんなことされたんだよ、それにオメガになった俺をバカにした」
「何か、言われたの?」
「あんたの所有物にならないって言ったら、呼び方を変えたくらいで牽制できたと思うなんて、所詮オメガだねって」
「口喧嘩したの?」
「あんなの、喧嘩にもならない。軽くあしらわれて、そのまま無理やり抱かれて黙らされた」
今思い出しても悔しい! 俺の体を好き勝手にしやがって。
「抱かれるのは嫌だった?」
「どういう、意味。俺はオメガだから喜んでいると思った? それなら正解だよ、あんな快楽知らないし、拒んでもまた抱かれたら自分からアンアン言うと思う。気持ちは全くないのに、こんな悔しい思い、勇吾さんにはわからない」
「無神経なこと言ったね、ごめん。でも専門医から言わせると、良太君のそれは正しい反応だよ。番になると、たとえ嫌いでも体は快楽を必要以上に拾う。これは覚えておきなさい、体が喜んでも君の心が拒む判断も正しい、ちぐはぐだとは思うけど自分を責めないで。フェロモンは時に心ではどうにもならないんだ。それがバースだから」
俺は勇吾さんを見た、婚約者とか言うけどしっかり医者だった。医者がそう言うなら、体と心か繋がってないことを否定しない、それが俺を守ることなのかも。
「良太君、彼のことは嫌なら抵抗しなさい。今はお互いに手探り状態だから、無理に体まで開くことはない。番は本来平等なもの、それを守れないアルファなら僕が必ず君を助けに行くから」
「勇吾さん、ごめん、俺こんなこと」
俺も、勇吾さんを困らせたいわけではない。
「今はまだ君の保護者としてだけど、忘れないでね。二年後、君は僕のお嫁さんだ。その時は遠慮せず抱くからね」
「……うん、二年間待たせちゃうけど、それまで俺のこと嫌いにならなかったら、その時は抱いて」
そう言って俺は恥ずかしくってしょうがなかったけど、そんな俺に勇吾さんは「良太君は本当に可愛いね」と言って笑っていた。
俺は番になってからの先輩の子供じみた嫉妬やら執着を見て呆れていたから、勇吾さんの大人の余裕にますます安心できた。
きっとこれから、勇吾さんのことをどんどん好きになっていく、そんな予感がしていた。
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